いとしい (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344400061

作品紹介・あらすじ

母性より女性を匂わせる母と、売れない春画を描く義父に育てられた姉妹ユリエとマリエ。温かく濃密な毎日の果てに、二人はそれぞれの愛を見つける……。芥川賞作家が描く傑作恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • とりとめもなく奇妙で不思議な人や事柄がたくさん出てきて、頭が混乱しそうになった。といっても最後は「いとしい」に辿り着くだろうと読みすすめる。
    最初はお伽話のようなおかしな笑いの場面もあるが、だんだんこわい話になってゆく。毎晩現れ、目の前でいとなみをするアキラとマキさんのユーレイ。一回につき2万円で関係を持つチダさんとミドリ子。玄関に猫を置いてゆくストーカー。兄妹の愛。愛する男性が膜におおわれ休眠してしまう話とか。なぜこうもいくつもでてくるのだろう。ストーリーの筋は、と考えたところ読み込めない。これは雰囲気を堪能しようと思った。やはり文章にひきつけられる。
    泣けたのは、ユリエがオトヒコさんを、「長い旅に出るひとを見送る気分」で抱きしめて泣いたところ。これが見送るってことなんだ。軽かった、軽く温度がなく。ここで私は、これは生き詰まった登場人物の心の声、幻想の物語だと思った。変容しないではいられない生き物の悲しみ。ふわふわして人間の温度が感じ取れない液体みたいな人たち。だからよけい、淡々としている表現なのに、濃く伝わってきた。日々、生活していれば、世の中には理解できないことも多く、人の奥底にも何かがかくれている、よくわからないことばかり。

  •  わたしには、1〜6までと7〜13では違うお話のように思えました。前半登場人物が増えていき取り止めもない日々が穏やかに過ぎていってとても心地よく感じました。後半になりオトヒコさんとユリエちゃんがいよいよ親密になって鈴本が現れてから、不思議なことがよくおこるようになるからかもしれません。やっぱりミドリ子は紅郎をそういう意味で好きだったということなのでしょうか、ふわふわしてわからないことがあるままのところが良かったです。
     「ほんとはしっかりしてるんだけどね。しっかりしない自分が嬉しいみたいね」というユリエちゃんの言葉はまさに恋に恋する初期の頃を言い当てているように感じました。
     

     余談ですが、ちょうどお昼に読み終えたので、昼食を湯豆腐にしました。手作りでなくパックだけど、おろす生姜でなくチューブだけど、ネギを刻むのが面倒で鰹節をたくさん振りかけたけど、しみじみ美味しかったです。小説に出てくるのと同じ食べ物を食べるのって特別な感じがしてうれしくなりますね。

  • 川上弘美さんの小説はまともなのと、そうでないのがあるが、本作は後者だった。

    飲み過ぎてしまった日に朦朧としながら見る夢のような、輪郭がぼやけていて、よくわからない部分もたくさんあるのだけど、柔らかな語り口で丁寧に書かれた文章のなかに、確かに共感できる部分や切なく涙を誘う場所などもあってすき。

    意味があるんだかないんだか、話を進める気があるんだかないんだか、みたいな箇所も多くあるが、読み終えて本を閉じた時に、「いとしいだな」としっかり思った.

  • 川上弘美さん2冊目。
    修飾語が好き。
    「ミドリ子にとってチダさんとのセックスは、真夜中ひっそりと起きて読む哀しい小説にようなものだった。読んでひそかに涙を流すとあんまり気持ちがいいのでやめられない、やめられないことが情けなくてさみしくせつないのだけれど、やめられないことがうれしくもある。」

    「姉の吐き出していた空気がなくなり、姉の持ち物と姉自身も見えなくなってしまうと、しばらく家の中はまばらな感じになったが、やがてまばらなところは均された。知らぬ間に母と私は薄く家の中に広がり、姉の不在によってできた隙間は満たされた。」

    「疑ってるんじゃないよ ぜんぜん信じてないだけだよ」

    「誰かを好きになるということは、誰かを好きになると決めるだけのことなのかもしれない」

  • 読み終わってからこんなにもタイトルがしっくりくる本は初めて。一人ひとりに相手への愛おしい気持ちがあって、それは偶然生まれたものであったり、または歪みからかもしれない。本物どころか、愛とも呼べないものかもしれない。しかし気持ち自体はどうしようもなく確実にそこにいて、ふとした時に少し姿をあらわすことで自分にも相手にも影響を及ぼす。王道な、合理的な、理性的な、普通な、永続的な、愛なんてないのだろう。

  •  阿部工房やカフカを彷彿とさせる、異世界に迷い込んだような幻想的な物語。
     
    「語り手である主人公マリエとその姉のユリエ、母カナ子、母の恋人だったイラストレーターのチダさん、マリエが教える大鳩女子高等学校の生徒ミドリ子、ミドリ子の兄でマリエの恋人になる紅郎、ミドリ子を追いかける鈴木鈴郎、姉ユリエの恋人オトヒコ。全員が揺らめくごとく、あやふやで、液体みたいな人物たちだ(解説p.252)」

     ミドリ子はチダと性行為をすると耳が上下逆に「捻れる」(チダが一回につき二万円を支払うと元に戻る)。ある日突然「休眠」に入ったオトヒコの全身を膜のようなものが覆い、そのうち身体の一部が分裂して新しい小さなオトヒコが出現する。そういうことがあたかも当たり前であるかのようにとめどなく物語は進んでいく。前半は、なんだか妙に女性性の強い家族だなぁくらいの違和感だったのだけれど、中盤以降なんかもういろいろ奇想天外すぎて、川上弘美さんはいったいどこからそういう発想が生まれるんだろうという驚きしかなかった。ゆらゆら揺れる船の上でSF映画を観たこととかないけど、でもたぶんそういうときのような感覚。激しい揺れじゃないけど、いつの間にかじゃっかん酔うみたいな。

  • 終盤の、マリエと紅郎が喫茶店で話すシーンがきれいだった。

  • 分かる人には分かる小説なんだろうな。

    個性的な主要人物たちが個性的な会話や不可思議な出来事を通して愛を育みいとしいという気持ちを育んでいくストーリー。
    わたしには残念ながら良さがあまりわかりませんでした。

  • 頭のおかしいような人たちがたくさん出てきて、とてもよかった。
    みどり子はとても美しいのだろうと思った。きっとあの姉妹もお母さんもみんな美しいだろうけど。

  • この空気がとても好きです。ふわふわととりとめなくつかみどころがないようで、しっかりと世界に絡めとられている、その感じが決して嫌ではなく、心地よいです。人を好きになるって、こわいことなのかもなと思いました。叶う思いも、叶わない思いも、あっていいのかも。誰かをいとしいと思うことは、幸せな反面、とてもつらいかもしれないけと、それでもやっぱり、誰かを好きになるのだろうなと思いました。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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