解夏 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (499ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344404649

作品紹介・あらすじ

東京で教師をしていた隆之は、視力を徐々に失っていく病におかされ、職を辞し、母が住む故郷の長崎に帰った。そこへ東京に残した恋人の陽子がやってくる。この先の人生を思い悩む隆之。彼を笑顔で支えようとする陽子。ある日、二人はお寺で出会った老人から「解夏」の話を聞く-。表題作他、人間の強さと優しさが胸をうつ、感動の小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 標題作は読み進めるのがつらい。

    『秋桜』(あきざくら)は、感動のツボを心得た中編。

    『水底の村』は少し冗長な気がしないでもないがホッとできる温かさ。

    『サクラサク』は、家族、会社、認知症、思慕、いろいろな思いを交錯させながら余韻を残す読後感。

    4作に共通しているのは、良い出来事であれ、悪い出来事であれ、人生の分岐点、臨界点を迎えたときの登場人物たちの心の動き。

    そして、重松清さんもさだまさし好きなんだろうな。

    愛溢れる解説が花を添える。

    僕は小学校から高校にかけて、「歌手・さだまさし」の大ファンで、今でも時々、
    『長崎小夜曲』、『驛舎』、『夕凪』、『加速度』、『療養所』、『つゆのあとさき』、『フレディもしくは三教街―ロシア租界にて―』などを気が向いたときにカラオケで歌う。

    小説家としてもすごいな、と今回改めて感じた。

    読んでよかった。

    サンキュー、オススメ、ありがとう!

    ①解夏(げげ)
    小学校教師を辞め、婚約も破棄し、故郷に戻ってきた隆之は、母親にその理由を言い出せずにいた。

    ②秋桜(あきざくら)
    自分に辛く当たる姑、喜久枝の叫び声を聞きながら、なぜ私は祖国を離れ、日本の農家に嫁いでしまったのだろう。アレーナはいつも思う。

    ③水底の村(みなぞこのむら)
    小学校6年の時の同窓会の席で、純一は、敦子の名が出てきて思わず身を固くした。敦子は幼馴染で、そして人知れず付き合い、12年前に別れた間柄なのだった。

    ④サクラサク
    今年80歳になる父がちょっとおかしい、俊介が感じたのは昨年の秋、父が一人で出掛けて帰り道がわからなくなり、警察に保護されていた出来事がきっかけだった。

  • 父と母が大好きな、さだまさしさんの本を大人になって手に取り読んでみる。

    素敵な小説だということは間違いなくて作家としての1面でしかまだ知ることが出来ないので音楽も聞いてみようかしら。

    私は『秋桜』が好き。
    そして『水底の村』に出てくる文
    『色即是空』般若心経の意味を知れて良かった。

  • 4作ともとても良い話でした。
    文章や言い回しがとてもきれい。言葉選びが素敵。

    解説にある、未来・現在・過去を全ての作品に盛り込んで、その後どうなったんだろうと余韻を残す終わり方は秀逸。
    さだまさしは天才なのか?

    サクラサクがイチオシでした。

  • 両手どころか両足の指まで使っても足りないほど、私には、この世で怖い人、怖い物、怖い事がある。あまりにも多すぎて並べられないほどだが、それでも、最も、一番、絶対に怖い事は決まっている。それは、視力を失ってしまう事だ。病気、怪我などで、何も見えなくなる事を、私はこの世で一等に恐れている。
    そんな臆病な私の心にぶっ刺さってくる小説が、この『解夏』だ。映画と連続テレビドラマになっているので、読んだ事がある方も多いだろう。もしかすると、その人たちも、私と同じように、目が見えなくなる、つまり、本を読めなくなる事が最大の恐怖である人かもしれない。もちろん、さだまさしさんのファンって人もいるだろう。当然と言ってしまうのは失礼かもしれないが、この『解夏』は文章の構成が、さだまさしさんの歌のように美しかった。映画とドラマ、どちらが上か、それは決められない。その上で、あえて断言しよう、この原作が最高だ、と。
    ある日、唐突に、目が見えなくなる事が決定している病に罹る主人公。彼の、自分が陥った災厄と向かい合い、受け入れ、時に、恐れおののき、絶望に浸り、そして、そんな自分を支えてくれる者の大切さを痛感し、自分が進むべき道を自分の眼で見据え、ついに、その時を迎える、この感情の流れ、その描き方、これが素晴らしい。大胆と繊細、実力がなければ、両立させる事が叶うはずのない要素が一つとなって、読み手の心を揺さぶり、涙腺を崩壊させてくる。果たして、私は、己の目が病気に食い潰され、「読書」が出来なくなる時、どのような選択を下すんだろうか、と考えながら、読み進め、答えを出せぬまま、読み終わってしまった・・・皆さんは、どうしますか?

    この台詞を引用に選んだのは、これは、さだまさしさんにしか、さだまさしさんだからこそ書ける、男の心の弱い面だな、と感じたので。
    性差別と言われてしまうかもしれないが、男の弱さってものは、女性には理解や共感がし難いものだ、と思う。もちろん、男だって、女性の弱さを、正確に把握するのは不可能だ。
    と言うか、人間は全員、違う弱さを抱えていて、一つとして同じ弱さはないんだから、他人の苦しみを100%理解するなんて、無理なのだ。
    アナタの辛さが私には理解できますよ、と言う奴は、基本的に嘘吐きだ、と私は思ってしまう。
    何だか、何を言いたいんだか、自分でも不明瞭になってしまったんだが、まぁ、要するに、この弱さの表現は的確だ、と感じたのだ。
    自分の中にある弱さ、怖いもの、と直面した時、ほとんどの男は、こういう状態になってしまうんじゃないだろうか。
    そうなってしまってしまった以上は受け入れるしかない、と頭で考えて結論を出し、心に納めたつもりでも、結局、それは自分を騙していたに過ぎない。
    この作品では、失明に対する恐怖ではあるにしろ、他の事に対する恐怖であっても、やはり、男は、こういう風に取り乱してしまうだろう。きっと、私もこうなると思う。
    しかし、こんな風に取り乱す事を、恥ずかしい、とは思わない。
    これこそが、人間らしさじゃないだろうか。
    怖いモノは怖い、それは受け入れるしかない。
    みっともなく取り乱してしまうからこそ、心に生じる余裕もあるんじゃないか?
    業と行は、一人一人で違っているし、取り乱し方も異なるだろう。
    大事なのは、生きる事を諦めず、希望を捨てず、弱い自分をあるがままに認めてやる、それだと私は思いたい。
    男は、自分の弱さを糧にし、どんなに辛い状況に追い込まれたとしても、自分の人生を、自分だけの力で切り拓き、自分だけの物差しを杖にして、自分のペースで前進していくしかないんだから。
    うーん、結局、この台詞の良さを上手く伝えられないなぁ・・・まだまだ、修行が足りないか。
    次の瞬間、隆之は空に向かって「ああっ!」と大声で叫んだ。
    今まで魂の奥底に押し込めてきた得体の知れない絶望的な怒りが、発作のように突然に隆之の身体の奥の、そう、内臓の底から火を噴きながら駆け上がってきたような叫び声になった。
    言葉にならない感情が隆之めがけて襲いかかってくる。
    哀しさと、悔しさと、恥ずかしさと、寂しさと、怒り、そして不安が一斉に隆之を襲う。
    「ああっ!」
    もう一度叫んだあと、隆之は自分の右手で拳を作り口にあてがい、強く噛んだ。
    俺は怖いのだ。本当は怖くて怖くて逃げだしたいのだ。
    俺は強くない。俺は本当は弱虫なのだ。
    ああ、一体俺はどれほどの悪いことをした報いでこんな目に遭うのだろう。
    なぜ俺だけがこのような目に遭わねばならないのだ。
    誰か、お願いだから、助けてください。
    ばあちゃん、助けてください。
    親父、助けてください。
    自分で噛んだ右手の痛みが必死で隆之の背骨を支えた。
    「助けて」だけは絶対に言わないと決めた言葉だったはずだった。
    「ああっ!!」
    隆之は振り絞るようにもう一度叫んだ。(by天の声)

  • 『解夏』
    失明した瞬間に「失明することへの恐怖」から開放される。
    こういう考え方があるんだと気付かせてくれて、少し気持ちが軽くなった。

  • 長編だと思ったら短編集だった。解夏と秋桜、心の正しい人が素直に自分の生き方を見つめる話は読んでいて気持ちがいい。重松清なんかよりもよほど深みがあり、しみじみする。

  • 4つの短編どれも一冊の本になってもいいと思います。なかでも表題「解夏」はさだまさしさんの故郷である長崎の美しい情景を思い浮かべながら読むことができて途中から涙がとまらなくなりました。優しく、あたたかく、切ない…うまく表現できませんが母親が幼子の手を両手で包み込むような感覚です。重松清さんが解説をされていますがこの本を誉めるというよりは、この本を書いたさだまさしさんの表現力に嫉妬されているように感じました。さだまさしさんの作品を続けて読むことになりそうです。

    • shukawabestさん
      昨晩から読み始めたわ。
      昨晩から読み始めたわ。
      2023/02/21
  • 泣いちゃったね

  • 私が1番好きな本

  • 数ヶ月前に読んで以来繰り返し読みたいと誓ってはいたが、こんな形で訪れるとは思ってもみなかった。

    里帰り中、家族と一緒にテレビをみている時に、含まれている4つの短編の内のひとつである「秋桜」で出てきた蜂の巣箱の実物が出てきたのだ。その感激も冷めやらぬまま、次の日には本を手に取って「秋桜」を再読。前回よりもより実感をもってその巣箱を想像することができ、登場人物の心境がまた一歩近寄ったところで理解できたような気がした。

    「自分が本から得た感動を家族に分け与える」なんて行為は普段あまりしないのだけれども、この本に限ってはやってみたくなった。そんな風に気持ちを素直にさせてくれるのがこの本のすごいところ。

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著者プロフィール

一九五二年長崎市生まれ。シンガーソングライター。二〇〇一年、初小説『精霊流し』がベストセラーとなる。『精霊流し』をはじめ、『解夏』『眉山』アントキノイノチ』『風に立つライオン』はいずれも映画化され、ベストセラーとなる。その他の小説に『はかぼんさん―空蝉風土記』『かすていら』ラストレター』『銀河食堂の夜』など。

「2021年 『緊急事態宣言の夜に ボクたちの新型コロナ戦記2020』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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