喜びは悲しみのあとに (幻冬舎アウトロー文庫 O 40-2)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344405004

作品紹介・あらすじ

脳に障害のある子を持つハードボイルド作家、倒産した地方新聞社の元社員たちの困難な再就職、「子殺し」の裁判ばかり傍聴し続ける女、十年間第一線で活躍しながらある日突然「戦力外」通告されるプロ野球投手。人は自らの存在を道端の小石のように感じる時、どのように自分を支えるのか?安らぎと感動のコラム・ノンフィクション第二弾。

感想・レビュー・書評

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  • 「つらいことや悲しいことがあり、自分を道端にころがっている小石のように感じる時、人は自分をどのように支えるのか?今回はつらい場面の描写だけではなく、それを乗り越えた瞬間にパッと輝く喜びの表情を記録したいと思うようになった。」

    『小さな喜びを糧に』
    二分脊椎症と水頭症を併発して生まれてきた息子について語られた言葉で息が詰まりそうになった。
    「なんていうかな、将来のことを考えては今日は生きられないってことなんです」

    『ブロンクス生まれのウェイター』
    人に親切にすること、お洒落をすること。彼の生活信条は至って単純だけど、その単純な生活信条が日々を生き生きとさせる。

    『タイムマシーンに乗って』
    「学校でいじめられても、家に帰れば親は普通の子として扱ってくれる。ホッとする。」そうなの。心配されたくないし、気も遣われたくない。ただ普通の子としていられる唯一の場所が家だった。

    『ロボットの部屋』
    私がミニマリストにならない理由。
    「これを持ってるとその時代のことを忘れない。遺産みたいなものです。」

    『復讐のマウンド』
    まさに七転び八起き。もちろん彼の精神的な強さもあるんだけど、コーチや奥さんあっての復讐劇でもあるよね。周りの人は自分を写す鏡。
    「後ろを振り返っても過去はついてこない。前を見て切り開いていこう」

    『リコン日記』
    翠の心情や行動が生々しくて読むのが苦しかった。でも最後、とても短い一文なのだけれど意志の強さと清々しさと軽快さが感じられて胸にガツンと来る。

    『天安門から遠く離れて』
    終始イライラしてしまった。でもこれって決して小説の中の話だけじゃなくてこういう視野も心も狭くて人間の器が小さすぎる人っているよね。自分は臆病だしいまの仕事を失いたくないっていう台詞も頭に来たけど、とてもリアル。

    『わたしはリカちゃん』
    これを否定されたら生きる意欲を失ってしまう、それでも世間は否定的で誰も自分の欲望を肯定してくれない。

    『愛想笑い』
    ごますりごますり。

    『六十八回目の恋愛』
    「人の気持ちは努力でつかめないでしょう?」
    「メジャーになって、自分のランクが上がって、もうここでイイと思った時に、自分の女を決めたいんだ」最低。

    『インポテンスの耐えられない』
    ゴメンナサイ。

    『実演販売の男』
    孤独な杭、かぁ。

    『黄昏時』
    なんか、いい。残された時間を心地の良い距離でそれぞれが大切に過ごす。
    「なるべく、楽しいことは一緒にやろうと思って」

    『子殺し』
    「つらい体験からテーマをつかみ出し、自分の研究や表現の対象とすることができたら、その時にはもう、人はつらい体験から一歩遠のくことができている。」
    最近読んだルポタージュ「聖なるズー」を思い出した。私が目指すところでもある。

    『我にはたらく仕事あれ』
    お父さんの静かな応援が心に染みます。

    『会社がなくなった』
    「好きな仕事ができ、仲間を信頼できて、会社を愛せることがどんなにすばらしいことかがよくわかった。失ってはじめてわかることがたくさんある。」
    こういう時期だからこそなおさら心に響くお話。

    『キャッチ・セールス』
    うーん。

    『大晦日』
    「違うわよ。結婚したい。毎日一緒に暮らしたいわよ。でも、一緒に暮らしたら、あなたはいまのように私を愛してはくれないのよ」
    そうなのそうなの。

  • ノンフィクション短編集 友がみな我よりえらく見える日は の第2弾。
    実話なので重いです。
    でもいろんな世界があるんだなって思わされるし、いろんな悩みがあるんだなって思わされます。
    そして悲しみの底から這い上がってくる人間のパワーを感じたりもします。
    落ち込んだあとに、悩みが晴れた時の感覚とかそういうのも味わえます。

  • 筆者の上原さんにインタビューしたこともある、BBのきよたくんに貰った本。
    インタビューはここ。WEB MAGAZINE この惑星http://konohoshi.jp/interview/UeharaTakashi/index.html

    一冊を読みおわってあとがきを読むまで、取材をする上原さんの自我を全く感じなかった。最後までずっと透明だった。

    人は、みんな自分の視点からしか、世界をみることができない。
    文庫版のためのあとがきに、恋人や友達に「おまえは人の気持ちが全然わかってない」と批判されたことについて書かれている。
    どんなに細部まで観察して、一緒にいて、どれほど心を寄せているつもりでも、相手が「私のことなんてちっとも分かってない」と感じるのは、それがやっぱり自分中心の視座からしか人を観れていないからだと思う。

    上原さんが書くときに思い出すのは、取材をした人々の、小さな仕草や表情なのだという。話すのが苦しいような話をするときに、手元のグラスの刺さったストローを回す手のこと。解説を書いてくれた鶴見俊輔さんを師とあおぐ人が、鶴見さんの前であおげば尊しを歌ったときの顔の皺。

    私の鶴見さん贔屓を含めても、鶴見さんの解説がすてきなのは、上原さんをこう評価しているところ。

    「売り物になる文章を書くところまで達した人は、そこでなんとなく、あとは、侫人になる。へつらう人という意味だ。だが、この人は、そういう人にならずに書き続けた。」

    そう、人は、みんな自分の視点からしか、世界をみることができない。
    鶴見さんは、「そのことは、しかし、共同の世界があることを否定しない」という。上原さんの提示するエピソードが、ひとを語る。それは確かに彼の目が観た、彼の書いた世界なのだけど、たくさんの小さな仕草や、表情や、周りの匂いや、色やそういうものがたくさんの人々の言葉と一緒に優しく包まれて、提示される。

    上原さんの作品はこれが一冊目だったけど、アマゾンで探して出て来た本のタイトルがどれもそそるので、ほかにも読んでみようと思う。

  • 世の中、様々な人生を送っている人がいて、でもそれを表立って口にする人は少なくて。みんな見えないところで闘っているのだなと感じた1冊。ノンフィクションだからこそ、身近に感じられたり、どこかリアリティーがある。

  • 何年振りかの再読。/著者が、話を聴かせてくれる人を訪ねてエッセイにまとめるシリーズ。/「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」「東京の生活史」と比べると、基本、一人語り形式にすっきりと刈り込まれて、適切に質問もさしはさまれている感。生の素材をどこまで広げて収集するか、どこまで刈り込むかというのには幅広いグラデーションがあるのを感じつつ。/障害を持つ子を育てた作家の、将来のことを考えていては今日は生きられない、ということば。大人になってもロボット玩具を手放せず、それは父が自分に買ってくれた時代のことを忘れないためであるこお、そして自分が子供を持ったらぜったい一人にしないと決めている男性。新聞記事でトレードを知らされ、自分を出したチームから何とか勝利をもぎ取りたいプロ野球の投手、最後の注釈がまたドラマで。実演販売を生業にする男性の、川の流れのなかに立っている一本の孤独な杭のようなたたずまい。人はなぜ自分の子供を殺すのか、というテーマをかかえ、子殺しの裁判の傍聴をつづける女性。倒産した新聞社の、組合闘争の先頭に立った人が、就職が決まらず、本音を言えば一般組合員が一番得したという思いはぬぐいきれないという苦い吐露。その組合員の一人は、たかが私企業のはずがなぜにこんなにも愛着が、という思いを。といったあたりが印象に。

  • 「人生でやらねばならないことなんて
    案外いま、やってることだったりするのさ」

  • おすすめです。

  • 人にはそれぞれの人生がある。他人の人生を眺めて見ることで、自分を客観視できる視座を持つことが可能になるのかもしれない。

  • 地元のとある高校の図書室が小論文対策図書に推薦していたので、読んでみた。

    とくに印象に残ったのが、「子殺し」の裁判ばかりを傍聴し続けているという女性の話。
    その女性は虐待された過去があり、また自らも長女に対して同じ過ちを犯してしまったという経験がある。ある時「子殺し」事件の新聞記事に心動かされた彼女は、以来これを自分のテーマと決め、母子関係やそれを取り巻く社会の仕組み等について考え続けている…。
    本書にも〝人は自らの存在を道端の小石のように感じる時、どのように自分を支えるのか?〟という、著者自身の明確で一貫したテーマが根底にある。
    自分のテーマを持って生きることは、自分自身をよく知ってコントロールすることや、時に自分を支え導くものとして大事なことなのではないかと感じた。

    それぞれが悩み傷つき葛藤しながらも、ただひたすら懸命に今日を生きる姿が心に刺さった。
    問題との向き合い方や気持ちの整え方ということを考える上でも、とても参考になった。

    本書はコラム・ノンフィクションのシリーズ第2弾であり、既に第1弾『友がみな我よりえらく見える日には』(1999年)と第3弾『雨にぬれても』(2005年)が刊行されているということを読み終わってから知った。
    なので、機会があれば是非そちらも読んでみたいなと思う。

  • ・・・そうか、あの小説に出てきた障害児は、打海さんの息子さんだったのか、と驚く。
    世に名の知れてる人、まったく知られてない人、いろんな人の辛さ、悲しみ、寂しさ、との向き合い方。

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著者プロフィール

1949年、神奈川県横浜市生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。エッセイスト、コラムニスト。記録映画制作会社勤務のかたわら、雑誌「思想の科学」の編集委員として執筆活動をはじめる。その後、市井の人々を丹念に取材し、生き方をつづったノンフィクション・コラム『友がみな我よりえらく見える日は』がベストセラーとなる。他の著書に思想エッセイ『「普通の人」の哲学』『上野千鶴子なんかこわくない』『君たちはどう生きるかの哲学』、ノンフィクション・コラム『喜びは悲しみのあとに』『雨にぬれても』『胸の中にて鳴る音あり』『にじんだ星をかぞえて』『こころが折れそうになったとき』『こころ傷んでたえがたき日に』などがある。

「2021年 『晴れた日にかなしみの一つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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