ほかに誰がいる (幻冬舎文庫 あ 29-1)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344410770

感想・レビュー・書評

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  • 「十六歳だった。あのひとに出会うまで十六年もかかってしまったという気持ちは、後悔に少し似ているー」
    1ページ目のこの真っ直ぐで純粋無垢な文章に惹き付けられた。
    高校一年の本城えりが好きになった、あのひと。
    自分だけの呼び名が欲しくて名付けた天鵞絨。色白のえりとクォーターの色黒の天鵞絨。ふたりを重ねた灰色が出来る時、私達はひとつになれると信じていた毎日。
    この想いが天鵞絨にバレてはいけないと、好きでもない男子と付き合ってみたり、恋愛相談したり。
    恋がしたい天鵞絨の為に、架空の大学生の「かれ」を造りだし天鵞絨にぴったりな相手だと盛り上げていたえり。
    まさか現実になるとは。えりが話した児童公園に本当に現れた「かれ」。そしてその「かれ」は天鵞絨の「彼」「しゅうちゃん」になった。
    夜中にいつも自宅を抜け出して自転車で向かっていた児童公園。眠る天鵞絨の部屋の窓を見つめることはもう出来ない。それでも天鵞絨に会いに行きたがる自転車をそして自転車を漕ぐ自分の足をハンマーでぐちゃぐちゃにした。
    入院した先のレントゲン技師は天鵞絨と同じ名字だった。「父が病院関係」その言葉がよみがえる。
    技師の賀集と肉体的に繋がることで天鵞絨と繋がれる気がした。父親ほど賀集は若いえりとの関係に溺れ、ついに隠れ家と称した家を購入する。
    そんな時久しぶりに連絡をとった天鵞絨としゅうちゃんが婚約した事を知る。
    天鵞絨の生産者である賀集との間に子供が出来れば、天鵞絨と会えなくても自分だけの天鵞絨を抱くことができる。
    わたしの心をこんなに強くしめつける存在が、あのひとのほかに、いったい、誰がいるというのだろ。
    そして、えりは賀集の子を妊娠する。しかし・・・。

    純粋無垢ゆえの暴走。10代の頃の恋愛はどうしてあんなに強烈な記憶として今なお残るんだろう。
    「平場の月」では大人の凄く現実的な恋愛が描かれており一気に燃え上がる事などないけれど、青い火種は消えないイメージだったが、こちらは瞬間的に発火からの爆発。
    単なる百合要素の話かと思っていたら、ミザリーばりに足砕いちゃったり計画的に妊娠したり、そして最後はキャンプファイアーでの締めという怒涛の展開だったが、今年最後の一冊としては最高の物となりました。
    正月またひとつ歳を重ねてしまう。
    ブクログに出会い本の幅も広がった。
    ブク友さんには感謝です。来年もよろしくお願いします。
    皆様、良いお年を。

  • 読みやすくてすいすい読み進められた。
    恋愛とゆう感情とは別ものであんなに溺愛してしまったのが恐ろしく、こんな人は本当にいるのだろうか?とかそんな事を考えながら読んだ。本当に愛だったのかな?

  • 一途な恋に狂っておかしくなっていくというより、もともとそういう気質を持っている主人公えりが恋の病「も」患ったという感じ。

    えりはたくさんのルーティンやルールを作っていたけれど、特に印象に残ったのは、タロットの結果が悪かった時の『息止めの刑』だ。『これで一度死んだことになるので、タロットの悪い結果はわたしたちに影響しない。』と言い切っているのが変にポジティブで割り切っていて可笑しかった。私もやろうかなと思ったくらい(笑)

    えりが玲子の父と思ってレントゲン技師の賀集に近づいたのは、最初から子種が狙いなのかと思っていたら、意外とそうではなかった。(でも深層心理ではそうだったのではないかと思う。)

    えりがしゅうちゃんと寝てしまうのではないかというところではものすごく嫌な気持ちになった。そうならなくて本当に良かった。

    もしもタマイが死ななかったらもう少し違っていたのかというふうにも思ったが、結局最後は変わらなかったかもしれない。

    えりは精神病だし、なんとか助けてあげられなかったのか、という気もするが、賀集を殺しているしハッピーエンドにはしづらいよねぇ。

    作品を通して言葉のチョイスが独特というか秀逸というか、地域性ももしかしたらあるのかもしれないけど、私では絶対に選ばないなとちょくちょく気になった。

  • まさにタイトルの通り。
    純粋で、暴力的で、一途な「私」の恋心に引き込まれた。
    ラストの、「嬉しくて、悲しい」が全てを表してるなと。

  •  人に憧れ好きになるということは誰にでもあることと思う。最初は憧れだったものが、段々と狂気に変わっていく。そして主人公が破滅へと向かう。ありがちな展開ではある。本作もそのような流れではあるが、憧れの人が遠く離れて行ってしまうことから、少しこちらの予想とは違う形で迷走し始める。
     そして最後はまさかの展開。こういう形で終わるとは…といった少しイヤミスという雰囲気もある終わり方。

  • 気持ち悪いし、後味最悪で超よかった

  • うぉおお…
    本当に本当の恋をするとこうなるのだろうか。愛が恐ろしい。

  • 同性への片思いって良いよね♪と軽い気持ちで読み始めたら、どんどん重たい、歪んだ方向へ突き進んでいく話。
    主人公がひとり、明らかに変なので(周りも都合良く、主人公を後押しするように動くので)笑わせようとしていないのに笑ってしまった。
    主人公が最後にした行動は人としてダメだと思うけど、それをわざわざ言うのも野暮だなって思う。
    最後まで引き込まれて読んでしまった時点で、私の負け、作者の勝ち。
    なぜか読後感は爽やかだった。

  • 最初から最後まで、凄まじい狂気の物語だった。
    突き抜けて狂っているので、ただの変態じゃんストーカーじゃん、のように冷静に突っ込む隙がなかった。

    一目惚れ、した相手を、「天鵞絨」と密かに呼んで忍び慕う。十六年もかかって、やっと出逢えた「あのひと」。
    妄執。愛。狂気。
    こんな一目惚れ小説は初めて読んだ。
    主人公だけがどこまでも狂っている。
    呪いのような、脅迫のような、けれどもその感情が相手に剥き出しに向けられることはなく、ひたすら自分の中で、濃厚でいびつな愛情の層が重ねられてゆく。

    玲子やその恋人はあくまで常識人。日を追うごとに、えりの行動はエスカレートしていく。けれども、表面的には二人は親友同士。表面的。玲子がいかに友人としてえりを愛しても、えりにとっては、表面的にしかなりえない。
    二人の懸隔は埋めようがなく、二人の感情は交わることがなく、玲子に出逢ったがために、こんな風に生きるよりほかなくなってしまったえりが、不憫で、恐ろしくて、悲しくて。
    結末は、もうどうしようもない、愛の成れ果て。こうなってしまったか、と苦い思いがわき上がる一方で、これでやっと終われた、という安堵が読語の余韻として残った。

    そしてタイトルも秀逸。
    「ほかに誰がいる」のところ、ぞっとした。この文章の直前の描写からの「ほかに誰がいる」は怖すぎる。
    痛々しい、切実な、声にならない叫びのようだった。静かに語られるから、凄みがあって重かった。

    表紙詐欺も甚だしい、素晴らしく凄まじい、愛と狂気の物語だった。

  • タイトルとあらすじに魅かれて読みました。

    少しスパイスの効いたイラスト風な絵がページが進むにつれて、歪んだ描線に濃い色彩で抽象的で大きな絵画になっていく。途中、滑稽でつい笑ってしまった絵画もあって。観ている自分は存分に心乱され、最後の絵に辿りついた時はちょっとホッとするくらい。最後の絵は炎で、柔らかく美しかった。

    ていうイメージの小説でした。 

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著者プロフィール

1960 年生まれ。北海道出身。04 年「肝、焼ける」で第72 回小説現代新人賞、09 年「田村はまだか」で第30 回吉川英治文学新人賞、19 年「平場の月」で第35 回山本周五郎賞受賞。

「2021年 『ぼくは朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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