聖者は海に還る (幻冬舎文庫 や 15-6)

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344411227

感想・レビュー・書評

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  •  猫を殺し、腹を切り出すという異常行動をする11歳の男の子と母親が、カウンセラーの治療に訪れた。ロールシャッハ・テストにより少年の心の闇を見出したカウンセラーは、定岡療法と呼ばれる催眠療法により、その心の中にある狂気を凍結させ、心の奥底に沈めることに成功する。
    その少年は、その後、問題なく大人になり、天才的なカウンセラーになるのだが…

     個人的に好きな分野と言うこともあり、大変面白く、最後まで一気読みしました。現実にこんなカウンセラーがいたらなぁと思うと、ドキドキします。
    フィクションの面白さがぎゅっと詰まっています。

  • 精神病理をメインテーマとして扱い、そこにティーンエイジャーの危うさや大人の恋愛エピソードを絡め、さらに後半の勝負所では「ここからサイコホラーが始まるのか…?」、と一瞬怯えさせてもくれた。
    1冊の中に込められたトピックスは多いが、どれも上手く消化されており、最初から最後まで非常に興味深く読むことができた。
    ラストも含め、全体的には物哀しいストーリーなのだが、にも拘らずどこかスッキリした気分、前向きで澄んだ気持ちにさせてくれる作品だ。

    帚木蓬生氏や久坂部羊氏、それに手塚治虫氏などといった医師資格を持つ作家がその専門知識を援用して生み出す作品は無論のこと、そうでなくとも医療の世界を舞台にし、読者の生命倫理観をダイレクトに揺さぶる物語は実に読み応えがある。

    誰もがいわゆるTPOに合わせた自分を演じ、常に何らかの衣を心に着せているとも言える現代社会において、“本当の私”とは一体何なのか? 一体どこにあるのだろうか? そんな普遍的な命題についても考えさせられる。

  • 進学校で生徒が突然教師を射殺、事件の再発防止の為にスクールカウンセラーが置かれる。心の専門家は本当に生徒たちの心の問題を解決出来るのか。目からウロコというか、自分の欲望は本当に自分だけのものかっていう問題提起がコワイ。自分が今思っていることは、本当に誰の影響も受けずに自分が思ったことだと言い切れるのか。

  • 父親を亡くし母親は内心自分を疎んでいると察した少年は母胎回帰願望を抱き、それは歪んだ性衝動へと到り野生猫の惨殺という異常行動に表れる。それを知った母親は息子に催眠療法を受けさせ、狂気を封印された少年は、自分に催眠療法を行った恩師の下で天才カウンセラーへと成長する。しかし職場が私立高校になったとき、シングルマザーの養護教諭と恋愛関係に陥り、カウンセラーとしての使命に疑問を持ち始め、恩師に辞職の相談をしたところ、怒った恩師から嘗て封印された性衝動を解放されてしまう。その結果、養護教諭を殺害しかけるも彼女の愛に包まれて思いとどまったものの、精神分裂に陥り心が死んでしまい、愛する女からの呼び掛けにも応じられないただ呼吸しながら生きているだけの入院患者となってしまう。養護教諭は息子とそのお腹に宿った彼の子の3人で、いつか必ず彼が心を取り戻してくれることを信じて待ち続ける決意をして完結。

    つまらなくはないけど正直微妙。定岡療法そんなに上手くいくのか?と終始感じた。舞台設定は現代日本そのものリアル路線なのに、肝心の催眠療法の部分だけちゃっちいフィクションとして浮いていた気がする。母親との関係性が拗れるとか、親の愛情にきちんと包まれるこてができないとか、やはり幼少期の愛情飢餓がその後の人格形成に大きな影響を及ぼすんだね、という点はリアルだったので尚更に。
    にしても養護教諭は大丈夫なのかな。死んだ旦那の残した死亡保険金+自分の収入で子供二人を育てていくことはまだ可能だとしても、一度でも自分を殺し掛けた男でしかも精神分裂病で一生入院しなきゃならん奴の入院費用まで面倒見ることになるとしたら金銭的にきつくならんか?と妙に現実的に感じてしまった。

  • 3.66/234
    内容(「BOOK」データベースより)
    『ある中高一貫の進学校で生徒が教師を射殺して自殺した。事件の再発防止と生徒の動揺を抑えるため招聘された心の専門家・比留間。彼は教師と生徒の個を失わせることで校内に平穏をもたらす。だがその比留間の奥には、かつて眠らされた邪心が存在し…。『嫌われ松子の一生』の著者が“心の救済”の意義とそこに隠された危険性を問う衝撃作。』

    冒頭
    『「あの子の心を、治してください」
    その女性が、膝で両拳を握った。
    三十八歳という年の割に、肌はきれいだった。プロポーションも悪くない。顎にも贅肉がなく、すっきりしている。
    「わたし、もう、怖くて…」』


    『聖者は海に還る』
    著者:山田 宗樹(やまだ むねき)
    出版社 ‏: ‎幻冬舎
    文庫 ‏: ‎469ページ

  • 2018/4/26うむ。最後のほうが何となくまとまらず。★3

  • 三十三歳で片親で三歳児を抱える、射殺事件の起きた中高一貫校の養護教諭と、十一歳の時に猫殺しを繰り返し、その狂気を催眠療法で凍結したスクールカウンセラーの、学校での日々と恋と解放された狂気。精神に踏み込んだ描写や、師諸共不安定になり病んでいく描写に引き込まれた。病んでしまった人を拒まない目線が温かい。

  • この著者の作品を何冊か読みましたが、やっぱり面白いです。長編でも最後まで飽きさせずにひきつけるパワーがあります。この作品も読み始めるとついつい最後までやめられずに一気に読んでしまいました。お気に入り作家認定ですね。

  •  心理学って不思議な分野で、いい意味でも悪い意味でも裏切られることが多そうだなあとこの物語からも感じる。
     まさにそんな心理学に基づき人間に対峙するカウンセラーは「聖者」たり得るのか。
     「本当の自分」って一体どれ?と、誰もが考えたことのあるような普遍的な命題について、問いかけるような作品だった。
     別宮の幼稚さには嫌悪感を覚えたが、実は別宮が拘る道も自ら選んだものではないのかもしれないーーそれを思うとただただ哀れな人だなあと思った。
     興味深いテーマとセンセーショナルさの割に、結局少し安っぽさを感じる恋愛で終わったので物足りなさも感じたが、面白かった。何より、非常に読みやすいことは間違いない。

  • 面白かった。
    初めて山田 宗樹さんの作品を読みました。
    とても読みやすくて、ミステリー的な要素も少しありつつ。

    大きなストーリーの流れはよかったです。
    ただ、途中から恋愛を中心においた感情的な展開になっていったのがちょっと気になりました。
    もう少しシリアスな展開にもっていっても良かったような。
    まーでも良かったですね。
    他の作品も読んでみようと思います。

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著者プロフィール

1965年愛知県生まれ。筑波大学大学院農学研究科修士課程修了後、製薬会社で農薬の研究開発に従事した後、『直線の死角』で第18回横溝正史ミステリ大賞を受賞し作家デビュー。2006年に『嫌われ松子の一生』が映画、ドラマ化される。2013年『百年法』で第66回日本推理作家協会賞を受賞。その他著作に『ジバク』『ギフテット』『代体』『人類滅亡小説』『存在しない時間の中で』など。

「2022年 『SIGNAL シグナル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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