彼女が死んだ夜 (幻冬舎文庫 に 8-3)

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 596
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344411449

作品紹介・あらすじ

門限六時。家が厳しい女子大生ハコちゃんはやっとアメリカ行きの許しを得た。出発前日、親の外出をいいことに同級生が開いた壮行会から深夜帰ると部屋に女の死体が!夜遊びがバレこれで渡米もふいだと焦った彼女は自分に気があるガンタに遺棄を強要する。翌日発見された遺体は身元不明。別の同級生も失踪して大事件に。匠千暁、最初の事件。

感想・レビュー・書評

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  •  女子大生のハコちゃんが飲み会から帰ってくると、家に見知らぬ女性の死体があるのを発見。異常なほど厳格な両親にバレたくないというその一心で、飲み友達を巻き込み、何とか隠蔽しようとするのだが…。
     主に探偵役を務めるのは、巻き込まれた飲み友達の一人であるタックこと匠千暁で、所謂素人探偵もの。まさにこの「探偵が素人」という設定を活かしたトリックで、最後のどんでん返しには唸らされた。

     推理に関して、こじつけ臭いだとか、妄想がたまたま当たっただけ感があるだとかいう感想を抱く方も居られるだろうし、確かにそれは否定できない。というか、まったくもってその通りだ。だが、僕としては、突拍子もないというのは悪いことではなく、寧ろ、パズラーの魅力はそこにあると思う。西澤保彦といえば、新本格をもじって「ヘン本格」と呼ばれるぐらい変わったミステリを書くことで知られているし、そもそも物語というものが日常の中の非日常を描くものだとするのなら、どうやっても互いに結びつきそうにないと思えるものを如何に軽やかに結びつけるかがその真骨頂だろう。つまり、確かに手持ちの材料から出発し推理=論理を辿って来たはずなのに、着いたのはとんでもない結論だった!という驚きである。強調しておくと、この驚きというのは、あくまでロジカルな推理があってこそのもので、特に、裏付け操作などできない素人探偵にとってみれば、如何にあり得そうにない結論であっても、反証もできず他の解決も提出できない以上、それが「真相」なのである。素人探偵ものは、身内の中で事件を完結させなければならない(犯人は探偵役の身近な人物)という点でもパズラーと相性が良いのかもしれない。
     関連して言えば、西澤保彦のミステリは、登場人物同士の会話はとても軽妙で楽しいのだが、(解説で指摘されているように)作品を貫く世界観は「心が凍りつくほどペシミスティック」だ。身内で殺人が起こるということは、探偵側が知らないだけで、すぐ近くで愛憎渦巻いているということになる。また、この本にも、「友人相手によくそんな酷薄な仕打ちができるな」とか、「友人相手によくそんなに情け容赦無く推理できるな」とか、そんなのばっかりである。それこそ、「お酒でも飲んでないとやってられない」。解説から長く引いてしまうが、「作中の推理の殆どは、具体的な裏付けを欠き、時として妄想の域に踏み込んでいる(実際、作中でタックはしばしば、自分の推理を妄想と表現している)。にもかかわらず結局、それらの推理は真相にかなり近いのだ。羽化登仙状態でのディスカッションから生まれた、妄想としか形容しようのない非常識な仮説が、現実にそのままスライドして再現された時、この世界の実相とは何と滑稽で異常でグロテスクなものか—という感想が、読者の胸を領するに違いない。」

    • kuma0504さん
      こんにちは。初めまして。
      そうか、素人探偵モノというジャンルの楽しみ方があるんですね。面白いです。

      私も、考古学に関しては素人探偵なんです...
      こんにちは。初めまして。
      そうか、素人探偵モノというジャンルの楽しみ方があるんですね。面白いです。

      私も、考古学に関しては素人探偵なんですが、2日前のEテレ「誕生!大和王権」を観ていると、20年来の私の素人推理が最近段々と証明されているみたいでとても嬉しくなりました。でも決定的なのは、親魏倭王の金印泥封が見つからない限りはわからない。答えがわからないというのはホント楽しいです!
      2021/03/29
    • BRICOLAGEさん
      kuma0504さん、こんにちは。初めまして。
      コメント頂けてとても嬉しいです。
      レビューにはつい筆が滑って「所謂」と書いてしまいましたが、...
      kuma0504さん、こんにちは。初めまして。
      コメント頂けてとても嬉しいです。
      レビューにはつい筆が滑って「所謂」と書いてしまいましたが、「素人探偵モノ」というのは私が勝手にそう呼んでいるだけで、もしかするとあまり一般的な呼び方ではないかも知れません。それはそうと、物的証拠に過度に囚われず、純粋に論理の世界で遊ぶ楽しみというのがこのジャンルの面白さではないか、というのが拙文の趣旨でした。
      kuma0504さんの仰る、「考古学の素人探偵」というのは面白いですね。私は考古学に関して丸っきりの門外漢で、kuma0504さんのような凄腕の素人探偵には到底なれそうもありませんが、遠い昔に起こった出来事の真実を少しずつ解き明かしていくということには、ロマンを感じます。推理が証明されていく喜びも、それが他ならぬ自分が時間をかけて組み立ててきた推理ですので一入のことだろうと拝察します。
      また、一般的に、自らの推理に至るまでの過程として気儘に自由に想像や空想をすることが許されているというのも、「素人」の特権の一つなのかなと考えたりもします。
      2021/03/30
  • ある女子大生が自宅で死体に出くわし、とある事情から友人たちに手伝ってもらって隠蔽することに。そして警察に代わって自分たちで解決を目論んでいくことにーー

    と、設定は正直言って単純だし少し地味。しかも、本書の大部分を占めるのがディスカッション。
    ああだこうだと言い合って、全ての謎に筋の通った説明をつける。その作業にかなりの頁数が割かれているのだ。そしてその中で、作者は“論理の飛躍”の醍醐味を見せてくる。地味な設定、本格の括りの中でここまで見える景色を変えてくる作品には滅多に出会えない。
    そうしたミステリ純度の高さにキャラクターの魅力も相まって、誰でも楽しめる本格--もはや語義矛盾のようにも感じられるが--に仕上がっている。

    ↓↓↓↓以下ネタバレ↓↓↓
    ハコちゃんが発見した"死体"は実はまだ生きていて、しかも髪を切ったのも自らしたことだ、というのがまず驚き。タックが机に頭ぶつけるのが伏線だったんだなぁ。
    次に死体の入れ替わりもポイント。
    (もしかしてあのスワッピング、コートの入れ替え、盗まれた財布、残ったタオル...とかと対応してるのかとも思ったが考えすぎか?)

    そしてなによりこの後味の悪さ。
    宮下という人物の卑劣さを曝け出し、そしてもうガンちゃんをズタズタに。
    和気あいあいとした前半からは予想もつかないこの急転直下が最高だった。

  • 第一の事件だけど、シリーズ2作品目。
    殺された人は皆、性格が悪い。
    男と女は自信と信頼がないと続かない。

  • 大学生のワイワイ飲みが……
    ドロドロ になりすぎて……

    ハコちゃんはクソだし、宮下クソはろくでなし だし、ルミさんも最低だし 救いがなさ過ぎる(泣)

    ハコちゃんの人格形成に影響を与えたエピソードとしては、両親もヘビー過ぎた。

    しかし ワトソン役とホームズ役を固定せず、タックとボアン先輩の推理を互いに行って行くのは楽しかったです。
    タカチが鉄の女 だったイメージも徐々に崩れて行って 魅力的なキャラになって行くのも良かった。

    (シリーズ)10作品……読んでみよう


    イツ ニナルコトヤラ………

  •  アメリカ留学を前日に控えた箱入り娘のハコちゃん、送別会から自宅に帰ると見知らぬ女性の死体が!? このままでは念願の海外留学がおじゃんになってしまう!! 禁断の死体遺棄計画は思いもよらない結末に。 匠千暁、最初の事件。

    後に匠千暁シリーズとなる西澤保彦の看板作の第一長編ですね。タックやタカチの学生時代のお話、同じキャンパスグループ内の箱入り娘のハコちゃんのフロリダ留学前日家に帰ると見知らぬ死体が!そして禁断の死体遺棄、まさかの主人公たち普通に犯罪者である。しかし事件は想像を超える幻惑さを見せ、警察でも捜査は難航。ここに酔いどれ探偵・タックの降臨。
     シリーズ恒例というか、西澤保彦ではよく出てくる酒を回しながらの推理合戦ものです。今回は結構事件の当事者ですから酒飲んでる場合じゃないかもしれないんですけどね。

  • ハコちゃんよ…。
    クズすぎて読みながらイライラした。

  • 宮下とハコちゃん、ルミが糞。
    それはさておき、酒を飲みながら仲間たちで推理し合うシーンは非常に楽しめるし、何回もどんでん返しされてずっとワクワクした。

  • 推理というより「当てずっぽうが偶々当たった」感は否めないけど、キャラクターが面白くて楽しく読めました。
    ハコちゃんの自己中さにイライラしたけど、こういう結末になったので納得というか…
    読み終わった後にタイトルを見て、彼女とは誰のことだったのかわかりしっくりきました。

  • おバカな大学生達が酒の勢い相まって犯罪に巻き込まれたり、
    またその巻き込まれた犯罪について不謹慎な妄想を垂れ流したりする様は
    ブラックユーモア全開でなかなか面白く読めたものの、
    肝心のミステリー部分は素人目に見ても粗が目立つように思えた
    クライマックスの急展開からの後味悪めなラストも、
    それまでのノリと違い過ぎて個人的には少し戸惑ってしまった

  • 複雑な人間関係の上に成り立ったミステリー
    序盤の登場人物の?と無理があるだろと思うような行動も、終盤真相が明らかになるにつれて、納得がいきます
    心理描写が巧みで、この人ならこうするんだろうなというのも上手く印象付けられました。それが悲しい結末を生んでしまいましたが
    どんでん返しに継ぐどんでん返し
    最後は驚きの連続でした
    ”彼女”がそうなるに至った最大の要因であるのが両親であるのはわかりますけどあの奇行に丸々一生分使うのはどうなのって感じでした
    変装もさすがに無理があるかなぁ

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著者プロフィール

1960年高知県生まれ。米エカード大学創作法専修卒業。
『聯殺』が第1回鮎川哲也賞の最終候補となり、1995年に『解体諸因』でデビュー。同年、『七回死んだ男』を上梓。
本格ミステリとSFの融合をはじめ、多彩な作風で次々に話題作を発表する。
近著に『夢の迷い路』、『沈黙の目撃者』、『逢魔が刻 腕貫探偵リブート』などがある。

「2023年 『夢魔の牢獄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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