フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (395ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344418974

作品紹介・あらすじ

二流大を卒業しやっと入社できた会社をたった3カ月で退社、その後は実家に引きこもりゲームに興じる毎日。プライドばかり肥大化させた、そんなへなちょこダメダメな25歳が、母の病を機に突如、一念発起。「就職する。金を貯める」という目標を掲げて向かった先とは……。

感想・レビュー・書評

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  • 『まずは三日だ、そうしたら次は三週間、そして三ヶ月、そうやって数えて取り敢えずは三年我慢しろ』。新卒として明日が入社式という日の前夜、父が私の目を見ながらゆっくりと話してくれた言葉です。今やそんな三年を何度も繰り返し遠い過去になった、あの日。でも毎年4月が来るといつも思い出します。厚生労働省の調査によると新卒入社で1年以内に退職する人は毎年10数%にものぼるそうです。『残業が多い』『社風が合わない』それぞれに思うことはあるのでしょう。辞めたってもちろん構わない。それぞれの人生だから。でも辞めることが人生じゃない。その先に続くのが人生だから。10数%の人のその先の人生にどんな未来が待っているのか。これを全て拾った調査はありません。退職という決断の先に続く未来。この作品は、そんな10数%の中の一人のそれからを描いていきます。

    『いつからこんな状態に滑り落ちたのか、武誠治ははっきりと覚えていない』という主人公・誠治は、『そこそこの高校へ行って、一浪したがそこそこの大学へ行って、そこそこの会社へ就職』したものの、新人研修の方針が気に入らず『ここは俺のいるべき場所じゃない』とわずか3か月で会社を辞めてしまいます。『嫌なことがあればすぐ辞められるし、いくらでも代わりのバイト先は見つかる』と再就職に向けた活動も真剣にならず、『まだ俺は二十四歳だ。誕生日が来たって二十五歳だ。まだまだ若い。まだまだ大丈夫』と、フリーター生活を謳歌します。『顔を合わせれば説教する隙を探す父親、再就職を気にしておずおず顔色を窺ってくる母親』と関わりを極力絶った生活を送っていた誠治。そんな時、姉の亜矢子が嫁ぎ先から何故か戻ってきました。そして、母が重度の精神の病を患っていることを知った誠治。様々な葛藤の末、『目標:就職する。金を貯める(当座の目標、百万)』とパソコンに入力、印刷して壁に貼ります。『まるで小学生の夏休みの目標みたいだ』と感じた一方で『何となく気合いが入ったような気がした』という誠治。正社員になるべく『目標』の達成に向けて動き出します。

    作品は大きくは5章プラスαという構成ですが、読み終わった印象としては、前半(フリーター時代:退職〜再就職まで)と、後半(元フリーター時代:再就職以降の誠治の活躍)に綺麗に分かれるように感じました。実際、同じ一冊の作品にも関わらずこれら両者から受ける印象は極端に異なります。特にフリーター時代が描かれる前半部分を覆う沈鬱な空気にはかなり驚きました。昨今生きづらい世の中に精神を病む人が増えているのは事実です。厚生労働省の調査では15人に一人という割合で生涯に一度は鬱病になるという数字が出ています。ただ、誠治の母の病因および闘病がこんなに生々しく描かれるとは思いませんでした。また、終身雇用制が崩れてきているとはいえ、この国ではまだまだそれは一部のことであり、ましてや新卒入社3か月で退職し、何の資格も持たない者には、再就職の壁はとても厚いものがあると言えます。このあたり、読まれる方の年齢、職業、そして職種によって見方に多少のズレはあるかもしれませんが、親との関係の描写含め概ね納得感のある展開だと感じました。

    一方の後半、元フリーター、つまり正社員となった後の展開は、少々出来過ぎと感じる人がいらっしゃるのもなんとなくわかります。でも、なんといってもこれは小説です。有川さんは、フリーターからの右肩上がりの結末を、そこに意味を込めてこのように描かれたわけですから、私はこれはこれで一つの作品として、とても納得感のある結末だと感じました。

    私は父の言葉を守って今日に至っています。でも、今の世の中、運悪くいわゆるブラック企業に籍を置いてしまう可能性もあり、必ずしも定年まで必死に耐える選択肢が正しいとも言い切れないところがあるのは事実かと思います。『世の中、道理が通らないことなんて山程ある。みんながどこかで我慢している。だから何でも我慢しろというのはナンセンスだが、我慢のしどころ、主張のしどころというものはある』。まさしくそうだと思います。ただ、その見極めがどこまで行っても難しいものだと思います。有川さんはこうも語られます。『世の中は平等なんかじゃない。平等だったら、適材適所などという言葉は存在しない。みんなが平等に同じ仕事をして同じ評価をされるはずだ』。これも納得感のある言葉だと思います。でもそうであっても生きて行くには人は仕事から逃れることはできません。『ここは俺のいるべき場所じゃない』と新卒の就職先を後にした誠治は、自分のいるべき場所というものがどこかを探し求めました。もがき苦しみ、人の意見も聞くようになり、その中で自分自身を冷静に見つめ直していきました。今、こうしている間にもこの国では誠治同様に悩み苦しんでいる人たちがいるはずです。ただの小説と言ってしまえばそれまでですが、この有川さんが選んだ結末だからこそ見える未来があります。考え方のヒントもあるはずです。大切なのは、まずは斜に構えないで素直な気持ちになってみること、そして一つひとつ人の信頼を勝ち得ていくこと、これが私がこの作品からもらった気づきでした。

    就活、家族の絆、アルコール、大人のいじめ、闘病、土建業界、捨て猫、恋愛と様々なキーワードを元にして、様々な答えを垣間見ることのできる作品。スッキリとした読後感の中に、少し切ない余韻の残る、そんな作品でした。

  • 会社で馴染めず退社してしまった主人公。フリーターとして食いつないでいたが、母の鬱病を機に一念発起。頑固な父親を説得しながらの就職活動。主人公の成長が心地いい成り上がり物語。

    就職活動中の自分とも重なり物語に引き込まれ、転生ものを見ているかのように主人公の成長に喜びを感じた。前半の一進一退の看病、後半の社会人としての全能感、そして終盤の恋もとてもワクワクした。

  • ドラマで見て原作者が有川浩さんだったのを知り購入。
    情けなくてどうしようものないかっこ悪い主人公が成長していく姿にほっとするのは何故だろう。今がダメでもこれからは未来は分からないよねと思わせてくれるからかな。
    かっこ悪いのにかっこよく見えるのはかっこ悪かった自分を隠さないから人に愛されるのかな。そして自分を信じて愛してくれる存在がいるから強くなれるのかな。

  • 元フリーターの誠治は、母が心を病んだのを機に一念発起し、母の世話をしながら、正社員として就職を果たす。そして、最後には、姉から預かったお金と自分の貯金を頭金にして、父と一緒に2世代ローンで家を買うというストーリー。

    母の病気の原因となった、20年にわたる近所の壮絶なイジメは現実離れしているが、気持ちを入れ換えた誠治が、母のため、家族のために奔走し、また仕事先でも、自分の(ダメだった頃の)経験も活かしつつ、遣り甲斐を感じながら働く様子には、読んでいて希望を与えられた。

    一方で、母親の病気がかなり深刻な状態になるまで、家族が気づかないという点は、例えば、心の病だけじゃなく、認知症の場合にもありうるのではないか、早い段階でその兆候に気づけるよう、日頃からもっと丁寧に家族と向き合う必要があるのではないかと自省もした。

    誠治は、最初の会社を3ヶ月で辞め、その後のバイトも嫌なことがあればすぐに辞めるような、いい加減なフリーターだったが、それまで煙たいと思っていた父親からのアドバイスを聞き入れて就活し、内定を手にすることができた。
    結果的には、母の発病後に働いていたバイト先の上司に買われ、正社員として就職するが、就活における気持ちの持ち方、ものの捉え方など、今就活をしている人たちには参考になるかもしれない。

  • タイトルから、フリーターが家を買う、どうやって?の話だと思ったけど、違った!

    苦労して新卒入社した会社を3ヶ月で辞め、その後は就職難。バイトを転々とし、周りや両親からは就職せずダラダラしているように見えてしまう。
    そんな25歳の青年が、母親の病気をきっかけに、家族を支えようと成長していく物語。

    母親(妻)の病状をなかなか受け入れられず、子供達から見ると自分が1番かわいいように見えてしまう父親。
    結婚して家を出てからも家族を守ろうと精神的にも経済的にも奮闘する姉。
    「普通に会社員として働く」ことに失敗した青年。何とかしたくても仕事にも未来にも希望を持てずにやり過ごすしかない日々。
    どの人物の背景も心情も共感できるところがある。

    人生詰んだなと思うような場面でも、人との出会いと新しいチャンス、そして決断力と勇気で息を吹き返すことができる。

    大悦社長にかわれた青年が、生き生きと改革と提案する姿は若さと勢いがあって応援したくなった。

    本編最後まで読んだが、うっかりafter hoursを読まずに図書館に返却してしまったー!

  • ずっと読もうかな、どうしようかなと思いつつ読んでいなかった作品。
    想像していたよりもずっと良かった。今まで読んだ有川浩さんの作品の中では一番好きかもしれない。ドラマも観てみたい。

    重度のココロの病気に罹った母親を救うためにフリーターでどうしようもない生活を送っていた武誠治が一念発起するストーリー。家を変えれば母親の妄想が収まるということでがむしゃらに頑張る。
    これ、自分も頑張らねばと思わせる。

    個人的に好きなのは豊川かな。ヘラヘラしているように見えるけど、人間味があるし、仕事も上手くこなしているし。

  • 色々な角度から琴線に触れてくる作品でした。家族のこと、お金のこと、仕事のこと、恋愛を含めた人間関係。自分の人生のことを考えさせられる作品でした。もし人間関係や仕事や住む場所などの環境が変わったらどうなるだろうか?と思いながら読んでいました。読みながら想像が膨らんで自分のことを省みれる作品に出会えると、読書をして良かったと純粋に思えます。

  • 成長物語。
    有川浩らしくワクワク感満載です。
    元気が足りない時に読んでほしい。『こんなうまいこといくかいっ』と思っていても
    誠治がちょっと挫けただけでもう脳内は応援してますから。

    そして

    今回はないと思っていたキュンが後半にありましたよ!!!さすがです!
    キュンの相手が有川さんぽい。男前の女のコ。

    某食品のキャンペーンでwebから応募かハガキで応募か選ぶとき、思わずハガキで応募してしまいました(笑)

  • 面白かったけど、ちょっと綺麗事が過ぎるかな。
    特に後半はトントン拍子に進み過ぎていて感情移入もできずにちょっと白けてくる。

    序盤の姉の説教シーンがこの作品のピークだった。
    ☆2.8

  • 時々、有川さんの本を読みたくなる。
    本作もすらすらーっと楽しく読めました。
    最後の章は有川さんらしいラブコメが付いてた。

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著者プロフィール

高知県生まれ。2004年『塩の街』で「電撃小説大賞」大賞を受賞し、デビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊』3部作、その他、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』等がある。

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