春狂い (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344423312

作品紹介・あらすじ

人を狂わすほどの美しさを内包した一人の少女。父親や男たちの欲望から逃れ女子校に入学するが、教師に襲われ学園を去る。しかし転校先でも同級生からのいじめと教師からの暴行は繰り返され-。やがて少女は安息を求め、教師の前でスカートを捲り言う。「私をあと二年、守ってください」。桜咲く園は、天国か地獄か。十代の絶望を描く美しき青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『放課後の教室、私は教師の前でスカートをたくしあげる。「私をあと二年、守ってください」…「…守りなさい、私が卒業できるまで」』
    
    あなたは、小説を何のために読むのでしょうか?私は2019年の12月に恩田陸さん「蜜蜂と遠雷」を読み、文字を読んでいるのにそこからピアノの調べが流れてきたという体験をきっかけに読書をはじめました。以来、女性作家さんの小説ばかり600冊をこの三年ほどの間に読んできました。人によって読書のスピードは当然に異なります。趣味の読書である限りそれはその人にとって心地よいと思えるペースで読んでいけば良いのだと思います。ただ、サラリーマンの身でありながらのこの読書&長文レビューの数は流石に多すぎはしないだろうか、この人真面目に仕事してるんだろうか?と思われていないかという不安は少しあります(笑)。

    さて、そんな読書はスピードだけでなく、その内容も肝心です。小説と言ってもジャンルは多々あります。ミステリー、青春物語、お仕事小説等々、さまざまなな作家さんが渾身の一作と生み出された数多の作品から私たちは読みたい作品を選びます。私、さてさては、女性作家さんの小説の全てをコンプリートするつもりで読書を進めていますので、普段から偏りには気をつけています。できる限り満遍なく、と本棚の仕上がりをイメージしながら読者をする良い子の私(笑)。

    しかし、そんなさてさてが手にするのを念入りに避けているジャンルが実はあります。それがホラー、特にグロテスクな小説です。はい、私はお化け屋敷には近寄らない人間です!ホラー映画ももちろんお断りです!なので、女性作家さんの小説の全てのコンプリートは実は不可能であることはわかっています。でも、これは趣味の読書です。そんな私のわがままは、許してチョンマゲ!ということで、ここに追加宣言させていただきたいと思います。

    と、そんな前口上をしておいてなんですが、グロテスクな小説お断りの私がミスを犯してしまいました。新しい作家さん開拓の一環で宮木あや子さんの作品に手を出した私。代表作「校閲ガール」が気に入って次に手にしたのがこの作品。「春狂い」でした。ブクログの皆さんのレビューで少し怪しさは感じたものの読み始めてしまったからには最後まで…と読んだこの作品。そこには、まさかの”エ・ロ・グ・ロ”と呼ばれる世界が展開していました。やっちまったー…。

    そう、この作品は、“人を狂わすほどの美しさを内包した一人の少女”が描かれる物語。「春狂い」という意味深な書名のその先に、春を彩る『桜』が美しく描写されていく様にうっとりもする物語。そしてそれは、一人の『少女』が『教師の前でスカートをたくしあげる』シーンのその先に、圧巻の生々しい”エログロ”世界の現出にひれ伏す他ない衝撃的な物語です。

    『十年に亘る月日は、長いようでいて意外と短い』と思いながら、『咲き始めた薄紅の花を見上げ』るのは教師の『A』。そんな横を『先生ー、おはようございます』と『数人の女生徒たちが、』『足早に通り過ぎ』ます。そんな中、『ジャケットとポケットに右手を突っ込み』『剃刀の鞘を外し』、『刃の先端を人差し指でなぞ』る『A』は、少しして思い直し、『剃刀から指を離し』ます。そんな『A』は『英語を教えてい』ます。『中高一貫のこの女子校』の『二十八人の女生徒』を前に『ひとりの女生徒の顔』を見て『強烈な既視感に眩暈を覚え』る『A』。大学生だった頃に思いを馳せる『A』は、桜の季節に『吹雪を従えているような』『彼女』と出会いました。『この世のものとは思えなかった』という『彼女』に『持てる感情の何もかもを奪われた』『A』は、話しかけることもできませんでした。しかし、『四年になった春』、『ありったけの勇気を出して』『あなたを、ずっと好きでした』と、『思いを告白』するも、『すみません』という言葉を残して『彼女』は去っていきました。そして、しばらくしてそんな彼女は『突如大学をやめ』ます。『妊娠による結婚のため』という理由を聞いて『人生における一回目の自殺を試みた』『A』は、『手首から勢い良く鮮血が流れ出る』のを見ました。そして教師としての今を生きる『A』は、『受け持つ授業のあいだ中、ずっと』『少女』を見続け、『あれは彼女だ』と思います。そんな『少女』が、教員室の『A』のところまで、『遅れたノートを提出に来』ました。『まっすぐに、穢れのない瞳で』『A』を見る『少女』でしたが、『何かを本能的に悟り』身を引くと、『背を向けて走り出し』ます。『待ちなさい!』と『A』が言うも止まらない『少女』。しかし、『高等部へ無試験であがりたいだろう!』と言うと足を止めた『少女』。そんな『少女』にノートの取り方を教えてあげるからと、『A』は、『少女を相談室に連れて行』きます。そして、『内側から鍵を掛けようとする』『A』に、『ノート、持ってきてください、私の』と言う『少女』に『なくても大丈夫だ』と返す『A』。しかし、あくまでノートに固執する『少女』に『A』は、相談室から出て中からは開けられない鍵を外からかけました。『ドアの外で狂人の顔をして笑』う『A』は、『ついに、捕まえた』と思います。そして、教員室からノートを持って戻る途中、『A』は、『哀れな仔羊は、今ごろ泣いているだろうか』と思います。『まず、水をたらふく飲ませよう。そして制服を一枚一枚脱がす。ブラジャーとショーツは脱がさないでおく…』とこれからすることを想像する『A』は、『膨張する股間に急かされるように足を速め』ます。しかし、廊下を曲がった『A』は、そこに予想だにしなかった光景を見ました…と、そんな出来事から始まった『A』と『少女』の関係がやがて、『少女』の人生を大きく変えていく陰惨極まる物語が描かれていきます。

    『狂』という一文字の存在によって妙に引っ掛かりを感じる書名と、黒基調の表紙に印象的に描かれた背を向く制服姿の『少女』の姿にも引っ掛かりを感じるこの作品。そんな表紙に登場する『少女』は、”人を狂わすほどの美しさを内包した一人の少女”と内容紹介にうたわれます。しかし、そんな物語のレビューを見るとそこに並ぶのは、”ここまで重いとは…”、”誰も救われない…”、そして”エグい、グロい”と、衝撃を受けられた方の感想の数々でした。読書は仕事ではありませんし、受験勉強でもありません。あくまで日常の楽しみの一つのはずです。そんな楽しみの時間に気分を萎えさせる、落ち込ませる、そして鬱屈とさせる、そんな作品を読むことに意味があるのだろうか?とも思いますが、この世にはそんな気分にさせる作品も数多存在するようです。私は女性作家さんの小説のみに限定した読書をしていますが、極力そんな作品は避けたいと思っています。しかし、過去には、グロテスクな死に方を読者に晒すためだけに登場する彼、彼女が登場する辻村深月さん「子どもたちは夜と遊ぶ」や、”悪いのは私、と呪文のように自分に言いきかせ、どんな暴力も抵抗せずに受けとめていた”という主人公の陰惨極まりない物語が描かれる湊かなえさん「未来」など、うぐぐ…という思いをしながらも読んできた作品があります。しかし、この作品のレベルはそれを超えます。事前に皆さんのレビューを読んだ時点でやめておけばよかったと後悔しきりの、ただただ重く、救いがなく、陰惨極まる内容がこれでもかと描かれていきます。ただの小説だから…と気持ちを切り替えられる方は良いとして、そうでない方は、私のレビューで満足いただいて読まない、もしくはそれ相当の覚悟をもって読まれることをおすすめします。そう、この作品に描かれるのは『少女』が登場する“エロ”と”グロ”です…。

    そんな一見、ダーク極まりないこの作品ですが、一方で書名に『春』とついているように、『春』を象徴する美しい『桜』の描写に満ち溢れています。これが、陰惨極まる物語に不思議と美しい雰囲気感を醸し出しています。幾つかご紹介しましょう。まずは冒頭、『A』が見上げる『咲き始めた薄紅の花』の表現です。

    ・『硬い枝に似つかわしくない柔らかな桜の花びらは、咲き始めだというのに、ひらひらと、差し出した手のひらに舞い降りてくる』。

    美しい光景が目に浮かぶような春の情景。まさか、そんな情景に佇む『A』が悍ましい行動に出るとは予想もできません。そして、次は『A』が起こしたある顛末の後の情景。花が散った後に季節が進んでいます。

    ・『桜並木は美しい新緑の色を輝かせる。明るく暖かい季節はこれからなのに。誰もいない並木道は寂しそうに風に葉を震わせる』。

    どこか物悲しさは感じさせますが、相変わらず美しい情景を映し出す表現は変わりません。後でも書きますが、この作品は時系列が混在します。そんな花のある時期の別の時代の表現がこれです。

    ・『春の夜は月の光を受けて、桜が白くぼんやりとした光を湛える。冬の夜の凍った雪が放つ光の鋭さとは違って、桜が放つのは精液のように生温かい光だ』。

    夜桜を写し取ったこれまた美しい表現で、とても詩的です。しかし、そんな表現の最後に登場する『精液』という、ドキッとする二文字が美しい表現に影を落とします。一方で、そんな桜を登場人物の『彼女』や『少女』に例える表現も登場します。

    ・『彼女はそこらへんにいるただの女ではなく、この世の春を司る美しい桜の化身なのだ』。

    ・『十年の月日をかけて花を付け生み落とされた美しい桜の化身』。

    ・『桜の化身は自分のほうを見ようともしなかったが、自分の支配下にいるこのいとしい少女は違う』。

    「春狂い」という書名から想像される、春の象徴である『桜』。日本人なら誰でも魅了される美しい樹木に意味ありげに『彼女』の姿を絡ませていくこの表現の数々。美しいはずの『桜』の情景が妖しい美しさに変わっていく瞬間を見る物語。人が取る行動がおどろおどろしい一方で、自然の美しさはこれでもかという表現をもって描写されていく。表現としては鮮やかに、内容としてはどす黒く描かれるこの作品。この作品が醸し出す独特な怖さが、極めて巧妙に計算されて作り出されていることがよくわかります。宮木あや子さん、凄いです!

    そんなこの作品は、上記の内容紹介にもある通り、”人を狂わすほどの美しさを内包した一人の少女”の存在が実際に多くの人たちの人生を狂わせていく様が描かれていきます。物語は、『桜』の印象そのままに〈壱〉〈弐〉〈参〉〈四〉〈伍〉〈六〉という六つの章を”大字”で書くこだわりも見せますが、その時系列を理解するまでが曲者です。しかし、視点の切り替えが絶妙なので、全体像の把握はしやすいと思います。簡単に概略します。

    ・〈壱〉: 『少女』の英語教師『A』視点。『少女』はこの章の出来事によりその先の人生が動き出します。『A』もまさかの再登場があります。

    ・〈弐〉: 『主婦専門の売春』を繰り返す『妻』視点。『少女』の予想外の登場。〈伍〉との絶妙な対構成。

    ・〈参〉: 教師の前原視点。恋人のミツコも登場。〈伍〉に登場する面々が勢揃いする中にまさかのファンタジーが展開。

    ・〈四〉: 『少女』の前に『天使のような少年』が登場。”内容紹介”に書かれる『私は教師の前でスカートをたくしあげる。「私をあと二年、守ってください」』のシーンが登場。

    ・〈伍〉: 〈弐〉との絶妙な対構成。〈参〉に登場する人物オールスターによるこの作品の”エログロ”が極まる物語!

    ・〈六〉: えっ、そんな風に結末するの!と読者に衝撃が走る、ファンタジーの極みを見る劇的な物語。

    六つの章は蔦が絡まるように登場人物があんな風に、こんな風にと変化を見せながら登場します。それは、あたかも『夜と昼、空と海、生と死。世界はいとも簡単にひっくり返る』と物語に語られる印象そのままです。そんな中に、

    『私は誰からも守られない。守ってもらうべき存在である時期から、私は脆く柔らかな自分を、自ら守らねばならなかった』。

    と、痛々しく語る『少女』の激動の人生が描かれていきます。そんな『少女』は、”人を狂わすほどの美しさを内包”しているからこそ、

    『私は生まれたときから、男の人の性の対象なのだと、男の人から助けてくれ、守ってくれと、親に言えることができれば良かったのに、言えないのはひとえに私が「親の思う子供像」に近い存在でありたいと思っていたからなのだろう』。

    そんな風に自らをある意味第三者的に俯瞰して見せもします。しかし、そんな『少女』にはどこにも味方がいないことが明らかになっていきます。

    『私の敵は、父親を筆頭にこの世に存在する全ての男性だった。そして二番手は同集団に属する女だった』。

    もう、性別関係なくこの世のあらゆる男性、女性が『少女』の敵となっていく構図は陰惨を極めます。そんなこの作品を見事に言いえた表現を最後にご紹介したいと思います。

    『大人になってから経験するのに充分な絶望を、少女は子供のときから味わってきたのだろう。性暴力、親の死、好きになった人の死、守ってくれた人の死。滴る血は僅かでも、いずれそれは小さな針となって身体中に風穴を空け、人を人の形をしただけの残骸に変える』。

    なんとも強烈を極める表現をもって記される『少女』の人生。そこに描かれるあまりの陰惨な運命の有り様にただただ絶句させられる物語がそこにはありました。「春狂い」という書名の下に描かれるこの作品。それは、桜の花の美しさに人が酔うように、一人の『少女』の美しさに、美しさが故に、心狂わせていく人たちの姿を見る物語だと思いました。

    『女は私を憎み、男は私に何らかの感情を抱いた』という先に、その対象となる『少女』のみならず、『少女』に関わりをもった人たちの人生が大きく狂わされていく様を見るこの作品。『構内を埋め尽くす桜は吹雪のように花びらを散らしていた』といった『春』の象徴でもある『桜』の情景を作品の中に見事に織り込むこの作品。そう、避けてきた”エログロ”のはずなのに、何故か読んで良かったと感じるこの作品。

    『復讐するために生きていた』という鬼気迫る『少女』の物語の中に、美しさと残虐さを絶妙にブレンドしていく宮木さんの筆の力をまざまざと見せつけられた、しばらく頭から離れそうにない強烈な作品でした。

    • おびのりさん
      さてさてさん、sinsekai さん、こんばんは。

      私もエログロ参加します。図書館予約お待ちくださいませ。
      さてさてさん、sinsekai さん、こんばんは。

      私もエログロ参加します。図書館予約お待ちくださいませ。
      2022/11/29
    • さてさてさん
      sinsekaiさん、読書の起点になれて幸いです。
      お楽しみに!レビューも楽しみにしています(プレッシャー?)(笑)
      sinsekaiさん、読書の起点になれて幸いです。
      お楽しみに!レビューも楽しみにしています(プレッシャー?)(笑)
      2022/11/29
    • さてさてさん
      おびのりさん、エログロ参加決定お待ちしておりました。みんなで渡れば怖くないかもしれません?
      おびのりさん、エログロ参加決定お待ちしておりました。みんなで渡れば怖くないかもしれません?
      2022/11/29
  • 狂気を孕む美しさは、猟奇を催す。
    17歳の少女は、その美貌から、幼児期より男たちの欲望に穢され続けた。美少女を取り巻く狂気のサークルは、家庭から教室、学校へ。エネルギーを蓄えながら伝染していく。
    坂口安吾「桜の森の満開の下」を読んだことも忘れていたのに、狂気と桜のキーワードで、思い出した。桜の満開の下を通ると気が狂う。そう信じている山賊。美しい旅の女を襲い妻にする。その美しい女がなかなか恐ろしく、最後は桜の満開の下で散っていくという短編。
    美少女に狂っていく男達と、彼らの狂気に身を滅ぼしていく少女。その連鎖は幾つかの殺人にも至る。
    各章の展開のつながりが面白い。最終章での少女の憑依が、彼女への救済なのか、残された者への残像なのか、掴みきれなかった。
    久しぶりの、グロチック。
    さてさてさん、ありがとうございました。


    • さてさてさん
      おびのりさん、村田沙耶香さんの世界もすごくいいです!もっと早く読めば良かったというところです。芥川賞作家さんは結構合う合わないが大きいと思っ...
      おびのりさん、村田沙耶香さんの世界もすごくいいです!もっと早く読めば良かったというところです。芥川賞作家さんは結構合う合わないが大きいと思っているのですが、村田沙耶香さんはかなりど真ん中にきています。今回三冊読みましたが、早く次の三冊を読みたいなと。
      とってもオススメです。
      2022/12/12
    • おびのりさん
      そうですよね!
      私は、古い方から6冊読んで、あとは予約待ちです。
      久しぶりに、全作読みたい作家さんです。
      昔でいえば、安部公房を読んだ時に感...
      そうですよね!
      私は、古い方から6冊読んで、あとは予約待ちです。
      久しぶりに、全作読みたい作家さんです。
      昔でいえば、安部公房を読んだ時に感覚が似ています。
      まさか、優しめ(予測)さてさてさんと、同調できる日が来るとは!
      2022/12/12
    • さてさてさん
      “優しめ(予測)”、なるほど、我ながら納得です(笑)。でも、湊かなえさんとか、金原ひとみさんとかも読んでますし!と反論してみたり(笑)。いず...
      “優しめ(予測)”、なるほど、我ながら納得です(笑)。でも、湊かなえさんとか、金原ひとみさんとかも読んでますし!と反論してみたり(笑)。いずれにしても女性作家さんの作品全部読むと公言しているので、後に優しくない作品ばかり残るのは辛いので、できるだけ幅を持たせていきたいと思っています。
      よろしくお願いいたします。
      2022/12/12
  •  うーん。こ、これは‥。こんなにレビューを書くのが躊躇われる作品は、そうそうないです。書きたくない、というよりは、どう書くのが適切かと考えてしまい、自分の価値観や感性が晒される(これはどの作品も同じか)ような気になります。

     狂気と幻想‥。脳裏に浮かぶ言葉はこれで、読み手を軽々と非日常・非現実世界へ誘いました。
     全編を貫く性暴力からは、性的感覚を享受するような「官能」は感じません。どちらかと言うと、美しさを最高価値とし、傾倒・陶酔する「耽美」なのかと受け止めました。
     6つの章で語り手の視点が異なり、少しずつ物語が重なり合っていきます。読み手の心に浮かぶ謎が徐々に明かされる構成は、ミステリーとも見なされるに足る巧みさは感じました。

     散り際の美しさ故に、万人から愛される桜。この春の描写が少女の美しさの背景に置かれることで、残虐性や絶望感が際立つような気がします。
     個人的には苦しく疲れる読書体験で、ウラスジにある「美しき青春小説」とは思えませんでした。

  • 春ですね❀.*・゚

    *❀٭
    満開の桜並木
    中学校の入学式
    はらはらと舞う花びらの下
    Aが担任を受け持つクラスに 美しい少女が入学してきた。Aは大学時代 桜の下で一目惚れした女性と少女を重ね合わせ 一目で少女の虜になる。
    「出会ったのは春、別離も春、季節が巡るたびに人は一歩ずつ狂いゆく」
    少女をレイプしたい衝動を抑えきれなくなったA。少女に拒絶され精神を病んでいく。

    *❀٭
    「春になると変な人が出てくるから気をつけるのよ、と母親に小さいころ言われた。変な人は、幸せなのだと思う。春が来たからきっと嬉しいのだ。売春という言葉は誰が考えたのか、とても綺麗な言葉だと思う」
    Aが大学時代に一目惚れした女は、他の男と結婚していたが、夫が女に無関心だったので 寂しさを紛らわすために売春を繰り返す日々を送る。

    *❀٭
    美しい少女は生まれた時から美しかった。
    その美しさは「男」と名のつく人間(父親さえも)を狂わせた。成長するにつれ様々な陵辱をうけ 壊れかけていた時に 一人の美しい少年と出会う。少年もまた少女と似たような人生を送っていた。二人はやがて惹かれ合うようになるが……。

    。❀
    めちゃエロでめちゃグロ!!
    夕飯前に読むんじゃなかった(親子丼)
    少女と 狂った男たちと なぜかそれに巻き込まれた普通のカップルが複雑に絡みう全六章
    特に面白くはなかった!
    そして少女が命を絶つのは桜の下かと思いきや、夜の海だった!なぜ!

    桜吹雪が綺麗な季節ですね(え?もう新緑?)
    みなさんも狂った人には気をつけましょう

    • ゆーき本さん
      春に狂った人々をご堪能あれ❀.*・゚
      春に狂った人々をご堪能あれ❀.*・゚
      2024/04/23
    • ultraman719さん
      私も好物かな?(^◇^;)
      私も好物かな?(^◇^;)
      2024/04/23
    • ゆーき本さん
      エログロ変態ファンタジーが好きなら大丈夫✿.•¨•
      エログロ変態ファンタジーが好きなら大丈夫✿.•¨•
      2024/04/23
  • 一人の美しい少女を巡る大人たちの葛藤が描かれた官能青春小説。少々グロテスクな場面もあるが、抽象的な話が多く、読み終えるのに意外に時間がかかった。

  • さてさてさんのレビューを見て早速読みました。
    さてさてさんはエログロが苦手のようですが
    自分は大好物なんで、期待度マックスで読み始めました。

    その期待を裏切らない、いや想像を超える
    えげつないエログロ作品で大興奮でした。

    私、語彙力がないもので、解説から引用して
    「こんなにもいびつで、勝手で、醜いものが、
    こんなにも清々しく、爆発的なエネルギーを
    放って生きている。
    面白くってたまらなかった。
    思わずにやにやしたあとに我に返り、
    ここから連なる物語とはなんだろう、いったい
    どこへ連れて行かれるのだろう…」

    という感じで、どんどん物語に、少女に引き込まれていきました。
    ここまで壮絶な人生を送ってきた少女ってのは
    現実世界ではなかなかいないとは思いますが
    男を狂わせてしまう、そんな魔性を持った女の人は存在するんだろうなぁと思いました。
    出会ってませんが…笑

    今のコンプライアンス重視の世の中では
    映画化とかは不可能だろうけど
    是非ともラースフォントリアー監督に撮ってもらいたいです!!
    エンドロールで流れる曲はサカナクションの
    「朝の歌」で♪

    さてさてさん素晴らしい作品に出会わせていただきありがとうございました。
    これからもよろしくお願いします。
    この作品が気になる方は是非さてさてさんの
    レビューをご覧ください。

    • さてさてさん
      sinsekaiさん、早速お読みになられましたね。エログロど素人な私としては、エログロの神?のような(ちょっと表現違うような。すみません、失...
      sinsekaiさん、早速お読みになられましたね。エログロど素人な私としては、エログロの神?のような(ちょっと表現違うような。すみません、失礼なこと言う意図はありません(笑))sinsekaiさんにご満足いただけるかとても心配でしたが、杞憂に終わったようで何よりです。ということは、エログロど素人な私にはやはり刺激が強すぎた作品ということですね。ただ、そうだとすると、これからもエログロ世界に浸ってもいいとも言えますね。これは読書の幅がさらに広がりそうです。
      レビューにお書きになられていますが、”魔性の女”という存在、現実世界に存在するんですかね?私は出会ったことがないです。というか、出会ってしまうと、この作品に登場した男たちのような運命が待っているんですよね。いや、考えただけでも痛い、痛い、痛いです。出会いたくないですね(笑)
      宮木あや子さんってハマるとどハマりしそうな作家さんですよね!否、エログロだったから宮木さんにハマったのか?これは、もう少し読まないといけませんね!
      2022/12/12
    • sinsekaiさん
      さてさてさんコメントありがとうございました。
      期待以上の面白さであっという間に読んでしまいました。
      人間の根源的な欲望、それこそがエログロだ...
      さてさてさんコメントありがとうございました。
      期待以上の面白さであっという間に読んでしまいました。
      人間の根源的な欲望、それこそがエログロだと思います。
      美しい話、感動的な話、それも素晴らしいと思いますが、自分はこういった欲望剥き出しの方が
      より人間らしさを感じて大好きです!

      ようこそ新しい世界へ 新世界へ…笑
      2022/12/12
    • さてさてさん
      sinsekaiさん、すみません。
      気づかなかったです。新世界、そうですよね。新世界!ですね!
      そして、エログロの奥深さになるほどと感じ...
      sinsekaiさん、すみません。
      気づかなかったです。新世界、そうですよね。新世界!ですね!
      そして、エログロの奥深さになるほどと感じ入りました。読んで良かった一冊になりました。なんだか、読了直後より、今の方が読んだ満足感が高まってきました。ありがとうございます。
      2022/12/12
  • 1人の美少女を軸とした連作短編集。青春、官能、ファンタジー、グロなどの要素が入り混じっている。そのエピソードだけ見ると「悪」だがというのも特徴(それでも少年に対する最悪の暴力は酷いが…)。
    男目線のエロい性ではなく女性視点の苦い性といった印象だが男性教師前原さんと彼女さんのカップルの関係性が救いとなっている。

  • 各章に別れた短編集かなぁ…っと 思って読み進めた「参」の終盤、「物語が繋がってる」驚き。
    そして、「四」で輪郭を形成して「伍」では「二」の視点を覆し「六」は物語の【転】を見事なまでに【結】する。

    時系列がバラバラなのに 繋がりがしっかりしてるから余計 引き込まれる。

    本当に『校閲ガール』を書いた作者と同一なのか? と、思わせる作品。

    作中に…
    ・(桜)吹雪を従えるような…
    ・夏には何を売ればいいのだろう……等
    美しい文体がちりばめられていて
    「そうだ!『官能と少女』の作者だ!」
    とも、思い知らされる。

    【春…季節が巡るたび人は一歩ずつ狂いゆく】

    また 素晴らしい作品に出会えました。

  • 章ごとに視点が変わる
    人の関係が、だいたいはわかっていたけれど
    時間が行ったり来たいもありわかりにくい感じでした
    男を惑わすくらいの美人が地獄を見たっていうのは
    わかりました

  • 美しさ故に虐げられる少女。官能的だがどこか残酷さがある。
    守って欲しいのに誰も守ってくれる人はいない。正常という仮面を被った狂った人達。何のために人は生き死ぬのだろう?少女のいる場所は天国か地獄か。

    愛故に憎しみ故に美しさ故に人は死に行く

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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。2006年『花宵道中』で女による女のためのR-18文学賞の大賞と読者賞をW受賞しデビュー。『白蝶花』『雨の塔』『セレモニー黒真珠』『野良女』『校閲ガール』シリーズ等著書多数。

「2023年 『百合小説コレクション wiz』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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