去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344424678

感想・レビュー・書評

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  • 「何もかも憂鬱な夜に」ですっかり魅了され、ここのところ中村作品を集中的に読んでいます。
    中村さんは純文学の書き手(それもかなりの正統派)ですが、彼の書く濃密な物語の虜になってしまったのですね。
    この2か月で、本作が6冊目になりますから、その傾倒ぶりが分かっていただけませう。
    気分的には、「もう、フミノリだけでいい」って感じ。
    中村さんは「銃」でデビュー後、これまで17冊の本を上梓してきました。
    その中でも、本作は最もミステリー色の強い物語だそうです。
    ただ、結論から云うと、これまで読んだ5冊と比べ、しっくりきませんでした。
    ミステリーにありがちな作為の跡が見られ、それが気になって集中できませんでした。
    私はミステリーも好きですが、「別にそんな理由で殺さなくても」「そんなに手の込んだ犯行に及ぶかな」と疑問に感じ、冷めてしまうことがあります。
    本作にも、それを感じてしまいました。
    中村さんは一流の文章で濃密に人間を描き出すことができ、それが多くの読者を獲得している最大の理由だと私は理解しています。
    ですから、敢えて、自身が必ずしも得意でない、謎解き主体のミステリーに挑戦しなくてもいいように思うのです(中村さんはミステリーに必ずしも明るい方ではないらしく、ミステリーに詳しい編集者に「こういうトリックってある?」と訊いて確認してから本作を書き始めたのだとか)。
    もちろん、中村さんの書くものですから面白い、面白いです。
    最後のどんでん返しも鮮やかで、私はもう一度冒頭に戻って、いくつかの個所を確認しちゃいました。
    ただ、たとえば、最後の謎解きの部分とかは、やっぱり長ったらしい説明調になっていて、正直に云って描写力に秀でた中村さんのこんな文章を読むのは辛い。
    期待が強すぎるのでしょうか。
    さて、次は、どの中村作品にしよう。

  • 読み進めるにつれて「え?」「これホントに?」の連続で、楽しめました。ただ、急展開についていけなくて、星5つは付けませんでした。忘れた頃に(僕は容易に忘れます)また読み返したい本。

  • 猟奇殺人の被告木原坂が化物へと変貌して行く内面の葛藤。
    歪んだ姉への愛、写真への固執それが映し出すもの…そんな内容にライターがどう関わって行くのか、そんなことを想像して読み進めたが、全く違った。
    後半驚きの連続で、軽くパニック、淡々と落ち着いた雰囲気から一気に加速した感じに。
    沢山の疑問と違和感は最後には全て回収出来た。
    登場人物全員が"普通じゃない"のは現実離れし過ぎだし、それほどの憎しみを持っていたらしい弁護士の人物像が描かれてなかったのは残念だけど、沢山の伏線は見事。
    姉弟が僕達にした行為を彼らの上で再現した復讐。
    その真実を小説にしたものがこの物語そのもので復讐の最終形なんて、ほんとに良く出来てる。
    僕は化物になったはずなのに僕は今でも君が好きだ…なんて綺麗な言葉では終われない、たとえ深い愛が理由でも到底擁護できない程、悪質で病的に細部にまで執拗にこだわった復讐の計画。
    ある意味では完全犯罪。


  • 猟奇殺人事件がテーマで、「写真は何を写すモノなのか」という視点から特に序盤の話が進むのもあって、普通では無い思考のヒト(cf.レクター博士)独特のオーラのようなものをジワジワ味わわされる描き方。人の感じる「生理的恐怖」のようなものを意識して書かれた文章だなあと思いながら読み進めた。
    色々な話が、「手紙」「取材(会話)」の形式で少しずつ出てくるのでまどろっこしくもあり、ゆっくりグロテスクな話が掘り起こされていく感じが(作品としては)良い点でもあったり。
    星3.7くらい。

  • 控訴しているとはいえ、ある程度罪を認めた連続殺人犯を取材するライター。
    なぜこのような猟奇的犯罪を犯したのか。
    しかし被告・木原坂雄大は、ライターに自分の内面を教える代わりに、彼自身の内面を自分に教えてほしいという。

    雄大の唯一の肉親、姉の朱里が出てきてから、物語は不穏の度を増していく。
    そこに、モデルとなった人の本質を本物以上に現した人形を作る人形師の存在がまた、捉えどころのない不安をあおる。

    雄大は何を隠しているのか。
    それがわかった時に、事件はすっきりと解決するのか。
    落としどころを探りながら読んでいたら、全く違ったところに着地した。
    最初からすべては明らかにされていたのに。

    事件の構造としては面白かった。
    けれども、明らかにされるその手法が…ちょっと退屈でした。
    せっかく丁寧に組み立てられた物語が、最後は棒読みのナレーターで終わってしまった。
    そこが残念。

  • この言葉をタイトルに持ってくるセンスに強く惹かれる。
    陰鬱でじめじめとした感じがいい。
    画が頭の中に浮かぶ。

  • H30.09.30 読了。

    少し前に映画化していたので気になっていたところ、Kindleセールで格安でゲットできたので。

    ごちゃごちゃしていて、途中、分かりにくい所はあったが、タネが分かると、なるほどなーと納得。

    もっとドロドロ恋愛なジャンルの作品かと思っていたが、全然違った。

  • 本の帯に書いてある通り、いくつもの真実を掴み損ねながら読んでしまったため、真実に気づいてからさらに面白くなった。
    最後まで読むと、題名もさらによく思える。
    ページ数もそこまで多くないので、一気読みできる。

  • 米国ウォール・ストリート・ジャーナル紙によって毎年発表される「いま読むべき本」ベスト10。2012年は小説部門で、2013年はミステリー部門で選出された、栄えある日本人作家が中村文則。どの作品も相当暗く、決して好きだとは言えないのに、ついつい手に取ってしまう作家です。本作も例に漏れず暗い。だけどすこぶる面白い。

    ライターの「僕」が面会したのは、女性2人を殺害した罪で死刑判決を受けている被告。その殺害方法は信じがたいほど残忍。「あなたについて書くことに決めた」と告げる僕に、被告は「覚悟はあるか」と問う。被告と直接会うことにおののきを感じ、手紙のやりとりを始める僕。と同時に被告の姉や知人への取材を開始する。しかし、殺人の動機はわからず、関係者はどこか歪んだ人間ばかりで……。

    200頁足らずとずいぶん薄い本なのに、読み応え十分。この暗さは嫌いだと思っていても引きずられるように読むはめになり、ちりばめられた叙述トリックにも途中まで気づかず。仕掛けが非常に面白く、あとがきを読む頃には「おみそれしました」と言いたくなります。1冊の本ができあがる過程を見せられているかのようでもありました。2度読みたくなる本です。

    映画の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/59d7c05851518c774e8981af831b0602

  • 中村文則氏の作品は初読み。前評判もあったけど結構読みやすいです。でも心理戦に持ち込まれたら危険な相手かなと。ある種の凶器とか毒を感じさせるかっこよさがあります。

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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