夜また夜の深い夜 (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344426368

作品紹介・あらすじ

友達に本当の名前を言っちゃだめ。マイコにそう厳命する母は整形を繰り返す秘密主義者。母娘はアジアやヨーロッパの都市を転々とし、四年前からナポリのスラムに住む。国籍もIDもなく、父の名前も自分のルーツもわからないマイコは、難民キャンプ育ちの七海さん宛に、初めて本名を明かして手紙を書き始めた。疾走感溢れる現代サバイバル小説。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公のマイコは18歳の日本人。生まれた時から母親と2人暮らしで、アジアやヨーロッパの都市を転々としており、学校にもまともにも行っていない。現在はナポリの貧困地区に暮らしている。母親は何かから逃げているようであり、身元が判明することを極端に恐れている。自身は整形手術を繰り返し、容姿さえ変えながら、あちこちを転々としている。マイコから足がつくことを怖れ、マイコは国籍もIDも持たせてもらえない。
    マイコはそのような暮らしに不満を抱きながらも、母親の言いつけを守りながらナポリで暮していたが、ひょんなことから日本の漫画を置く、MANGA CAFEに入り浸るようになり、漫画に熱中すると同時にカフェの主人のシュンに惹かれる。そして、マイコはある日、母親の元から逃走し、難民の少女たち、エリスとアナと行動を共にするようになる。そこから、息をつかせぬ感じで物語は走り始める。

    テンポの良いストーリー展開で面白く読んだが、物語の骨子は、さほど意外性に富むものではなく、また、物語の最後はバタバタとまとめた感が強かった。桐野夏生は好きな作家であるが、彼女の作品の中では、好みの上位に来るものではなかった。

  • 第1部はナポリで母と二人暮らしの国籍を持たない18歳の少女マイコから七海への9通の手紙です。
    七海とは一体誰なのか。そしてこれはどういう話なのかと思いました。
    マイコは母に内緒でMANGA CAFEのシュンの店に毎日、通うようになります。
    しかし、マイコはヤマザキという日本人男性から逃れるため逃げます。
    そして、同じような少女、エリスとアナと知り合い、マイコは男装して、三人で逃避行する生活をはじめます。

    第2部は、七海への手紙のかわりに書いたマイコの手記です。私の奇妙な人生を記録したかったとマイコは語ります。
    七海から初めての返事が届きます。七海も海外に暮らす少女だということが、わかります。
    そして、マイコたち3人は、知り合った少年、カマールの家で暮らし始めます。
    しばらくして、ヤマザキから、マイコの母親の秘密がわかったからMANGA CAFEで会おうと連絡が入ります。シュンとの再会。でももうシュンのことも信用できなくなったマイコ。
    そして、シュンの口からマイコの出生の秘密が明らかになります。
    途中で、「オウム真理教」の名前が登場しますが、作者は、その辺から、このお話を発想したのかが、気になりました。オウム関連書は、以前に何冊かまとめて関係者の手記を読みましたが、マイコのような人物はいなかったと思います。

    でも、何もかもひっくり返した、最後のどんでん返しはよかったです。
    すごく、すっきりしました。

  • 図書館で手に取るたびに、本の裏表紙の案内(上の文)を読み、暗くキツい話かなあと思い迷っていましたが、やはり読み出したら止まらず、スピーディな文にやられました!はあ〜、面白かった‼︎

    小学校しか出ておらず、日本語は母と話すだけのマイコが書く手紙…と真面目に考えると、文章が上手すぎるけれど(笑)ま、そこは置いておいて。
    私はやっぱり、桐野夏生さんの小説が好きだ。生きていくことの辛さ、しんどさ、そういうものを、一見軽い文体でありながら、ガッツリ『読ませてくれる』!

    マイコの育ちも、マイコの母の奇妙な行動も、家出をしてからの、マイコとエリスとアナの行動も、どれもこれも、いわゆる私たち普通の生活とはかけ離れていて「どうなってんの?どうしちゃうの?」の連続なのだけど、目が離せない。

    地球に生まれた、ということだけ同じでも、この世界には、たくさんの不幸があり、それを生き抜くために、どうサバイブしていくか⁉︎ ハラハラしつつ、期待しながらも、胃がキリキリするような気持ちで読みました。

    それにしても…そもそも、人生は、大小の違いはあれど、沢山の選択をしながら生きていくものだけど、目の前にいる人を信じていいのか?誰の言ってることが本当なのか?自分は何処へ行くべきなのか?そういう1つ1つを選んでいくのって、大変な作業なんだよなあ〜とつくづく思うのでした。

    印象に残ったところを少し。
    ーーーーー
    あたしたちは、海外でフラフラとクラゲのように漂っているだけなのです。

    そんな大量のマンガがあるなんて、日本とはいったいどんな国なのでしょう。とんでもなく過剰な怪物的な国らしいのです。

    欲のない人はつまらないな、とあたしは思ったのです。

    悲しいなんてものじゃなかった。あたしの中の何かが、凍り付いたのがわかった。それが何かはわからない。きっと感情とか愛情とか同情とか、そういう他人に降り注げる種類のものだったんじゃないかと思う。

    エリスの体験談を聞くと、エリスは相手を殺さなければ死んでいたんだ、というマンガには描かれていない真実を知ることができます。この世には、そういう美しい標語が通用しない世界もあるのだ、ということ。

    皆、親の犯した罪に喘いで必死だった。また、親の犯した罪を子供たちが、そして愛人が償え、と世間が合唱する国が、日本という国であるらしかった。
    ーーーーー
    最近、生まれ変われたら、どうなるのかな?とよく考えるワタシ。同じ日本とは限らないよね?地球は広いもんね・・・などと考えながらページを閉じました。

  • 久々の桐野夏生さんで、期待して読んだけど★3つ。
    設定はすごく興味深い。主人公のマイコは、物ごころついたときからいろんな国を転々としていて、自分が何者なのかわからない。母は整形手術を繰り返して、こそこそと隠れてくらしている。ときどき男の人が訪ねてくるけど、監視されているのかな。母からは、自分の本当の名前を人に教えてはいけない、友達をつくっちゃいけない、自分たちのことがばれたら一緒にいられなくなるよ、と脅されている。
    しかしマイコも徐々に大人になり、そんな檻の中から当然逃げ出したくなる。いろいろあって逃げ出して、自分と同じような境遇の少女たちとサバイバルして暮らすようになる。
    ドキドキハラハラの冒険譚だけど、物語が、マイコが誰かに宛てて書いた手紙という形式をとっているのがちょっとつまらないと思った。
    主人公の手記とか手紙とか、独白形式の書き方って、単純というか、どうしても不自然。桐野さんならもうちょっとドラマティックな描き方ができたんじゃないのかなぁ。

    マイコの仲間になる二人の少女は魅力的で、彼女たちの口から語られる北アフリカの内戦や飢餓、虐殺、難民のたどる道などは、マイコをあくまで「日本の女の子」と捉えるとかなりギャップがあるけれど、そのギャップも面白いと思った。もしかしたら、日本で指名手配されて逃亡中の人が国外で子供を生んだとしたら、マイコのような子供は現実に存在するかもしれない。うん、確かに存在してもおかしくない。日本大使館に行けばいいじゃん、と読みながらずっと思っていたけど、それが結果的に「母を売る」ということになるなら、子供はどうするのが正しいのだろう?難しいな。

  • 桐野夏生さんの小説は突き抜けているから好きだ。欲を言えば最近は少し勢いがないか。

    今はイタリアのナポリのスラムで生活しているマイコは、母親とアジアやヨーロッパのスラム街を転々と移り住み、教育も受けられず、友達も持ってはいけない、母親には秘密がある、という中で成長した。「日本人の娘」らしいと思うのに、国籍もIDもないマイコは淋しい根無し草か?
    あるきっかけからマンガカフェを経営する日本人に出会い、カフェで日本のマンガに魅せられ耽読する。自意識の発見、家出、友人、事件展開、変化していくマイコ。桐野さんのスピード感ある筆は、しだいにマイコはどこの誰でもないと粋がっているデラシネではない、解き放たれるデラシネだと気が付かされでいくのを描いている。

    巻末、金原ひとみさんの解説がいい。積んである『蛇にピアス』を読もう。

  • 多彩な引出しを持つ桐野さん。
    本作は強いて言うなら「東京島」系統のカテ。
    設定、展開、その中で交わされる会話の数々を「荒唐無稽」という人はいまい。
    古くは重信房子、その産んだ子供、最近ではフィリピンの特殊詐欺の犯人たち。
    「普通に」日本で育った女性すらも「自分の存在を誇示せんばかりの」表情で逮捕された・・犯罪のグルーバル化というか。。。

    「日本はファジーな人間には とてもつらいところです」と語る七海。彼女も舞子とシンクロして居る様な見方、考え方をする、その生い立ちの酷似性からか。
    この言葉だけを切り取ると、日本の難解な国風に映りそうだが、それは狭い島国、海外との対比の歴史が非常に未発達という見方も一因しているかと感じた。

    ファジーをあるがままに受け入れ、「はき違えた自由が闊歩して行く」社会へと突き進んで行けば、フィリピンと同じ匂いの国風になりそう。
    桐野さんはこの作を通じて何が言いたかったのだろう。
    舞子が逞しくなっていくことを願いつつ、そのはるかに上を行く熾烈な生い立ちを持った2人の少女との対比の中で、精神的発達とは。。と読むものに考えさせる意?

    そういった意味では日本人は精神的発達遅滞の大人になり切れていない男女が多いと思う・・まず政治家の殆どが。

    舞台がイタリアというせいか、イタリアの在り様の良否は抜きにして 社会の成熟度の野太さには舌を巻く。

  • 面白いとかつまらないとかそういうありきたりな感想ではまとめられない作品。
    残るのは『なんじゃこら〰』って言う心のモヤモヤ、ポッカリとした虚無感みたいなものだけですね。
    衝撃作といえば★5ですが、もう一度読み返したいかといえばもう読みたくないので、★1とも言える作品。
    桐野作品の中ではやや異質だが、特殊な設定の状況に置かれた人間が発揮するたくましさの描き方は、少し『東京島』を彷彿させるところがあった。

  • 今回の長編は途中で飽きる事が全くなく、グロテスクなシーンや目や耳を塞ぎたくなる様なシーンも出て来ますがその後の展開が気になり本を閉じる事が出来ませんでした。

    最後の最後まで良い意味でどんでん返しの連続で「OUT」以来の衝撃を受けました。

    決して心地よい作品とは言えませんし自分の住む世界とはかけ離れている世界での出来事の様ですがとてもリアルな部分や問題定義も感じられ、久々にのめり込んで一気読みした作品です。

  • 何で借りたかって言うと重信メイさんの本を最近読んで、なぜだか関連で出てきたから。最後まで一気読みだった。最後バタバタと解決?したけど、ちょっとわからなかった。モデルがいないと良いなって思った。

  • 手紙形式の小説は何度か読んだことがあり、あまり入り込めない印象だったのですが、好きな作家さんということもあって入り込めました。

    今日、私は何も心配なくベッドで寝られるし、食事に困るわけでもない。この作品はフィクションだけど、そういうことが当たり前じゃない世界が今現在もあることは知っておきたい。

    ただ、手紙形式の意味があったのかがわからない。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

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