下巻まで読んだ前提で感想を書きます。
うんまあ中盤までは面白かったのですけど、ラスト、あれはないでしょう。ホラーを切り口にした時代物推理漫画か、という思いで読み進めていたら最後にはあれですから、別に最後までカラクリの部分は推理もので間違いはなかったのですけど、ちょっとこう残念というか、最後まで硬派でいてほしかったといいますか……しかし小野さん原作なら仕方がないか……
あと作中の犯人たち、作り手の側からすると、この惜しみない兄弟愛に感動してくれ、というのがあるのでしょうが、まあしかし兄弟のために罪のない市井の人を責任ある立場の人々が、お互いに遠慮して遠慮して遠慮しまくって、遠回りに善意を押し付けあった結果、大勢殺して回るというのは非常にアレですよね。感情移入しようにもできないぞ!? という思いに駆られてしまって、私はどうにも結末もなあ……最後は本物の闇の世界の住人になってしまったのです的エンディングってそれ、いいの!? 倫理的に許されるの!? という……大勢殺して回った人が最期それ!? みたいな……
お互いに堂々と話し合って決着をつけるべきところで、特に家督を継ぐにふさわしいと考えられていた兄など、しょっちゅう態度の面でも優れていると称賛されていたわけですから、自分が言葉で弟を説得しきれないのを察したからと言って殺人鬼になるかね、と思いますし、弟に至ってはシリアルキラー以外の何者でもないのですが、うん……
お互いに、お互いをできるだけ傷つけないように、名誉がほんの少しでも傷つけられることのないように、策をめぐらせまくった結果、お互いの名誉は守れたかもしれませんが、そのために十数人の人が命を奪われていて、しかも彼らはお互いのために率先して罪のない人を殺して回っていたわけで、それは美しい兄弟愛というよりも、身内だけには異様に優しく他人は人とすら思えなかったのではないかと思いますし、そんな人が国の趨勢を担う位置にいたというのも恐ろしくてならない。まあ原作が小野さんだから仕方ないかもしれないのですけど……
ホラーと愛の組み合わせの物語を読みたい人にはお勧めできると思うのですが、推理ものを求めているとか、責任ある立場の人の態度はもうちょっとうん、とか、ちょっと硬派なものをお求めの人にはお勧めできない感じの作品でした。
※追記※
ちょっと異常性がだだ漏れの人が大好き、という人には良いものでしょうね、特に弟さんが。兄と比べて圧倒的な殺害数を誇る弟さんですが(とはいえ兄の殺害数も大概)根がアレ(兄のためなら周囲の誰もを殺したって平気だし、それが自分の大事な身内であっても殺せてしまう傾倒っぷり)ですから、そういう、誰かのために周囲が全然見えなくなるピュアな狂人が好きという人にはハマる人でしょうね。殺された人たちというのは、兄弟にとって邪魔な人だったというわけでもなく、単にお家騒動ではない、と偽装するために狙われて殺されただけの人のほうが数の上では勝るわけですし、そんな理由で残忍な殺され方をした人に対して笑顔で刃物を振り下ろす描写がずっと続いているわけです。戦場の兵士だってそんな顔おそらくしないよ、という顔をしているわけです。そこらへんのことを考えると、ストーリーに魅力というより、登場人物に魅力のある話なのかもしれませんね、これは。