豚インフルエンザの真実: 人間とパンデミックの果てなき戦い (幻冬舎新書 と 2-1)
- 幻冬舎 (2009年6月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344981287
感想・レビュー・書評
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豚インフルエンザの真実 人間とパンデミックの果てなき戦い。外岡立人先生の著書。人間とパンデミックの果てなき戦いは頻繁に繰り返され、過去から学ばない人間たちがパンデミックへの恐怖に苛まれて混乱を繰り返す。パンデミックへの恐怖から右往左往してしまうのは人間の愚かさと弱さなのでしょう。外岡立人先生のような冷静さを持つ方が社会のリーダーであれば安心なのに。
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昨年(2009年)のGW直前から話題になった新型(豚)インフルエンザですが、一時は夏になって終息するはずなのに一向に感染者が減らず、学級閉鎖・学校閉鎖が増えて行く中、本格的なインフルエンザのシーズンである冬を迎えたらどうなることやら不安だったのを記憶しています。
特に、受験生を子供に持つ私は大変心配していたのですが、その時期が終わろうとしている今、はっきり言って拍子抜けしている感があります。
いったい「豚インフルエンザ」は何だったのでしょうか、どうしてパンデミックにならなかったのかと思っていたところへ、この本が目に留まりました。結論は、病原体が強毒性でなかったの一言につきるようですが、リレンザ等の薬が開発されていたことも効果があったのかもしれません。
この本ではワクチンの効果について述べていないのも興味があるところでしたが。また、明言していませんが、今回のインフルエンザは豚・人・鳥インフルエンザの遺伝子が混在している(p23)ものとのことですが、こんなことって自然におきるものなのでしょうか。これらの疑問については類書で自分なりに確認していきたいと思います。
また、インフルエンザの予防策として、マスク着用や「うがい」は効果がない反面、十分な手洗いと集団に入ることを避ける、という具体策(p178)は大変参考になりました。
以下は気になったポイントです。
・今回の新型インフルエンザは、豚・人・鳥インフルエンザの遺伝子の混在した遺伝子構成である(p23)
・現在の人のA型インフルエンザウィルスは、香港型(H3N2)、ソ連型(H1N1)、新型(H1N1)の3種類に増えた、香港型・ソ連型は毎年流行しているもの(p45)
・マスク着用のインフルエンザ予防効果は、海外の公衆衛生学では認められていない、WHOもCDCも着用義務を認めていない、日本独自の衛生道徳として、マスクやうがいをすることは問題ないが、それをしないから感染したという非難は問題がある(p59)
・従来のH1N1と新型H1N1の抗原性には共有部分があるので、巷に言われている1957年以前生まれに限らず、成人層全域に渡って免疫があるようだ、感染者は児童や生徒に限定されているので(p65)
・ペストは1347年の10月頃に中央アジアからシチリアに上陸して、14世紀末までに数回の大流行により、欧州人口の3分の1から3分の2にあたる約2000~3000万人が死亡、イギリスやフランスは過半数が死亡(p71)
・日本では735~738年にかけて天然痘が大流行し、政権を担当していた藤原4兄弟も死亡した、これは奈良の大仏造営のきっかけにもなった(p72)
・2004年にWHOがまとめたSARSによる発病者は世界29カ国で8096人、死者数は774人で致死率9.6%、スペイン風邪の2%(世界全体で5000万から1億人)よりも高い(p82)
・エイズは疑わしい症例は、1950年代から中部アフリカを中心に報告されていた、1981年に報告されて以来、10年間で世界中で感染者は100万人になった(p88)
・2006年末からインドネシアは発生する患者から分離されるウィルスのWHOへの提供を拒否し始めた、健康の不平等(先進国の製薬企業の新薬開発に使用されるが、提供側はメリットなし)のため(p105)
・エジプトで鳥インフルエンザの感染者が女性なのは、鶏を自宅で世話をするのは主に主婦と娘たちであるから(p108)
・抗インフルエンザ薬は、作用の仕方によりノイラミニダーゼ阻害薬(タミフル、リレンザ等)と、ウィルスが耐性になっても有用であるRNAポリメラーゼ阻害薬にわけられ、いずれの薬剤もウィルスが体内で増えだす発病2日以内に服用する必要がある(p146)
・マスクは感染者を多数相手にする医療関係者が正しく着用するならば意義ありとされているが、街中、店中、学校でマスクを着用することは世界の公衆衛生学では意義がないことになっている(p162)
・日本における鳥インフルエンザの対応は、人への感染は厚生労働省、家禽への場合は農水省、野鳥への場合は環境省と縦割りであり横の繋がりはない(p165)
・WHOがフェーズを5へ引き上げたのは、ウィルスが毒性を増したわけではなく、特性の不明なウィルスの拡大が確認されたから(p167)
・通常インフルエンザによる死亡率はこの100年間で4分の1に下がってきた、人々の栄養状態や生活環境の改善、新薬開発が大きな要因(p170)
・欧米ではインフルエンザ等の感染症予防に「うがい」という行為はない、それは医学的根拠がないため、インフルエンザ予防に有効なのは、十分な手洗い・集団に入らない、である(p178) -
2011.7.11