文豪はみんな、うつ (幻冬舎新書)

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著者 : 岩波明
  • 幻冬舎 (2010年7月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344981775

文豪はみんな、うつ (幻冬舎新書)の感想・レビュー・書評

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  • 11/04/26 購入

  •  ひと言で言えば、本書は近代文学の有名人をネタにしたゴシップ本である。姦通、病気、家系の秘密、成功と失敗、貧乏、絶望、死。扱われるのも漱石、芥川、中也、藤村、太宰、川端など、いずれもフルネームで言わなくてもすぐ誰のことかわかるような作家である。みな、私生活にちょっと変わったところのあった人ばかり。「うつ」の話題は必ずしも主役ではなく、作品にそれほど深入りするわけでもない。作家の生涯が、事件や隠された内幕や怨恨などに焦点をあてながら語られる。「やっぱり作家って変な人ばっかりですねえ」と言わんばかりの展開で、節操がないようにも見えるかもしれない。

     著者は精神科のお医者さん。たしかにタイトルに掲げられた「うつ」はどの作家についても話題にはのぼるが、必ずしもメインのテーマではなく症例は統合失調症、不安神経症、強迫神経症、人格障害、パニック障害などさまざまである。というか、それまでおもしろそうに作家のスキャンダルを語っていた著者が、急に真顔になって白衣をまとい「えへん」と咳払いをして、いかにも医者らしい症状分析に話を進める瞬間が各章にあるのだ。

    教師としての賢治は生徒たちから慕われ、充実した毎日を過ごすことができたが、時おり奇妙な行動が散見している。月夜の晩にレコードを聴きながら、空に向かって両手をはばたかせて踊ったり、ホホホホーと叫びながら走りまわったりする姿が当時を知る人によって語られている。こうした行動は、賢治の気分が躁状態あるいは軽躁状態であったときに出現したものと考えられる。(114~115)
    「躁状態あるいは軽躁状態であったときに出現したものと考えられる」などと言われると、にわかに空気が変わる。たった今まで作家の生い立ちや名声の確立や恋愛事件、裏切りなどを雄弁に語っていた著者の態度が一変し、「鬱」と「統合失調症」はどのあたりで似たような症状を示すのかとか、睡眠薬にはそれぞれ違う働きがあるのだといった話になる。突如、話が散文的になるのだ。

    たちは作家に「狂気」を期待しているのだ。「天才と××は紙一重だからねえ」という井戸端会議(もしくは赤提灯)レベルのつぶやきからはじまって、私たちはどこかで「作家は狂っているべきだ」と思っている。しかし、「狂気」などという概念は、もはや公には消滅している。あるのは「症状」と「病名」だけなのである。にもかかわらず、私たちはかつて「狂気」という便利な言葉があらわしていた何かを作家やそして〝文学〟に求めている。

     別に文学作品がいつも幻覚や不安や妄執を描いているわけではないのだ。でも、きっとその背後には「狂気」があるんじゃなかろうか?という妙な期待のようなものがある。「狂気」を隠し持った作品こそが強い力で私たちに語りかけてくれるのではないか。表現とはそういうものであるべきのような気がしているのだ。しかし、ほんとうに不思議なのは、そういう私たちの〝期待の構造〟ではないかとも思う。おもしろおかしいスキャンダルをひとしきり語っておいて、急に木訥で〝マジ〟な精神科医に豹変する著者のその変わり身についていきそこねたとき、そんな〝期待の構造〟をふと冷静に意識してしまう。

     とりわけ印象に残った章がある。もっとも力のこもった章で、本書中、唯一フルネームで呼ぶ必要のある作家を扱っている。島田清次郎という名を聞いたことのある人は少ないだろう。1899年(明治32年)の生まれで、20歳のときに出した自伝的小説『地上』がベストセラーとなり時代の寵児となったが、その後出版界から総スカンを食って作家生命を絶たれ、30歳のときに精神病院で亡くなった。

     この人は実におもしろい。ゴシップとしてもおもしろいが、それ以上に、こんな人がいたらたしかに自伝的小説を書かせたくなるだろうなという人物である。傲慢、嘘つき、鈍感、強引、思いこみ、自己愛……。島田というのは、およそ人に嫌われる要素をすべて備えていたかと思われるのだが、島田がある意味ですごいのは誰もが多少は思い当たる節のあるこうしたプチッとした弱点を、フル装備でぜんぶ持っていた点である。まさに〝ミスターいやな奴〟。しかし、島田の人生をたどっていくうちにそんな輝かしいほどの性格破綻ぶりも、「症状」へと収斂していくことになる。精神病院に収容され、自身の排泄物を外に投げつけるというような段になると、もはや〝ミスターいやな奴〟ではすまなくなる。

     私たちはなぜ〝島田清次郎〟に小説を書かせ、ベストセラーにし、しかし、そのあげくに社会から抹殺し、のたれ死に同然の最期に至らしめてしまうのか。本書はそうした点を究明するものではないが、少なくともこの本を読んだ直後、あるいは数日後、あるいは数年後かに私たちはそのことについてあらためて考えたくなるのではないだろうか。変人スキャンダルのおもしろおかしさと、症状についての散文的な記述の間に私たちが感じるギャップはいったい何なのだろうか、と。漱石、太宰、谷崎といったお馴染みの「変人」の章は、ややおつきあいの感があるが、島田のような作家を扱うときの著者にはちょっとした迫力を感じたのである。

  • 事実は小説よりも奇なり。

    とても興味深く読みました。
    文豪がみんな「うつ」という病名だったかにはあまり興味は無いので、その点について疑問を述べるつもりはありません。

    人の心を打つ文学や芸術を残す人は、心に何らかの闇を抱えてる人の方が多いと常々思っていたので、その確認をする気分で読みました。

  • 果たして幸せな一生だったのかなと...思ってしまいます。
    天才と言われども、世間の評価に一喜一憂し、不安定な精神状態の中を生きている現実を見せられます。
    ただ、作品の中にうつ的な内容が読み取れる...っていうのはどうなんでしょう?
    文学って人間の弱い部分や暗部を描く方向性があり、それがある程度誰にでも当てはまるからこそ、多くの人に共感されうるのでは?と思います。

  • 偉大な文豪は得てして私生活が
    エキセントリックだったりするけど、
    それってビョーキのせいだったんじゃね?
    ――というお話。
    帯の煽り文句「病んだ!書いた!死んだ!」が
    ナイスですが(笑)
    内容はそんなに刺激的でもないです。
    事実に精神科医の考察が添えてあるだけなので。
    個人的に気持ち悪かったのは、中原中也の項のラスト。
    中也の年老いた元恋人の言動に、
    かなり病んだ印象を受けます。

  •  ほとんど知られていることをまとめて著者の診断をちょっと塗ったくらいの内容だった。取り上げられている作家も有名どころばかりだし、まあ入門書(……何の?)にはちょうどいいくらいかなと思う。文学的というより医学的というより、作家の狂気と(わたしたちが)ラベリングしたい部分を面白おかしく拡大している感じ。島田清次郎のことはあまり知らなかったのでその章は面白く読めた。

  • 病気のメカニズムを語る上では、期待外れかもしれないが、私はむしろ文豪たちの一生に興味があったので、この本はよかった。

  • 文豪と呼ばれる人々の、うつ病や精神疾患の可能性について言及した本書。

    著者自身、あとがきでも「あくまで自分の診断」とことわっているが、実際に精神病院への入院歴や発病がはっきりしている人もいるものの、著作やもれ伝わっていた作家の言動などから、著者が判断しているだけというあいまいなケースもある。
    ことの真偽はともかく、視点としては面白い。

    十人の作家が取り上げられており、そのほとんどが本当に著名な人物ばかりだが、恥ずかしながら島田清次郎については全く知識がなかった。
    チャンスがあれば、彼の出世作「地上」も読んでみたい。
    最終章の川端康成が特に興味深かった。

    蛇足。
    先日読んだ「芥川賞を取らなかった名作たち」で佐伯一麦が「ブルジョワ出身でない作家が出てくるようになった最初は、たぶん村上春樹」というようなことを書いていたが、なるほどここで取り上げられている作家たちは、実家が旧家・名家であるとか裕福であるとか、そんな人たちばかりだなと妙に納得。
    小川洋子さんのエッセイ集「妄想気分」というタイトルは彼女の造語だと思っていたが、精神医学用語だったらしい。「周囲の世界が不気味で何か起こりそうな感じがすること」という意味。

  • この本を見ると作品の見方が変わるかもしれません。結構みんなうつ傾向がひどくてなんだかなーという感じです。

    題名がするととんでものように見えてしまいますが、そんなことはありません。結構まじめに分析されていて当時の世相が豊富に盛りこまれているので、文豪の作品を読む前に一読しておくといいかもしれません。

  • なるほどね、文学史上に傑作を残した文豪が、精神的に苦しんでいたという話。うつが名作を書かせたのか、書くことがうつを引き起こしたのか、それはわからない。でも、彼らは苦しんでいた。

    記録から文豪たちの症状を分析しているが、so what?と問いたくなる。

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文豪はみんな、うつ (幻冬舎新書)の作品紹介

明治から昭和初期、文学史上に残る傑作を数多残した10人の文豪-漱石、有島、芥川、島清、賢治、中也、藤村、太宰、谷崎、川端。彼らのうち、7人が重症の精神疾患に罹患し、2人が「精神病院」に入院、4人が自殺している。才能への不安、女性問題、近親者の死、肉親の精神疾患などに苦しみ続け、苦悩そのものを作品にした。漱石はうつ病による幻覚を幾多のシーンで描写し、藤村は自分の父をモデルに座敷牢に幽閉された主人公を描いた。「芥川は分裂症」などの定説を覆す、精神科医によるスキャンダラスな作家論。

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