昭和45年11月25日: 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃 (幻冬舎新書 な 1-7)

著者 :
  • 幻冬舎
3.74
  • (12)
  • (32)
  • (15)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 219
感想 : 37
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344981850

作品紹介・あらすじ

昭和45年11月25日、三島由紀夫、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹、介錯される-。一人の作家がクーデターに失敗し自決したにすぎないあの日、何故あれほど日本全体が動揺し、以後多くの人が事件を饒舌に語り記したか。そして今なお真相と意味が静かに問われている。文壇、演劇・映画界、政界、マスコミの百数十人の事件当日の記録を丹念に拾い、時系列で再構築し、日本人の無意識なる変化をあぶり出した新しいノンフィクション。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「昭和45年11月25日」
    この日に起こったことが何なのか、知らない人はいないだろう。というか、少なくとも私と親しくしている人で知らない人はいないと思う。もっと言えば「知らない〜」という人とは親しくなれない気がする(笑)
    それくらい大きな事件だったはず。
    私はまだ生まれていない時の事件だけれど、もちろん知っている。演説もTVで見たことがある。檄文はもちろん読んだことがある。「楯の会」(会の中身が昔と同じなのかどうかは不明)の集会のポスターも見たことがある。

    この本は昭和45年11月25日に何が起こったかを、当時の人たちの回想や寄稿文などを集めたもので、三島の行動ではなく、そのことを知った人たちがどうしたのかを集めてある。

    とてもおもしろい本だった。久しぶりに本を読むのに熱中してしまい、電車を乗り過ごした。

    この事件は今だったら映像も流れないし、まして三島と森田の首の写真など新聞に載せるはずもない。1970年だったからだ。(岡田有希子の飛び降り自殺の遺体の写真は見たな。1986年だって)

    当時は携帯もない、FAXもない。カメラもフィルムだしデカイし重いし。
    でも1970年11月25日のことは何らかの方法でみんなその日に知った。

    私の母は当時高校生で、ちょうど事件はお昼時だったので校内放送が流れたそうだ。
    「三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊に立てこもって、割腹自殺した!」
    情報が得られるのはきっとTVがある職員室くらいだから、先生が流したのだと思う。
    そういう女子校だ。私もその高校の卒業生だからよくわかる。三島を読んでた人もたくさんいたと思う。

    この本はオススメしたい。
    とりあえず、私の親友が三島ファンなので、貸す予定になっている。

    ただ、ひとつ納得行かないのは「あとがき」。
    三島は戯曲もたくさん書いていた(評価も高い)し、役者もやっていた(こちらは評価は低い)から、演劇に触れることは当然なので、歌舞伎のことに触れるのも当然なのだが(三島の歌舞伎作品は今もよく演じられる)、その中の一文に「海老蔵の時代が来る」とあり、ここだけは全く同意できない。この著者はかなり歌舞伎も見ていそうだし、これだけの資料をバッと集められたくらいなので(手持ちの著書・資料だけで100人分くらいの三島について書かれているものを集められたらしい)、知識も見聞も広そうだし確かそうなのに、「海老蔵の時代が来る」だと?
    初版は2010年なので、海老蔵と言ったら今の海老蔵だ。
    私は海老蔵の時代は来ないと思う。
    少なくとも、歌右衛門や玉三郎と並ぶようなことはあり得ない。私が親しくしている人で海老蔵を評価している人は一人もいない。冒頭と同じになるが、海老蔵を評価する人とは多分親しくなれない。海老蔵で評価できるのは「見た目」だけである。写真集ならいいかもしれない。でも動いたらもうだめ。下手くそ!と、大向うをかけたくなる。無駄に目をギョロつかせるし。
    アレで團十郎襲名はホントに困ったもので、だいたい古典ができないから、当初一昨年襲名予定のときの演目見たら2ヶ月歌舞伎座でやるのに同じ演目。結局演れるものが少ないということでしょう。なのに市川宗家。頭が痛い。
    そこだけはこの著者に同意できないけれど、この本は「買い」である。ちゃんと紙で持っていたい。そして時々見返したい。

  • 三島由紀夫クーデター未遂、割腹自殺事件の1日を膨大かつ幅広い関係者の証言を淡々と集めた著作。そのためエンターテイメント的な面白さはないが、事件の時代背景、世間に与えた衝撃が生々しく感じられる。著者があとがきで、“現在の日本で三島ほどの著名な作家が事件を起こしてたら、全ての著作は販売禁止になるだろう”とあったが、このような現在の風潮に少し暗い気持ちになった。

  • 毎日暗い気持ちになりながら、一気読み。

  • 今年は没後50年。この本が出てから10 年。
    今も世の中に振動を与え続けるあの事件が、今年はどう語られるのか楽しみ。

  • 120人に及ぶ証言や記録を収録している。荒井由実や丸山健二まで出てきて驚いた。因(ちな)みに丸山の反応は実に底の浅いもので、後々アナーキズムを礼賛するようになる萌芽を見る思いがした。折に触れて三島を批判したのも三島の丸山評が本質を衝いていたためだろう。
    https://sessendo.blogspot.com/2019/01/451125.html

  • ノンフィクション
    歴史
    文学

  •  書名のとおり、三島由紀夫自決事件の日の日本の様子を、各界著名人の反応から描き出したノンフィクションである。三島の没後40年を記念して刊行が相次いでいる関連書籍の1つ。

     ノンフィクションといっても、本書に登場する120人の著名人に、著者はまったく独自取材をしていない。当時のマスコミ報道や、各人が著書やインタビュー等で書いた(語った)言葉を時系列で再構成しているだけなのである。

     というと、「ケッ、人のフンドシで相撲をとるお手軽本かよ」と思う向きもあろう。まあたしかに、120人それぞれに独自取材する労力に比べたら、お手軽なやり方ではある。
     しかし、本書は見た目の“お手軽感”よりもはるかに手間ヒマがかかっていると思う。構成は凝りに凝っているし、そのまま引用するのではなく著者の言葉に置き換えられた部分のほうが多い。そもそも、各界著名人の反応をこれだけ集めるだけでもかなりの労力だったはずだ。

     何より、実際に読んでみると、読む前に予想したよりもずっと面白い本に仕上がっている。「ありもの」の文献や記録を再構成しただけなのに、あたかも上質のドキュメンタリー映画を観たような読後感が味わえるのだ。ありそうでなかった「コロンブスの卵」みたいな企画だが、本書の試みは成功していると思う。

     当時の著名人から、当時は無名の少年少女だったのちの著名人まで、120通りの事件への反応がモザイク状に連なって、やがて1つの大きな絵を成していく。その様子が興趣尽きない。

     自分にとっての「あの日の思い出」を持つ世代が読めば面白さ倍増だろうが(ちなみに私は当時6歳で、テレビのニュース映像をかすかに記憶しているのみ)、当時まだ生まれていなかった人が読んでもそれなりに面白いと思う。

     なお、三島事件の意味についての各界著名人の解釈をタイプ別に腑分けしたエピローグ「説明競争」が、じつによくまとまっている。このエピローグだけでも、評論として独立した価値を持つものだ。その中にある次の一節は、とくに印象的。

    《三島由紀夫の死に最も誠実に立ち向かっているのは、大江健三郎だ。彼は、三島の政治思想も政治行動も全面的に否定する。文学、芸術、美学として捉えるのではなく、戦後民主主義への明らかな挑戦であると捉える。それゆえに、自分に対する攻撃と受け止め、機会あるごとに三島を否定する。》

  • 本書は三島を直接的に理解するための書ではない。三島が生きた最後の時代の雰囲気を、彼自身の死を通じて今に呼び起こす書となっている。
    三島自決のニュースに直接触れたことのない世代にとって、三島は大変不思議な存在である。自衛隊基地での演説シーンが稀にテレビ流れるが、必ずといっていいほど具体的な解説はない。三島が大声で叫んでるな、でも聴衆から共感得てないぽいな、自衛隊決起を呼びかけるなんて極右の親玉みたいなものかな、そんな感想を持つ。一方で三島の著作を読めば、テレビで見た彼と同一人物が著したのだろうかと疑うほどの耽美的な文章が並ぶ。自分の中で矛盾する三島像をつくりあげ、いつの間にか「三島由紀夫問題」化していたし、またさせてしまっていた。でもそれは理解の努力を放棄しているだけで、我々からは想像できないほどに彼は極端に思想の純度が高かったのだろう。
    本書からは三島の死について喪失感を語る者はあれど、深い共感を語る者はほとんどない。また、三島自決の報に触れた人々の思いと、三島の檄文等の温度差を見せつけられる。事実社会の空気はそのようなものであったであろうが、そこにこそ三島自決の直接的要因があるようにかんじる。戦中世代として戦前の空気とのあまりの差異に強烈な違和を感じている中で、自衛隊の「何か純粋さ」を見つけしまったことを想像する。彼にとって行動もまた肉体や服装や思想以上に美しくあらねばならず、世にはびこる欺瞞性に我慢できなかったのだろう。敗戦体験、文学、演劇、写真集、自衛隊体験、楯の会、自決と介錯、これらはきっと三島の中で逡巡しながらも一本の線でつながっている。

  • とても良質な理系本レビューを載せてるこのサイトの書評がきっかけで読んだ。
    三島の演説も檄文も全容を知ったのは初めて。彼の文学はこの日に完成したのだろうか…。
    昭和45年11月25日―三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃: 中川右介 - とね日記 https://t.co/ol0nRdR5wf

  • 三島由紀夫は単なる人気作家ではなく、あの時代のスーパースターだったようです。当時80万部の平凡パンチが1967年春ミスターダンディの読者投票をした結果(11万以上の投票)は、1位が2万票近くの三島由紀夫で、2位以下が三船敏郎、伊丹十三、石原慎太郎、加山雄三、石原裕次郎、西郷輝彦、長嶋茂雄、市川染五郎、北王子欣也だったそうです。中川右介氏の「昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃」、2010.9発行です。文壇、演劇・映画界、政界、マスコミ百数十人の事件当日の記録をもとにしたノンフィクション

全37件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。「カメラジャーナル」「クラシックジャーナル」を創刊し、同誌のほか、ドイツ、アメリカ等の出版社と提携して音楽家や文学者の評伝や写真集などを編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、漫画などの分野で執筆活動を行っている。

「2019年 『阪神タイガース1985-2003』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中川右介の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×