死にたい老人 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344982321

感想・レビュー・書評

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  • 83 歳という高齢で断食安楽死を実行しようとした作家の奮闘記(?)ですが、軽い気持ちで読むのはお控えください。
    昨今では、生活保護も受けずに孤独&餓死でミイラ姿で発見されたというニュースも聞きますが、作者の場合は生活苦で追い詰められているわけでもなく、自分の意志でという点が大きく違います。息子さんもいて自身も作家としての稼ぎもあり、離婚してからはお手伝いさんにも通ってもらって身の回りの世話も問題なく、あるのは持病の胃潰瘍や心不全ですが、あくまでもこだわるのは己の意志による断食安楽死という死にざまです。その経緯は、自身の宗教観や死生観、戦争体験、社会経験、離婚経験、政治不信、欲望減退などが複合的に混じったもののようですが、2007年(筆者80歳)に発表した小説のあとがきで、83歳の誕生日に断食に入って死のうと宣言した文章に責任を持つというある種の強迫観念(実行できない場合の恥ずかしさ)が彼を突き動かしていたのは間違いないようです。
    結論から言えば、83歳時に断食を実行はするのですが、3回とも失敗(2回目は38日間続行)・・4回目には死ぬのが怖くなってしまいます。その原因を分析すれば、どこか無意識のうちに生へのこだわりがぬぐい切れなかった、悟りの境地に入れなかったのではと筆者は考えます。
    そこで、人間は理性的に死ぬことはできないのではないかという結論に至るわけですが、筆者の理想とする即身成仏という形は、悟りを開いた修験僧ですら、五穀断ち、十穀断ち、全穀物断ちまで長い人では30年かけて、しかも周りには理解者と応援者がいる状況だったことを考えればあくまでも現代社会では実現不能な理想形だったわけです。
    ちなみに、本書が発表された(断食が実行された年)のは2011年9月ですが、翌年2012年12月9日病院で心不全で亡くなっています。
    私にとっては、ドニー・アイカー「死に山」以来の衝撃的かつ刺激的な読書体験でした。

  • 生きたいように生きることはできても、死にたいように死ぬことは難しい……。

    ツッコミどころが多いというか全体的に何をしたいんだこの人は周りの人間めちゃくちゃ迷惑だな……と思いながら読んでいたのだけれど、個人的に印象深かったのはあれだけ自分の頭で考えて死ぬことを選んだのだ死を恐れないと繰り返していた著者がいざ死に対するおそれを自覚したとき、他者の言葉が原因だとあっさり他人のせいにしたこと。
    一番人間らしさを感じたかも知れない。やるせない。

  • 安楽死希望してたけど、安楽死なんてないんだな

  •  断食によって餓死するというとんでもないことを試みた作家の記録。極めて深刻な企画のようだが、ところどころに「ズコっ!」とする部分があるので、それほど身構える必要はない。それよりも断食する過程で著者である木谷さんの深い思想が語られており、状況のリアルな描写と相俟って独特の雰囲気を漂わせている。

     食を絶つことによって徐々に人間の機能を停止することによって死に至る。こうした死に方は、いわゆる老衰と同じような大養生を遂げられる理想的な終わり方である、と漠然とではあるが考えていた。しかし本書を読むとそんなロマンは見事にぶっ壊される。悟りを得た聖者ならばともかく、普通に煩悩を持ち合わせている人間がそう簡単に生き仏にはなれない。身体的精神的にも問題ある絶食自殺だが、社会的あるいは法的にも微妙な問題があり、著者はその解決も試みるも、自分との闘いで手一杯な状況ではそううまくいくはずもない。

     このように考えてみると人間というもの、というよりも生物というものは自らの意思で命を絶つということができないようにできているのではないかとすら思ってしまう。自殺する理由は人それぞれであろう。しかし、その唯一の解決法は「命を絶つ」ことだけではない。問題解決法においては「試行錯誤」は不可欠な要素。そして自他問わず「命を絶つ」という行為は、不可逆性を帯びる行為であるが故に「試行錯誤」の対象にはならない。従って「命を絶つ」という行為は解決法としてはそれほど有効ではないということがいえるのではないか。さらに本書における絶食に限らずその手段には身体的心理的さらに社会的法的なリスクを伴うことも大きな要素となるだろう。

     皮肉なことに本書では断食は「自殺の手段」としてよりも「健康法の手段」としての有効性を確認することができた。躊躇していた「プチ断食」を遂行してみようと決心できたのは大きな収穫である。

  • 2014.05.24読了。3時間程度。

    あらすじにもある通り、「オッス、オラジジイ!いっちょ死んでみっか!」というお話。

    冒頭の「はじめに」に描かれているのですが、第一章と第四章を読めば十分です。それ以外は、作者の自分語りや政治への文句など書きたいことを書いているだけなので、正直なくても大丈夫です。ただ、どれだけの志で挑んでいるか分かるので、情熱だけでも感じ取ると、ラストが非常に感慨深いです。これだけの志を持って挑んだのに、のど飴食べちゃうの!?とか、えっ、それで諦めるの!?とかなかなか突っ込みどころが多くて、楽しかったです。
    ただ、昔読んだ漫画で「人間はどんな状況下になっても3%は生きたい気持ちを捨てられない」というセリフがあり、それを実感させる内容でした。
    私自身、いろいろなことに挑戦しようとして、諦めることが多いのですが、実は心のどこかでやりたくないなと思っている心があるのかなと見つめ直すきっかけになりました。極限状態を体験したからこそ分かる人間の本音を少し感じました。

  • 中々ないテーマで興味深く読んだ
    薬飲まなきゃええやんと思ったのは内緒

  • 周りに迷惑をかけたくなくてひっそりと断食で自殺しようとする83歳の記録。これを読むと尊厳死とか安楽死とか死について考えるきっかけになる。人は死を意識するから、今を大切に生きるのかもしれないなと感じた。言い方は可笑しいかもしれないけど、何度失敗しても再挑戦するエネルギーはすごい。

  •  著者の小説は一切未読。題材に興味を惹かれて借りる。
     東日本大震災、民主党政権失政の時代を背景に、断食安楽死の失敗談が語られる。
     なお、82歳まで男性機能が保たれていたことに驚きを禁じ得ず。
     結局「人間は理性的に自殺することはできない」という知人の忠告を裏付ける結果に終る。
     日本中の児童の心胆を寒からしめたジャガーバックス「地獄大図鑑」の著者でもある。神仏を信じず、墓前でも手を合わせない無神論者というが、感慨深さを覚えてしまう。

  • 死について考えさせられるし、安楽死というか、自然に死ぬのって意外と難しいことがこの本の中身でよくわかる。こんな事を考えて実践したこと自体が興味深い

  • 1章だけはちゃんと挑戦してるけど、あとはザ・老人の小言語りだけでしたね。や、ほんとに餓死してたら引くけどさ。

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著者プロフィール

1927年、大阪生まれ。私立甲陽学園卒。浅草の劇団「新風俗」、「三木トリロー文芸部」などを経て、ルポライターとして活躍。1977年頃より風俗営業の女性を題材とした小説で一躍注目を浴び、その後『赤い霧の殺人行』で旅情ミステリーの分野に進出。近年は宮之原警部が活躍するシリーズが人気を得ている。2012年に逝去。(2013年7月18日現在)

「2013年 『京都呪い寺殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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