重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344982611

作品紹介・あらすじ

宇宙を支配する力の正体
アインシュタインの相対論から始まり、ブラックホールやビッグバン、ホーキングのパラドックス、さらには究極の統一理論とされる超弦理論まで、最先端の理論が直感でわかる、エキサイティングな宇宙論。

感想・レビュー・書評

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  • かつてニュートン力学が物体の運動を記述することに成功し、その後電磁気学が確立したことで、目に見える世界の物理現象はすべて説明しつくしたに見えた。ところが現実にはそうではなく、ニュートン力学と電磁気学の間には齟齬があったし、その後発見された黒体輻射やコンプトン効果など、目に見えないミクロの世界の現象はこれらの理論では完全には説明できなかった。そもそも、ニュートン力学では重力がどのようにはたらくかを説明できても、なぜ重力が生まれるかを説明することはできなかった。そこで、ミクロの現象を記述するための量子力学や素粒子論、そしてミクロの世界だけでなく宇宙そのものの謎と深く関係している重力理論が発展していくことになる。

    本書は重力に関係する理論に重点を置いて説明している。重力理論は発展中の理論ということもあり難解ではあるのだが、特殊相対性理論と一般相対性理論、そして超弦理論といった一つ取り上げるだけで教科書が何冊も書ける理論を読みやすく新書一冊にまとめている大栗先生の手腕に感心することしきりだった。また、科学の発展は人間ドラマがつきものなのだが、教科書的な記述ではどうしてもそれが見えてこないのに対し、多くの研究者のエピソードが入れられているので学問の世界も血の通った人間の行いであることが感じられると思う。あまりにも当たり前だけれど考えてみると不思議だらけの重力について、違った一面を感じられる一冊である。

  • 『宇宙になぜ我々が存在するのか』を読んで、わくわくする一方、途方に暮れた。はて、この分野に少しでも近付くには、次に何を読めばよいのか・・・?
    ネット上で、本書の試し読みが目に付いた。目次をさらっと見るに、GPS・重力七不思議・相対論・ブラックホール・シュレーディンガーの猫・超弦理論・多次元と、なかなか興味を惹く項目が並んでいる。ちょっと読んでみようか、と借りてみた。

    私たちが地上で日常生活を送れるのは、重力のおかげと言ってもよい。重力がなければ、すべては宇宙空間に飛んでいってしまう。
    しかし、重力には意外に謎が多いのだという。重力の七不思議といわれるものがある。


    1)重力は「力」である
    2)重力は「弱い」
    3)重力は離れていても働く
    4)重力はすべてのものに等しく働く
    5)重力は幻想である
    6)重力は「ちょうどいい」
    7)重力の理論は完成していない


    1)はニュートンのリンゴのエピソードがよく知られる。リンゴにも月にも、「万有引力」が働いている。2)は、磁石との比較を考えるとよい。クリップが磁石に吸い付けられる力(電磁力)は重力よりも遙かに強い。5)に関しては、エレベーターの上昇・下降がよい例になるだろう。重力には見方によっては姿を変える、不思議な性質がある。6)は、重力が今より大きかったら物質はすぐに重みでつぶれてしまったり膨張して拡散してしまったりしただろう、ということである。そうであればそもそも生命体など生まれようがない。
    こうしたことを含めて、7)の不思議がある。身近な力なのに、実はわかっていないことが多いのだ。

    物理の理論は「10億(10の9乗)」ステップで広がっているという。
    通常より1つ大きいステップ(10億メートル=月の軌道)に上がるまではニュートン理論で説明が付く。それより1ステップ上がると(銀河の大きさ)アインシュタイン理論が必要である。さらにもう1ステップ上がるとアインシュタインの理論も破綻してしまう(ちなみに小さい方にいくと、1ステップ下がって(10億分の1(ナノメートル))分子サイズであるナノ・サイエンス、さらに1ステップ下がると(<10億x10億>分の1)素粒子の世界となる。こちらでは量子力学が活躍するが、これより小さくなると量子力学理論もまたほころびが見えるようになる)。

    アインシュタイン理論では、重力は時空間の歪みである。平らな面に重みのある球を乗せると面には凹みができる。その凹みに落ちていくのをイメージするとよいようである。

    ところがアインシュタイン理論にも限界がある。相対論と量子力学を融合させる試みの中で生まれてきたホログラフィー原理によると、三次元空間のものは二次元に変換できるのだそうだ。この場合、重力はもちろん、空間そのものが「幻想」だということになるのだという。
    ただ、現実世界にいる際、重力理論は日常現象を理解するのに必要なものであるので、重力理論自体が無用になるわけではないようだ。

    いささかキツネにつままれるような話もあるが、「二次元世界に球が現れたらどう見えるか」、「円周率が3.14でない世界」、「超高速粒子は過去に戻りうる」、「粒子が過去に向かうことと反粒子が未来に向かうことは同じである」等、エキサイティングな話題がちりばめられている。

    数学と物理が切磋琢磨しながら、この分野はどこへ向かっていくのだろう?
    読み終わって、やっぱり、わくわくしつつ当惑もしている。わからないながらも、何だかわくわく感に惹かれて、またいずれこの近辺に立ち寄るような気もしている。すべてをわかることはないのだろうが、それもまた楽しい、のかもしれない。

  •  素粒子論の専門家による、重力理論の解説書。一切数式を使わずに(!)、最新の理論まで説明している野心的な作品である。高校生の時に一度読んだが、再読。
     ニュートン理論や相対論、量子力学の解説から始まるのはまぁそうとして、筆者の専門である超弦理論の解説は興味深い。極微の世界を観測しようとすると、加速器の分解能とブラックホールの大きさが同程度となってしまい、観測したい領域が事象の地平線に覆い隠されてしまう。そこで、相対論と量子力学の融合が要求される訳だが、そのような理論として有力視されているのが超弦理論である。筆者たちが開発した計算手法に「トポロジカルな弦理論」というものがあり、これを用いることでブラックホールの情報問題が(部分的に)解決できたそうである。また、超弦理論に関連して「ホログラフィー原理」という理論があるが、そこでは重力が「消えて」しまう!
     無味乾燥になりがちな科学の知識を、究極の理論を求めて奮闘してきた科学者のエピソードや、筆者の巧みな比喩を交えて説明した、まさに「重力をめぐる冒険の物語」である。

    1 重力の七不思議
    2 伸び縮みする時間と空間—特殊相対論の世界
    3 重力はなぜ生じるのか—一般相対論の世界
    4 ブラックホールと宇宙の始まり—アインシュタイン理論の限界
    5 猫は生きているのか死んでいるのか—量子力学の世界
    6 宇宙玉ねぎの芯に迫る—超弦理論の登場
    7 ブラックホールに投げ込まれた本の運命—重力のホログラフィー原理
    8 この世界の最も奥深い真実—超弦理論の可能性

  • アインシュタインのE=mc^2から始まる重力の謎について。頭から煙を吐き出しながら読みました。ただ説明は分かりやすかったと思います。

    特殊相対論や一般相対性理論のお話や、物質を構成する原子、陽子と言ったミクロな話から宇宙の誕生、ブラックホールのマクロなお話まで楽しく読めた気がします。
    重力はファタジーやゲームの中に出てくる世界の話だと思いましたが、正体を知ることができて良かったです。

    今度は丁寧に読んでみようかなと思いましたが、理解できないだろうなと思いました。それでも、もう一度読んでみたいと思える一冊。

  • 重力。この分野の、内なる雄大さを、難しい数式などわからなくても感じることができる本でした。いい意味でざっくりとしていて、文系の僕(雑誌『ニュートン』でいくらか鍛えてはありますが)でも読めるし、くわえてこの分野のエキサイティングな空気というか、帯びている熱みたいなものまで伝染してくるような感じでおもしろかったです。万有引力を発見した科学者ニュートンのニュートン力学からはじまって、マクスウェルの電磁気学、相対論などのアインシュタイン理論、量子力学、そして現代最先端の超弦理論(超ひも理論)へと話は進んでいきます。そこに貫かれているのは、この宇宙の摂理を知りたい、解き明かしたいという、科学を考える力に秀でた人々の好奇心と探究心による精一杯の努力の道。人間が知恵や知識などの力を得ていって、それをどうするか。その力は薬にも毒にもなりますが、物理学の歴史の道は、それらを薬として使おうと信じて進んだ道のようにも見えます。まあ、功名心とか虚栄心とかが原動力になったりもするんですけどね。そして、またそうやって新たな知恵と知識が作られ、それらを眼前にした科学者、いや、私たちはそれらをさらに薬として扱えるか。力を手にしたら、自分だけのために使うか、みんなのために使うか。僕はみんなのために使う性格の強い道を選んでいると思って日々歩いています。他者にもそうすすめたいくらい。粋だろう、なんて思っちゃいもしてですが、本書に出てくる物理学の道を切り開いてきた頭のいい人たちは、粋なところがあるよなあ、と一面的にしかしらないですけど、感じました。空間の歪ませる力があり、そうやって歪んだ空間の作用が重力と呼ばれる、みたいな説明があるのですが、はじめて触れた発想で、とってもおもしろかったですね。いろんなアイデア、発想が進めてきた分野ですから、小気味よく「すごいな!」と思える。なかには、「ぼくは一生を科学に捧げて、ほんのすこしの成果しかあげられなかった」なんていう学者もいたでしょう。「ひとり身でした」だったり、「家族サービスなんてほとんどできませんでした」だったりするかもしれない。研究以外の人生の部分では及第点なんて逆立ちしてももらえないような人生があったとして。でも、そういう人生が、しょうもなさを抱えていながらも、なにか美しい。そうやって終えた人生、忘れ去られていく人生に、温かみすら感じる。きっと、何かに向かっていったからなんじゃないか、とこの本には描かれていなかった部分に、そんな文系人間的感想を持つのでした。

  • 本のタイトルこそ「重力とは何か」となっていますが、そこにいたるまでに必要な電磁気学、量子力学、相対性理論も語られれ、最終的には超弦理論にまで行き着きます。

    本書の内容自体レベルが非常に高いですが、物理をやっていない人でもわかるような例えを使って非常にわかりやすく説明していると思います。このレベルの内容をここまで一般人にわかりやすく書いている本を私は知りません。

    特殊相対性理論から一般相対性理論まで、アインシュタインがどのようにしてこの理論を構築したかがコンパクトにまとまっていて、相対論に興味がある人にもおすすめ。アインシュタインとヒルベルトが相対性理論の式の発表で競っていたというのは知りませんでした。

    最新のホログラフィック原理についても書かれていますが、分量は少ないので、気になる方はレオナルド・サスキンドの『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』を読むと理解が深まります(ただし、こちらは少し難しい)。

    本書を読んで、現代の物理学ではわかっていないことだらけで、まだまだ人類が挑戦する余地は十分にあると感じました。日本の中学生や高校生がこの本を読んで、答えを出してくれることを期待したいです。

    大栗先生の他の著書も読んでみようと思います。

  • この本は重力にフォーカスして現代の素粒子・宇宙物理学の分野ではどのような研究がされているかということについて書かれた本です。

    最初に重力の導入から相対性理論、ブラックホール、量子力学ときて最後に超弦理論へと話題が展開していきます。

    超弦理論に関する一般書はいくつか読んでいましたが、欠損角の概念やファインマンダイアグラムの見方、閉じた弦は事象の地平線で開いた弦になるという考え方が知ることができて満足です。

    図も多く掲載されており、物理になじみがない方でも比較的読みやすいのではないかと感じた一冊です。

    相対性理論やブラックホール、超弦理論に興味がある方にはオススメだと思います。

  • 「重力とは何か」で始まった問いが、時間や光と重力の関係につながる。さらに相対論を通して広い宇宙の話になったかと思うと、超ミクロな世界を解き明かす量子論の話になり、その超ミクロな量子論が超弦理論となって再び宇宙の謎の解明へとつながる。まさか素粒子の世界の研究が、宇宙とこの世界自体の研究につながっているなんて。なんてドラマチックでエキサイティングなのか。
    七章~最終八章の辺りでは、大栗先生のパッションがほとばしっているよう。 もう少し量子論が理解できたら、もっと楽しめそう、悔しい。

  • ・重力の性質を考えると、重いものと軽いものが同時に落ちるのはやはり不思議です。重力は質量が大きいほど強く働きます。したがって、重い物体ほど「地球に引っ張られる力」が強い。もし同じ高さから同時にリンゴとスイカを落とせば、より質量の大きいスイカのほうが地球に強く引っ張られるので、先に着地するように思えます。
    ところが実際には、そうはなりません。空気抵抗がない場所では、質量に関係なく、物体は同じ速さで落下します。これは何故でしょうか。
    そこで私たちが忘れがちなのは、ものは重いほど「動かしにくい」ということです。
    …学校の授業では、動かしにくさを表す質量と、重力の強さを表す重さを区別して教えます。実際、この二つはお互いに何の関係もないように思えます。どちらかが大きくて、リンゴかスイカのどちらが先に落ちてもおかしくはないのです。ところが現実には、なぜかぴったりとキャンセルされるので、同時に落ちる。これについては精密な実験が行われており、現在では10兆分の1の精度で「質量」と「重さ」が一致することが分かっています。では、どうして「動かしにくさ」と「重力の強さ」という二つの効果がぴったりキャンセルされるのか。これについては、ニュートン理論でも説明されていません。このWHYへの答えを出したのが、アルベルト・アインシュタインでした。

    ・病を得てからは短命かもしれないと知り、生きることには価値があって、自分には成し遂げたい事がたくさんあることを悟った。―スティーブン・ホーキング

    ・LHC<欧州合同原子核研究 機関(CERN)の世界最大級加速器(Large Hadron Collider)>の1京倍のエネルギーを実現する加速器を考えてみる。LHCと同じ技術を使うとすると、その加速器は銀河の厚みと同程度の半径です。そのエネルギーで加速した粒子の波長は、<1億×10億×10億×10億>分の1メートル。10ナノ・ナノ・ナノ・ナノメートルになります。そして、この波長の粒子が衝突した際に生まれるブラックホールのシュワルツシルト半径は、<1億×10億×10億×10億>分の1メートル。加速器の分解能とブラックホールの大きさが同程度になるので、「技術的に不可能」なのではなく、「原理的に不可能」。物理学では、原理的にすら観測できないものは「ない」のと同じであると考えます。

  • 正直言って、後半はよくわかりませんでしたが、それでも、ワクワク感は最後まで持続しました。

    わからないことが心地いいと思える本には、なかなか出合えないですが、この本は、数少ない、わからないことが心地いいと思える本でした。

    重力について理解するだけでなく、もう少し入門的な、相対論や万有引力に対する理解を深めるためにも有効な本だと思います。

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著者プロフィール

カリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授/ウォルター・バーク理論物理学研究所所長
東京大学カブリIPMU主任研究員
米国アスペン物理学センター所長

「2018年 『素粒子論のランドスケープ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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