靖国神社 (幻冬舎新書 し 5-7)

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 141
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344983519

作品紹介・あらすじ

戦後、解体された軍部の手を離れ、国家の管理から民間の一宗教法人としての道を歩んだ靖国神社。国内でさまざまな議論を沸騰させ、また国家間の対立まで生む、このかなり特殊な、心ざわつかせる神社は、そもそも日本人にとってどんな存在なのか。また議論の中心となる、いわゆるA級戦犯ほか祭神を「合祀する」とはどういうことか。さらに天皇はなぜ参拝できなくなったのか-。さまざまに変遷した一四五年の歴史をたどった上で靖国問題を整理し、そのこれからを見据えた画期的な書。

感想・レビュー・書評

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  • 戦時中に母の兄(当時10歳死去)が乗って追撃された疎開船対馬丸学童が靖国神社に合祀されているということを知って靖国神社について学びたいと思っていた。靖国神社の書物は賛成か反対かどちらの立場で特に批判的なものが多いが、中立的な立場で書かれたものというレビューがあったのでお取り寄せ。

    7月15日のみたままつりは10代の若い世代の女性が多数で人気の行事らしい。彼らはそこがどういう場所か認識は不明だが今の日本の平和を象徴しているのではと。
    靖国神社の問題は、歴史や国家間の対立、信仰やイデオロギーの違いといったことで複雑であるが、この本では議論の前提を整理することが目的とのこと(「はじめに」より)。
    人を神に祀る風習という柳田國男の論文参照にて、死後に祟ったものだけが神として祀られてきた、その例として北野天満宮に天神として祀られている菅原道真の場合を挙げている。
    靖国神社の祀られた目的は国家に殉じたことを顕彰するためであるが、祭神の合祀というやり方は特殊で、二柱以上の神を一つの神社に合わせて祀っている。
    それまで神として祀られてなかった戦没者の霊を招きそれを新たに祀る方法であり、靖国神社と護国神社のみにみられる合祀のやり方とのこと。
    靖国神社は東京招魂社と呼ばれていた時代は内戦における官軍の戦死者だけだったが、靖国神社と改称されてからは維新殉難者が合祀されて対象者拡大(変容第一段階)
    日清日露という対外戦争のあと官軍と賊軍の区別がなくなり日本全体が対象となる この時期から「死んだら靖国で会おう」ということが若者たちのあいだで合い言葉 ハレの場としての機能(変容第二段階)
    戦後戦没者慰霊だけでなく国や天皇のために立派に戦死を遂げ英霊として祀られるという目的実現のための軍国主義の施設へ(変容第三段階)
    民間の宗教法人になったにも関わらず合祀の作業は国と協力して行っていたため戦前の体制がそのまま受け継がれている。元軍人主体の厚生省引揚援護局との密接不可分の関係
    準軍属として、徴用工、動員学徒、女性挺身隊員、満州開拓青年義勇隊員、対馬丸学童も政府の疎開命令のため含まれた
    A級戦犯の合祀は軍人を嫌っていたらしいという筑波藤麿宮司が長らく保留にしていたが、元海軍少佐で松平永芳宮司へ交代となって昭和53年秋秘密裏に合祀となり、天皇陛下が行かれなくなるということもわかっていての対応
    日本遺族会の政治的圧力で国家護持
    昭和54年4月19日新聞のスクープでA級戦犯が靖国神社に合祀されたと明るみになった
    首相の公式参拝は政教分離の原則に違反するかどうかの裁判が各地で行われている
    境内にありながら存在封印された鎮霊社については、筑波宮司の「日本の英霊だけでなく世界の英霊も祀ることで世界平和の実現を」という強い意向で一部反対がありながらも昭和40年7月建立
    昭和49年北海道神宮放火事件や昭和52神社本庁爆破事件など過激派などの攻撃の危険性のために閉鎖
    A級戦犯の分祀の意見があるが、分祀する施設が決まらないという難問
    自衛隊が勤務及び訓練中に亡くなった場合、殉職者慰霊碑は防衛相市ヶ谷駐屯地にある(1800人以上) 自衛隊費用負担ではなく寄付によって賄われているとのこと
    今後自衛官が戦死を遂げた時、靖国神社に祀るというべきではという議論が今後出てくる可能性あり、その時点で靖国問題の性質が変化
    2014年7月1日集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われた日にと締めくくっている

  • 本書は靖国神社の成り立ちや変容、それを巡る論争を中立的な立場から事実に基づいて検討している本である。著者の主張は「おわりに」に少しある程度で、基本的にはない。
    著者が指摘している通り、靖国神社について知ってはいても、それのどこが問題なのかを理解している人は少ない。とりわけ若者にかんしてはその傾向が顕著であろう。この本は先述の通り、筆者の主張が少なく、他の靖国本よりも比較的中立的な立場から論じられているため、靖国問題を理解する上では最適な1冊である。
    本文にその都度記載されてはいるものの、最後に整理された参考文献リストが欲しかったのが正直なところ。

  • 社会

  • 比較的客観的な立場で書かれている。
    過去の経緯を知ることが靖国問題の解決には必要という考えは納得できる。
    靖国問題に関心のある人は読むと良い。

  • 「靖国関係の書物は、賛成か反対かどちらかの立場に立つもので、多くは批判書である。中立的な立場から書かれたものは少ないのである。」
    「問題をわかりやすい形で整理し、議論の前提となる事柄を共有できるようにすることが、この本の目的」
    との姿勢は、とかく善悪二元論に陥りがちなイシューのひとつである靖国問題を考える上で、賛同できる。
    そのために、靖国の設立当初からの重要な事実を拾い上げていることは評価できるし、確かに知っておいたほうがよい事実であると感じる。
    しかし、どんなに中立であろうとしてもどうしても著者の意見が意識的・無意識的に入ってしまうのもまた事実であり、本書で取り上げられた歴史的事実も、その事柄自体が本当に事実なのか、という論点を脇においておくとしても、新書にまとめる上で事実を選別、選択、編集するところで、どうしても著者の価値観が入り込んでしまうのではないか。
    したがって、読者としては、本書を踏まえながらも、鵜呑みにせず、さらに調べ、考え続ける姿勢が求められるのであり、それが著者の真に意図するところでもあろう。

  • 東京招魂社 戊辰戦争

  • 靖国神社の歴史は知ってるようで全然知らない。勉強になった。あとがきの予想も良かった。

  • 靖国の本はこれまでたくさん出ているから、靖国のもと東京招魂社の創建が戊辰戦争での政府軍戦没者の慰霊からはじまっているとか、その後、国家としての団結のため、反政府方の人間も徐々に祭るようになったとか(しかし、佐賀の乱の江藤新平は祭られず佐賀の護国神社に祭られているそうだ)は知っている。にも関わらず本書を手に取ったのは、今度の集団的自衛権で自衛官が戦死したときどうするのかという帯のことばに動かされたからである。これまで自衛官が殉職したときは市ヶ谷駐屯地の慰霊塔に祭られることになっているらしい。しかし、今後はどうか。島田さんは、靖国問題は平和な時代だからこそ起こる問題で、一旦戦時になれば靖国問題は消えてしまうという書き方をしている。ぼくはそのときこそ、別の意味で靖国問題が出てくると思う。戦死した自衛官たちが祭られるのは靖国なのか。ぼくは問題はそう単純ではないと思う。なんにせよ集団自衛権を認めれば、戦死者がでるのはもちろん、その人たちをどう祭るのかという問題にまで及ぶことはたしかだ。どちらにしても、靖国の合祀行為はかれらの独断で、合祀されるものの許可を一一得るわけではない。なんと傲慢なことか。本書では靖国の戦後史を二つに分ける二人の宮司の信条、行動が詳しく描かれている。A級戦犯合祀はもともと元軍人からなる厚生省援護局の強い働きかけがあったが、最初は靖国の方で動かなかった。それは長く宮司をつとめた筑波の考えでもあった。ところが、それを実現させたのは、宮司がそれまでの筑波から松平に交替したあとである。松平は確信犯で、A級戦犯を合祀すれば天皇は参拝できなくなることを知りながらやったという。松平すなわち現在の靖国神社の考えは要するに今度の戦争はあくまで自衛の戦いであり、東京裁判史観、サンフランシスコ体制否定が根底にある。だから、人間宣言した天皇には用はないと思ったのだろう。安部さんは口では言わないが、実際には東京裁判史観、サンフランシスコ体制をにがにがしく思っている。だからこそ靖国に参拝できたのだ。戦後長く宮司をやった筑波は世界平和運動にも関心をもった人で、神社の中に鎮霊社なるものをつくり、敵味方を分けず、すべての人を祭るようにしたという。そこは今回安部さんが、参拝があくまで平和希求のためであるという口実のために訪れた場所であるが、筑波が亡くなった後松平のために、一般の人は入れなくなってしまった。同じ靖国神社の宮司でありながら、筑波と松平の考えが天と地ほどもあることがわかる。

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著者プロフィール

島田裕巳(しまだ・ひろみ):1953年東京生まれ。宗教学者、作家。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任し、現在は東京女子大学非常勤講師。現代における日本、世界の宗教現象を幅広くテーマとし、盛んに著述活動を行っている。 著書に、『日本人の神道』『神も仏も大好きな日本人』『京都がなぜいちばんなのか』(ちくま新書)『戦後日本の宗教史――天皇制・祖先崇拝・新宗教』(筑摩選書)『神社崩壊』(新潮新書)『宗教にはなぜ金が集まるのか』(祥伝社新書)『教養としての世界宗教史』(宝島社)『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)等多数あり。

「2023年 『大還暦 人生に年齢の「壁」はない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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