モネのあしあと 私の印象派鑑賞術 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344984448

感想・レビュー・書評

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  • 大学を卒業し、新卒で入った会社の同期がモネのファンで、この同期の影響でそれまで日本画にしか関心がなかったのに、それ以降、海外の絵画の特別展や常設展示をみるために美術館に足繁く通うことになった。
    特別展示の時は目録ばかり買って帰るので、分厚い目録が締めるスペースが広がりつつある。モネの本もいくつかあり、知識は少しはあるはずだ。

    モネ(1840〜1926)の生きた時代は、都市インフラが整備され、ヨーロッパの中心都市としてなりつつある時代。1855年から10年毎に50年間パリ万博が開催されており、モネはその壁画も制作している。

    原田マハ先生の作品の中で何度も「当時のフランスはフランス芸術アカデミーが主催する官展に入選し、アカデミーに所属しなければ画家とは認められなかった。」という説明があるが、モネの場合は入選もしているため、その実力があるにもかかわらず、自分の求める絵を描き続ける。

    私のモネ好きの同期が、アカデミーについて御託を並べるが、私自身はアカデミーの絵画に対して、それほど悪い印象はなかった。日本の絵画が好きだったので、逆に「なぜこんなべとべととした油を混ぜた絵具で、滑らかな肌や血色がいい頬の感じが出るんだろう?」、「綺麗だなぁ、神秘的だなぁ」くらいに思っていた。それまで、写真のようであり、非現実的な構成に自分のテリトリーにはなかった憧れのような感覚さえあった。
    なのに印象派の知識が入ってくると、写真のような絵画、非現実的な絵画、古典的な定型の技法にとらわれている絵画、刷新的でない等、否定的な単語が目につくようになる。

    ここに2つのキーワードがある。
    「写真のような絵画」、「古典的技法(構成)の絵画」である。本作にもその記載があったのだが、写真が誕生することで、写真のような絵画を書く必要なくなる。また、当時の画家たちは、自分たちの絵を求めて模索し始め、新しい技法の古典的なフレームにとらわれない構成で絵画を描き始める。これによりモネやゴッホのような新しいアートが芽生えるのである。

    私がアカデミーの絵が自分のテリトリーにない絵画であったので、新鮮に感じるのと同じように、当時の西洋の画家たちは、それまで見たことがなかった浮世絵の斬新さを新鮮に感じたのであろう。画家であれば真似たくもなだろう。その気持ちもわかる。
    歌川広重の「大はしあたけの夕立」をゴッホの描いたり、ホイッスラーが「陶器の国の姫」を描いてりしているが、それは日本の絵画とはまた違う新しいジャポニズムアートのようで、新鮮である。

    日本人が「余白の美」、「アンシンメトリー」、「抽象化」が日本人特有の感性であるとは知らなかった。
    確かに個人的に余白が大好きだ。敢えて、画面の隅っこだけに被写体を置き、写真を撮ったりする。余白がある方がすっきりとしているように感じる。

    また、日本人の抽象化する感性で、「源氏物語絵巻」などで登場人物の表情が、お多福、細目、おちょぼ口な顔は、デフォルメしキャラクター化している=抽象化しているという見解の箇所があり、そういえば、いくらなんでもこんな顔の人間なんているはずがないのだが、今まで、日本人の古典的な美人顔だとすんなり受け入れていたため、デフォルメされているなんてことは考えたこともなかった。
    が、日本人が漫画が得意なのはひょっとして、器用さとこの感性によるものではないか?と、思った。

    そう言えば、本作にアンリ・ルソーのエピソードがあり、思わず笑ってしまった。ブーグローの「ヴィーナスの誕生」をみて、「幸福な四重奏」を書くのだが……ルソーは、神話の女性を描いているのに、書いたその絵はとても個性的で、面白い。「楽園のカンヴァス」の表紙『夢』もしかりである。ルソーの絵を個性的だと感じる感性が現代人であるというのも不思議なことだ。ルソー自身はクラシカルな絵を描きたいと思っているのに、モダニズムな絵を描く。しかし時代の変化はルソーの絵画を下手という評価ではなく、モダンな絵画として評価する。ルソーの運の良さを感じてしまう。


    モネのことをより理解できたのと同時に、他にたくさん気づかせてくれる作品であった。

  • モネの絵が好きです。
    モネという画家も好きです。
    モネの絵を描いている画家がいるという当たり前のことに気づかせてくれたのは間違いなく原田マハさんのジヴェルニーの食卓のおかげでした。
    この本は薄くてさらっと読めます。
    モネを取り巻く時代背景、家族などをわかりやすく知ることができます。
    博識の原田マハさんの知性により、私のような素人に向けてわかりやすく要約していただいたような本です。
    図書館で借りずに読み切りました。モネファンにとって読んで良かった本です。懐の大きいモネ、人間の出来たカミーユもアリス。ますます好きになります。

  • 上野の森美術館のモネ 連作の情景 展に行くためにモネについて予習?復習?するつもりで読みました。
    原田マハさんのアート小説でクロード・モネに出会っているので、全ページとても勉強になりました。絵画そのものの解説のために、画家の人生について、画家が生きた時代背景について理解する楽しみを教えてもらいました。パリのオスマン都市計画などとても興味深かったです。

    特に、《氷塊(セーヌ川の解氷)》1880,オルセー美術館所蔵 についての作者の見解はとても心に残りました。

  • 原田マハさんが書いた小説と、「あしあと」シリーズを何冊か携えて、(通常宿以外ノープランで旅しがちな私だが、マハさんのような)こだわりにあふれた周遊ができるように綿密な計画を立てて、ヨーロッパ旅行に行きたい。
    2.3年以内には実現させたい〜!

  • 印象派、とりわけクロード・モネは日本で展覧会が開かれるたびに大盛況になる画家だ。
    そのためか、著者の『ジヴェルニーの食卓』もまた人気だったようだ。
    本書は著者の展覧会での講演をまとめたもので、実際に絵を見ながらであれば、モネの作品がより身近に、より美しく見えたことだろう。

    掲載された中でカラーは口絵の二点のみ。
    それが本書の唯一残念な点だ。
    特にマネの<オランピア>では脇に書かれていた黒人女性が白黒印刷のために背景に紛れ、潰れてしまっている。
    印刷上の問題はある程度許容しなければならない点ではあるが、これはもう少し工夫して欲しかった。
    しかしたくさんの絵が収められているので、その点においては楽しかった。

    モネのあしあと案内はこれからアート巡りをする人にとってはとても役に立つはずだ。
    フランスのオランジュリー博物館なんて難易度が高すぎるよ!だって?
    いやいや、都内でも、十分楽しめる。
    世界遺産にもなった国立西洋博物館、ブリヂストン美術館、サントリー美術館など、思ったより近くにモネはいる。
    著者も言うように先人たちの先見の明には恐れ入る。
    一方で影響を与えた浮世絵が多数流出してしまったことは本当に残念なことだ。

    印象派。
    遠い国の、異なる文化がともに認め合い、惹かれ合う美しさ。
    そこに宿る「何か」は、私たちの心をこれまでも、これからもふるわせ続けている。

  • ずっと読みたかった一冊。
    マハさんのモネへの想いが伝わってくる、「マハさん流モネ解説本」である。

    モネの生い立ちやその作品の言及に留まらず、フランスの当時の歴史背景や芸術の変遷なども、丁寧に書かれた一冊。

    モネの周りの画家や、影響を受けた人々などの作品も文中で掲載されていて、薄さの割には盛り沢山の内容となっている。

    以下、読書メモ。

    ・モネの筆跡を残すブラッシュワークは日本美術からの影響も大きかった。

    ・モネはロダンを心から敬愛しており、ロダンとモネの二人展も実現された(これは知らなかった!どんな感じだったんだろう。見たかった!)

    ・19世紀後半の絵画をめぐる三つの変化。
    ①新興ブルジョワジーの誕生により、貴族の館でなく、アパートの一室に飾る絵が求められて、絵のサイズが小型化した。
    ②携帯に便利なチューブ入りの絵の具が登場し、戸外での創作活動が増えた。
    ③画題の変化。都市整備と産業技術の発展により、アーティストたちは日々の暮らしにある新しい風景に目を奪われ、それらをテーマとして描くことが大きく広がった。

    ・モネの最初のコレクターであるオシュデ。しかし破産して失踪してしまう。オシュデの家族を受け入れ、貧しくても彼らを長いこと養ったモネ。
    マハさんは、そんなモネを、真面目で包容力のある人物と評し、それを、モネを父親みたいに感じる所以、と述べている。

    ・現在、観光もできるモネのジヴェルニーの庭と邸宅。
    邸宅には歌川広重や、浮世絵があちこちにかかっている。モネの寝室にはカイユボットの描いたモネの肖像画もある。

    ・「ジヴェルニーの食卓」にも記載のあるメインダイニングルームは、世界中の黄色を全て集めたような光に満ちている。

    ・オランジュリー美術館の睡蓮の展示方法については、生前モネから直接要望があった。
    「大睡蓮画は自分が死ぬまで公開しないこと。」
    「楕円形の展示室にすること。」
    「四方から囲むように絵を組み込むこと。」
    「自然光を入れること。」
    「作品と鑑賞者のあいだに仕切りやガラスを設置しないこと。」
    また、モネは
    「睡蓮の主題で一つの部屋を装飾したいという誘惑にとらわれました。壁に沿って、同じ主題で包むようにするのです。そうすれば、終わりのない全体、水平線も岸辺もない、水の広がりの幻影が生まれることでしょう」
    と述べたという。

    モネはイマジネーションも豊かで、作品を、描くだけで完了ではなく、鑑賞者への配慮にもこだわった人だと感じた!

    ・政治家でありモネの友人でもあったクレマンソー。マハさんは文中で彼のことが大好きだと述べている。モネを励まし続け、30年も交流を続けた人物。
    そして早い段階からアーティストを応援しようと論陣を張った人でもある。私の中でも、熱い人物像が浮かび上がってきた。私もモネを知っていく上でも、かなり重要な人物として、頭の中にインプットしました!

    ・マハさんがパリで見つけた「モネの食卓」。モネの料理のレシピ集。日本語訳版もあるようで、もう最高!というほど素敵な本らしいので、私も見つけたら読んでみたいと思った。

    ・マハさんのモネの足跡案内として、フランス編、国内編、と旅の楽しみ方、歩き方が紹介されていて、これは是非、いつかパリに行く時に向けてメモっておこうと思った。

    フランス編では、
    朝一番にオランジュリー美術館(午前中が最も自然光が入り睡蓮の絵が綺麗に見える)→オルセー美術館まで歩き、途中でチュイルリー公園の芝生やベンチでサンドイッチ。
    あるいは、マルモッタンモネ美術館に行く場合は、オルセー美術館に1日をかけ、翌日にオランジュリー→マルモッタン。
    3日目は鉄道かバスでジヴェルニーの庭と邸宅へ。そこから歩いて10分ほどでモネ家のお墓へ。ランチは蕎麦粉のガレット。
    翌日、セーヌ川を北上してノルマンディー地方まで。ルーアン美術館へ。大聖堂の絵を鑑賞。

    国内編では、モネの作品が見られる美術館をあますところなく紹介している。これはお得。

    マハさんは10代の頃はルソー、ピカソなどに魅力を感じていた。
    モネやゴッホ、印象派に惹かれるようになったのはもっと後だったようだが、文中からは、モネ始め印象派画家に対する敬愛が強く感じられた。

    「モネの絵には喜びが宿っている。モネの作品を見て、不幸せな気分になる人は1人もいない」
    それは、「最期まで創作への喜びをカンバスに焼きつけた」から。
    というマハさんの推論に強く共感した。

  • 光や風が感じられるような瑞々しいモネの作品に心惹かれる理由が分かったような気がした。
    美術作品は自分が感じるままに鑑賞しがちだったが、時代背景や作者のプロフィールを知った上で鑑賞するとまた見方が異なり美術館を訪れる楽しみが増えそうだと思った。
    ジヴェルニーにはいつの日か必ず訪れたい。

  • モネの『睡蓮』がいろんな美術館にある理由がわかった。
    ひとつの題材を、いろんな時間、天候、季節で切り取って描いていたんだなぁ〜。
    全部、同時に観てみたいものだ。

    日本人が元々持っている「万物に神が宿る」というような考えが、風景画をより楽しめるようになっている。
    それに加えて印象派の絵画には、日本美術の技法が取り入れられていることもあり、日本人は、他の国の人よりも、そして作者よりも、作品の価値を理解しているのかもしれない!

    この時代の絵画をモチーフにしたグッズをかわいいなぁと思う気持ちの根源にはこういうことがあったのか。

    オランジュリー美術館の睡蓮の展示をいつか観に行ってみたい。

  • 印象派が、なぜイマイチ好きになれないのか、でもなぜ気になってしまうのかが書かれていて納得。自分の持っている相反する感情を受け入れられると思った。
    同時進行で読んでいた「ジヴェルニーの食卓」の主人公は自分を投影させていると書いてあって、自由に画家達と出会えることを嫉妬!でも、それは読者も投影してもらえてるんだとすぐに気づいて、またズブズブとモネの世界に身を沈めたのでした。
    初心者でも、その世界にサラッと連れて行ってくれる。

  • 25年前を思い出しました。

著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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