モネのあしあと 私の印象派鑑賞術 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344984448

作品紹介・あらすじ

印象派といえばルノワール、ゴッホ、セザンヌ。常に破格の高値で取引されるようになった彼らも、かつてはフランスアカデミーの反逆児だった。その嚆矢ともいうべき画家が、クロード・モネ(一八四〇〜一九二六)である。"印象‐日の出"(一八七三年作)が「印象のままに描いた落書き」と酷評されたのが「印象派」のはじまりだ。風景の一部を切り取る構図、筆跡を残す絵筆の使い方、モチーフの極端な抽象化、見る者を絵に没入させる魔術をモネはいかにして手に入れたのか?アート小説の旗手がモネのミステリアスな人生と印象派の潮流を徹底解説。

感想・レビュー・書評

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  • 大学を卒業し、新卒で入った会社の同期がモネのファンで、この同期の影響でそれまで日本画にしか関心がなかったのに、それ以降、海外の絵画の特別展や常設展示をみるために美術館に足繁く通うことになった。
    特別展示の時は目録ばかり買って帰るので、分厚い目録が締めるスペースが広がりつつある。モネの本もいくつかあり、知識は少しはあるはずだ。

    モネ(1840〜1926)の生きた時代は、都市インフラが整備され、ヨーロッパの中心都市としてなりつつある時代。1855年から10年毎に50年間パリ万博が開催されており、モネはその壁画も制作している。

    原田マハ先生の作品の中で何度も「当時のフランスはフランス芸術アカデミーが主催する官展に入選し、アカデミーに所属しなければ画家とは認められなかった。」という説明があるが、モネの場合は入選もしているため、その実力があるにもかかわらず、自分の求める絵を描き続ける。

    私のモネ好きの同期が、アカデミーについて御託を並べるが、私自身はアカデミーの絵画に対して、それほど悪い印象はなかった。日本の絵画が好きだったので、逆に「なぜこんなべとべととした油を混ぜた絵具で、滑らかな肌や血色がいい頬の感じが出るんだろう?」、「綺麗だなぁ、神秘的だなぁ」くらいに思っていた。それまで、写真のようであり、非現実的な構成に自分のテリトリーにはなかった憧れのような感覚さえあった。
    なのに印象派の知識が入ってくると、写真のような絵画、非現実的な絵画、古典的な定型の技法にとらわれている絵画、刷新的でない等、否定的な単語が目につくようになる。

    ここに2つのキーワードがある。
    「写真のような絵画」、「古典的技法(構成)の絵画」である。本作にもその記載があったのだが、写真が誕生することで、写真のような絵画を書く必要なくなる。また、当時の画家たちは、自分たちの絵を求めて模索し始め、新しい技法の古典的なフレームにとらわれない構成で絵画を描き始める。これによりモネやゴッホのような新しいアートが芽生えるのである。

    私がアカデミーの絵が自分のテリトリーにない絵画であったので、新鮮に感じるのと同じように、当時の西洋の画家たちは、それまで見たことがなかった浮世絵の斬新さを新鮮に感じたのであろう。画家であれば真似たくもなだろう。その気持ちもわかる。
    歌川広重の「大はしあたけの夕立」をゴッホの描いたり、ホイッスラーが「陶器の国の姫」を描いてりしているが、それは日本の絵画とはまた違う新しいジャポニズムアートのようで、新鮮である。

    日本人が「余白の美」、「アンシンメトリー」、「抽象化」が日本人特有の感性であるとは知らなかった。
    確かに個人的に余白が大好きだ。敢えて、画面の隅っこだけに被写体を置き、写真を撮ったりする。余白がある方がすっきりとしているように感じる。

    また、日本人の抽象化する感性で、「源氏物語絵巻」などで登場人物の表情が、お多福、細目、おちょぼ口な顔は、デフォルメしキャラクター化している=抽象化しているという見解の箇所があり、そういえば、いくらなんでもこんな顔の人間なんているはずがないのだが、今まで、日本人の古典的な美人顔だとすんなり受け入れていたため、デフォルメされているなんてことは考えたこともなかった。
    が、日本人が漫画が得意なのはひょっとして、器用さとこの感性によるものではないか?と、思った。

    そう言えば、本作にアンリ・ルソーのエピソードがあり、思わず笑ってしまった。ブーグローの「ヴィーナスの誕生」をみて、「幸福な四重奏」を書くのだが……ルソーは、神話の女性を描いているのに、書いたその絵はとても個性的で、面白い。「楽園のカンヴァス」の表紙『夢』もしかりである。ルソーの絵を個性的だと感じる感性が現代人であるというのも不思議なことだ。ルソー自身はクラシカルな絵を描きたいと思っているのに、モダニズムな絵を描く。しかし時代の変化はルソーの絵画を下手という評価ではなく、モダンな絵画として評価する。ルソーの運の良さを感じてしまう。


    モネのことをより理解できたのと同時に、他にたくさん気づかせてくれる作品であった。

  • 第一章で印象派の画家たちが活躍した時のパリの時代背景が分かりやすく説明してあって嬉しかったです。
    今のパリの街を作ったジョルジュ・オスマンの事を初めて知り、今の形になった経緯はなるほどと思いました。その当時のパリは入り組んだ路地がいっぱいあって、市民が立て籠ったり、バリケードを作りやすかったので、それが出来ないように大改造をしたそうです。これはドラマ「レ・ミゼラブル」を観てたので納得でした。
    凱旋門はナポレオンが、アウステルリッツの戦いで勝利した記念で凱旋門を下を通りたくて作らせたけど、実際にくぐったのは棺に入った時だった。戦いに勝って最初に凱旋門の下を通ったのはヒトラーだった。こういう話が好きです。

    印象派の画家たちに影響を与えた日本の浮世絵。日本では当たり前の事が、文化が違うと同じものでも全く違って見えるというのは面白かったです。

    読んでて、モネはおおらかな人だったのかなと思いました。他の画家たちはどこか暗いイメージがあるんだけど、モネはそういう感じがしない。これは私のイメージなんだけど、明るい絵が多いからそう思ってしまうのかな?
    モネのパトロン的なオシュデ家が破産した時、自分の家も貧しくて大変なのに一家を受け入れ、当主のエルネスト・オシュデが失踪した後も、残された家族の面倒を見てました。なかなか、それは出来ないかなー?でも妻のカミーユが亡くなった後、アリス・オシュデと再婚したことを考えると、少し複雑になってしまう…。
    妻のカミーユが亡くなった時のエピソードはジーンときました。死んでいく様を(画家の本能と言っていいのか?)描いてました。私は、カミーユを愛していたからこそ最期の瞬間を描き止めて置きたかったんだと思いたいです。「死の床のカミーユ・モネ」が載っていて、その絵を観てそういう風に感じました。(カラーで観てみたい)

    第五章でマハさんが、モネのあしあとの辿り方が紹介されていて、いつか行ってみたいと思いました。マハさんのオススメのオランジュリー美術館に朝一で行って、睡蓮を観てみたいです。
    以前、岡山にある大原美術館と箱根にあるポーラ美術館でモネの絵を観た事があります。その時は、モネの綺麗な絵と思って観たけど、この本を読んで今観たら、また違った観方が出来そうです。

  • 印象派の画家・モネやゴッホをテーマにしたアート小説の評価が高い原田マハさんによるモネ解説本。

    印象派が生まれたその時代についての説明や、印象派の画風に影響を与えた日本の浮世絵の存在についての解説などからはじまり、画家・モネのたどった足跡と、現代の私たちがモネをたずねる観光のその行程の提案、著者によるモネを描いた小説『ジヴェルニーの食卓』をどう書いたかの概説などで構成されています。モノクロながらも図版が多数掲載されており、たとえばひとつの絵についてのトピックがでてきたときには、すぐにページを繰って参照可能なつくりになっているが親切でした。

    繊細で穏やかな感覚をもつ絵を描いている画家であっても、従来の古風なアカデミーに与するような軟派な人ではなかったようです。だからこそ、印象派というそれまでからすると異端な画風の絵を描いているわけで。というか、印象派のような絵を描いているから、きっとおとなしそうだとか、たぶん自己主張が弱そうだとかと考えるのはステレオタイプなんですよね。

    原田マハさんは言います、
    __________

    モネの作品は美しく、取り込まれるような魅力に満ちています。しかしその背景には、血のにじむような思いや、血反吐を吐くような経験が潜んでいます。
    (p117)
    __________

    実際にどうかはわからないですが、モネは自分の内面をできるだけ制御していて、自分のなかにある苦しみによって他人に当たり散らしたりはあまりしなかった人なのではないのでしょうか。作品には悲しみや苦しみの痕跡を残さない人で、人知れず、なんとか乗り越えつつ絵を描いていたようなのです。また、パリを離れて郊外で暮らしていたモネは、よく屋外に出て自然のなかで風景をキャンバスに写し取るタイプの画家でしたから、自然のなかにいることでストレスが軽減したり脳がプラスの方向へ活性化したり、健康に良かったのかもしれません。長生きでしたし(でも、白内障を患います)。

    晩年、ジヴェルニーにて家と庭を買い、そこで造園を続けながら睡蓮の絵を何枚も何枚も描き残したのは有名な話ですが、このジヴェルニーの邸宅はモネの死後、廃屋になっていたものを80年代に再建し、いまや観光地になっています(僕はテレビ番組でみたことがあります)。著者はここを訪れ、キッチンでいろいろな妄想をしつつそれをストックして帰り、モネの小説の執筆に活かしたそうです。

    というところですが、モネの絵が好きだけど画家についてはよくしらない初心者という人から、モネが大好きで誰かとこの気持ちを共有しながら話をしてみたい、という方まで、幅広く対応している、本書はいわば「モネ・ファンブック」です。品が好く和気あいあいに交際できる世間を隔てたような秘密のサロンのなかで、一時、話を聞いているかのような、安穏に包まれた幸福感があります。その安穏さは、まるでモネの絵筆が作り上げた柔らかな陽光を、実際に浴びるようなのかもしれません。

    いうなれば、おそらく、モネ好きの方々が世間を忘れて、ほっこりとする時間を過ごせる本、なのでした。

  • モネは好きだったが、作品のことしか知らず、モネはの人生を知る良い機会となった。
    モネの生活を垣間見ることができたので、モネの目線の先の景色として作品を観ると、さらに理解が深まるであろう。
    やはり好きな画家の人生やその時代背景、歴史等を知ることは、より絵画を鑑賞するのに必要であると再認識。

  • モネの絵が好きです。
    モネという画家も好きです。
    モネの絵を描いている画家がいるという当たり前のことに気づかせてくれたのは間違いなく原田マハさんのジヴェルニーの食卓のおかげでした。
    この本は薄くてさらっと読めます。
    モネを取り巻く時代背景、家族などをわかりやすく知ることができます。
    博識の原田マハさんの知性により、私のような素人に向けてわかりやすく要約していただいたような本です。
    図書館で借りずに読み切りました。モネファンにとって読んで良かった本です。懐の大きいモネ、人間の出来たカミーユもアリス。ますます好きになります。

  • 原田マハさんのアートを題材にした小説を読むようになって、美術館に行くのが前よりも楽しくなりました。
    特に印象派についてもっと知りたかったので、本書をチョイス。
    著者が語りかけてくれるようで親しみやすいと思っていたら、講演会を1冊にまとめたものでした。

    印象派の作品には日本美術の影響を受けているものあるということで、日本人の好みに合っているのだそう。
    日本美術をヨーロッパに広めた林忠正という人物が気になりました。
    彼を題材にした『たゆたえども沈まず』、読んでみようと思います。

    モネが展示方法を細部までこだわったという、オランジュリー美術館の大睡蓮画、もしもフランスに行くチャンスが訪れたなら、絶対に行ってみたい!

    1つだけ残念だったのは全編モノクロ印刷だったこと。
    新書という形態ゆえ仕方ないのかもしれませんが、掲載されたたくさんの絵画や写真をカラーで見たかった···!

  • 上野の森美術館のモネ 連作の情景 展に行くためにモネについて予習?復習?するつもりで読みました。
    原田マハさんのアート小説でクロード・モネに出会っているので、全ページとても勉強になりました。絵画そのものの解説のために、画家の人生について、画家が生きた時代背景について理解する楽しみを教えてもらいました。パリのオスマン都市計画などとても興味深かったです。

    特に、《氷塊(セーヌ川の解氷)》1880,オルセー美術館所蔵 についての作者の見解はとても心に残りました。

  • 原田マハさんが書いた小説と、「あしあと」シリーズを何冊か携えて、(通常宿以外ノープランで旅しがちな私だが、マハさんのような)こだわりにあふれた周遊ができるように綿密な計画を立てて、ヨーロッパ旅行に行きたい。
    2.3年以内には実現させたい〜!

  • 『ゴッホのあしあと』に続き、『モネのあしあと』も最高に面白かった。1枚の絵と向き合ったときにマハさんが立てる問いと仮説、そこから小説が生まれるまでの過程。モノの見方。アート旅。

  • クロ-ド・モネ(1840-1926)を題材にしたア-ト小説『ジヴェルニーの食卓』の【原田マハ】が、印象派絵画の講演内容をまとめた肩の凝らないエッセイです。19世紀のフランス芸術アカデミ-に反旗を翻し、印象派画家の筆頭となったモネは、パリの喧騒から逃れノルマンディ地方のセーヌ川沿いの村々を転々として、終の棲家となったジヴェルニーで晩年を過ごします。妻カミ-ユと長男ジャンに先立たれたモネとオシュデ一家との生活、元首相クレマンソ-の後援など、モネの遺した作品をとおして語られる印象派アートの入門書です。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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