黒い牛乳 (経営者新書 2)

著者 :
  • 幻冬舎メディアコンサルティング
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344996878

感想・レビュー・書評

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  • 普段飲んでいる牛乳がどれだけ不自然で持続不可能なものであるかが説明されている。
    牛にも自然にも国にも酪農家にも優しい、持続可能な酪農が著者の実践をもとに紹介されている。
    牛は雪の中でも、坂道でもたくましく育ち生きていくという事実には驚かされた。
    林業との関りが非常に興味深い。
    なかほら牧場のような、こういったタイプの酪農家が広がることを強く願う。
    これを読まずに牛乳は飲めない。

  • 「放牧・パスチャライズ殺菌・ノンホモ牛乳」というのが、昔、近所の問屋で売られておりました。
    それは、今まで飲んでた牛乳は何だったのか?! というレベルで美味しかったのです。
    「あの牛乳はなぜうまい?!」と思ってから十数年、この本と出会いました。

    近代酪農のシステムは、牛の生態を無視し、生産性のみを追求したシステムなのだそう。
    自然の牧草を牛に食べさせていると季節によって乳脂肪分にばらつきがでるため、輸入飼料を一年じゅう食べさせる。飼料代も結構な金額になる。
    少ない土地で、より多くの牛を飼うために狭い牛舎で運動不足のまま過ごす。掃除も大変。牛糞の処理システムも、結構な金額と手間がかかる。
    なるべく多く乳を搾るために、人間が妊娠期間を決める。妊娠は人工授精。生まれた子牛と離されるのも即、もしくは早い。
    不自然な環境で一生ストレスを感じながら、乳牛のほとんどは若くして死ぬ。人間の年にして20代くらいなんだとか。

    一方、著者の牧場・放牧を主とする「山地酪農」は、牛がノビノビと過ごす様子が伺えます。
    放牧で牧草(冬は干し草)を食べているので、えさ代があんまりいらない。
    山の中で走り回るので(二頭で一ヘクタール程度とか)体もたくましく健康。掃除の必要もなし。牛糞は牧草の肥料になるので処理の必要もない。
    乳搾りのときは自発的に来る。来ない牛は放っておく、という方法もユニーク。
    妊娠は自然受精。出産も子育ても牛たちがする。
    生産は多くないものの、コストも相当少ない。環境にも優しい、循環型で手間もいらない。
    乳脂肪分にばらつきがあるが、自然味ある美味な乳。やっぱり、おいしいのが一番!!

    特に感銘を受けたのは、「性」としての牛の扱いでした。
    近代酪農は、妊娠・出産はあるものの性交と育児を奪い、搾取した大切な母乳を商品として叩き売る。牛の「性」としての自由と健康を蹂躙しておいて、「牛乳は体に良いから飲みなさい」では示しがつきません。
    が、山地酪農の牛は、妊娠・出産はもちろん性交も育児もちゃんとしている。性としての自由・尊厳が存在しているということ。
    ここの乳牛たちは、恋をして(?!)母になっている。そんな牛乳を飲んだら、人間も幸せになれるかも?!
    「性」の幸せという観点からも、自然な酪農という選択が大切になってくる気がします。

    良い農を支持することは、今すぐ簡単にできる環境保護活動。
    身体に良く美味しいものは、少量でも満足感がある。素材の美味を味わいながら、環境にも良い選択をしたいと思いました。

  • チェック項目7箇所。本書がきっかけとなって、酪農の将来像や牛乳のあり方などが論じられるようになってくれれば、著者としてこれに勝る喜びはない。考えてみてほしい、本来のk脳を奪われ、青空の下を歩くことも許されず、ひたすら牛乳を生産するマシンにさせられた牛たちから、本当においしい牛乳など出るものだろうか、乳業メーカーや農協などの都合でつくられた「濃い牛乳」の正体は、牛の怨念で染まった「黒い牛乳」にほかならないということである。配合飼料に穀物以外にどんな原料が含まれているかと考える余裕はない、また、知ったからといってどうにもならない、配合飼料を使わなければ、3.5パーセント基準を守れず経営は破綻するからである。知らない人は、危ない肉骨粉入りの配合飼料を使ったのは酪農家の責任というかもしれないが、実態は異なる、酪農家に配合飼料に何が入っているかなどを考える余裕はなかったというのが本当のところだ。牛が乳を出す期間は分娩・出産後約11.9ヵ月(361日)続く、これに合わせて、分娩の間隔をあけずに無駄なくこのサイクルを続けていかなければ、経済効率はよくない。乳牛の平均供用年数は6~7年となっている、つまり、6~7歳で廃用牛とされ屠殺処分されるということだ、牛の寿命は20年以上あるといわれている、これをもとに単純計算すると、人間でいえば27歳前後になるだろうか、これからというときに人生を終えることになるわけである。牛の出産で人が母牛から胎児を引っ張り出す大変な作業をしている光景をよく目にするが、あれは言ってみれば以上出産である、放牧で元気に育った牛は、自分の力で出産をする。

  • 「黒い牛乳」というより、「緑の牧場」の思い浮かぶ本だった。
    前半は牛舎で配合飼料を与え完全管理している現代の畜産。後半に筆者の行っている放牧の章。
    牛は熊笹をきれいに平らげ、背が隠れるほどの草地を野シバが密生する牧草地に変えていく。
    真っ当で、力強い。

    こうした農法が、農協に負けずに広がっていく事を願います。

  • 日本の牛乳について述べた本。2009年。酪農経営者である著者が、日本で多く流通している牛乳の問題点や、国の整備している酪農制度について説明している。大量生産が可能になり、消費者に手ごろな価格で牛乳を提供することができるようになったが、その反面、質の良い牛乳を生産しづらくなり今後もその傾向が続きそう。いわゆるおいしい牛乳、として販売されているものは、殺菌方法から考えると美味しい部類には入らず、あくまでも賞味期限を長くすることを主目的として提供されている。やはり取ってすぐ、がもっとも美味しい。また、乳牛は一日中檻の中で生活しており、そのなかで定期的に食事をし排泄し、睡眠をとり牛乳を搾られる。この状態で健康的な牛乳が出るわけが無い。ちなみに、飼料はアメリカから輸入しているコーンを材料とするもので、外交の観点を含めて現在の制度が確立している。
    制度が現状にマッチしておらず、酪農家は厳しい状態に置かれているが、著者は本当に美味しい牛乳を飲んでもらう為に、放牧酪農を行っている。道はまだ長いが、良いものにはそれなりの対価を払うといった当然のことが広がれば、消費者も生産者もハッピーになれそうだ。

  • 『幸せな牛からおいしい牛乳』を簡略化したような感じの本。
    内容の濃さは『幸せな~』の方が上回るけれど、
    専門書でなく新書として出版したことで、
    酪農家のみならず一般の消費者の目につく機会が増えればと思う。

    第三章の「自立した酪農家にならなければ殺される」のパラグラフがとても印象に残った。

  • カケキンが訪問した岩手県の放牧・森林・山地酪農農家が書いた、近代的酪農の黒い影と未来的酪農の明るい姿。

    最初の方は法律の話とか近代的酪農の限界が書かれてあって、若干知っているカケキンとしては少しもの足りなかったが、

    後半でかなり詳しく山地酪農という新しい酪農のあり方が書かれていてGOOD!

  • 放牧酪農

  • 牛を幸せにすると、酪農家も幸せになる。情熱的で愛情もある中洞さん。いつか牧場へ訪れたい。

  • 日本の畜産の実態がよく分かる。どうせ肉を食べるなら放牧されたストレスを与えられていない家畜のものから食べたいと思う。

  • よくある告発本とは違って、具体的な提案があるのがいい。

    こういう”実践する人”の本がもっと売れるといいのにな、と思う。

  • 牛乳にもたくさん種類があること、戦後質より量を求めてきた日本の農業や酪農、林業の苛酷さ・担い手の育成

    思った以上に考えさせられる一冊だった。

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著者プロフィール

1952年岩手県宮古市生まれ。山地酪農家。東京農業大学農学部卒業。東京農業大学在学中に猶原恭爾先生が提唱する山地酪農に出会い、直接教えを受ける。中洞式山地酪農の普及を目指す株式会社山地酪農研究所代表取締役。農業生産法人株式会社企業農業研究所 中洞牧場相談役。東京農業大学客員教授。

「2022年 『中洞式山地酪農の教科書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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