生きのびるために

  • さ・え・ら書房
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本棚登録 : 93
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784378007663

感想・レビュー・書評

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  • 2000年頃の、タリバン政権下のアフガニスタンでのある家族の日々を、11歳の少女の目を通して描く。

    実話ではないが、著者はパキスタンのアフガン難民キャンプを二度に渡り訪れ、綿密な調査の下この本を書き上げたそうだ。


    以下若干のネタバレ

    知識階級の両親の元、恵まれた環境で育った11歳のパヴァーナ。
    しかし、彼女が生まれた時からアフガニスタンは内戦状態にあり、物心ついた時から町は瓦礫だらけで爆撃の音が絶えなかった。
    運命がより悪い方へと転がり始めたのは、タリバン政権になってから。
    母や姉は法律で、男性の付き添いなしには家から出られなくなり、広かった家も爆撃で瓦礫と化し、住処を転々とすることに…今は、窓が1つしかない狭い部屋で家族6人が生活している。
    また、兄は地雷の犠牲になり、爆撃で片足を失った父も突然押し入ってきたタリバン兵に連れ去られてしまう。
    母は寝込みがちになり、姉はいつもイライラしている。自由があった昔を懐かしく思い、最初は休めてラッキーくらいに思っていた学校に行けないことを辛く感じているが、不平、不満、やり場のない怒りがあってもなんとか生きていかなければならない。
    市場で偶然、母の友人ウィーラ夫人と再会したことから、家族はまた少し前向きになり、パヴァーナも髪を切って男の子に変装し、家族を養うために、市場に働きに出ることになった。そこで同じように男の子に変装して働く、同級生ショーツィアと再会し、互いに20年後の未来を夢見て、希望を失わないことを誓うのだった…。

    以下印象に残ったフレーズ

    なにより、いちばん気がめいるのは、この状態には終わりがないということだった。これは、夏休みとはちがう。いずれおしまいになり、やがていつもの生活がはじまる特別な日々ではないのだ。これこそがいつもの生活で、パヴァーナはそれに、もはや耐えられないのだった。p126

    ふたりのパヴァーナがいた。ひとりはすべてのことから逃げ出したがっているパヴァーナ。もうひとりは起きあがってはたらいて、ショーツィアの友だちでありつづけたいと願っているパヴァーナ。
    パヴァーナはソファからはなれると、また以前のようにがんばりだした。
    ほんとうはまるで、毎日毎日、ひどい悪夢の中で生きているようなものだったのだ。朝になってもさめることのない悪夢の中で。p150


    雑感

    自分の記憶にあるのは、1980年のソ連によるアフガニスタン侵攻。「こぐまのミーシャ」をマスコットに沸いていたモスクワ五輪に日本は不参加となったのだが、子ども心に「なんで?」と思ったのを覚えている。私にとっては、遠い記憶であるが、アフガニスタンは、それ以来内戦状態が続いている。

    アメリカ軍によるタリバン征圧で、徐々に平和を取り戻しつつあるのかと、勝手に思っていたが、甘かった。半年前、アフガニスタンで人道支援に尽くされていた中村哲さんが凶弾に倒れたことは、記憶に新しい。
    この国は、本来は緑豊かな花々も美しい国なのに、様々な国や思想集団によって蹂躙され続けている。

    コロナ禍で、どの地域の難民キャンプも犠牲者が増えている。
    アフリカや中東の混乱は、植民地支配をしていたイギリスをはじめとするヨーロッパの国々による国境の策定や、部族の対立を煽ったことにより始まったのだと思うが、怒りが怒りを誘発しなかなか和平へと繋がらない。

    この本には続編があるようなので、引き続き読んでいきたい。2020.6.5

  • 「ブレッドウィナー」というタイトルで映画化されてたと思います。ネトフリではこのまま「生きのびるために」が正式タイトルかな。
    タリバンが支配したアフガニスタンのカブールで、パヴァーナは窮屈な生活をしている。父親がいてなんとかやりくりしていたけれど、父親が突然外国かぶれと言われて連行される。女性は男性がいないと外に出てはいけない。パヴァーナたちはほぼ女しか残っていない。どうするか?パヴァーナを少年と偽るしかない!幸い地雷で死んだ兄の服がある…というのもつらい話。
    ヌーリア(姉)がやたら皮肉まみれでパヴァーナに冷たく当たりがちなの地味にイラついたんですが、勉強も出来なくなり自由に外に出られないとなればこうなるかもしれない。
    パヴァーナが働きに出るうちに、文字も読めないタリバン兵が亡くした妻を想い涙する姿を見たり、自分と同じように性別を偽って働く同級生と仲良くなったり、人骨を集めるバイトをしたりと知らなかったことをどんどん知っていく。
    マザリシャリフにはタリバンがいないと姉と母は一縷の望みをかけてそこに向かって婚姻を結ぶことにするが、マザリシャリフから逃れてきた、家族の遺体も放って逃げてきてしまったと泣く少女と出会ったり、最後までなかなか希望の光が見えない。
    結局最終的にパヴァーナたちはカブールを捨てる決断しかできない。そりゃそうだ、武器を持っていて話の通じない相手に何が出来るというのか。
    作者もアフガニスタンから手を引けと脅迫が来るような状況らしい。でもきっとそれはアフガニスタンの人たちが全て悪いんじゃなくて、タリバンももちろん悪いけどそれだけが悪いわけでもなくて、ソ連とアメリカの代理戦争が尾を引いてたり諸々あるんだろうなとわかるからなおやるせないというか。
    何が出来るのかを問われているような気持ちになりました。

  • 20年ほど前のタリバン政権下のアフガニスタン。
    かつては交易で栄え、豊かで美しい国は今や見る影もない。
    学校は閉鎖され、男性同伴でなければ外出することは許されず、出ても店で買い物することすら禁じられている。
    父を連行され男手を失った家で、少女は髪を切り少年となって働きに出る。
    そこで再会したかつてのクラスメイト。
    彼女も同じように少年として働き、国外へ出ることを夢に見る。

    最後に交わした約束は20年後にパリで再会すること。
    少し前ならもしかしたら叶ったのかもしれない。
    しかし再びかの国はタリバンの勢力下となってしまった。
    日本で預かり修復し返還した文化財は再び破壊の危機にあり、女性は閉じ込められ始めている。
    またこの物語のような国になってしまうのだろうか。

  • アフガニスタンのリアルを伝える物語。なのだが、読み物としてとても力のある作品だ。
    本当の事だから・なんてありきたりの背景じゃなくて、この話の中にはちゃんとした「欲」が詰め込まれている。生きのびたい 家族と共にいたい 太陽を浴びたい 外に出たい
    なんて事ない、当たり前の生きること。そして何より、「伝えたい」が強力に描かれている。秀作。

  • たぶんどこかで書評でも読んで、興味を持って登録したんだと思う。登録したのが何年も前で覚えてない。それをやっと読んだ。

    アメリカとアフガニスタンの戦争が終わって、アフガニスタンがまたタリバンの支配下に入ってしまった。いまのアフガニスタンは、この本に描かれている状況に逆戻りしてしまったのだろうかと、具体的に想像できてしまう。

    最初は女性の権利、学ぶ権利や就労の権利は保障されるとタリバンは言っていたけど、それは結局嘘だったし…

  • 登場人物がみんないい人すぎないというか、当たり前に生きている普通の人たちというところにリアリティがありました。

  • タイトルが内容を表している。少女の眼はどこまでも美しく、深い。以下は「読書メーター」に投稿した感想。

    予想していたよりもページ数なども少なく、さらっと読めた。だが内容は濃い。現実への抗議という立場をしっかりと含めながらも、〈制度ではなく、わたしたちの人間性〉を問うているところに共感を抱いた。(引用は訳者・もりうちすみこ氏あとがきより)

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著者プロフィール

デボラ・エリス/作
カナダ・オンタリオ州在住。作家、平和活動家として世界中を旅行し、戦争、貧困、病気、差別などによって困難を強いられている子供たちを取材している。戦乱のアフガニスタンを生きぬく少女を描いた『生きのびるために』『さすらいの旅』『希望の学校』(いずれもさ・え・ら書房)は、世界17か国で出版されている。その他の作品に『きみ、ひとりじゃない』(さ・え・ら書房)など。

「2017年 『九時の月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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