狙われたキツネ (ドイツ文学セレクション)

  • 三修社
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784384005264

作品紹介・あらすじ

1989年、チャウシェスク独裁政権下のルーマニア。家宅侵入、尾行、盗聴。つきまとう秘密警察に怯える日々。そうしたなかで、ひとりの女が愛にすべてを賭ける。しかしそれは、親友との友情を引き裂くものだった…祖国ルーマニアの運命に思いをはせながらヘルタ・ミュラーが描くあまりに切ない物語。

感想・レビュー・書評

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  • チャウシェスク政権下のルーマニア
    アディーナの部屋のキツネの敷物の尻尾や肢が留守中に切られていくのが恐ろしい。
    イリエは国を出たのか?
    クララは?
    途中の、アディーナが夜中の三時にテーブルの上でキツネの敷物を合わせているときの月の表現が印象に残った。

  • (2009.12.09読了)
    チャウシェスク大統領時代のルーマニアを描いた小説です。
    主人公は、小学校教師のアディーナと工場労働者のクララという二人の女性です。
    ふたりの生活を通しながら、ルーマニアの都市生活の状況が描き出されています。いまから20年前にこのような現実があり、北朝鮮では、いまなお、ここで描かれているような生活があるのかもしれません。
    国のすべてが、指導者とその親族、一部特権階級のために奉仕するという仕組みになり、反抗的人間及び反逆を企てる組織がないか徹底的に監視する組織が作られる。
    「狙われたキツネ」も、秘密警察が合鍵を使って、アディーナの部屋に入り、監視していることを知らせるためにキツネの毛皮をすく死ずつ切り取ってゆくことを表していると思われる。

    ●人はいつ死ぬ?(24頁)
    「刈り取った髪の毛を頭陀袋にぎゅうぎゅう詰めこんでいくんだ。そのうちそ頭陀袋がご本人の体重と同じ重さになる。そうなったらそいつは死んでしまうのさ、」
    ●リンゴの虫は食べられる(27頁)
    「ただのリンゴの虫じゃない」とアディーナは言う。「この虫はリンゴの中で生まれ育ったんだし、リンゴでできているわ。きれいなものよ」
    ●工場で怪我人が出ると(152頁)
    怪我人の頭を支え、グリゴーレがむりやり口を大きく開かせる。それから工場長が、平たく手にぴったり収まる酒のポケット瓶を上着から取り出して、ツイカを怪我人の口に流し込む。グリゴーレは作業塔の中に向きなおって言う。
    「いいか、クリーズは朝っぱらから酒に酔っていたんだ。やつは職場で酔っぱらってたんだからな」
    ●地獄では(265頁)
    「ごく普通のルーマニア人が死んで地獄に堕ちた。地獄はすごい人ごみだ。みんな熱い泥の中にあごまでつかっている。ところが中央の悪魔の席のそばには膝までしか泥につかっていない男がいる。チャウシェスクだった。そこでルーマニア人は、『正義はどこにあるんだ、あの男は俺よりも罪深いぞ』と悪魔にくってかかった。悪魔が答えて言うには、『その通りだ、だけどあの男は女房の頭の上に立ってんだよ』」
    ●国境の村(308頁)
    村人があんなにたくさんの犬を飼っているのは、吠え声で銃声を聞かずに済ませるためなんだ。それに彼らがニワトリじゃなくてガチョウを飼っているのも、ガチョウなら一晩中ガアガア鳴くからなんだよ。
    ●独裁体制では(349頁)
    「どうすればよかったというの?」
    「男たちには愛する妻がいたし、女たちには子供がいた。そしてその子どもたちはお腹をすかしていたんだもんね。」

    (今、ルーマニアは、どれだけ変わったのでしょうか?)

    ☆関連図書(既読)
    「ルーマニアの小さな村から」みやこうせい著、NHKブックス、1990.04.20
    「チャウシェスク銃殺その後」鈴木四郎著、中公文庫、1991.04.10

    著者 ヘルタ・ミュラー
    1953年、ルーマニア・ニツキードルフ生まれ
    ドイツ系少数民族の出
    母語はドイツ語
    ティミショアラ大学卒業(ドイツ文学、ルーマニア文学)
    金属工場で技術翻訳の仕事に就く
    1979年、秘密警察への協力を断ったために職場追放
    代用教員をしながら創作活動
    1982年、「澱み」をブカレストで発表
    1987年にドイツに出国
    1989年12月25日、チャウシェスク夫妻公開処刑
    1992年、「狙われたキツネ」発表
    現在はベルリン在住
    2009年、ノーベル文学賞を受賞
    (2009年12月16日・記)

  • チャウシェスク独裁政権のもと、抑圧された生活を女教師アディーナの目を通してたんたんと語る。
    「‥禁じられた歌は国歌となって国じゅうで歌われるようになったが、いまでは、その歌が広まろうとしても、かならず喉がつっかえ、誰もが押し黙ってしまう。‥‥ただ古いコートが新しいコートに変わっただけなのだ。」
    やりきれない絶望の表現

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著者プロフィール

1953年、ルーマニア・ニッキードルフ生まれのドイツ語作家。代表作として、処女作の短編集『澱み』(1984年、邦訳2010年)のほかに、四つの長編小説『狙われたキツネ』(1992年、邦訳1997年)、『心獣』(1994年、邦訳2014年)、『呼び出し』(1997年、本訳出)、『息のブランコ』(2009年、邦訳2011年)がある。邦訳はいずれも三修社で刊行された。1987年にベルリンに移住。2009年にノーベル文学賞を受賞するほか、『心獣』によってドイツ国内で1994年にクライスト賞、ドイツ国外で1998年にIMPAC国際ダブリン文学賞を受賞するなど、多数の文学賞を受賞し続けている。

「2022年 『呼び出し』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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