人、旅に暮らす (現代教養文庫 1463 ベスト・ノンフィクション)

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  • 社会思想社
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784390114639

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  • 12編のルポルタージュが収められている。それらは、1980年1月から1年間にわたって、「旅」という月刊誌に「ドキュメント・現代の旅人」と題して連載されたものである。単行本としての発行は、翌年1981年の6月。ということなので、それから40年強が経過している。
    「現代の旅人」として、筆者の足立倫行が選んだのは、競輪選手・鑑賞用鯉の問屋・スリ係の警部補・潜水夫・国土地理院の測量官・選挙参謀・養蜂家・プロ野球のスカウト・パイプオルガンの職人、等である。例えば競輪選手は、全国に50カ所ある(1980年当時)競輪場が仕事場であり、そこに頻繁に旅する。年間平均26回、1か所でのレース開催日数が3日、前泊があったりするので、年間の相当日数を全国の競輪場で過ごすことになる。頻繁に旅することは、ここで取り上げられている他の職業の人たちにも共通である。
    多くの人、特に男はこういう職業にあこがれるのではないかと思う。少なくとも私はあこがれた。理想は「寅さん」。映画の中の寅さんは、香具師・的屋として日本全国を旅する。旅先で寅さんは、必ず女性に恋をして、そして必ずふられる。でも、寅さんになりたいと思ったのは、旅先での女性との出会いや恋ではなく、旅を続けることそのものに、あこがれていたからだ。
    2005年から2008年頃にかけて、私も仕事で多くの旅をする経験をした。海外出張だけで年間に100日以上、それに国内の出張が加わり、年間の1/3は旅にでかけていた。そこだけ見れば、寅さんと同じであるが、でも、それは私があこがれた寅さんの旅ではなかった。海外に出かけ、日本語ではない言葉で商談・交渉を行う。そのための準備にも膨大な時間をかける。異国の地にいるが、ほとんどは、空港とホテルと顧客の会社を行き来するだけ。出張先がヨーロッパやアメリカの場合には時差もきつい。寅さんとの共通点は旅の日数が多いということ。仕事のやりがいはあるけれども、「楽しい」というのとは違う、そういう生活だった。
    でも、このルポルタージュで取り上げられている人たちも、私と同じだったのかもしれない。競輪選手は八百長を防止するために、競輪の開催期間中は競輪場が準備した寮に寝泊まりし、外部の人と接触することは出来ない。ただ移動し、ただ宿泊し、そして自転車をこぐのだ。そこには、旅の楽しさや風情はない。移動することを含めて、それが「仕事」であり、それが「日常」となる。
    寅さんにあこがれていたのは、寅さんが「非日常」の世界を生きているという具合に見えたからだと思う。でも、実は寅さんも、旅に生きていた訳ではなく、「香具師・的屋」という職業を生きていただけなのかもしれない。

  • 競輪選手、ラブホテルのベッド営業、オルガン調律師、スリ専門の刑事・・・この世界にはさまざまな職業があって、この本で紹介されているのは日本中、時には世界中を駆け回る仕事を持った人々。著者はその営みを、彼らの仕事そのものを旅と呼んだ。しみじみと人生を語る珠玉のルポルタージュ。

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著者プロフィール

1948年鳥取県境港市生まれ。早稲田大学政経学部中退。在学中にアメリカや北欧の旅に。70年秋からは約2年間、世界各地を見て回る。沢木耕太郎、吉岡忍らとともに「漂流世代」を代表するノンフィクション作家。

「2021年 『イワナ棲む山里 奥只見物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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