- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784393622001
作品紹介・あらすじ
ハイエクはなぜ社会主義と戦ったのか?近代合理主義が生みだしたディストピアを「経済」「戦争」「道徳」の観点から分析しその不可能性を説く。
感想・レビュー・書評
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「社会主義は、必然的に戦争を生み出す」みたいな本かと思ったら、違った。
ハイエクによる「社会主義」と「戦争」に関するエッセイや講演を集めた本。
20世紀は、しばしば「戦争と革命」の世紀と呼ばれるが、まさに「戦争」と「革命=社会主義」と対峙しつづけたハイエクの思想のエッセンスが集められている。
専門誌に掲載された論文ではないので、ハイエクのものとしては、かなり分かりやすい。編著なので、内容的には重複もあるが、ハイエクの思想の根源的なところが簡潔に表現されている。「隷属への道」につづいて読む本としてよいと思う。
収められたエッセイの執筆時期は、1930年代から80年代までと半世紀に渡っているのだが、その思想の一貫性、現代性は驚くばかり。
その思想は、一貫しているだけでなく、時間を経て、深まるとともに、より明確で、かつ独創的なもの発達している。
特に70年代後半〜80年代前半に書かれた第4部のエッセイには、かなり大きなショックをうけたな〜。単に社会主義の問題を再整理するだけでなく、人間が進化のプロセスとして生まれ持った遺伝的な性質と文明の発達によって生じた文化・慣習との関係から、ハイエクの自生的秩序を説明していくところは圧巻である。
ハイエクは、人間の遺伝的な本性はエゴイスティクである、みたいな野蛮な議論はしない。(いわゆる「経済人仮説」はとっていない)
人間は、狩猟生活などなかでの進化の結果として、仲間の連帯感と利他主義が本能として存在するという。(この仮定は、実はアダム・スミスの「道徳感情論」と通じている)
が、これらの本能は、仲間内で働く本能で、見ず知らずの他人との「連帯」や「利他主義」には発達していない。
そういうなかで、社会進化の結果として、自生的な経済社会秩序が生まれ出ていて、それが価格シグナルを通じた見ず知らずの他者との分業、協働を可能にしたという。
この秩序は、人間が意図して生み出したシステムではないので、合理的に社会をよりよいものにしようとすると、この自生的な秩序は否定されることになる。
つまり、社会主義は、いわば人間の本能に里帰りすると同時に、それをシステムとして、合理的、科学的に設計しようとする試みだったのだ。
これが、「この世で国家を地獄としてきたのは、それを天国にしようとしてきた人である」というヘルダーリンの言葉の意味だったのだ。。。
わたしが、ここ数年、考えていたことが、より明確になってきたな〜。
「自然に帰れ」と言って理性より感情を大切にしたルソーの思想が、科学主義・合理主義・設計主義と合体して社会主義・共産主義につながっていく道筋がよりクリアになってきた。詳細をみるコメント0件をすべて表示