日本人のための戦略的思考入門――日米同盟を超えて(祥伝社新書210)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396112103

作品紹介・あらすじ

戦略とは、「人や組織に死活的に重要なことをどう処理するか」を考える学問である。日本人はこれについて深く考えることなく、今日まで来た。その理由の最たるものは、戦後、対米追従だけが日本の"戦略"だったことによる。しかし、単に米国追随でよい時代は、もはや過去となった。台頭する中国、そして軍事力を誇示する北朝鮮にどう対応すべきか?普天間を中心とした米軍基地問題、そして日米同盟の行方は?今こそ、日本独自の戦略が不可欠である。本書では、戦略について基本から解説するとともに、これからの日本人に必要とされる戦略的思考とは何かを考える。

感想・レビュー・書評

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  • 【要約】
    ・日本人はこれまでに「戦略」の不在で戦争に負け、経済で負け、災害に負けてきた。
    ・日本人には情報を収集し分析する習慣、知識、環境がない。
    ・日本人は情報を「内容」ではなく「権威」で判断している。
    ・情報分析には政策遂行状のものがあり、メディアの情報は事実と異なっているものが多い。
    ・戦略を学ぶ必要がある。
    ・歴史を学び、考察の仕方を学ぶ。
    ・戦略とは「人・組織が死活的に重要だと思うことにおいて、目標を明確に認識する。そして、その実現の道筋を考える。かつ、相手の動きに応じ、自分に最適な道を選択する手段」である。
    ・戦略以前、情報収集・分析の重要性を知る
    ・戦略を作るまでの過程を学ぶ
    ・①研究=外的環境の把握(いかなる環境におかれているか)→自己の能力・状況の把握(いかなる状況にあるか)→将来環境予測→情勢判断(自己の強みと弱み)→課題(組織生存のために何が課題かという観点で集積し、検討)
    ・➁企画=目標提案→代替戦略提案→戦略比較→選択(意思決定‐目標と戦略比較の決定)
    ・③計画=任務別計画提案→計画検討・決定→スケジュール
    ・「勝利」とは自分の価値体系に対してであり「戦わない」ことが最大の利益であることもある。

    【感想】
     図書館の書架を回っていたら出会った一冊。手に取った理由を改めて考えてみると、先ず「日本人のための」と書かれていたから?本当は、何か物事を順序立てて考え行動したり、「ああしたらこうなる」のまさに「戦略」に関して全くと言っていいほど白痴だったからだと思う。色々なことに振り回されて、振り回されまいとして行き当たりばったりを繰り返す、何がわからないのかもわからない状態で「戦略」という単語が光っていたから。
     
     内容を観ていくと、そもそも自分たちには戦略がないわけではないことが、引用されている幾つかの本からも見えてくる。自分たちが無意識で取っている戦略は「右に倣え」ということ。模倣型戦略。その概要は、ある時期が来たら一斉に田植えを開始して、前後左右にずらすことのできない画一スケジュール通りに行動することだった(『日本人とユダヤ人』イザヤ・ベンダンソン・キャンペーン型稲作)。大学卒業、就活、定年退職までの勤め上げ、何歳までの結婚、専業主婦etc…。人生の段階分けと言動がすべて細かく規定されていて、その通りに行動すればいい。
     それでも良かった時代やそれに適応できる人間は良かった。が、環境そのものが変わった途端にこの戦略で生きてきた国家・人・会社が戦争に敗れ、経済で敗れ、災害で敗れている。幸福の形、生活の様式が全てロードマップされてきたことが悪いことかと問われればそうだとは思わない。けれど、そこからはみ出して独自の生き方、少数派として生きていくのに、戦略が必要になった。自分にとっての戦略学習の目的はそうなるんだろう。

     先ずこの日本人にとっての戦略が何なのかという前提を踏まえておかないと、そもそも戦略は学べない。戦略と言っても、一人一人に最適な戦略は変わってくるからだ。そうして本書がはじめに説くのが「人・組織が死活的に重要だと思うことにおいて、目標を明確に認識する。そして、その実現の道筋を考える。かつ、相手の動きに応じ、自分に最適な道を選択する手段」と戦略を定義することだった。
     「自分に最適な」とは何を指すのか。残念ながらこの答えは本書にはない。というか、自分しか導けない。「重要だと思うこと」がそれぞれ異なるからだ。だからある戦略は他のケースには負け筋になることもある。自己啓発本をそのまま実行することが、そもそもできないのも、失敗に終わるのもこの点だろう。自分がこの本を読んで得た疑問は「重要だと思うこと」を探すのに「戦略思考」が使えるのかということだ。先ずはここから始める必要がある。で、実際にこれをすると難しい。何もかも重要に思えてくれば、何もかも不要に感じてくるからだ。

     話を戻す。「戦略」の齎す最大の利益に関して。ここでも「そもそも」を徹底して考える。そもそも「敵」とは何なのか。そもそも「勝利」とは何なのか。「敵に勝つこと」を戦略の目的とした過去の戦いは払った犠牲が得た利益の過半を割った。「戦い」は不利益なものとして認識されている。これが出発点になる。「戦い」は「敵」がなければできず「勝敗」も「敵」がなければ存在しない。この「勝敗」の価値観からの脱却。これも外せない本書のエッセンスになる。ここでは「ゲーム理論」「ナッシュ均衡」が引用されるが本質は「対立と相互依存が国際関係において併存している」だろう。この国際関係の単語を取って色々なものを当てはめてもいい。経済、人間関係など。アルバイトとして働いてたら、時間が奪われ、時給を得る、と会社と雇用者が利益を奪い割う対立的な見方もできる。が、雇用の場を提供する会社と雇用を必要とする労働者とが、時間とお金とで結ぶ依存関係ととらえることもできる。夫婦や恋人はどうだろ。お互いの存在があって二人の生活が成り立ってくる。二人の関係を二人がそこから得ている利益、不利益に分類し、利益の割合を増やしていくことはできないだろうか。口論や喧嘩がそお最適な方法なのだろうか。単純な二項対立構造に多角的な視点を充てて、全体像を作り上げる。「戦略」は「戦い」という「点からの卒業」でもある。

     要は捉え方次第。と言われてもそのためには複数の視座が必要であって、単なる一要素を視覚化し、分析可能な情報にまで「分解」し「再編集」する高度な作業が求められている。そこには「バイアス」という厄な障壁まで潜んでいる。これらをひっくるめて「自分との戦い」へと戦いは移行していくのではないだろうか?敵を外に見出すことより、内に見出すことの方が遥かに難しい。「武でも我々には武器(=叡智)がある、それが歴史じゃないか」と説くのもまた本書だ。目隠しをしてレースにしなくてもいい。これ(人生)は言わばカンニングし放題のテスト、ずるし放題のゲームなんだ、とそう感じる。具体的な活用方法としては、自らの問いを持ち、考察すること。あくまで「考証の材料」に過ぎない点に注意したい。

     誤った選択に陥ってきた歴史の考察も面白い。例えば「費用対効果の概念が希薄になった時、結果として軍事行動の失敗が出る」費用対効果という一つの論理的指標を喪失すると失敗する、と言っている。身近な例はわんさか上がる。終電での帰宅途中、コンビニによってジャンクフードを買い食いしたために、健康と資金を失くし続けているといった場合。そもそも疲れとストレスによって損得の判断が付かない状況になっている、という分析も本人にはできていない。この場合は先ず、睡眠時間の減少が問題かもしれないし、残業に陥るのは、キャパオーバーしているのにNOと言えないことかもしれない。必要なのは個々の現象への対処ではなくて、全体の俯瞰、それを実行するための時間の余裕の作成だろう。大局に立つ努力が問題解決に繋がっていく。

     こういった基本的だが重要なことを本書は説いていく。入門とは以前を解くことと理解する。後半にかけては著者の専門である日米安保条約や核の傘、集団自衛権の問題へと切り込んでいく。ここも、出版か13年が経過しているため内容的に古くなったものもあるが、定点観測情報としてまとまっている。メディアを見ているだけだと一生理解できないまま終わっただろう日本の安全保障の諸相について学べた。引用されている本は、戦略思考のレディネスを作り上げてくれる書籍が多く、この本を起点にして戦略思考を学んでいきたい。出会えてよかった一冊だ。
     

     


     

  • 企業、軍事が有名な「戦略論」
    兵法から始まる戦略の考え方が整理された一冊。
    僕にとっては、まだまだ知識がない分、理解ができていないところが多いが、「戦略」として先を見据えながらきちんと説明していくことが必要と感じた。

  • 孫崎享氏が書いた外交における戦略的思考。

    元外交官だけあって、その言説は説得力があった。

  • ・かつては、外務省の官僚でも駐留米軍の縮小を目指していた。
    ・アメリカがアジアで最も重視しているのは中国。中国との軍事衝突を避けるという観点からしか日本のことを考えない。
    ・日本が戦略的に自国を守るためには、駐留米軍の存在を当てにしてはならない。
    ・駐留米軍の規模が小さい割には日本は多くの思いやり予算を使っている。

  • 後半部分は、著者の専門である日米同盟に関する考察に終始していますが、前半部分の戦略の部分が面白いです。
    孫子やマキャベリなどの古典的内容から、クラウゼヴィッツやモルトケなどの軍事戦略論、マイケル・ポーターの競争戦略など企業戦略を交えながらの解説は、戦略論の概要把握に役に立ちました。
    そのなかで初めて知ったインド古典「実利論」について、一度カバーしてみたいです。

  • 戦略とは何かってのを孫子やツキュディデスや君主論といった古典から経営戦略論までわかりやすく解説してて、それをいかに現代日本の安全保障環境に合わせていくのかってのも。
    日本の戦略的思考の欠落っぷりを指摘してて、6年前の本だけど集団的自衛権を行使できるようにという流れの裏に何があるのか、その代替案として何があるのかを示している。
    日本の安全保障を語ろうと思ったらまずはこの本に書いてあるレベルの認識は必要。

  • 【要約】


    【ノート】

  • 前半は、戦略的な思考力が弱い日本人を指摘し、海外ではどのような歴史で戦略的な思考が進んできたかを、各国の名著などを引用して説明している。

    後半は、出版当時の普天間基地やアメリカとの問題点を挙げている。戦略論を読んだことのない人にはよい本だと思う。

  • こちらを読了。
    …などと書くとまた一部の友人から「だから孫崎享なんか読んじゃだめだって!」とお叱りを受けそうだが、なかなかどうして良書ですよ、これ。
    どうも孫崎氏は「陰謀史観」とか極端には「媚中派」のように思われているようだが、そして確かにそのような誤解を受けかねない極端な著作があることも確かだが、少なくとも傾聴に値する主張も多いことも確か。
    この本で、氏が「戦略」の定義について「相手をやっつける手段」から脱却すべし、とし、
    「人、組織が死活的に重要だと思うことにおいて、目標を明確に認識する。そして、その実現の道筋を考える。かつ、相手の動きに応じ、自分に最適な道を選択する手段」
    と整理されている点に非常に共感する。
    戦略とは、「とにかく相手を打ち負かすこと」ではない。相手を打ち負かすためには、自分たちにも多大な犠牲が生じることも止むを得ない…というものではないだろう。
    そして氏は、日本では、「誰が述べているか」がことさら重要視される傾向があるが、戦略家の姿勢としては「何が述べられているか」で判断を下すべきだ、と戒める。まさにその通り。
    日本ではどうもあるイシューについてAさんとBさんが対立した論を展開しており、そのイシューについてA氏を指示したとなると、別のイシューについても全面的にA氏を指示するか、その別のイシューでA氏を指示出来ないとなると今度は先のイシューまで含めてA氏を見限るような傾向があるように思う。
    私はそうではなく、あるイシューについては全面的に賛同出来なくても、また別のイシューについては傾聴に値することを言っているのであればとらわれず素直に耳を傾けてみたい。
    そんな意味で、孫崎さんのこの本、戦略的思考とは何か?についての、なかなかの良書。

  • 孫子やクラウゼヴィッツを比較し、どこが優れているか、現在に照らし合わせて話を展開しており、勉強になった。

    尖閣諸島で有事の際にどうなるか、米国高官が言葉を濁しているので気になっていたところを、著者は明確に示している。

    核兵器のところは、保有の是非については納得しかねた。
    非保有国への攻撃は非難されるだろうけれど、その報復に対しても抑止力が働くと思う。ゆえに、非保有国は有事の際には滅んで終わりではないだろうか。

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著者プロフィール

1943年、旧満州生まれ。東京大学法学部を中退後、外務省に入省。
英国、ソ連、イラク、カナダに駐在。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。現在、東アジア共同体研究所所長。
主な著書『戦後史の正体』(22万部のベストセラー。創元社)、『日本外交 現場からの証言』(山本七平賞受賞。中公新書)、『日米同盟の正体』(講談社現代新書)、『日米開戦の正体』『朝鮮戦争の正体』(祥伝社)、『アメリカに潰された政治家たち』河出書房新社)、『平和を創る道の探求』(かもがわ出版)ほか。

「2023年 『同盟は家臣ではない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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