国家とエネルギーと戦争(祥伝社新書) (祥伝社新書 361)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396113612

感想・レビュー・書評

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  • 太平洋戦争はアメリカをはじめとするABCDラインが対日輸出を禁止したことから、エネルギーの大半(91%)を海外調達していた日本、特に輸入先の80%をしめるアメリカから石油を輸入できなくなったことが遠因と言われる。海軍は油がなければ船(軍艦)が動かないといい、待っていて干上がるのを待つなら先に撃って出よという考え方だ。そもそもの状態を作り出したのは陸軍の支那進出と重慶爆撃がきっかけと言われているが、中国での利権を虎視眈々と狙うアメリカからすれば、日本を締め上げることで、先に手を出させたかったというのが最近の通説になりつつある。
    日露戦争時の秋山真之はドイツ留学経験から、戦争が辿る機械化、総力戦の流れを読んでいたし、アメリカ留学経験のある山本五十六はアメリカと戦争しても勝てないことは分かっていた。にも関わらず開戦するしか無い状況に陥ってしまったのは、そもそも日本にはエネルギーが無く、海外に頼らざるを得ない状況、かつそれを止められれば致命的という現実を放置したことにある。ただしこれは現代人の考え方であり、現在のように風力発電や海流、地熱、太陽光などの発電技術がなく代替できるものでも無い。日本はこうしたエネルギーの海外依存脱却の必要性を戦後のオイルショックから学んだ。要するに原子力への転換だ。世界の唯一の被爆国である日本が、原子力を使おうという考え方自体が理解がなかなか追いつかないが、戦後の復興や人々の暮らしが圧倒的に豊かになっていく中でやむを得ない選択であったように思える。
    本書はそうした日本のエネルギー戦略に絡んだ戦争の経緯や、東日本大震災以降停止を続け表舞台に中々復帰できない原子力発電に踏み込んだ内容だ。筆者としては原発再稼働には(安全性の確保は条件にはなるだろうが)賛成の立場にある。何故なら日本の1日あたりの原油の輸入量は日当たり400億円規模になり、単純にそれだけの金が日本から毎日失われている。特に2023年現在は1ドル150円に近づくような状況で、街のガソリンスタンドを見ればリッター200円に迫る勢いだ。日本がもし以前のように原発で3割のエネルギーを賄えたら単純に日本の資産は増える(海外へ逃げない)。この構造を再び作り出すには、原発に対する危険やリスクの大きさに関する誤った認識を是正し、上手く使いこなしていこう、というのが筆者の立場である。それ自体を一読者として否定する気は毛頭無いが、論拠になっているのが一部のそうした書籍に限られ、大量の研究の中から分析を重ねて最終的に導き出した自身の結論とは遠いと感じる。よって「仮に」そうだとしたら、内心嬉しさはあるのであるが(税金も電気代も安くなる可能性が非常に高いと想像する)、やはり頭の中に常に疑問符を浮かべながら読んでしまう。
    エネルギーは世界の紛争タネになる。持つものが強く持たざるものは言いなりになりかねない。資源が少なく省エネが得意な日本ではあるが、白物家電がそうであったように、いつかは技術は追いつかれる。ならば唯一の描く被爆国として、平和利用を考えるというのも一理ある。

  • エネルギーを巡る世界大戦通史、日本の世界トップ工業国への発展話は面白い。著者は圧倒的な"原発推進派"であり、放射線の健康被害を全面否定し、様々な科学的証拠も提示している。しかし、偏った証拠群にも見えるので、読者自身で検証した方がいい。原発を巡る意見の1つとして読む価値はあると思うが、再生可能エネルギーと原発の比較話は雑な印象。やはり、通史の方が教養として価値がありそうです。

  • 原発停止により、火発の燃料輸入に1日100億円の余計な支出が生じている。早く原発再稼働しましょうという主張。
    話し言葉で読みやすく、引き込まれる。が、被曝者の知り合い2人はとても元気だった、と言って放射線は安全というアウトな記述もある。
    その他良かったのは、両大戦前後のエネルギー事情がさらっと分かる点と、真珠湾攻撃で石油タンクを潰していたら日米は引き分けだったかもしれないというハーマン・ウォークの説。

  • 核エネルギー、原子力発電の擁護、石油、天然ガス輸入のための国家予算無駄遣い、現状では原子力に頼らざるを得ないことを主張。なるほどと思う部分も多い。

  • 口が裂けても、石油のある国とたたかえるのか?とは言えなかった。
    石油さえ打ってもらえば、日本は戦争をする気なんて全くなかった。
    戦後世界の驚くべき出来事は、中近東で新たに次々と巨大な油田が開発、発掘されたこと。アメリカ、インドネシア、ロシアといったところなどのそれまでの産油国の常識をやぶるほどの大量の石油が中近東で一気に噴き出た。
    中国には資源がないから、中国は資源外交に躍起になっている。

  • エネルギー源を持たない日本にとって比較的頼りになるのが原発。→頼りにしてよいのでしょうか。

  • エネルギーというのは国家の繁栄に必要不可欠であることが歴史を学んでみると良く分かります。この100年間で国家のエネルギーは長年続いてきた、木(木炭)から石炭、石油・天然ガス、さらには原子力へと多様化してきた様ですが、日本の場合は東北大震災(2011.3)以降は、逆戻りしている感もあるようですね。

    森林、石炭とエネルギーに恵まれてきた日本は、石油という新しいエネルギーを前にして、初めてその必要性を認識するようになったのが、第二次世界大戦前の状況のようです。それでも初期には、秋田で産出された原油の使い道にも困っていたようなのを知って驚きました。

    この本が私が読んだ数々の本の中には明確に触れられなかった点として、福島原発の被害を、原爆で被災した広島や長崎の例と比較して論じている点でした。この内容は長い間、関係者間で封印されていたようですが、最近になって開示されるようになってきたのでしょうか。

    以下は気になったポイントです。

    ・産業革命とは、イギリス人が石炭の新しい利用法を発見し、それに蒸気機関などの発明が結びついたことから始まった人類の生産革命であった(P15)

    ・石炭の新しい使い方が発明されて熱量の高いコークスができると大量の鉄をつくることができて、鉄製の船もできるようになる、そして石炭をエネルギー源とする近代工業の発明が続く。(P16)

    ・イランでは、オイルと呼ばないでナフサと言っていた、ナフサとはイラン語で「土から出る燃える液体」というような意味(P31)

    ・陸軍は昭和16年の太平洋開戦まで、アメリカを敵国として考えたことはなかった(P45)

    ・アメリカの軍艦は全部西海岸で造っていたので、アメリカの軍艦が動けなかったら日本の連合艦隊は西海岸まで行って艦砲射撃をやっただろう(P75)

    ・日本の潜水艦は軍艦に的を絞ったおかげで、航空母艦を2隻、三番目の原子爆弾をもった軍艦も沈めている(P79)

    ・石油から精製してTNT火薬(トリニトロトルエン)ができたので、チリ硝石で火薬を作っていた時代は終わった(p81)

    ・第9条反対という人達は多いが、前文反対という人はあまりいない(p95)

    ・沿岸工業地帯とは、日本が偶然発見した一大発明である、沿岸コンビナートの開発で日本は一時、本当に最強の工業国になった(p101)

    ・広島、長崎において多数の人が放射線が死んだと思っているが、死んだ人のほとんどは熱線によるもので、いわば焼け死にである(p110)

    ・長崎の爆心地において、3週間目にはアリ、3ヶ月経過したらミミズ、なので人間も大丈夫であろうと確信された(p112)

    ・ウサギに卵を食べさせたらコレステロールが上昇したというのが卵の悪玉説の原因(p113)

    ・被爆者と非被爆者を調べると、被爆者のほうが癌発生率が低い、奇形児発生率も低い、そういう研究成果は社会にでてこない(p116)

    ・ショウジョウバエのオスには先天的に修復酵素がないことが、放射線を浴びせて奇形が生まれる原因であった(p117)

    ・ビキニ環礁で第五福竜丸の久保無線長が亡くなったが、その原因は売血の輸血による急性肝炎であり放射線は関係ないということであった(p118)

    ・福島事故で亡くなったり病気になったのは、すべて政府の強制退避命令によるもの、放射線量率は、広島の1800万分の1、広島も長崎も除染もせずに住み続けたほうが、むしろ健康(p120)

    ・1兆キロワットの電力を得るのに犠牲になった人の数は、原子力:90人、風力:150、天然ガス:4000、石油:3.6万人、石炭:17万人である(p128)

    ・硫黄分が少ないインドネシア産、ナイジェリア産は精製できる部分が少ないので、相対的に高くつく(p149)

    2014年3月15日作成

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著者プロフィール

上智大学名誉教授。英語学、言語学専攻。1930年、山形県鶴岡市生まれ。1955年、上智大学大学院修士課程修了後、ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学へ留学。ミュンスター大学における学位論文「英文法史」で発生期の英文法に関する研究を発表。ミュンスター大学より、1958年に哲学博士号(Dr.Phil.)、1994年に名誉哲学博士号(Dr.Phil.h.c.)を授与される。文明、歴史批評の分野でも幅広い活動を行ない、ベストセラーとなった『知的生活の技術』をはじめ、『日本そして日本人』『日本史から見た日本人』『アメリカ史の真実(監修)』など多数の著作、監修がある。2017年4月、逝去。

「2022年 『60歳からの人生を楽しむ技術〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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