国家の盛衰 3000年の歴史に学ぶ(祥伝社新書) (祥伝社新書 379)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396113797

作品紹介・あらすじ

●繰り返される歴史は何を語るか
人類が国家という装置を作ってから、数々の興亡が繰り返され、
多くの国や地域を従えた覇権国家が生まれた。
それらの国々はどのようにして興隆したのか、その力の源泉は何か、
そして、何ゆえ衰退あるいは滅亡したのか――。
これらの問いに、文明・歴史に通暁するふたりの学者が挑む。
日本はこのまま衰退するのか。そして、われわれ日本人は何をすべきか。
本書は、蓄積された歴史から導き出された「解」を提供する。
今こそ、歴史に学べ。

感想・レビュー・書評

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  • 両者が交代で読者への講義をしているような内容。2人とも国家という枠組みに対する思い入れが強い印象を受けた。

    ローマ市民は、遵法精神、権威の尊重、戦時の犠牲精神、宗教への敬虔さという4つの美徳を持ってた。中でも一番重要なのはウィルトゥース(徳)で、勇気という男らしさ、人間らしさといった精神が高揚する時に国家や社会は興隆する。ローマが版図を広げて長く反映したのは、寛容の精神と法の前の平等という理念があったから。現在の世界の民法のほとんどはローマ法を基本としている。

    529年頃、ベネディクトゥスが修道院を創設し「祈れ、働け」の教義の下にブドウを植えてワインを醸造するなどの農業革命を実践し、食糧問題に貢献した。これによってキリスト教がヨーロッパ中に広がり、ミュンヘン、マンチェスター、カンタベリーなどの修道院に由来する都市が生まれた。ギリシア文明やローマ史などの伝承は修道院で書き写され、ローマ教会に受け継がれた。

    イギリスは、ローマの分割統治にならって、植民地のインドに対して徹底した分断統治を行い、インド人たちを競わせて統治した。

    ヨーロッパでは中世になると奴隷制は消えていったが、北アメリカに入植した後のアメリカ人はそれを復活させて200年以上続けた。彼らは、ギリシア、ローマなどの古代国家を理想とし、政治システムの模範とした。

    中国の五経は、周の優れた文明が滅びるのを惜しんだ孔子が編纂して残したもの。マックス・ウェーバーは、官僚制を合理的にとらえたが、個人の自由意思は抑圧されやすくなり、人間が組織や生産体制に従属させられる隷従の檻となる危険性を指摘した。

  • 人類3000年の歴史において、様々な国家が入れ替わりながら世界を制覇した。まずはローマ帝国。大航海時代には海軍力を持つスペイン・オランダ。産業革命を成し遂げたイギリス。そして、現在はアメリカであり、その後継候補に中国・日本。

    これらの国々がどうして世界のナンバーワンとなり、その後衰退したのかという歴史を学ぶことで見えてくる国家のあり方を2人の学者が論じる。

    簡単に言ってしまえば、世界を制するのは軍事力であり、それを支えるために経済力や国民力、社会保障がある。崇高な理念とか、高度な文明とかも結構だが、それがケンカの強さに結びつかない国家は発展しないということだ。だから原発だって核武装だって必要だ。と、強く主張するのが渡部先生。その理論はわかりやすく、その通りだと思うんだけど、軍事力に過剰に反応する日本では大きな声で言えない。そこで、古代ローマ史を専門とする本村氏と組み、「歴史に学ぶ」というオブラートに包んでやんわりと主張。

    過激論者として有名な渡部先生的にはこの本の組み立てには、非常に満足しているんじゃないか。

  • 古代ローマ、中世スペイン、近世オランダ、近世イギリス、現代アメリカ、現代中国などから国家の盛衰の条件を読み解こうとする一冊。

    「賢きものは歴史に学び、愚かなものは経験に学ぶ」というが、過去の歴史に学ぶことによって、今後の日本の方針が見えてくると考えには共感した。

  • 序章 国家繁栄と覇権の条件
    第一章 ローマ
    第二章 スペイン、オランダ
    第三章 イギリス
    第四章 アメリカ
    第五章 中国
    第六章 日本

  • ■2015/11/12 読了
    ■あらすじ
    ローマ、スペイン、オランダ、イギリスの国家の盛衰、アメリカ、中国、日本の現状を簡潔に知ることができる。
    ■コメント
    やや右に偏った話が出てくるが、過去の大国の歴史を知ることができた。
    ローマ帝国の歴史は興味が尽きない。

  • 東洋史、特に日本近現代史に関する多数の著作を持つ渡部氏と、古代ローマ史の専門家・本村氏の対談を元にした、国家の盛衰論。

    歴史上の「覇権国家」、ローマ、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカが、なぜ覇権を握り、なぜ手放していくことになったかを簡潔に語っている。
    この点については対談なので、深い考察があるわけではないが、元より深く深く歴史に精通し研究した二人が話すのだから土台は確かなもの。余分なものをそぎ落とした分かりやすさがある。

    本書の特徴でかつ違和感を感じた点は、覇権国家の盛衰を説いた後、中国は覇権国家たりえないと斥けたうえで
    「では日本は今後どうするか?」との問いを立てているところである。
    まさか本気で今後日本が世界の覇権国家になれるとは思ってはいないのだろうけど、お二人とも本気で、少なくとも「日本が世界情勢において無視できない強国の立場を今後も維持してほしい」と思っていそうなのが、不可思議だった。
    これが高度経済成長期を経験している世代と若手世代のギャップか。

    これは私と著者らの価値観の違いというだけの話なので、本の良し悪しではないのだが、4章後半以降の論調にはどうもしっくりこなかった。

  • 対談を聞いてるような感じで、読みやすかった。
    ちょっと最後の方は極端な気もしたけど、そんな考え方もあるのかなと受け止めておいた。

  • スペインやオランダやイギリスの覇権の推移がどのようにして起こったら、理解できた。

  • 今までに覇権をとった帝国(ローマ、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカ、中国)の特徴が、日本との比較で解説されています。各帝国の盛衰がコンパクトに纏められていて、何冊もの本を一度に読んだ感じが得られる、お得感が大きい本でした。

    序章では、国家繁栄と覇権の条件が解説されていますが、基本は、軍事力と経済力のバランスのようですね。この本の著者の一人である渡部氏によれば、日本の特徴であり強みは、天皇家が3000年にも亘って、多くの書物・建造物などとともに残っている点です。

    日本の天皇家については、今後も興味をもって勉強していきたいテーマにしたいと感じました。

    以下は気になったポイントです。

    ・軍事力と経済力は覇権国家を支える車の両輪と言える。(p28)

    ・奴隷は、現代の石油や石炭に匹敵するエネルギーだったが、中世になると奴隷制は消えた。それを大規模に復活させたのは、1600年代にイギリスからバージニア植民地に入植した、のちにアメリカ人と言われる人でアフリカから輸入した。1865年に廃止されるまで200年続いた。奴隷人口は400万人(1860)に達した(p34)

    ・ローマ帝国の奴隷制は、300年以上も続いた。新たな奴隷を獲得せずに確保できたのは、捨て子を奴隷にした可能性もある(p38)

    ・文化大革命(1966-1977)で行った「批林批孔運動」で、孔子と儒教を徹底的に排撃したにも拘わらず、今では、中華民族の先祖は孔子だ、と共産党は言っている(p42)

    ・中国の省は、昔からあったと考えがちだが、実はモンゴル民族が元朝の時代にはじめて設けた制度である(p46)

    ・日本が衰退をたどり始めたのは、ミッドウェー海戦(1942)に始まり、続く、マリアナ沖・レイテ沖海戦の二つの敗北で決定的になった(p75)

    ・ローマ帝国の「分割して統治」は、都市国家AとBの間
    に条約を結ばせず、ローマとA、ローマとBというように個々に条約を締結した(p77)

    ・ローマが長期的に反映した背景には、ローマ人の敬虔さと真面目さ、分割統治、寛容な精神(敗戦将軍の名誉守る)などがあるが、法の前の平等が特に重要である(p82、88)

    ・ローマ軍を最強軍団に変えたのは、執政官マリウスが、農民中心の徴兵制から志願制へ転換してから(p85)

    ・ローマ帝国滅亡の内的要因の一つとして、キリスト教の拡大・台頭がある(p115)

    ・広大な植民地を経営したスペインは貿易では成功しなかった。同時代のオランダ、ポルトガル、のちのイギリスのほうがはるかに優れていた。(p126)

    ・オランダの海軍力を叩き潰したのは、1381-1696にかけて9回も制定された、イギリスの航海条例である。イギリス本国と植民地には、外国船を入れない、イギリス人乗組員が半数を占める等の条件(p137)

    ・イギリスのエリザベス1世は、私掠免許を海賊たちに与え、スペイン船やオランダ船に略奪行為を働いて、奪った金品が国家財政をささえた(p138)

    ・スペイン衰退の理由は多くあるが、真犯人は1480年から始まった宗教政策で、イスラム教徒を追い出し、ユダヤ教徒を迫害したこと(p141)

    ・イギリスの三角貿易とは、欧州から武器・雑貨をアフリカに輸出、それと交換にえた奴隷を、アメリカ大陸や西インド諸島に送り込み、そこから砂糖・綿花・タバコ

    ・コーヒーを欧州に売り込んだ。これにより、工業立国という表の顔と、奴隷貿易国の裏の顔を持った(p155)

    ・ロンドン市の人口に占める白人の割合は、2011年において10年前と比較して13ポイント下がって45%となった、市の人口は100万人増えているので外国生まれの住民が急増している(p178)

    ・イギリスは、マレー沖(1941)・セイロン沖(1942)海戦で日本に敗れて、自信を失った(p181)

    ・建国当初のアメリカは、ローマやギリシアの影響を受けて奴隷制度を復活させたが、中世に発生した騎士道の影響は見れない(p187)

    ・ローマに奴隷制が生まれたのは、征服戦争で多くの属州を獲得したため、土地と労働力が結びついた。アメリカは領土拡大にともない、戦争捕虜のかわりにアフリカから奴隷を求めた(p189)

    ・第二次世界大戦において、イギリスは植民地をほとんど失った、終戦時のシナには中国軍に勝利していた100万人の日本軍がいた。ソ連も経済的に停滞して、結果的にはアメリカの独り勝ち(p192)

    ・今から70年前に、日本とアメリカは空母を集めた機動部隊で、軍事作戦を展開できる能力を持っていた。史上最大の機動部隊どうしの海戦であるマリアナ沖海戦、現代に至るまで史上最大の海戦といわれるレイテ沖海戦を繰り広げた(p196)

    ・アメリカは鉄道敷設により莫大な対外債務を抱えていたが、スペインとの米西戦争、フィリピンとの米比戦争を経て、更には、第一次世界大戦で対外債務を一掃して債権国へ転化した(p200)

    ・アメリカが1930年に成立させた「スムート・ホーリー法」は、約2万品目の関税を平均50%も引き上げるもので、欧州諸国に大打撃を与えた(p202)

    ・ドル紙幣の発行はアメリカ政府が決めるが、その時に新たに刷る紙幣に見合った額の国債を発行し、FRBが国債を引き受ける形で紙幣を刷る。FRBは国債の利子を受けとれるので、その利益は配当という形で還流される(p208)

    ・中国を治めるには、ひとつの国や王朝では難しい。四川料理圏、北京料理圏、広東料理圏、上海料理圏など、中華料理の数でわけたら良いのではないか(p251)

    ・戸口と呼ばれる中国の戸籍制度は、1950年に制定。農村戸口(6割以上、収入は7分の1)と、城市戸口があり、社会生活や社会待遇で大きな差がある(p252)

    2014年10月5日作成

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著者プロフィール

上智大学名誉教授。英語学、言語学専攻。1930年、山形県鶴岡市生まれ。1955年、上智大学大学院修士課程修了後、ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学へ留学。ミュンスター大学における学位論文「英文法史」で発生期の英文法に関する研究を発表。ミュンスター大学より、1958年に哲学博士号(Dr.Phil.)、1994年に名誉哲学博士号(Dr.Phil.h.c.)を授与される。文明、歴史批評の分野でも幅広い活動を行ない、ベストセラーとなった『知的生活の技術』をはじめ、『日本そして日本人』『日本史から見た日本人』『アメリカ史の真実(監修)』など多数の著作、監修がある。2017年4月、逝去。

「2022年 『60歳からの人生を楽しむ技術〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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