- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396338107
作品紹介・あらすじ
「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な“徴”に気づき、徐々に惹かれていく…。様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。
感想・レビュー・書評
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『ほかならぬ人へ』
華麗なる一族の中で「生まれそこなった」と思っている、宇津木明生。先祖は巨大財閥で、父は大学教授、母は大病院の創業家の長女、伯父は宇津木製薬グループの社長である。長兄も次兄も成績優秀で大学の研究者。
ところが、明生だけが、小学校時代から成績が振るわなかったが、先祖が日大の前身の学校の創立者であったという縁で、日大の附属中学から日大へ進み、大手スポーツ用品メーカー、YAMATOに就職した。側から見れば「大企業に就職した」と言えるのだが、普通のサラリーマンになったのは宇津木家では初めてだった。
明生は兄達のように優秀でなくてもおおらかな家族に包まれ、優しく何不自由なく、育ったのだが、彼自身にとっては華麗なる一族である実家での暮らしは劣等感と悔しさと無念さに苛まされた暗黒時代であった。
「普通に暮らしたい」ということが夢であった明生が結婚相手に選んだのは池袋のキャバクラで出会った「ブクロのミキティ」と呼ばれた元キャバクラ嬢のなずなだった。いくら、華麗なる一族が重かったとしても、客観的に見れば、そんな結婚は上手くいかないことが一目瞭然。案の定、なずなには二年で裏切られた。それでも、納得出来ず、なずなと、話し合おう、やり直そう、とする明生。ストレスでげっそり痩せて。本当にお坊ちゃんだなあ…。けれど、人を信じて真っ直ぐな所は本当に育ちの良さが感じられて、そういう真っ直ぐなところは案外偉大な先祖から受け継いだ魅力なのかもと思った。
そんな時、明生の相談に乗ってくれたのが、会社の上司である東海さん。相当なブスらしいが、仕事はバリバリ出来る人。なずなとの離婚で打ちひしがれている明生に適度な距離を保ちながらも親身になってくれ、突き放しながらも甘えさせてくれた。なぜ、東海さんがそんな人であったかというと、離婚、自身の癌、中絶、前の夫の死などを経験し、「自分なんか死ねば良かった」と一度は考えた人であったから。
誰からもブサイクと言われた東海さんだったが、明生は東海さんのことをブスだと思ったことはなかった。その理由は東海さんの放つ匂いだった。
明生が一年間の中国研修に行っている間に東海さんは癌が再発し、入院した。そして「退院したら一緒に暮らしませんか」と明生はプロポーズした。退院後、二人は結婚し、それから東海さんは仕事も家事も全力投球で生き、二年後、癌が再再発して、亡くなった。
付箋を付けた箇所はいくつかあるのだが、いちばん響いたのは次の箇所
「やがてこの部屋にしみついた彼女の匂いも少しずつ薄れ、いずれは完全に消えてしまうに違いない。 自分はもう二度とあの匂いを嗅ぐことはできないのだ…」
『かけがえのない人へ』
みはるは聖司との結婚を控えているが、会社の元上司の黒木と浮気を続けている。
みはるは電線や通信ケーブルを製造する会社の創業者の孫で、現在は社長の娘。小児科医の母に似て頭が良いがあまり美人ではない。会社員としてバリバリ仕事をし、結婚は一つのキャリアとしか考えていない。会社の幹部であり、みはるの家とも釣り合いのとれた婚約者である、聖司のことは嫌いではないが、心の底では「あんな男どうでも良い」と思っている。経済的には恵まれていたが不仲であった両親を見て育ったので、結婚に夢を抱いていなかった。
一方、浮気相手の黒木は、施設で育ち、大学も中退したが、バイト中に正社員に抜擢され、会社の中で目覚ましい業績を上げてきた雑草のような男。「自分はまっとうに生きられない」と信じている黒木にみはるは訳も分からず手繰り寄せられる。
みはるの父が愛人の家で心臓発作を起こし、母親の病院に担ぎこまれた日はみはるの誕生日だった。婚約者の聖司を会った後、どうしても黒木と会いたくなり、突然黒木のマンションを訪ねた。前もって行くと連絡していなかったのに、誕生日には婚約者と過ごすことが分かっていただろうに、黒木の部屋の冷蔵庫からは「Happy Birthday Miharu」と書かれたケーキが出てきた。「どうして用意してくれてたの?」と聞くと「習慣だから」と。毎年、もしかして誕生日にみはるが来るかもしれないと思い用意してくれていたのだった。荒々しくオスの匂い放つ男だが、そういうところに愛を感じてしまう。
結婚式前日にもこっそり黒木に会いにいく、みはる。そんなみはるに気付いていない聖司にみはるはいらついている。そして、知っているのに知らないふりをしているのだったらサイテーだと思っている。だけど、黒木のマンションはもぬけの殻だった。
作者の白石一文さんの考えの根底には「(お金や才能や恵まれた境遇を)持っている人が幸せとは限らない」というのがあるらしい。「持っている」といえば、白石氏自身もある意味「持っている人」で、お父様も直木賞作家。双子の弟さんも作家で、白石氏は文芸春秋の天才編集者だったらしい。
さすがだなと思った。最近はやりのほっこりするする小説や多様性小説、元気の出る小説………。これを読んだ後ではもの足りなく感じられると思う。大人の小説。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
損得とか、利害とか、打算とか、そんな事は考えない。純愛からの ほかならぬ人との結付を追い求める人達がいる。
申し分のない結婚間近に、昔の男とよりを戻した女性。男の本能の部分を知っても、離れる事はできない、かけがいのない人。
困ったなあ。たぶん、2作共、無垢の愛みたいなものを読ませるんだろうけれど、主人公達の設定が、家柄とか資産とか、充分な設定で、それだけ恵まれているんだったら、純愛でも不純にも、生きれるんだろうねえと、気持ちが入らなかった。 -
「恋愛」って、ドキドキしてキュンとして切なくて・・・って単純に思うけど案外それはホンモノではないのかもと思わされた一冊。
読み進めるほど、自然に馴染むように共にいられる人ほど自分にとってのホンモノなんだと思わされる。
結末に関してはどちらもちょっとつらすぎて。初めから素直な自分で出会えてたのならもう少しだけ運命もかわったのかも。 -
人間関係の複雑さと迷い
男と女、恋と愛、結婚と離婚、そして死別など人生にはそれぞれの出会いの選択と別れの選択がある。結婚相手となれば悩まない訳がない、だが「本当にこの人で良いだろうか」は自分自身が決めるしかない。他人の一言や、一時的で気休め的な判断は後々後悔する事は間違いない、だが、それがベストだと誰も言えないのだ。「一大決心」は全て自分が決めることで自分が全て招いていることを忘れてはならない。 -
久しぶりに再読してみました。
愛とはままならないもの、手に入らない?
辛い恋愛ばかり〜
こんなだった?
純粋な恋愛小説もたまにはいいものだわ。
読んでて悲しかった
みんな不幸、しあわせになるのは難しい
福岡の作者で
この作品ではないけど、やたら知ってる場所天神とかいろいろでてきて身近に感じてた。
親も直木賞、親子二代の直木賞作家!
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内容が暴走してる感じがした。ありえない感じというか極端な設定の登場人物。
唯一、再婚相手の女性は普通なイメージだけどあとの人たちはかなり変わり者だったなぁ。特に胸を打つ感じもなく終わりはあっさりでだったイメージ。男性の描く恋愛だからかわからないけど、じょせいがかく恋愛の話よりも男性の描く恋愛って淡々としてるんだよね。 -
2作目などは所々飛ばして読み進めてしまうくらいに面白い!とは思えなかったものの、心の片隅をくすぐるような感触を残してくれて、読後は色々と考えさせられた。
編集者の解説が尚良。
「こういう自分でありたい」「自分をこう変えていきたい」というものではなく、「ありのままの自分」が心地良くいられて、その姿が自然で、「今の自分で〇」と思える相手と出会える事が「幸せ」なのだろう。
自分と近しい感性を持った人と出会い、どんな形であれ一生を共に出来たら、それはもうこの上なく幸せな事だと思う。 -
白石 一文は、日本の小説家。父は直木賞作家の白石一郎。双子の弟は小説家の白石文郎。2010年「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞。
親子で直木賞だけあって、文体は素晴らしく、読み応えがあり、展開も早く、吸い込まれそうに読み応えある。
NHKのドラマ「一億円のさようなら」の原作者。
1.「ほかならぬ」とはどういう意味ですか?
ほかの人ではない。 まさにその人である。 特別な関係にある。 ほかならぬ。)
「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な“徴”に気づき、徐々に惹かれていく…。様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。
2. 「かけがえのない人」というのはこの上なく大切な人ってことですね。