入らずの森

  • 祥伝社
3.45
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本棚登録 : 98
感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396633134

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読んだ作者の本。
    しっかりした文章なので読んでいてホッとした。
    ただ、この話はあまり面白くなかった。

    物語の舞台は平家落人の伝説が残る、高知と愛媛の県境の町。
    そこで暮らす何人かの人々を主な登場人物として描いた、ちょっとホラー味のある話になっている。
    その主な登場人物は、
    町の中学校教諭の若い男性。
    親元から離れ、この町で暮らす祖母の元に身を寄せた女子中学生。
    スーパーを早期退職し、この町で暮らす事にした夫婦。
    認知症の母親の介護をする女性。

    中学校教諭の男性は、オリンピック選手になれるほどの陸上選手だったにも関わらず、一人の男の悪意により、その夢を絶たれ、現在この山合の町で教師をしている。
    彼はこの町で以前、陰惨な事件が起きていた事を知り、それに粘菌が関わっている事を知る。

    親元から離れ祖母と住む女子中学生はこの山合の町で暮らすことで、都会で暮らしていた頃の自分を客観視する。
    彼女は同級生の男子が自分の家の屋根裏であるはずのない異空間の部屋を見つけたという事を知る。
    その部屋には幼い少女がいた。

    人間関係の問題でスーパーをやめ、町で暮らす事にした男性は田舎ののどかな暮らしを夢見ていたが、それもある農民の男によって壊される。
    彼は理不尽な怒りを移住してきた男性に向け、攻撃する。
    やがて、それに耐えられなくなった彼はー。

    親の介護をする女性は母親の体に度々傷がある事に気づく。
    それはある介護の女性にされたものだという疑いがもたげてきて事を明らかにするかどうか彼女は苦しむ。

    最初は全く関係ないバラバラの話が粘菌という、人の負の感情に住みつく生物によりひとつになる。

    こういう話では、謎の生物というのが全く架空なものやただの化け物というものというのが多く、小説の中の出来事だな~と思うけど、ここでは粘菌という実在するもの、有名な細菌学者の名前を出す事でリアルな恐怖が感じられた。
    個人的に、この粘菌が存在するという森やら木が生い茂る場所というのはいつも歩いている場所なので、実際歩いているとこういうのってあってもおかしくないと思えるのが恐いな・・・と思った。
    平家落人の墓が分からないままに踏まれて、その相手の思念が憑りつくなんて、本当にありそうだし・・・。
    ホラー味としては薄いけれど、それ以外の心情とかはちゃんと書いていて、他の部分も落ち着いて読める文章だった。

    この物語の粘菌といのは人の負の感情に乗っかって、その思いを抱いた人間にとりつくという設定だけど、ちょっと、それじゃ憑りつかれた人間は救われないな・・・と思った。
    移住してきた男性の事を思うと・・・。
    心の弱さにつけこまれた・・・という訳だけど、その人間をそこまで追いつめたどす黒い人間にこそ憑りついてほしかった。
    人を攻撃した人間は結局、理不尽に人に嫌がらせをして、自分の思い通りの結果になって・・・これじゃ救われない。
    私だって、中学校教師や移住の男性のような事をされたら普通に腹が立つし、相手が憎いし、呪いたくなる。
    そんな思いをいだくのは良くないと思っても・・・。
    結局、心の弱い人間は淘汰されるってことか・・・とため息が出た。

    どす黒い思いを抱いて山道を歩く事もあるので、せいぜい憑りつかれないようにしようと思った。
    もう既に憑りつかれてるのかも・・・。

  • 『粘菌ホラー』これでもかというくらい、粘菌のまがまがしい色彩と粘っこさを表現しています。 
    いくつかの無関係に見えるエピソードのピースが後半にぴたっとはまるのが小気味よい。 
    モンスターホラーというよりも、登場人物のひとり「Iターンの松岡隆夫」が徐々に壊れていくのが圧巻。 これだけを追っていっても一読の価値ありです。 

  • るんびにの子供を読んで同じ作者のものを選んだ。久しぶりに陰にこもった日本的な怪奇譚を読んだ。人の念は怖いものだ。たしかに妬みや恨みは人を滅ぼす。鬱蒼とした森の中の粘ついた生き物が頭にこびりつき気持ち悪い。杏奈のダメージGジャンのくだりは私も泣き笑いした。アツ先生の魂にも感動。全体的に構成が上手いなぁと思う話でした。

  • 「不入森」に潜む怨念が動き出すとき、囚われた人の狂気と、それを絶つ黒い水...世界観が「蟲師」に似ているホラー。
    怪異を通して人のこころの闇を浮き彫りにするあたりがおもしろい。
    もうちと深みがあると良かったかも。

  • 山や森の湿度感や、伝奇ホラーな感じ、、、このみ。

  • 事故で選手生命を絶たれ、中学教師となった金沢圭介が赴任した先は来年三月で廃校となる尾峨中学校。
    愛媛と高知の県境、山の中にある小さな中学校に東京から吉田杏奈が転校してくる。
    金髪で前の学校の制服を着る彼女はこの田舎では異質だ。
    そしてもう一人、都会での人間関係に嫌気がさして早期退職し、Iターンで就農した松岡隆夫。
    この無関係な3人が「入らずの森」で交錯したとき、なにかが蠢きはじめた・・・。

    初めての作家さん。
    圭介、杏奈、松岡、そしてもうひとり痴呆の母を看護するルリ子の多視点で話が進みます。
    尾峨の三人はわかるのですが、なぜルリ子?と思いながら読み進めました。
    そしてこれらが繋がってくるあたり、一気読みでした。

    一見ホラーとみせかけて、これを科学的に説明してくれるところがとても好みでした。
    いや、まあ不思議はあるんですけど。
    伏線の回収もうまく、あれがここに繋がってくるか!という驚きを楽しませていただきました。
    過去の猟奇殺人事件の犯人の最後や山の民のその後などなど。全て納得!

    それにしても農村の人間関係がリアルで・・・。
    やっぱり面倒くさいなぁ、と思いましたね。
    どこまでいってもおんなじですよね。

    そういえば南方熊楠といえば、鳥飼さんの『異界』を思い出すのですが、ここでもアレをさして「異界」という表現がみられました。
    やっぱりアレを知る人は同じ感想をもつのでしょうか。
    リアルで見てみたいです。

  • 擬態語というか擬音語というか、そこ頑張ってました。
    こういう世界を表現するのって、伝え方ひとつ。
    マンガ「蟲師」は読めばその世界観がすんなり伝わる。
    この作品はそこがちょっと…。
    地元愛媛の作家さんだけに応援したいですけど。

  • 090612

  • 県の境目にある村。
    そこに赴任している先生、親の離婚でやってきた生徒
    Iターンで住み込んだ夫婦。
    この3つが軸になって話が進んでいきます。

    ごく普通の、よくある村のいざこざや人懐っこさや
    人を排斥する、そんな地域の話かと思いきや…。
    よくよく見れば、表紙もそんな感じでした。
    普通から、じわりと普通ではない世界へと進んでいくのですが
    そこを想像してしまうとちょっと怖いです。
    むしろ、そんなものに遭遇したら、ダッシュで逃げさせていただきます(笑)

    夜読んでも大丈夫! な怖さでした。

著者プロフィール

(うさみ・まこと)1957年、愛媛県生まれ。2007年、『るんびにの子供』でデビュー。2017年に『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞。2020年、『ボニン浄土』で第23回大藪春彦賞候補に、『展望塔のラプンツェル』で第33回山本周五郎賞候補に選ばれる。2021年『黒鳥の湖』がWOWOWでテレビドラマ化。著書には他に『熟れた月』『骨を弔う』『羊は安らかに草を食み』『子供は怖い夢を見る』『月の光の届く距離』『夢伝い』『ドラゴンズ・タン』などがある。

「2023年 『逆転のバラッド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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