もう二度と食べたくないあまいもの

著者 :
  • 祥伝社
2.83
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本棚登録 : 464
感想 : 80
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396633387

作品紹介・あらすじ

気がつかないふりをしていた。もう愛していないこと。もう愛されていないこと。直木賞作家が美しくも儚い恋の終わりを描いた傑作。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの「甘い」とは裏腹な、
    離婚や不倫、そして恋の終焉をテーマにしたほろ苦い後味の短編集。


    いやぁ~、やっぱ肌に合うなぁ~(笑)
    井上荒野の恋愛短編は甘すぎないのがいいし、
    平凡な恋愛ものでも
    70年代のロードムービーみたく
    どこかざらついた質感と不穏な空気感があって
    やはりキレ味抜群。


    ではでは、例によって印象に残った話のあらすじを。

    彼氏の部屋で見つけた元カノからの手紙に、
    次第に翻弄されていく女子大生千穂を描いた
    切なさいっぱいの逸品
    『手紙』、

    マンモス団地内でストーンズの「ルビー・チューズデイ」のテーマ曲に乗ってカレーの移動販売をする男。
    団地内の奥さんを物色してはすぐに関係を持ってしまう主人公の男がなぜか魅力的で引き込まれた
    『奥さん』、

    入社二年目の女性編集者、皆子は
    先輩の男性社員の谷を昔飼っていた犬に似ているし、面白みがない男と評してバカにしていたが次第に…
    始まってもいないのに、終わってしまった恋が悲しい。
    主人公の女性は恋だったと気づいていないフリをしてたのかな…
    『自伝』、

    夫の元部下に恋してしまった女性の揺れ動く心情描写が本当に秀逸。登場人物の会話がすべて「犬」から始まる仕掛けも面白い
    『犬』、


    など、恋愛の揺らぎが幾重にもたくしこまれ、
    ひとり海の底にいるようなせつなさをくれる全10編。

    タイトルの「あまいもの」が指すのは
    恋であり、恋情であり、
    恋をすることでもたらされる甘やかな気持ちや揺れ動く心のこと。

    ほとんどが恋する人との別れを描いているので
    このタイトルは本当に秀逸だと思う。
    そして別れを描いていながら、
    失うということがもたらす
    始まりの物語でもあるのだろう。
    (しかし、「もう恋なんてしない!」と思ってても、止められないんよなぁ~甘いものの誘惑は…)


    しかし、毎度毎度、巧みな文章書くなぁ~、この人は(笑)

    本書の短編『手紙』に顕著な
    「ああ~、自分はフラれるんや…」ってある日気づいた時から別れを切り出されるまでの
    あのイヤ~な感じ(悶々とした心模様や動揺した行動)を書くのがとにかく上手い。
    恋や愛がゆっくりと死に絶えていく様を
    主人公の心理描写を丁寧に積み重ねながら
    読む者に提示していく。
    ままならない恋に苦悩したことのある人であれば
    主人公に自分を重ねずにはいられないだろう。

    そして、人間の曖昧なところを曖昧なまま書きたいから恋愛小説を選んでいるという井上さんだけに、
    人間の心の揺れを丁寧に紡いでいく筆致には本当に脱帽です。
    (逆に言うと曖昧なまま終わる話が多いので、明確な答えを物語に求めてしまう人には本書は合わないかも)


    いつか ふたりになるためのひとり
    やがて ひとりになるためのふたり
    (浅井和代)

    どんな男と女にもいつかひとりになるときがくる。
    別れは悲しいけれど、
    恋愛という甘い蜜は
    1人でいたんじゃ分からないことを
    苦い傷をもって教えてくれたり、
    気付かせてくれる。


    違うから好きになるのに、違うから届かない
    恋の不思議とままならなさを
    切なく描いたビタースウィートな短編集です。

    • フーミンさん
      円軌道の外さん、こんにちわ。
      いつも、沢山のいいねをありがとうございます。私なんかのレビューを読んで下さって恐縮しまくりです......(...
      円軌道の外さん、こんにちわ。
      いつも、沢山のいいねをありがとうございます。私なんかのレビューを読んで下さって恐縮しまくりです......((((*。_。)
      しかしさすが円軌道の外さんです!井上荒野さんはすごく好き嫌いが分かれる作家さんだとは思うのですが、私は大好きなんですよね。その彼女の良さを素晴らしい表現で語ってらっしゃって、感激しまくりです!尊敬します(ර⍵ර)✧
      これからも円軌道の外さんのレビューは楽しみにしてます。
      2015/09/23
  • ブクログのレビューを覗いてみて、評価が低めなのがびっくり。私はこの一冊まるごとすごく好きでした。

    短編って少ない文字数でストーリーが作られるので、何か物足りなかったりするんですがこの作品はすべてが濃厚で胸が熱くなりました。
    短編でこんなに充実した読後感を味わえるのはなかなか無いように思います。

    男と女の少しアクがある関係。好き嫌いが分かれるのかもしれませんね。

    幽霊/手紙/奥さん/自伝/犬/金/朗読会/オークション/裸婦/古本

  • 恋の終わり。それに気づく瞬間。何かが終わっても日常生活は続いていく。終らせることができず、色々に塗り固めて続けてしまうこともある。ハッピーエンドの物語も、その一時を切り取った日々の途中で、その先にはまたどんな終わりがあるかもわからないよね。終わることより、終わらせられないことの方が辛いのかもしれない。さみしかった…。

  • 恋が収束していく様、想いが断ち切れていく様ばかりが詰まった短編小説です。
    失恋だったり想いが実らず終わるバッドエンドのお話って気が滅入りそうなものだけど、この本ではどれもなぜか後味がすっきり毒味がなくて、休みの日に自然と朝日と共に目覚められたような清々しさがありました。
    世の中に沢山の人が溢れている中、素敵だなと思う人と同じ気持ちになれて、結ばれるなんてすごく素敵なことで、きっとハッピーエンドなんだろうけど、現実はそれでめでたしめでたし、なんかじゃなくてその先もずっとさらさらと2人の間に時間は積もっていく。
    ハッピーエンドのその先で、2人がこれからも同じ方向を向いていけるかなんて愚問だし、寄り添う期間が積もれば積もるほど、相手の嫌やツボが手に取るようにわかって、溝を生まないように、不機嫌を生まないように、言いたいことを飲み込むことも日常になるのかもしれない。
    結ばれた瞬間の幸せを反芻して、好きな人が好きだった人に変わるのを見て見ぬふりをするのと、幕引きをする努力をするの、どっちが自分にとっていいんだろう、幸せになれるんだろう。
    目を細めながら、輝いていたはずのあの時を思い出せる本です。

  • 愛のゆるやかな終わりは甘く切なくときに残酷。愛されていないのもつらいし、愛していないと気づくのもつらい。泣きはらして終わるばかりが愛や恋ではないのよね。って、しみじみと。

  • 図書館にてタイトルと装丁に惹かれ手にとってみた。初井上荒野さん。
    男女の終わりの物語。

    タイトルが全て。

  • 十篇から成る短篇集。

    クッキングスクールを営む女性と過去の不倫。
    女子大生と倦怠気味の恋。
    団地妻たちとカレー屋の昼下がりの情事。
    ライターと、昔飼っていた犬に似ている上司。
    夫とその部下と犬。
    妻子に捨てられた男と、夫に捨てられた女。
    人妻と不倫と、朗読会の進化。
    引越しをするカップル。
    古本好きの男と、その同僚の妻を名乗る女。

    恋が、あるいは唐突に、あるいは予定調和に、あるいは始まる前に終わりを告げる物語。
    読みやすいといえば読みやすいんだけど、やっぱり短篇集って苦手だ~。入り込めないまま終わってしまうし、後であんまり残らないんだよなぁ……
    文章自体は読みやすかったと思うので、日常の「切ない一瞬」を切り取った話が好きな方にはおすすめ。

  • 大人の情事、というのだろうか。
    傍から見ると少し奇妙な心の動きと行動をする男女を描いた短篇が収められている。
    息子を連れて沖縄に赴任中の妻の浮気調査の見積を探偵社に取り続ける男、団地の「奥さん」と手当たり次第に関係をもつ男、別れた夫の家族と一緒に新しい恋人を連れて避暑をする女。
    なんとなく手触りの嫌な、でも不快まではいかない、井上荒野らしい独特の印象が残る。

  • 2019 9/16

  • 2019/05/27予約
    途中挫折

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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