パレートの誤算

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634490

感想・レビュー・書評

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  • 生活保護費受給をめぐって巻き起こる事件。
    ケースワーカーとして働く聡美は
    尊敬する先輩・山川の突然の死を不審に思い
    同僚の小野寺と共に警察とは別に独自調査を始めます。

    ケースワーカーは、受給者の就職活動の進み具合や
    生活上の問題を聞いて回って記録するのが仕事。
    中には生活保護費を受け取ってすぐパチンコに出かけたり
    酒を買いに走るアルコール依存症もいます。
    でも、真剣に自立を考え一生懸命頑張っていても
    生計が成り立たずに困っている人がほとんど。
    社会的生活弱者にとって最後の砦なのです。

    先輩の山川が訪問先のアパートで焼死体として発見され、
    ここで現れるのが警部補の若林。
    上から目線で不遜な態度をとる刑事ですが、
    実は 保身よりも事件解決を優先させる頼もしい存在。
    聡美、小野寺、若林の三人が
    それぞれのやり方で事件解決に向かいます。

    事件の解明が進むにつれて、背後に暴力団の影が見え隠れし
    このあたりで、柚月氏の描写が妙に生き生きとしてきます。
    「警察 vs 暴力団」となると活気づくあたり、
    このあと発表になる「孤狼の血」シリーズの予兆を感じます。

    「パレードの法則」という80対20の法則があるのだとか。
    これは、全体の二割の要素が約八割を生み出しているという法則。
    たとえば、経済だったら
    全体の二割程度の高額所得者が社会全体の八割の所得を占め
    マーケティングなら
    二割の商品が八割の売り上げを作る、というもの。

    若林刑事が聡美に話したのは「働きアリの法則」。
    蟻の集団を観察すると一定数のよく働く蟻と働かない蟻がいる。
    そこで働かない蟻を取り除くと、
    よく働く蟻だけの集団の中から二割程度の働かない蟻が出現したという法則。
    役に立たない人間はいつの世もいなくならない と言いたかったのか。

    そして、この作品のタイトルは「パレードの誤算」。
    聡美が読む冊子の中に紹介された寄稿文のタイトルです。
    生活保護を受けて育った若者の前向きな寄稿文は
    力にならないとされる八割を限りなくゼロにしたいと訴え
    そのために自分はケースワーカーになりたいという文で結ばれます。

    生活保護と不正受給という難しいテーマを扱いながらも、
    作者の目は温かく、希望の余地を残しながら物語が閉じられます。
    世の中、そんなに簡単でも美しくもないかもしれませんが
    希望が見える方向に目を向けたいな…と思います。

  • どんなものにも抜け穴があるんだなと思いました。そしてそれを悪用する。どうにかならないのか…。

    仕事で市役所の生活保護を担当している人とたまに関わる事があります。
    この本を読んでその人達の見方が変りました。とても大変な仕事をしているんだなあと感心してしまいました。

    聡美と小野寺が優秀なケースワーカーになりますように。

  • 世の中にはいろいろな法則があるが、そのひとつに働き蟻の法則というものがある  という一文からはじまっていた。「この法則は、百匹の蟻いれば、ある一定数ありはよく働き、ある一定数の蟻は全く働かないというものだ。働かない蟻を除外して、働く蟻だけを集めたとしても、そのなからやはり働かずに怠ける蟻が発生する、というものだ。ほかにも、パレートの法則というものがあり、ある事象のニ割が、全体の八割を担っているというものだ。なかには、ニ割以外のものは全体に影響を与えない    いなくてもいい存在だと考える人さえいるかもしれない。

  • 結局、堕落者はいなくならないってことだ──

    生活保護受給者のケアを担当することになった、牧野聡美。
    敬遠されがちなケースワーカーという職務に不安を抱く中、先輩の山川は「やりがいのある仕事だ」と聡美を励ます。

    しかしその日の午後、生活保護受給者の自宅の訪問から帰ってこない山川を不審に思い、訪問先を訪れると、アパートから火災があった。
    そこで山川の撲殺死体がみつかる。

    ———-

    受給者、ケースワーカー、役人…
    警察すらも怪しく見えてくるこのストーリー展開にゾッとする。
    裏にヤクザが絡んでいる、生活保護受給者と医師との癒着も発覚するなど、これって実際日本でも起きている事件じゃないの?と考えさせられる内容でもあった。

    ———-

    犯人はいつもそばにいる、の典型的パターンを見てしまった。
    優しそうに見える描写をそのまま信じたらダメ、サスペンスではそのイメージを最後に覆してくるんだよと。

    それで何人もの作家に騙されて、あー、またやられた!となっているのだが、純粋に作品を楽しむ1つの方法と考えるようにしよう。

  • 社会福祉課の聡美は、前任者の不審死から、生保者の裏でヤクザによる貧困ビジネスを知る。不正を正す為調査に赴く。

  • 生活保護の不正受給がらみの事件の真相を追う。主人公の一生懸命さをまだまだ青いなと感じつつ、テンポ良く進む物語を読了。若林刑事も好感を持ててよかった

  • 当代きっての社会派ミステリの書き手、柚月裕子さんの作品。市の社会福祉課の臨時職員が、生活保護費の不正受給に絡む殺人事件に巻き込まれる。そこは柚月作品、当然ヤクザ屋さんも背後に見え隠れして…。小ぶりではあるが、さすがに手堅い。ぐいぐいと最後まで読ませてくれる。
    タイトルにもなっている「パレートの法則」は、物語全体のキーワードでもある。柚月さんは本書で、「人間は、法則や数式で成り立っているものでない」と喝破する。実は最近、この法則について書かれたあるエッセイを読んだ。そのとき感じた違和感や気持ち悪さは、そういうことかと納得させられた。

  • 生活保護の不正受給は度々事件記事で目にした。最近はあまりないのかな?と思っていたけど、もっと凶悪悪質な事件に撒かれてしまっているのか。
    初めから山川さんを疑ってかかって、柚月裕子さんの思う壺にハマってしまった。小野寺だって疑ったし。終盤のハラハラとか…だから柚月裕子さんはやめられない。

    柚月裕子さんのこの本と、中山七里さんの「護られなかった者たちへ」とを読むと、生活保護制度が必要な人に有効に生かす事がいかに難しいか勉強になった。

  • 生活保護受給者のお話。
    最後の方は気になって一気読み!!読み進めていくうちにいろんな人が疑わしくなってきてまさかあの人が?!?みたいなことも。
    不正受給なくなることを願う(ーー;)

  • 意外に評価が低いけど、わたしは良い作品だと思った。どんでん返しは無いけど生活保護にスポットを当てて、意図しないセクションに就いた新進の女性を語り手にして貧困ビジネスなど影の部分を炙り出しながらも同僚男性と使命感に目覚めて行く過程がなかなか良かった。わたしの身近にも生活保護の立場に居る人々が居るので他人事と思えずに読了しました(^^) 過日読んだ「信長の原理」と同じ法則が出てきたので少し驚いたけど。多分お二人の作家さんは偶然に使用されたのでしょうね♪

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著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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