感情8号線

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著者 : 畑野智美
  • 祥伝社 (2015年10月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634803

感情8号線の感想・レビュー・書評

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  • 敢えて、冒頭ではなく最終節より───

    「見合いしろ、見合い」
     そう言って、公太君は電話を切ってしまう。
     しつこくかけなくても、また会うだろう。
     二子玉川にある瀬田交差点を通りすぎ、上野毛の駅前を通りすぎる。もうすぐ田園調布に着く。
     家に帰ったら、母にもお見合いはしないとはっきり言おう。
     恋愛する相手は、自分で決める。(270P)
    ──────


    人間誰しも内に秘めた感情というものがある。
    泣きたいけど、笑ったり。
    怒りたいけど、何気ないようにごまかしたり。
    口に出したいけど、黙っていたり。

    感情をそのままぶつけたり、他人に態度で表したりすると
    正常な社会生活を送ることができなくなる。

    ぼくが高校の頃見たのだから、もう40年以上前になるが、
    「それぞれの秋」というテレビドラマがあった。
    註:WIKIで調べたら下記のように記載されていた。
    (1973年9月6日から同年12月13日までTBS系列の木曜22:00 - 22:56(木下恵介・人間の歌シリーズ)で放映されたテレビドラマである。第6回テレビ大賞本賞受賞作品、第11回ギャラクシー賞受賞作品。)

    家族の物語で、父親役の小林桂樹が突然脳の病気にかかってしまう。
    頭の中で感じたことを全てそのまま言葉にしてしまい、
    同時に感情や態度として表してしまうという厄介な病気だった。
    ちょっと思ったことでもすぐ口にして、感情を露わにするので、
    その父親と、母親、息子、娘との関係は荒んだものになっていく。

    たとえば、どんなに仲の良い友達であっても「嫌なことを言うなあ」とふと感じる瞬間が誰にでもあるだろう。
    普通の人間はそう思っても心の中にしまっておく。
    友達との関係性を壊したくないという感情が先に働くからだ。
    それをいきなり怒鳴りたてるように口走ったらどうなるか?
    すぐに険悪な雰囲気になり、友情にひびが入るのは間違いない。

    当時そのドラマを見たぼくは、「人というのは、感情をそのまま言葉にしてしまうと、他人との関係なんて成り立たなくなるんだ」とあらためて思ったものだ。

    この作品は東京の幹線道路である“環状八号線”になぞらえ、その沿線に在る「荻窪」「八幡山」「千歳船橋」「二子玉川」「上野毛」「田園調布」に住む女性六人の恋愛にまつわる“感情”の揺れ、起伏といったものを見事に描写している。

    静岡から役者になるため上京し、餃子屋でバイトしている真希。
    インテリアショップでバイトをし、彼と同棲している絵梨。
    思い描いていた通りの新婚生活を送っているはずの亜美。
    社内結婚で専業主婦となり、二人の子供を持つ芙美。
    容姿に恵まれ、キャリアウーマンとして仕事も有能な里奈。
    他人が羨むような裕福な家に育ち、お嬢様として育てられた麻夕。

    それぞれ立場は異なるが、彼女たちの心の中を、恋人や夫、友人、家族に対する、焦り、苛立ち、不満、不安、等の様々な感情が駆け巡る。
    彼女ら六人は色々なところで接点を持ち、結び付いている。

    初出を見ると「Feel Love」だったり「小説NON」だったりと本来は微妙に異なる短編のはずだと思うのだが、この六篇が見事にリンクし重なり合い、一つの完成された作品となっている。最初から落としどころを定めていたかのように。

    しかも第一章の「荻窪」から最終章の「田園調布」まで、北から南に下って行くに従い街の生活レベルが高くなっていくというのは実際その通りで、それに合わせた登場人物の設定という構成も見事だ。
    (そんなことを感じたので、敢えて冒頭部分ではなく最終節を引用してみた。これを読んでも、結末を知るとか、内容が分かるとか、そういうものとは一切無縁なはずなので)

    読み終わった時より、このレビューを書いているうちにあらためてその凄さに気付き、唸ってしまった。

    これほど素晴らしい連作短編で、かつ最後が締まっている作品を読んだのは、現在日本一の短編の名手である吉田修一氏の「日曜日たち」を読んで以来という気がする。
    註:あの作品は名作です。ずっと読み進めて来て最後の1P(最後の三行?)で突然涙が零れ落ちるという稀有な作品。未読の方は是非お読みください。<(_ _)>

    畑野智美さんの作品をこれまで何作か読ませてもらったが、不安に揺れ動く女性の心理描写もさることながら、章立ての構成をあらためて分析すると、この作品は出色のでき栄えであり、彼女の最高傑作ではないかと思う。
    お薦めです。

  • 畑野さんの本は初めて読みました。
    「王様のブランチ」で紹介されているのを見て以来、ずっと読みたと思っていた本。

    荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布に住む6人の女性たちの恋を描く連作短編集。

    畑野さんの他の作品もぜひ読んでみたい。

  • 『感情8号線』=環八。
    このタイトル、ぴったりですね。
    見事に混み合ってます。
    渋滞してます。
    スムーズに流れると思いきや、思わぬところでひっかかり…。
    あ~、なんでこうなっちゃうかなぁ…と言いたくなるような物語。

    ずっと読みたかった作家さんでした。
    荻窪・八幡山・千歳船橋・二子玉川・上野毛・田園調布
    それぞれの街のイメージに、各章の登場人物を照らし合わせて読んだんですが、
    逆に、彼女たち各々から街の雰囲気をイメージしても面白いかも…。
    いくらなんでもここまで混雑しないでしょ!と突っ込みながらも、
    この年頃の、微妙な感情の揺らぎや葛藤がリアルで楽しめました。
    ぜひ、他の作品も読んでみたいです。

  • 環状八号線沿いに住む、年齢も境遇も様々な女性達を描いた連作短編集。
    環状=感情とは、うまいタイトルだなぁ!と。かつて関東には住んでいたものの、車に乗らない生活だったので、環八といってもピンとこない。荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布。全て環八沿いとはいっても、電車だと乗り換えが必要。街の雰囲気もそれぞれ異なるから、鉄道路線沿いに比べて街の繋がりは薄いように感じる。そんな特徴を見事に作品に生かし、ヒロイン達のキャラ設定に反映させているのが面白いと思った。
    生活苦にあえぐ貧乏な舞台女優、恋人のDVに苦しむフリーター、夫の不倫に悩むセレブ主婦、新婚ブルーの社員、美しく有能ながらも、「独り」が怖いキャリア女性、舞台俳優に恋したお嬢様…。それぞれがじりじりとした不安に苛まれる。このうまくいかない感じが何ともリアル。読んでいてひっかかる…ざらっとした感じは畑野作品特有だなと思う。作品によっては不快な方に転じることもあるけれど、今回はギリギリの意地悪さ。それぞれのラストの「えっ!?」という仕掛け。色々想像させられちゃうところがまた、ニクイね畑野さん。連作短編という形式を存分に生かし、様々な角度から彼女らの日々を垣間見ることが出来たのもよかった。
    畑野作品を読むと、自分の心のブラックな部分に気付いてしまうときがある。まぁ、誰もがそんな面を持っているわけだしね。生きていく上では、そんなところもほどほどに肯定しながら目の前のことを受け入れていくことが必要なのかなと思えた。

  • 2016/2/10

    環状8号線沿いに住む人たちの連作短編集。
    土地勘があればもう少し楽しめたかな。田園調布から荻窪までバイトしに行くのがどれだけトンチンカンなことなのかピンとこない。

    前向きなようで、先が不安になる人たちもチラホラ。悪人は出てこないけれどみんながみんな善人なわけでもない。人生もハッピーエンドばかりではないもんね。他の作品も読んでみたい。

  • 環状八号線沿いに住む女性たちの連作短編。
    語り手や周りのひとたちが少しずつつながっています。

    この感じ、好き。

    それぞれの語り手が抱える思いや悩みは、共感できるものが多くて。完全に一致するキャラはいなかったけど、ちょっとずつわかるなーってところがあった。

    千歳船橋の亜実と上野毛の里奈に結構共感しました。

    描かれているのは、恋愛や夢や夫婦生活、日常の断片だけど、こういうのがやっぱり好き。

  • どうしてこんなにみんなすれ違ってしまうのだろう。狭い世界で繋がりある人間関係の中でごちゃごちゃされたら気持ちはこんがらがってしまう。
    幸せ求めてぐるぐるまわってるみたい。
    男の人がズルいと思いつつ里奈がうんと不幸になればいいと考えてしまう私も悪の気持ちを抱えているのかも。

  • 環八沿線の街とそこに住む女たちの話。生活環境と雰囲気が確かに違う、って改めて思った。メモ。
    (1)二十三歳というのは恋愛の状況が一番ばらつく年齢の気がする。高校を卒業したら、彼氏彼女がいるのが当然の様になる。そこから徐々にばらついていく。一人とじっくり付き合っている人もいれば、片思いをこじらせてよく分からなくなっている人もいる。
    (2)結婚相手で美人で料理が出来るって重要?条件じゃないからな。

  • 【あらすじ】
    荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布はすべて環状八号線沿いにある街。直線距離では近いけれど、電車で行くのは不便だ。 同じ道沿いだけれど、街の雰囲気も住む人の生活レベルも全然違っている。もちろんそれぞれの悩みも……。すぐそこに幸せはあるはず。なのに、どうして遠回りしてしまうのだろう。環状八号線に住む人々のリアルで切ない恋物語。

    【感想】

  • 最近当たりの短編集が続いてる♪
    環八の街々を舞台に、それぞれの街に住むお年頃の女子の恋愛模様を描いている。
    夢だけで暮らしてる子も、お金持ちの子も、一見幸せそうな子も…-恋愛っつーのはみんな平等に悩ましい案件なのでR!

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