- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784406050869
感想・レビュー・書評
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格差社会について物申す内容なのだが、そこに言語学者から見た人間の成長のようなものが織り交ぜられていて、その部分に興味を強く持った。
人間は「空気を読む」事によって言葉を初期段階では獲得する。自分がやろうとしている事は禁止や抑制の対象になるかどうかを、周囲の人間の反応を見ながら判断するようになる。これが「空気を読む」事の始まり。周囲の人間に見捨てられない為に0歳児は全身全霊で集中し、やってはいけない事を記憶に刻み込んでいく。〈エピソード記憶〉が「空気を読む」事と言葉を習得する事の前提になる。
0歳児が接するのは周囲の大人達にケアされる際に発せられる慈愛に満ちた言葉か、禁止と制止の為の槍のように鋭く突き刺さる言葉の2種類。しかし周囲の大人達はそれとは全く異なった言葉、すなわちお互いの意思を通じさせ合う、所謂コミュニュケーションの為の言葉を使っています。0歳児から見れば、それはもう魔法のような事です。自分の中には渦巻くような表現したい欲望があるのに「オギャー」としか泣けない。けれども周囲の人間達はお互い特別な声をそれぞれの場で出し合って何だかとても良く分かり合っているようだ。言葉を大人のように発する事は、0歳児にとってみればその大人達の中で生き延びていく最大の憧れの手段に映る。
1歳児で〈エピソード記憶〉に基づき周囲の人間達がかつてやっていたと同じ場面状況の中で、同じ音声を発してみる訳です。「バイバイ」と言って手を振ってみて「わぁ!できたね」と大喜びで周囲の大人達が受け入れてくれた時に子供は認められたと思って、その時の口や口唇や喉の動かし方を〈手続き記憶〉として記憶し、次にも反復してみる訳です。
→全くその通りだと思う。語学に接し、乳児の言葉の獲得を間近で見ていると、その貪欲さに驚く。
言葉を発して周囲の人々に受け入れられるという事が人間になる、社会化するという事。つまり「空気を読む」能力はその人の社会化する能力そのもの。だから「空気が読めない」というのはその人の人間としての全ての経験を否定する言葉になる。
親と子の間ではこの世界にある様々な情報がやり取りされ、子供はそこから生きるために必要な知恵や感情を身につけていく。それを表現するのが言葉。やがて子供はその言葉を使って他者に働きかける様になる。こうしたプロセスの中に生じる個別性が子供の人格に反映される。親子の間に交わされる無数の言葉1つ1つによって子供が生きる力を獲得していく。親が子供に対してどういう言葉を使うのか(つまりどういう関係を結ぶのか)責任は非常に重い。
身近な他者に受け入れられ、承認されてきた経験が、自分に対する信頼と信用からくる自信を作り、自己肯定感に繋がる。だから大人が子供を受け入れて、優しく承認していく事は子供の未来にとって大事な事なんですね!
「意欲の貧困」…意欲の出発点は人が人と人の間でお互いに相手を評価し、受け入れ、一緒にいることが気持ちいいという人間社会を巡る原点にある詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書の前半は職場、家庭、学校などでよく見られる理不尽な言葉、状況に対して正論かつ論理的に痛快な反撃を行い、とても読み応えがあった.
後半部分は、格差社会に対する筆者の思想的主張が主体.
行き過ぎた競争社会がさらなる貧困をもたらすことは理解できる.しかし、著者が主張する社会制度の主人公は貧困層=無実の被害者である.平等に重きを置きすぎており、著者が理想とする平等主義が持つ副作用についてはあまり触れられていないと感じた.
企業、政府の構造改革・規制緩和が諸悪の根源として語られているが、その単調なストーリーだけで物語を紡ぐと視野狭窄に陥る危険性があるのではないか。