暮らし視点の経済学: 経済、財政、生活の再建のために

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  • 新日本出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784406055086

感想・レビュー・書評

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  • 日本の経済状態は安全なのか否か、多くの本を読めば読むほどわからなくなります。

    国債発行残高(対GDP比)が欧米国比較で大きいので危ないとは理解できるのですが、どの程度であれば健全なのか、その財源をどのように調達すれば良いのかについてまで明確に解説してある本が私の読んだ中では見当たらなかったので、この本は参考になりました。

    著者が「あとがき」で述べているように、原稿執筆中に震災が起きて、本の出版まで苦労されたようです。日本の経済状態についての解説を、2007年から振り返って、各々の内閣下で実施された内容を解説されています。山家氏の労作を数時間で吸収できるなんて、読書って本当に素晴らしいと感じました。

    以下は気になったポイントです。

    ・電気は蓄えることができないので、電気の供給不足による停電を起こさないようにするには、電気が最も使われる時間帯(8月後半の午後)に、その時の需要量を賄える供給力をもっていなければならない(p19)

    ・2009年秋の新政権は、数か月で見事に変質した、国民生活第一から成長第一へ(p34)

    ・小泉内閣時に景気が落ち込んだのは、不良債権処理の促進政策によるものが大きい(p43)

    ・不況と財政悪化では一致しているが、インフレと国際収支悪化という条件が異なる日本で、米英ニュージーランドがとった新自由主義的政策をとったのが間違い(p46)

    ・サラリーマン世帯の月収は、戦後は1997年がピーク(60万円)から2007年には53万円と苦しくなった(p54)

    ・景気回復があって、その下で不良債権が減ってきたのが歴史的事実(p60)

    ・橋本内閣は1997年に9兆円の国民負担増(消費税率アップ、社会保障制度改革)及び4兆円の公共投資圧縮を行って景気が悪化した(p63)

    ・小渕内閣下で有効な政策は、1)公的資金を金融機関へ注入、信用保証協会の特別保証枠を拡大、2)所得減税と公共投資拡大(財政政策)(p64)

    ・2003年から設備投資が戻ってきたが、家計の成長への寄与が見られないのが、1995年ころの景気回復とは異なる(p71)

    ・小泉内閣が不良債権を処理しろと言ったのは、生きるか死ぬか頑張っている企業に対する債権(p75)

    ・不良債権を処理しても残高はむしろ増えた、不良債権が入れ替わったから(p83)

    ・証券は、リスクから遠い人にどんどんリスクを押し付けることによって金融自体を拡大する(p97)

    ・2007年と1997年を比較すると、収入・支出ともに10%程度減少していて生活水準は下がっている(p105)

    ・2010年末の対外証券投資残高は273兆円、40%強(113兆円)はアメリカドル、政府保有の外貨準備(89兆円)はかなりの部分がドル建て債で保有されている(p112)

    ・1990年半ばまでは、財政支出(公共投資)であれ、景気が良くなれば賃金の上昇を通して消費が増える構造であった(p115)

    ・消費は総需要の50%で、輸出の3倍強、消費の1%増加は輸出の3%落ち込みをカバーできる(p144)

    ・民主党はマニフェストで掲げたもので先送りしたものとして、後期高齢者医療制度の廃止、最低賃金の大幅引き上げ、介護労働者の賃金引上げ、登録型派遣の原則禁止等(p151)

    ・純借金残高GDP比較でみると、1996年当時はもっとも良かった(p183)

    ・自治体を含む政府部門全体のバランスシートは、970兆円の資産、1019兆円の負債で、49兆円の資産不足(p185)

    ・資金調達でさけるべきものは、1)公務員の人件費圧縮、2)日本銀行引き受けで国債発行、3)消費税の増税(p191)

    ・国内余剰資金が251兆円というのは、世界一の貸金国、二位は中国(167)、以下ドイツ(114)等(p200)

    ・2000年末の日本国の対外純資産は133兆円、その後、積み増し(182)目減り(64)の結果、2010年末は251兆円となった(p200)

    ・所得金額が1臆面までは所得税負担率は上昇(26.5%)するが、それ以上は下がる(100億円だと14.9%)、配当所得、株式譲渡所得は10%なので(P210)

    ・所得税は所得が減ったときは税負担も減る、暮らしにやさしい税金だが、消費税は所得が減っても消費は落とせないので、暮らしに厳しい税である(P213)

    2011年12月31日作成

著者プロフィール

山家悠紀夫(やんべ・ゆきお)
現在、暮らしと経済研究室主宰。一九四〇年、愛媛県生まれ。
一九六四年、神戸大学経済学部卒業、第一銀行入行。第一勧業銀行調査部長、第一勧銀総合研究所常務理事調査本部長、同専務理事、神戸大学大学院経済学研究科教授を歴任。
著書『偽りの危機 本物の危機』『日本経済 気掛かりな未来』(以上、東洋経済新報社)『「構造改革」という幻想』(岩波書店)『景気とは何だろうか』(岩波新書)『「痛み」はもうたくさんだ!』(かもがわ出版)

「2008年 『日本経済 見捨てられる私たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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