彼方の友へ

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著者 : 伊吹有喜
  • 実業之日本社 (2017年11月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408537160

彼方の友への感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしかった、とにかく素晴らしくて素晴らしくてしばらくは言葉にならなかったです。
    溢れる涙をぬぐいもせず、ひたすら読みました。
    読み終わった後、この涙の意味はなんだろう、と考えてました。悲しいとかうれしいとか感動したとか悔しいとか。そういう「ことば」を全て超えた、これは多分、命の涙なんだと、そう思いました。
    たとえば、人は本がなくても生きてはいけます。でも、人生に、自分のそばに本があればその人生は何倍も何十倍も豊かになります。言葉を読み、絵を眺めるだけでなく、それを手に取り胸に抱きその世界に浸る時間、その全てが私たちの命の源となるのですね。あぁ、生きるって素晴らしい。

    有賀主筆は私の祖父より少し年上で、波津子は祖母より少し年下。つまりこれは私の祖父母が懸命に生き抜いた時代の物語でした。
    美しいものにうっとりとする乙女たち。雑誌の小さなイラストを切り抜き丁寧に紙に貼り自分だけのノートを作る。その時間と心の豊かさ。
    父親の外套をほどいて娘たちのコートを作る。カーテンをリボンにし、毛布をスカートにする。そういう生活の(今とはちがう)豊かさ。
    言葉を丁寧に話すこと。気に入らない上司であってもウイットに富んだニックネームに様をつけて呼ぶ品の良さ。
    そんな豊かで美しい時代が、戦争という狂気によって踏みにじられていく。悲しい。悲しくて苦しくて悔しくて。
    美しいものを美しいと言えること、好きなものを好きだと言えること、そんな当たり前の幸せを私たちはもう少し大切にしなければならないのでは。
    もう二度とこんな哀しい思いをする乙女を生まないために考えなければならないのでは。
    有賀主筆の孤高の信念、純司様の優しさと美意識、波津子の泥臭いけれど地に足着いた豊かさ、そんなたくさんの宝を私たちは守っていかねばならぬのですね。
    この世に生きる全ての友へ、私も一冊の本を届けて生きたい。元乙女として、いや、今も心に乙女を抱いて生きる一人の書店員として。
    あぁ、もどかしい。この想いをどう伝えればいいのか。うまい言葉が浮かびませんワ。
    ただ、一言言えるのは、この物語は宝です。この世界の光となり人を導く宝デス。

  • 1969年生まれ、伊吹有喜さん「彼方(かなた)の友へ」、2017.11発行です。大作です。力作です。感動しました。直木賞ではないかと期待しています。昭和12年から昭和20年までを主たる時代背景にし、「乙女の友」という雑誌の編集に関わる人たちを描いた作品です。佐倉ハツと有賀憲一郎の愛の物語です。

  • 想いを伝えるということ、想いを込めてブレることなく継続していくということ。そこには自らの意志だけでは動かせない事案を手を取り合って支えていく仲間がいるということでもある。

    『乙女の友』その名の通り、全国の少女たちに夢や憧れを発信している雑誌。幼馴染みからこっそりと手渡される試し刷りの付録のカードはいつだってハツの傍らにあった。「フローラ・ゲーム」なるカードセットは物語の中でも関わるひとびとを動かしている。
    ハツ(波津子)が恋してやまない『乙女の友』の編集部で働き始めた昭和12年から20年の終戦まで、波津子が体験したひとつひとつに一喜一憂する。
    思春期の羞恥心、卑下、自己嫌悪。一方で若さからの突っ走りや突然の行動にオトナを唖然とさせたり。仄かな想いだって、ある。

    初めは邪険にしていた有賀主筆は波津子を一人前の編集者に育てあげ、去って行った。遠い遠いところへ。

    有賀主筆が担げる「友へ、最上のものを」。戦時下でモノもなく華美さを責められる少女たちへ、僅かばかりでも出来得る限りの心の豊かさはちゃんと「友」へ届いていたはず。だからこその美しき付録の数々が生まれていたのだから。


    戦争は大事にしていたものことを奪っていった。
    でも遺るものも、ある。
    ひとが生きている、生きていこうと決めた時から、もう次の世界が始まっている。
    懸命に遺してきたから時代は変わっても見劣りしない。

    この1冊を誰に手渡そうか。
    お気に入りの包装紙かな、それとも手作りのカバーをつけようかな。

  • 戦前から全国の少女たちの憧れだった「乙女の友」、その編集部で働くことになった貧しい少女のシンデレラ・ストーリイ。

    簡単に言ってしまえばそうなのだけれど、でもこの小説はそれだけでは終わらない。
    物語の柱に、戦中の統制の厳しさにも屈せず「最上のものを」求めて雑誌作りを続ける人たちの信念があるからだ。美や夢は人の生きる糧である、という信念。その揺るぎなさは、どんな花やリボンよりも美しい。

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