フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ

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  • 人文書院 (2017年2月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409241158

フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データの感想・レビュー・書評

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  • 年間被ばく量20ミリシーベルト以下となった区域は順次避難解除。
    おかしいのではないかと思う。20ミリシーベルトと言うのは、福島
    第一原子力発電所の事故後の非常事態時に引き上げたままで
    はないか?

    通常は年間1ミリシーベルトのはずである。この数値にしても自民党
    の丸川珠代センセイは環境大臣当時に「科学的根拠がない」と無知
    な発言をしていたが。丸川センセイ、避難解除される区域に住んで
    くれないだろうか。

    殊更、危険や不安を煽る気はさらさらない。しかし、それでも思うの
    だ。「除染したので大丈夫です。年間20ミリシーベルト以下になりまし
    た」と言われ、「はい、そうですか」と住民全員が帰還するだろうか。

    山林は除染しない。これは国の決定だ。居住地域は除染したから
    それで安全と言い切れるのか。水は、風は、どこから来る?山林
    からではないのか。

    除染されないままの土から木は栄養を摂り、枯れ落ちた葉が落ちて
    腐葉土となり、また養分として木全体に行き渡る。そして、山に降った
    雨は沢を流れ、川を流れ、海に注ぐ。

    素人の私でも考え付くことなのだけれど、国は原発事故の被害を
    どうしても小さくしたいようだ。

    それは本書が取り上げている健康被害に対しても同じだ。唯一の
    データとして参照されているチェルノブイリ原発事故の被災地での
    データだが、元の報告書から恣意的に抽出されたデータだとしたら
    どうだろうか。

    本書ではチェルノブイリ原発事故の被災地で行われている健康診断
    で得られたデータが、いかに歪められて日本に伝わり、それを根拠と
    して「被曝との因果関係は不明」と片づけられている事実を掘り出し
    ている。

    改めて愕然とする。チェルノブイリ・データの恣意的な抽出も勿論だが、
    誰も責任を取らないように進む、この国のシステムにだ。

    チェルノブイリ原発事故の際、「日本ではあんなことは起こらない」とし、
    深刻な原発事故を想定しなかったばかりか、健康被害に関しても因果
    関係不明ですべて済まそうとしている。

    小児甲状腺がんばかりが注目されているけれど、実際、ウクライナや
    ベラルーシ、ロシアでまとめられた報告書ではIAEAなどの国際機関が
    放射能が原因で起きるとしている疾患以外も増加傾向にあるではない
    か。

    被災地に住む人々に対して国が手厚い補償をすることを決めたチェル
    ノブイリ法。日本でも与野党の一部国会議員が同じような法律を作ろう
    としたが、出来上がってみれば原案からは程遠く骨抜きにされた内容で
    「子ども被災者支援法」が出来上がってしまった。

    福島第一原子力発電所の事故当時、すべてが混乱していた。だから、
    初期被曝の程度は不明だ。特に半減期が短いヨウ素131の被ばく量
    なんて計れていない。

    福島県内に留まらない。東北・関東の広い地域で高い放射線量を計測
    した場所もあった。チェルノブイリ原発事故に照らし合わせれば、放射性
    物質が飛散した可能性があるすべての地域を対象として、住民の健康
    診断を行うべきなのだろう。

    だが、この国は安全ばかりをアピールする。2020年東京オリンピック招致
    の為のスピーチで安倍晋三は何と言ったか。「汚染水は完全にコントロー
    ルされている」と言わなかったか。

    国の安全宣言を信じ、帰還した人々に後々健康被害が出たらどうなる
    のだろうか。きっと国は何もしない。「線量評価が出来ていない」と言って
    突っぱねるだけだろう。

    原子力発電所の建設は国策だったのはないか。ならば、重大事故が起き
    れば国が補償をするべきではないかと思うのだけれどね。

    チェルノブイリ原発事故の被災地では事故後に生まれた世代も放射能
    防護の勉強をしていると言う。道徳だとか、プログラミングだとか、英語
    だとかの授業をする前に、放射能に対して正しい知識を持たせるよう
    な授業が日本でも必要なのではないか。

    だって、日本は原発大国なのだから。正しく知って、正しく怖がる。とても
    必要なことだと思う。

  • 「自主避難者問題」を追い続ける毎日新聞記者の日野行介氏と、民主党政権期に「子ども・被災者支援法」の立法プロセスに関わった経験を持つ尾松亮氏との共著。章を追うごとに、共著者ふたりの〈共闘〉の深まりも見えてくる。

     一言で要約すれば、日本政府や福島県、その立場に立つ論者が「チェルノブイリでは……」と口にしたら眉に思いきりツバをつけましょう、ということ。広大なチェルノブイリ被災地のうちどこを念頭に置くのか、いつの・どの段階でのデータを持って来るのかで、比較の基準はまったく変わってしまう。にもかかわらず政府(経産省)と県(福島県立医大)は、記号としての「チェルノブイリ」を半ば恣意的に運用することで、その比較自体を無意味化無効化しようとしている。言い換えれば、「チェルノブイリでの経験を参照する」行為それ自体を抑圧しようとしている。

     以前からうすうす感じていたが、日本政府/官僚組織は、日本語の言説空間の閉鎖性を半ば意図的に活用することで――国外の/他言語の情報へのアクセスを限定し、フィルタリングすることで、日本語のメディアの場、思考の場を統制している。とりわけ、英語以外の言語にその傾向は顕著である。本書の尾松氏が、「これはロシア語使いの責任だ」と書くとき、英語以外の言語の話者が、日本国家にとって潜在的な敵対者となる可能性をはらんでいたことに心づかされた。ろくに英語さえ使えない私のような人間にとって、第二言語を駆使できる方々がおられなければ、情報アクセスは容易にコントロールされてしまうことになる。
     
     ひとつ救われたように思ったのは、第五章と最終章の尾松氏の文章が、放射能による健康リスクをじゅうぶん考えることと、その場所に居住することの双方を追究することは可能だ、と示唆している点だった。一方で「安全」論が声高に語られ、他方で過剰な「危険」論が口にされる。そのような構図があるから、「中立」を装い、その実巧妙に「安全」論に与していくような論者も出て来てしまう。核の健康被害リスクを積極的に学びつつ、なおそこで生きるという選択が許容されるためには、その他の選択と補償措置とが徹底されなければならない。日本政府や福島県には、ひとの健康、ひとの生命に対するそうした「覚悟」が欠けているような気がしてならない。「最後は金目」は、まさにそうした政治や官僚組織自身の発想を物語るコトバなのだ。

  •  原発が爆発した後、福島では子供に甲状腺ガンが多発している。これは誰もが認めざるを得ないが、福島県や現政権は、チェルノブイリ・データを引用しながら、原発爆発との因果関係を否定する。言い分はこうである。

    1 チェルノブイリで甲状腺ガンが増加したのは爆発の4~5年後である。従って、福島での現時点での甲状腺ガン増加は被曝のためとは考えにくい。
    2 チェルノブイリでは5才以下の層にガンが多発している。が、福島ではそうなっていないので、ガンが被曝のためとは考えにくい。
    3 被曝線量が、福島ではチェルノブイリより低い。従って、ガンが被曝のためとは考えにくい。

     本書は、この3つの主張の正当性に疑問を持った二人の著者が、あらためてチェルノブイリ・データを検討し直し、その正当性を検討した結果の報告である。二人の著者とは、原発爆発による被害者をtwitterで笑いものにしていた復興庁役人の正体が水野靖久参事官であることを暴き出した日野行介毎日新聞記者と、モスクワ大学大学院留学の経歴を持ち、ロシア語に堪能な尾松亮である。
     原発爆発という大惨事に際して、ほとんど唯一の前例としてチェルノブイリの被害状況を参考にする。それは当然であるが、問題はその資料の利用の仕方である。ロシア語の資料は英語で書かれたものほど流通度が高くはないし、英語で発表されたものに対するほど厳密にチェックはされない。尾松があらためて丹念に文献を検討し、上記3つの主張は誤りであること、鈴木愼一、山下俊一といった、福島県や国の意向に沿ってのみ発言する「学者」が、データの自分に都合のいい箇所をつまみ食いのように引用しながら、入念に練り上げた代物であることを、議論の余地なく証明している。詳しくは是非本書を読んでいただきたいが、例えば、1の主張について、甲状腺ガンは爆発2年後にはすでに増加している。4~5年後とは、その増加の割合が更に激しくなった時期であった。2・3では、「チェルノブイリでは」と一般化しているが、広大なチェルノブイリ被災地のどの地域を取り上げているのか言及しないところに巧妙な詐欺があった。
     チェルノブイリの資料からして、被害を小さく見せる思惑が根底にあるが、現政権は更にそれを歪曲して利用していた、この本はそれを明確に伝えている。今村復興大臣が失言、というより、本音を漏らしてしまって職を追われたのは記憶に新しいが、彼の言ったことがどれほど冷酷非道か、そして彼は、実は現政権の棄民政策を忠実に遂行しただけであることが、本書を読むと悲しくなるほどわかる。
     権力を持たない普通の人は、ひとたび惨事が起これば、その実際の危険性を隠し通せなくなって初めて一番最後に知らされ、そして一番最初に切り捨てられていく。国の主要な構成員である私たちは、それを肝に銘じてこの国や世界を見つめなければならない。私はこの本から、それを学んだ。

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フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データの作品紹介

この国が隠す「チェルノブイリの真実」とは?

福島原発事故後、多発が露見している甲状腺がん。だがこの国の為政者たちは、唯一の参照先である「チェルノブイリ・データ」を都合よく歪め、原発事故と健康被害の因果関係を否定する根拠として用いることで、強引に幕引きを図ろうとしている。気鋭のジャーナリストとロシア研究者が暴くこの国の暗部。

フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データはこんな本です

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