心理学と錬金術 (2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409330081

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  • 古典化学者にとって、錬金術とは「投影」という名の心的体験であったらしい。それもそのはず。我々は今日の化学現象を教育や研究の場を通して原理原則を学んでいるからこそ、結果に対して論理的に向き合える。しかし古典化学者にとっては、そういったバックグラウンドが無い。おそらく化学変化で想像もしない物質が出来た日には神の領域に入ったと思ったのではなかろうか。ならば宗教と切り離して考えられないし、心理学に通じるのも納得できる。

  • 第一部は、ある聡明な男性という、匿名の人物の夢についての考察が語られている。実はこれはユング自身の夢であってそれを自分で分析して第三者のごとく本にしたのだとのことだ。

    この夢の内容はことごとくわかり辛く、時代が百年ほど前の話であるし、私にはすんなり入ってこなないのと、前提として世界各国の神話や寓話、マンダラや錬金術の知識を必要とする話がなんの前置きもなく語られていて、何を言わんや?と私の頭は終始悩まされた。同時に丸っきり未開拓の分野の話で、新しい刺激を与えられたので、自分自身の内に存在していた知らないが荒れ野に入っていく感覚もあった。

    そして第二部に入りと、ユングが超人的な俯瞰力と直感力を用いて、第一部で長々と語っていた夢の内容と、外界との相関関係を思いきり語り始める。そして私にも前半何のための難解な夢分析の話であったかが映像のイメージのよう流れ込んできて、この本の意義がわかってきた。

    それは中世を跨いで何百年もの間に人々が探求した錬金術とはなんであったのかを現代人へ伝えるメッセンジャーとしてのユングの話だ。私はある意味ユングは神託を受けたのだとおもう。錬金術とは文字通り金や富を、生み出すものという意味であって不完全でお粗末な化学研究の出来損ない、そんな感じに勝手にイメージしていたがそうではなかった。

    よくよく考えてみれば、デカルトの二元論はこの二百年ほどの新しい概念だ。それを現代人は真であると無意識的に信じている。意味がわからなくてももう空気感で共有してしまっている。それは錬金術の求めていたものが何であったか?ということが、ユングがこの本の中で話してくれたお陰でなおさらハッキリしてきた。二元論とはつまり心の動き、精神の動きなどと、物質には関連はないという考え方だ。全く別の事象のことであり、もし誰かが関連していたら頭がおかしいと思われかねないのも、この二元論から来てるようにおもう。もし関連があったら確かにおかしいと私も思う。でもよくよく考えれば、関連がないと証明されてはいない。別々に割り切って観察すると合理的で様々に応用できるし、なにより不安感がなくなる。自然界で起こる頭を悩まされてきた現象が何であるか、何の疑問もなく解明できるしなにより不安や恐る必要がなくなるのだから使わない手はない。例えば雷や台風も全くの複雑ではあるが気象現象という物質界の出来ことに過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。
    いま当たり前の捉え方だけど、昔は違った。それは文明化、未発達の人類だったからともいえるが、現実として物質と精神との間に関連があったのだと錬金術士たちは本当に信じていたし、その関連を調べる事に没頭したのだという。祈りや儀式が今より力を持っていたともいえる。
    現代人としての常識から距離を置くと、なるほど分かる気がしてきくる。
    そして章を進めると、キリスト教と錬金術との関連、ここにユングの個人的な固執を感じさせられることろだか、キリスト教が洗練させるために削ぎ落としてゴミ箱行きになった錬金術的精神性について語っている。
    ユングは百年前の精神科医として、様々な患者と会い、その当時に既に何か失われてしまったものを、その人たちの中に見たのだとおもう。それが何かを追い求めたユングなりの結論が、失われた錬金術やキリスト教以前のグノーシス主義の文献に見つけたのだ。これは現代だと異端もしくはゴミ集積所行きの内容であると思うけど、およそ百年経ついまも現存しているし私も読んでる、ということは決してそうではないのだとおもう。同じく2010年に刊行されたユングの赤の書も結構評判がいいし、万人向けではないがこれからの世にも読まれていく本だろうと思う。

    そして個人としてこの本を貸してくれた恩師に感謝したい。

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