自分づくり―それぞれの“私"にある16の方法 (青春文庫) (青春文庫 え- 6)
- 青春出版社 (1996年12月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784413090667
感想・レビュー・書評
-
装幀とかはちょっと安っぽいかんじがするけど、中身は秀逸。遠藤周作さん、おもしろそうとは思いつつほとんど読めていないけど、かなりまっとうなバランス感覚を持ったひとやと思った。これから、もっと読んでいきたいなぁ。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
狐狸庵先生こと遠藤周作さんの『自分づくり』を読んだ。図書館のリサイクルコーナーにならんでいたものをもらったから価格はタダ。しかし、自分の琴線に触れる内容がてんこ盛りである。
以下、興味深い言葉を抜粋。
「人生というものは、実際の生活の中に隠されているものともいえるし、人生の上におおいかぶさっているともいえる。だから、人生は日常生活の中では非常に見えにくい。僕が生活と人生とは違うものだというのは、人の一生を考えるとき、この二つの視点が必要なのではないか、と思うからです。」
「生活の奥に人生があること、人生というものがときとして、いや、しばしば人間を高めるということは決して決して忘れないで欲しい。」
「(怒ることは)戦争に例えれば、兵站線が伸びきっていると勝負は負ける。だから、どこまで怒るかを絶えず自分の頭の中で考えておかなくちゃいけない。この、どこで撤退するか、矛を納めるかが重要なんです。」
「個性はそんなにたいしたものではなく、その人の価値、芸術の評価を決める重大要素にはなりえない。」
「人間なんて意外と単純なことで左右される部分があるのではないかとも思える。(痔の手術前のことでいえば)人間なんていうのは、毎日少量の出血のために人生観が変わってしまう。」
「誰もが意識で作り上げたものが自分だと錯覚している。ひどい奴になると、社会的な地位を自分の本質だと思っているアホがいる。」
「人間の心の中に無意識があると一番最初に指摘したのは仏教なんです。仏教では無意識のことを『阿頼耶識(あらやしき)という。“ラーヤ”というのは「溜める」ということ。・・・このように意識が沈澱し、溜まっているところに仏教では『阿頼耶識』と呼び、因果の法則が働く場所といっている。昔やったことが、あとで自分の心の中に作用することを因果の法則といいます。』
「ひとつのことを一生懸命やっているということは、最終的に無意識の力を活用することになるのです。」
「浪費ではなく、いい贅沢を知ることは、その人の心の余裕を生む。この余裕がなければ自然体にはなれない。だから、その余裕をこしらえなければならない。」
「人生なんてアホくさい、人間なんてこんなものだとシラけた気分で生きる。でも、人間がわかったような気でいるのは大けがのもと。」
「Xの力が働いて、何者かが筆を持って動かしてくれているような日がある。アンドレ・ジイドはこれを“悪魔の協力”といっています。」
フロイト、アドラー、アラン等々からの引用があるが、どうも河合隼雄先生のユング心理学の影響もあるような気がした。
ただそれ以上に、キリスト教信者であり、劣等生であるというコンプレックスと闘い、死の淵を歩くような手術を何度も経験された経験からの言葉であり、ユーモアの中に深い愛と人生の重みを感じた。
これはいい本だ。