いくつもの週末

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  • 世界文化社
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  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784418975280

作品紹介・あらすじ

私と夫の生活は、表面はともかく日々愛憎うずまいている。期待の新鋭作家が自らの結婚生活を綴った甘くてシビアな16編のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。

    日常というのは、いつかは忘れてしまう。だから書き留めておく。読み返すと、別の人の物語を読んでいるような気がして愉しい。

    江國さんの結婚生活は、幸福の糸と不幸の糸を交互に編むようなものだ。

    “いつもおなじひととごはんを食べるというのは素敵なことだ”
    “一人が二人になることで、全然ちがう目で世界をみられる”
    “二人はときどき途方もなく淋しい”

    毎日そんなことを考えながら過ごしていた江國さんのことを、わたしは少し身近に感じられるようになった。

    この本を初めて読んだ日から、5年が経っていた。

    p18
    私と夫は好きな音楽も好きな食べ物も、好きな映画も好きな本も好きな遊び方も全然ちがう。全然ちがってもかまわない、と思ってきたし、ちがう方が健全だとも思っているのだけれど、それでもときどき、一緒ならよかったのに、と思う。なにもかも一緒ならよかったのに。

    p30
    甘くて贅沢な、快楽を伴って口の中でとけるチョコレートは、男が女の心をとかすためのものだとしか思えないから。

    p41
    くっついているからこんなにかなしいおもいをするのだ。
    ほんとうに、しみじみとそう思う。そうして、それなのにどうしてもついくっついてしまうのだ。二人はときどき途方もなく淋しい(一人の孤独は気持ちがいいのに、二人の孤独はどうしてこうもぞっとするのだろう)。

    p42
    私たちは、いくつもの週末を一緒にすごして結婚した。いつも週末みたいな人生ならいいのに、と、心から思う。でも本当は知っているのだ。いつも週末だったら、私たちはまちがいなく木端微塵だ。

    p49
    いつもおなじひととごはんを食べるというのは素敵なことだ。ごはんの数だけ生活が積み重なっていく。

    p56
    誰かと生活を共有するときのディテイル、そのわずらわしさ、その豊かさ。一人が二人になることで、全然ちがう目で世界をみられるということ。

    p64
    私たちはあのころ別々の場所にいたけれど、いつも会ってはおなじ風景をみた。別々の場所にいたからこそ、と言ってもいいと思う。いま私たちはおなじ場所にいて、たいていちがう風景をみている。

    p66
    一緒にいなくても大丈夫だと思わせないで、と思う。

    p91
    新しい年がきて最初に顔をあわせるひとが夫だというのには憧れるけれど、新しい年がきて、最初に「会いたい」と思うひとが夫である方が、私には幸福に思える。夫に会いたくてせつなくなる朝が、一年に一度くらいは要ると思う。

    p156
    RELISHという単語がある。味わう、とか、おいしく食べる、という意味の動詞(名詞の場合は「味」「風味」「好み」)だけれど、この動詞は二種類の目的語をとる。食べ物と生活だ。I RELISHED THE CAKE.(そのケーキをおいしく食べた)でもいいし。SHE RELISHED HER NEW LIFE WITH A CAT.(彼女は猫と一緒の新しい生活をたのしんでいる)でもいい。生活というのは味わうものなのだ。RELISHは好きな単語だ。そんなふうに暮らしていたいなと思う。ケーキやアイスクリームを味わうように。

  • 当時の著者と同じ結婚2年目のわたし。
    独身の時にこれを読んでいたら、結婚ってなんて恐ろしいんだろうと慄いたと思う。今のわたしは、この甘美で少し不安定な結婚生活の模様を、とても共感して、愛しく思えるけど。

  • 何度目かの再読。
    いいなぁ、ほんと。
    江國作品で一番好きかも。
    容赦ないけど!

  • 終始、苦笑いしながら読み進めました。どこの夫婦も色々あるのだと思って安心します。

  • 何度読んだか忘れちゃったけれど、でも、かなり久しぶりに読んだ本。ここまでパワーを持った恋愛、夫婦関係を持ち合わせたことが無いので、普段から彼女が書いている本から得るパワーに納得、するのだけれど、面白いながらも、やっぱり他人事としてしか読むことができなくて、でもそれが自分事じゃないことに安心しながら読んだ本。

  • 誰かと暮らすことになったらまた読み返したい。

  • とても好き
    いまのわたしの主人への気持ち、結婚観と近く、
    わたしがうまく言葉に出来なかった安心感や寂寥感を
    美しい言葉で表現してくれた作品。き

  • 江國作品には、どうしようもなくメランコリックなのに、じんわりとした幸せに浸らせてくれるセンテンスが溢れています。
    江國作品を読むのは今回が初めてじゃないんですが、今作を読んで彼女の作風のカラーがようやくハッキリと見えた気がする←嬉しい

    “ここでの生活は、だいたいにおいて少しかなしく、だいたいにおいて穏やかに不幸だ。”

    “二人はときどき途方もなく淋しい。”

    “南の島で木っ端微塵。”

    “ささやかなものたちにその都度すくわれていかないと、とても愛を生き抜けない。”

    物悲しさの中に、確かに存在する幸せ。
    日常の中に埋もれた繊細な感情たちを、丁寧に拾い集めて、形容する言葉を一つ一つ丁寧に当てはめたような優しさあふれる作品です。

    内容そのものは、なんてことはない、結婚うん年目の妻のノロケ話なんですよ←←
    それがこんなふうに夢のように語られるんだから、やっぱり言葉を操る作家は偉大な仕事だー。

  • 江国さんの視点からの夫婦関係が面白い。
    不平不満を思いつつも旦那さんを愛している江国さんがとても愛しく思えて、二人の関係がとてもうらやましい。色々とあるけれど、結婚もいいものなのかもと思いました。
    江国さんの静かでどこか凛としたような世界観も広がっていて、エッセイだけれど、江国さん自身が小説の登場人物のようでした。

  • 江國さんのエッセイ。結婚というより夫と自分の関係について、でしょうか。
    お互いにいろんな独身のころの癖や積み上げを持ちながら、仕方がないねと認めて受け入れていく様子が微笑ましい。夫への想いもよく伝わってくる。
    依存することが悪くないと初めて知った。
    江國さんの文章は柔らかくてやっぱり好き。
    こんなふうに誰かと暮らしていくことが出来たらいと思う。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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