失楽園 (ジャンプスーパーコミックス)

著者 :
  • 創美社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784420137027

感想・レビュー・書評

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  • 74年から78年にかけての読み切り作品を集めた作品集。

    女の顔の模様を腹にもった巨大な鳥と宇宙船乗組員たちの不思議な邂逅を描いた「アダムの肋骨」は、以前どこかで読んだような気がする。ヴィジュアルのインパクトが強い作品だ。

    表題作品「失楽園」。過酷な生活を強いられている集団から一人の少年が抜け出し、幸せの沼にたどり着く。そのコミュニティの入り口には、一切の思考をやめてこの生活を享受せよ、という警句が書かれているが、少年はどうしてもその享楽的な生活になじめず、もと来た道を引き返す。

    「マンハッタンの黒船―アメリカ開国秘話」は全編明治維新のパロディー。アメリカには永世大統領が即位し、鎖国を決定する。100年後、日本艦隊が開国を迫りに来るが、永世大統領の正体は全国民のデータを集めることで政策を決定する、究極のデモクラシーコンピュータで、享楽的になった民衆はマンハッタンの中心でええじゃないか(ドンマイ)と叫び、踊り狂う。

    この2作品には、安保闘争の挫折の後、日本が高度な消費社会に移行していく70年代中頃の時代の雰囲気が表れていると思う。政治なんかよりももっと楽しいことがある、という風潮への反発・批判である。

    個人的には都庁職員が、首都直下型地震を鎮めるための人柱となる「召命」が面白かった。私はちょうど新都庁舎が建った頃に大学生で、友人と飲んだ後に、新都庁舎のあたりを散歩した記憶がある。旧都庁舎も丹下の設計で、今の東京フォーラムのあたりにあったらしい。舎内に飾ってあった岡本太郎作の陶板もこの作品には出てくる。岡本=丹下はその後、70年大阪万博でもお祭り広場でタッグを組んでいる。

    ところでこの作品集は岡本のみならず、ルネサンスから現代までアート作品のパロディーも随所にちりばめられている。全てが手描き、書き込みの多い重量感のある画風と相まって、いろんなものを刺激してくる作品集である。

  • かの天才のデビューってふか作『生物都市』凄すぎるオリジナルなので、選考委員会がネタ元を探したといふ、すごい作品。いやすごい(語彙)
    『アダムの肋骨』ナレーションが、ハーピーさんの星の視点なのだな。
    『失楽園』は、宮崎駿御大が、「諸星さんのあのポジションでこそ書ける作品」とか言って、羨ましがってゐた。
    そんでアレがナニして、と続くがいいや。
     『貞操号の遭難』苗床もの だよななんか。
     某作品、個人的に、太田道灌がふんぞり返る東京都庁は知らないのだが、なんか、呪術的なアレは諸星大二郎御大だとやっちゃって説得力出るよなーと思った。

  • 「生物都市」は良かった。それから「マンハッタンの黒船」が意外に面白かった(ギャグマンガとして)。

  • 失楽園、とAmazonでひいたらば、日本の誇る不倫文学、渡辺淳一御大の作品がずらっと。

    ここは、ではなくて、諸星大二郎。本作品は、あたしにとって諸星体験3作目。幻想的SFは、その70年代感をたっぷりはらんで効果的。「アダムの助骨」「詔命」表題作の「失楽園」は、ブラッドベリやどっかクトゥルーチックな匂い。宇宙への敬愛と恐怖、人間の卑小さが上手にミックスされている。初期の平井和正とか眉村卓、半村良の香りも・・うーん、古きよき、70年代。(書いていたらたまらなく読みたくなってきた、く~)


    しかしこの人、よくいえば本当に画風が安定してるんだね、デビュー作の生物都市も入っていたんだけど、あんま、今のそれとかわんない。悪く言えば進歩してない、とも?

    この人の絵をみて時々ものすごい古臭さを感じるのは、現代を描いていても洋服が70年代だからなんだけど、加えてなんかこの、あまりに画一的な平面感はなんなんだとおもっていて、ようやくわかった。この人、人間のサイジングに幅がまったくない。全員同じような身長と体躯、顔立ちも骨格レベルで似かよっている。だから女性にメイクしても、ほとんどかわんないんだ。ここまで、てのも珍しいけど、まあここまで徹底するからには理由もこだわりもあるんだろうな。

    ただ作品を読むに、すべて設定はあいまいにされている。特に日本、というのでもないし顔立ちはアジア系なんだけど見方によってはやや大陸系の感じも。・・・むー、フラットな人の描き分けのなさがむしろここでは、国籍、いやはや星籍までをもあいまいにすることに成功しているのか。ある意味この人の作品は、いつでも古い、という均等な現実からの距離感の創出という意味で、普遍性を保っているのかもしれない。

    人間から無理なく個性が奪い取られて1つの物語の記号あるいはコマとして動くとき、登場人物と言うフィルターはわれわれの眼前から剥ぎ取られ、唐突に作者の世界に埋没させられる。感じる違和感はおそらくは、現在の自分から現実が奪われて、作品に投入されかかっている証なんだろう。現代にあって現代にない、この人の画力はまさに、そこにあるのかもしれない。

  • 数え切れないけど何度目かの読了につき記事編集。
    ホラーの括りに入るのは民俗学ネタの「詔命」ぐらいで、他はSF。
    表題作は異世界(あるいは超未来の地球か?)の苦楽を描いた、
    人の価値観を問う佳品。
    決してキレイな絵ではないが(失礼☆)何度読んでも
    薄幸の少女ララの奇妙に艶めかしい表情にクラッと来る。

  • 「失楽園」というタイトルなのに、表題作は神曲のパロディー
    な、諸星大二郎の短編集。
    「生物都市」と、「男たちの風景」が退廃的でなんともいい。

  • ダンテをモチーフに、絵はさまざまな世界の名画の本歌取り。諸星の世界がここに。

著者プロフィール

1974年、「生物都市」で手塚賞入選。「週刊少年ジャンプ」で「妖怪ハンター」連載デビュー。民俗学、中国の古典、SF等を題材に、幅広い分野で活躍する漫画家。代表作に「暗黒神話」「マッドメン」「西遊妖猿伝」がある。その独創的な作風から、高い評価を受け、2000年に手塚治虫文化賞マンガ大賞、2014年に芸術選奨文部科学大臣賞、2018年に日本漫画家協会賞コミック部門大賞等、受賞歴は多い。ジャンルを越え、多くのクリエイターに影響を与えたとされる。

「2019年 『幻妖館にようこそ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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