齋藤孝が読む カーネギー『人を動かす』 (22歳からの社会人になる教室1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422101231

作品紹介・あらすじ

本書は、デール・カーネギーの世界的ベストセラー『人を動かす』を教育学者の齋藤孝が原著の流れに沿って読み解き、その意味するところをわかりやすく、深い共感をもって解説する。1937年の発売以来、今日までに1,500万部を売り上げた原著には、人を動かす原則、人に好かれる原則、人を説得する原則、人を変える原則など、人が生きていく上で身につけるべき人間関係を円滑にする様々な知識・知恵・技術が、豊富な事例をあげて説明されている。「いかに相手の身になって考え、行動できるか」が、すべての人間関係における原則であると説く彼の言葉は、全く色あせないばかりか、他人との交流に悩む人の多い現代にこそ響く。
 また本書では「22歳からの社会人になる教室」とシリーズ名を記しているように、これから実社会に出ていこうとしている若者を読者の中心に置いている。22歳というのは、世間的に見ても、もう大人だなというふうな年齢として扱われる。しかし、社会経験があまりないという点では、ちょっと子どもっぽいと言わざるを得ないところもあるからだ。一人前の大人になるために他人とどのように接したらよいのか、本書には著者自身のオリジナリティーに溢れた実践的ノウハウがふんだんにちりばめられている。読めば原著に込められたカーネギーの奥深く普遍的なメッセージに触れ、さらに齋藤教授による今日的な事例に対処する方法を学べ、今すべきことを客観的に判断する力がつく。若者に関わらず、全ての年代の人に、また職場や地域の人、家族や友人など、生活の様々の場にかかわる全ての人に役立つ必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • すぐ実践できる内容が多く、読みやすかった。反対意見を持つ人に、私があなただったら、やはりそう思います、と言ったら、交渉がうまく行った。和訳の原書も読もう。
    ーーー()内は私の考えた理解の道筋
    1.人を動かす原則
    ・人を責めない(人には色んな立場、着眼点があるので、自分に必ず理があるということはない)
    2.人に好かれる原則
    ・相手の関心を引こうとするより、相手に純粋な関心を寄せる
    ・上機嫌でいることは社会人のマナー
    3.人を説得する原則
    ・誰かを力付くで変えることは無理なので、議論に勝っても無意味。正しさより人間関係を優先させるくせをつける。でも、ではなく、ということは、を使う。
    ・相手に敬意を払い、誤りを指摘しない。
    ・相手にしゃべらせる→ペットボトルを持って話す時間を意識する
    ・やっつけるより、共感したほうが愉快(愉快であるし、難易度の高いやりがいのある課題だと思う)
    4.人を変える原則
    ・〜してくれてありがとう、と先回りして礼を言おう
    ・褒めてから注意しようとしても、でも、とつけると効果なし。そして、と、つける。
    ・期待しない(自分にとって価値があろうが無かろうが、相手は相手で素晴らしい存在)

  • 相手に興味を持ち、自身の重要度を高めるように動く。

  • 社会人なりたての人に向けて、カーネギーの「人を動かす」を斎藤孝さんの語り口で解説してくれている。斎藤孝さんの本は個人的に好きで、何度も読みたくなる不思議な力を持っている。なんというか読んでいると穏やかな気分になる。
     
    「人を動かす」を読んでみたかったがこっちの方がとっつきやすいと思ったので購入。聞き手に回る、とにかく褒める、笑顔でいるといった基本的なことからちょっとしたテクニックが斎藤孝さんがわかりやすい例とともに紹介している。
     
    この本を新入社員の頃に読みたかった。

  • カーネギーが、鉄鋼王とは違う人だと初めて知りました。齋藤先生の解説はわかりやすい!

  • 読みやすかった。

    一言で要約すると、

    とにもかくにも他人のことを承認せよ、褒め称えよ、その後に自分の言いたいことを聞いてもらえる=人を動かすことができる。

    ということかと。

    明らかに相手が間違えていることでも(そうと分かっていつつ)相手の言うことが正しい、と言い張るパーティーでの会話(シェイクスピアだと間違えていたとかなんとか)が衝撃でした。
    そこまで相手に合わせて褒めていい気持ちにさせろということなのかと。

  • これから社会に出る人にはいい本かもしれませんが、原著をものすごく薄めて斎藤さんのフィルターを通して解釈されているので注意が必要です。やはり原著を読んだほうが身になると思います。

    それにしても、この本で斎藤さんは「他者中心」で生きなさい、と説いておられますがやはり社会にはいろんな人がいるので、あまり他人に流されずに自分軸をしっかり持ち、自分の頭でものを考える練習をしないと利用されたりメンタルを病むのでは…?と思います。

    それほど「他者中心」に生きた結果、どうやってストレスを発散するんですか?家族に八つ当たりですか?読みやすい本ではありますが、あくまでも斎藤孝さんの解釈による「人を動かす」だということは忘れないで読むと良いかもしれません。

  • 会社において、相手が「自分は残業時間が多い」や「おれだけが雑用をやってる」などの承認欲求を出してきた際、疎み気づかないふりしてきたが、そこはぐっと堪え、相手の気持ちを汲み取り、共感してあげることが自分にとってもメリットとなることがわかった。

    しかし、その一方で自分自身が虚栄心を満たすために、下手な同情を周囲に求めないよう配慮するべきである。相手の立場に立って、自分がされて不快なことはしてはいけない。
    相手がしてくることに対して共感することは必要だが、その相手と同じことを自分がやってしまってフェアプレイ精神に反する。

    ほめる力は、人間関係の潤滑油である。
    このほめる力というのは、尽きるところ気づき力でもある。
    相手に対して、ほめるところがないと感じたときは、自分の気づき力が低くないか内省すべきときである。
    観察力を磨き、細部に気づけるようになることによりほめ上手になると共に、相手に関心も寄せれて人間関係を良く出来る。

  • カーネギーの『人を動かす』の各章に沿って、筆者が自分の体験をもとに、人間関係のスキルを紹介してくれる本です。

    この本のテーマは、人間関係の向上だと思います。カーネギーの『人を動かす』は、人間関係やコミュニケーションの技術について、具体的で実践的なアドバイスをくれる本ですが、1936年に出版されたもので、現代の事情にはそのまま当てはまらない部分もあります。そこで、筆者が、カーネギーの教えを現代風に解説してくれるのです。この本を活用すれば、自分の人間関係をより良くできるというのが、筆者の狙いだと思います。

    私は、人間関係やコミュニケーションに自信がない方です。そんな私にとって、この本は、目から鱗が落ちるような気づきや学びがたくさんありました。例えば相手の名前を覚えて呼ぶことや、相手の話に共感することなど、簡単なことでも、相手に好感を持ってもらう方法がたくさんあることが分かりました。また、自分の話をするときには、相手の興味や関心に合わせて、話題や言葉を選ぶことや、自分の経験やエピソードを交えることなど、相手を動かすコツもたくさんあります。本書を読んで、自分の人間関係やコミュニケーションについて、改善できると感じました。

    この本は、カーネギーの『人を動かす』を齋藤孝が現代風に解説した本ですが、それだけではありません。人間関係やコミュニケーションに興味のある人にとって、必読の本だと思います。この本は、私の人生にとって、貴重な本になりました。この本を読んで、本当に良かったです。

  • 批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。
    まず相手を褒めておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。
    どこかいいところを見つけて、それに敬意を表してやると、大抵の者はこちらの思い通りについてくる。

  • 社会に出れば、みなさんは世間的には大人だとみなされます。しかし社会経験はまだ未熟ですから、子どもっぽいところもあります。社会に出て10年くらいして、ようやく本格的な大人になれるのではないか、と個人的には思います。そうなると、大人になるまでの10年間、大卒の方だと22歳から32歳までの間に人間関係をうまく築けないと、会社をやめてしまう人も出てきます。会社をやめる理由のいちばん大きなものが人間関係といわれていますから、それを築く力がないと、ほかの組織に行っても同じことが起きます。人間関係を築く力は一生ついてまわるのです。

    自分が関心を持てるものをひとつずつこなしてみるといいでしょう。1つの原則を1週間の課題として手帳に書きつけておくのです。たとえば「笑顔を忘れない」という原則だったら、それを手帳に書いて「今週は笑顔を忘れない週間」と命名します。そして1週間はその言葉を意識して、笑顔を心がけるということをやっていくのです。すると、原則が身についてくるでしょう。

    また各原則の最後には、原著に書かれている〈人を動かす原則〉を付記しましたが、それを身につけるために必要だと思われる〈具体的な習慣〉を私が付け加えています。復習として再確認してください。

    苦労の多い人生に転機が訪れたのは1912年、サイドビジネスで始めた話し方講座の講師の仕事についたときでした。YMCAの夜間学校での授業が評判となり、人気講師となって、人材教育の仕事を天職とするようになったのです。しかし受講生に切実に求められていたのは、話し方より対人関係の技術でした。

    【盗人にも五分の理を認める】人を批判したくなったら、自分に「おまえは神か」とつぶやこう

    カーネギーは人を動かしたいと思ったら、まず最初に、すべては自分のせいだと考えろ、と言っています。どんな凶悪犯罪者でも、自分が悪いのではないと思っています。その人間性の本質をわかっておくと、人間関係はかなり楽になります。

    動物は私たち人間も含めて他人からの非難をおそれ、賞賛を強く望んでいるというわけです。そこから導き出される結論はこうです。みなさんが社会人になったとき、「金科玉条」にすべきは、人を非難することは無益である、ということです。人

    みなさんも、「なんで、あの人はこんなことをしてくるんだろう」と理不尽に感じたときは、「相手は自分自身のことを決して悪いと思っていないのだから、非難しても意味がない。ひと息入れて、作戦を考えよう」と冷静に、そして戦略的にふるまってください。これが大人の人間関係のつくり方です。

    カーネギーは言います。おそらくリンカーンはこうつぶやいたに違いない「ちょっと待てよ」と。これは人を動かす大きなポイントになります。いきなり誰かに反論することはせず、ひと呼吸おいて、「ちょっと待てよ」とつぶやいてみる。そうすれば人間関係の決定的なトラブルを回避できる可能性があります。

    カーネギーはこう言っています。「およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない」

    成功の秘訣は「人の悪口は決して言わず、長所をほめること」だと彼自身が語っています。イギリスの思想家カーライルも「偉人は、小人物の扱い方によって、その偉大さを示す」と述べています。

    私たちも、人を裁こうとする瞬間に自分に向かって「おまえは神か」とつぶやいてみるといいでしょう。ミスしたことはしかたありません。そこはネチネチ責めずに、次はどうするのかと前を向くほうが人間関係はうまくいきます。

    人を動かす具体的な習慣 ●反論するときはひと呼吸おいて、ちょっと待つ。 ●人を批判したくなったら「おまえは神か」とつぶやく。 ●怒りはなるべく顔に出さないよう、ふだんから練習する。 ●あら探しより、よいところを見つける努力をする。

    人を動かす秘訣は、間違いなく、一つしかないのである。すなわち、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること──これが秘訣だ」とカーネギーは言います。自ら動きたくなる気持ちとは、他人から認められることです

    人間は社会的な動物なので、周りの評価がないと生きていけません。SNSでみんながあれだけ「いいね!」にこだわるのも、「人から認めてもらいたい」という人間の根源的な欲求のあらわれなのです。こうした自分の重要性に対する欲求こそが、人をつき動かし、ひいては文明を進化させるエネルギーになっていったといえます。

    逆に考えると、人はみなそれくらい自己重要感を得たい存在なのです。ですから、もし相手にそれを与えることができれば、人はこちらの思い通りにどんどん動く、つまりどんな奇跡でも起こせるとカーネギーは言っています。日本の言葉に言い換えると「情けは人のためならず」ということでしょうか。これは人に恩恵を与えると、その恩恵がまわりまわって自分に返ってくるという意味です。人を認めて、重要感を持たせてあげるのは、結局自分自身を認めてもらうことにもなります。

    私には、人の熱意を呼び起こす能力がある。これが、私にとっては何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすには、ほめることと、励ますことが何よりの方法だ」とシュワッブは語り、それをやり続けてきました。

    ただしお世辞はいけません。お世辞と相手をほめる感嘆の言葉の違いは、後者は真実であり、前者は真実ではない点です。後者は誰からも喜ばれ、前者は誰からも嫌われる、とカーネギーは釘をさします。相手の長所がわかれば、みえすいた安っぽいお世辞など言わなくてもすみます。私は大学の授業で、3日間をふり返って何人ほめたか記録するようにしてもらったことがあります。そして学生同士、ほめて、ほめて、ほめまくる練習をしています。こうすると人の長所がすぐにわかるようになります。またほめられたら、感謝するのも忘れてはいけません。相手に対する感謝の言葉も、立派なほめ言葉の一種です。人からほめてもらったら感謝のほめ言葉で返しましょう。

    人を動かす具体的な習慣 ●みんな「いいね」をもらいたがっていると思おう。 ●相手を重要な人物だと思って接しよう。 ●人の自分より優れた点を認めよう。 ●お世辞を言わない。本当にほめたいことを見つけてほめる。 ●3日間をふり返って何人ほめたか記録をつける。

    自分はフリーランスだからいいだろう」と思う人がいるかもしれませんが、実情はまったく逆で、フリーランスの人になればなるほど気遣いがないと生き残っていけません。なぜなら仕事は「もらうもの」だからです。お金と仕事は人がくれるもの。「人間関係が嫌だからフリーになりました」という人はとても危険です。世の中は他者中心的な生き方をしなければ、やっていけない仕組みになっています。

    人はみな自分の欲求を満たすように動いているわけですから、相手がほしがっているものに応えてあげるのが、人を動かす極意になります。需要に応える技術を訓練するには書店がおすすめです。著者が書きたくて書いた〝自己満足的な本〟と、「これは心に刺さる!」という本の違いがよくわかります。「これは心に刺さる」「こっちは刺さらない」と、タイトルを眺めながら分類していくと、需要に応えるものか否か、その違いがわかってくるでしょう。「心に刺さる」とは眠っている需要に火をつけることです。それができれば、人を動かすのも夢ではありません。カーネギーの本にはこんな例が紹介されています。ある男の子が幼稚園に行かない、とだだをこねています。

    みなさんも仕事の場で交渉するときは、ポイントを書き出して、「これはあなたにとって利益になりますね。これも利益になります。でも、こちらは不利益になりますね」と整理していくと、それだけでずいぶんスムーズに話が進められます。

    ですからデートに誘う前に、「もちろんおごりで」とか「これぐらいのレベルのお店で」というように、相手にとっての利益をはっきりさせて交渉するほうが、人をうまく動かせる確率が高まります。

    サッカーでいうと、ゴールを自分で決められるときに、横の人にパスを出して決めさせてあげると、チームのやる気が盛り上がるのと同じです。FCバルセロナのリオネル・メッシという選手は自分が点を取る以上に、仲間に点を取らせるのが大好きです。だからバルセロナはあれほど強いチームになれたわけです。とにかく「この人は何をほしがっているのか」を考えて、それに応えるのがビジネス・パーソンの基本的発想になります。

    ●相手が望むことを考えて、話をしよう。 ●書店で「心に刺さる本」を見つけよう。 ●人を誘うときは、メリットを明確に話す。 ●相手にわざと譲ることも大事。

    ◆関心を引こうとするより、自分が相手に関心を持つ「他人のことに関心を持たない人は、苦難の人生を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちの間から生まれる」これはウィーンの有名な心理学者アルフレッド・アドラーの言葉です。人に好かれたかったら、この言葉を「金科玉条」にして、胸に刻んでください。

    カーネギーは、相手の関心を引こうとするより、相手に純粋な関心を寄せるほうがはるかにたくさんの友人を得られると書いています。

    私の無二の親友も、中学に入ったとき、私に関心を持って近づいてきたクラスメイトの一人です。彼が私のテニスボールを持って「テニスって面白いの?」と聞いてきたのがきっかけで友だちになりました。彼とは中学・高校とずっと一緒に勉強し、同じ大学に入って大学院まで一緒でした。彼が私に関心を持たなければ、生涯続く友情は育たなかったに違いありません。人に関心を寄せる訓練として、私は大学の授業で「偏愛マップ」というものを必ずつくってもらいます。自分が好きなもの、偏って愛しているものを、1枚の紙に20個、30個と書き入れ、2人一組になってお互いに見せあいながら話をするのです。

    いい質問は自分の興味だけで聞いてはだめで、相手に関心を寄せなければなりません。

    蓮實さんは声をかけるのをためらったのですが、思い切って「あなたの作品が1時間半という短い時間になっているのは職業倫理によるものですか?」と質問してみたのです。するとゴダールがパッと手を止めて、「その通り。観客のためを思えば、3時間の映画より1時間半の映画を2本観たほうがいいはずですから」と答えたそうです。

    この質問の何がよかったのかというと、せっかく撮影したフィルムをカットするというゴダールの痛みに対して、蓮實さんが共感と関心を持って、寄り添う質問をしたからです。質問を聞いただけで、相手に対する関心があるかどうかがわかります。ですからみなさんも、相手が「よくぞ聞いてくれた」と身を乗り出してくるくらいの質問を言ってみましょう。それが「大人の質問力」です。

    質問力」はトレーニングによって磨かれます。その相手は社員食堂や町の大衆食堂にいるおばさんが最適です。おばさんはもっともコミュニケーション能力が高い人種ですので、見つけたら必ず話しかけてみましょう。最初は「このアジフライ、おいしいね。どうやって味つけしてるの?」とか「これ、人気あるでしょう?」など、相手に寄り添った質問をして関心を示します。そのうちおばさんが子どもや孫の話をしてきたら、しっかり覚えておいて「お孫さん、元気?」「最近、大きくなった?」と聞いてみましょう。おばさんが喜んで話し始めたら、「大人の質問力」が成功したと考えるのです。この例をとってもわかるように、「大人の質問力」とは、自分だけの一方通行ではなく、相手にとっても利益があるものになります。

    小泉八雲の日本名で知られるギリシャ人作家ラフカディオ・ハーンは「日本人の微笑」という文章の中で、日本人はたとえ身内の不幸を人に伝えるときでも微笑みをたたえている、と書いています。これは自分の不幸の悲しみを相手に伝染させないようにする日本人ならではの配慮です。芥川龍之介の『手巾』という短編小説にも、息子の死を微笑みをたたえて話しながらも、テーブルの下でハンカチを裂かんばかりに握り締めていた母親の話が出てきます。みなさんも、これから社会人として、人から嫌われずに生きていくには「一生、上機嫌で行く」という決意が必要です。わが子を亡くしたときでさえ、微笑みをたたえているのが日本人なのですから、みなさんも少々仕事がうまくいかないくらいで不機嫌になってしまうのは、あまりに未熟で幼稚だと心得ましょう。私は職業倫理として上機嫌でいることが必須と考えていますので、それを徹底するため「上機嫌Tシャツ」というのをつくったことがあるくらいです。胸の前には「上機嫌」と大きくプリントされ、背中には小さな字で「意味もなく」と書かれています。それを着て、授業をすると、不機嫌には決してなれません。「意味もなく上機嫌」「どんなときでも上機嫌」というのが、人に好かれるための大人の作法になります。

    人はみな幸福を求めていますが、必ず幸福になれる方法があるとカーネギーは言います。それは自分の気の持ち方を工夫することです。同じ場所で同じ仕事をしていても、片方は不満たらたらでもう片方は幸せいっぱいだということがよくあります。それは気の持ち方が違うからです。「物事には、本来、善悪はない。ただ我々の考え方いかんで善と悪とが分かれる」とはシェイクスピアの言葉です。またリンカーンも「およそ、人は、幸福になろうとする決心の強さに応じて幸福になれるものだ」と言っています

    ですから〝心を温泉にする〟工夫が大事です。体が温まると、笑顔になりやすいので、お風呂に入ったり、温かいものを飲んだり、あるいは先程述べたように軽くジャンプするのもいいでしょう。そうやって機嫌のいい体を内側からつくっていくと、自然に笑顔が出てきますし、その結果、人に好かれるという好循環が生まれます。

    人に好かれる具体的な習慣 ●今、ここに生きている幸福を味わおう。 ●人に会う前に軽くジャンプする習慣をつける。 ●電話やメールをするときも笑顔で。 ●落ち込んだときこそ快活にふるまう。 ●行き詰まったときはお風呂でリラックスしよう。

    ちなみにリアクションがうまくなると、自分は何も話さなくてもリアクションするだけで、相手にどんどん話してもらえるメリットがあります。

    このエピソードから何がわかるのかというと、「どんなほめ言葉にも惑わされない人間でも、自分の話に心を奪われた聞き手には惑わされる」のだということです。商談の秘訣についてチャールズ・エリオット博士という人はこう言っています。「商談には特に秘訣などというものはない……ただ、相手の話に耳を傾けることが大切だ。どんなお世辞にも、これほどの効果はない」

    腹を立てているお客さんや不平を抱いている部下、傷心の友だちなど、心に悩みがある人は、みな良き聞き手をほしがっている、とカーネギーは言います。たしかに世の中には、親切に話を聞いてくれただけで、詐欺にひっかかってしまうお年寄りもいます。「話し上手より聞き上手の人を好くものだ」というカーネギーの言葉は胸に刻んでおいたほうがいいでしょう。

    自分のことばかり話す人間は、自分のことだけしか考えない」とカーネギーは言います。またコロンビア大学の総長だったニコラス・バトラー博士も「自分のことだけしか考えない人間は、教養のない人間である。たとえ、どれほど教育を受けても、教養が身につかない人間である」と言っています。もしみなさんが話し上手な人になりたいと思ったら、まずは聞き上手になることです。相手から興味を持ってもらえるためには、まずこちらから相手に興味を持たなければなりません。相手が喜んで話したくなるような質問をしないといけないのです。そのためには幅広い知識が必要です。どんな人に会っても、相手の得意分野について質問できるくらいの知識があるといいでしょう。とにかく聞き上手になるには、相手に気持ちよく自分の話をさせることが大切です。みなさんもこの1週間をふり返ってみて、相手が気持ちよさそうにしゃべったことがあったかを思い出してみましょう。

    人に好かれる具体的な習慣 ●リアクションをつけて話を聞く。

    ●クレームには反論せずに、黙って聞く。 ●相手が喜んで話したくなるような質問をする。 ●そのために幅広い知識を身につける。 ●1週間をふり返って、相手が気持ちよくしゃべったか思い出してみる。

    ◆相手が好きな話題を事前に調べておく相手と話すとき、「あなたと話すと世界が広がって、面白かったです」と言われれば、間違いなく好意を持ってもらったと思っていいでしょう。

    その結果、若者はめでたく採用を勝ち取り、以後20年にわたって会社を繁栄させ、自分自身も成長したという話です。相手が何に関心を持っていて、どんな話題を喜ぶか、それを見つけ出せると、相手から好かれるいい実例です。

    みなさんも仕事でカラオケに行くことがあると思いますが、一緒に行くのがおじさんたちなら、今はやっている曲や自分の時代の歌は選曲してはいけません。昭和歌謡や90年代、2000年代の歌を歌いましょう。社会人になれば、同世代ではなく異なる年齢の人たちとつきあうことになります。年齢がはるか上の人、たとえば20歳以上上の人と一緒に行っても盛り上がれるようなレパートリーを持っておくと、覚えがめでたくなります。

    でしょう。セカンドチャンスを大事にすれば、相手から思いがけない好意をもらうことができます。


    人に好かれる具体的な習慣 ●アポの前には相手の趣味や関心事を調べておこう。 ●関心事が事前にわからないときは、雑談の中で聞き出そう。 ●年齢が20歳以上上の人とでもつきあえるレパートリーを持っておく。

    ●相手の得意分野について相談するという手もある。 ●2度目に会ったとき、必ず相手の関心事にふれよう。

    ◆賞賛にははかりしれない力がある「人と話をする時は、その人自身のことを話題にせよ。そうすれば、相手は何時間でもこちらの話を聞いてくれる」。これは大英帝国時代のイギリスで首相をつとめた著名な政治家ベンジャミン・ディズレーリの言葉です。この言葉の真意は、つねに相手に重要感を持たせよ、ということです。社会人になったら、自己中心ではなく、他者中心で生きなければいけないのですが、そのとき大切なのは、前述したように相手に重要感を与えることです。

    ◆ 心が動くから賞賛が伝わる相手に心からの賞賛を与えるには、それが自分の喜びになるようにシフトすることが大事です。自分の心が動かなければ、心からの賞賛はできません。版画で有名な棟方志功は、少年時代にゴッホの絵を見て「ワだばゴッホになる」と言いました。「ゴッホにならうとして上京した貧乏青年はしかし、ゴッホにはならずに、世界のMunakataになった。」と草野心平が詩に書いています。「自分はゴッホになる」というのはゴッホに対する心からの賞賛です。「ゴッホの絵のここがいいね」などというレベルではまだ本当に心は震えていません。「自分はゴッホになる」と言い切るところに棟方の心の震えがあらわれています。

    感動をSNSにあげてもいいのですが、食べ物や風景の写真ばかりのせても意味がありません。それだけだと単純になってしまうので、もっと本を読んだり、映画を見て、心震えた場面を文章化していくのです。そうすれば、自分の中の文化の経験が増えていくでしょう。

    人に好かれる具体的な習慣 ●話題は相手のことを中心にするよう心がける。 ●いつでも、どこでも、人をほめる準備を整えておく。 ●自分の心が動いたことを手帳に記録する。 ●SNSには食べ物や風景だけでなく、映画や本で感動したことをあげてみる。

    そもそも人はほとんど変わらないのですから、たとえ朝まで議論して、相手の間違いを正しても、人は変わりません。そこは自分の正しさを主張するのではなく、人間関係のほうを重視して、割り切る必要があるでしょう。

    議論をうまく避けながら、相手を説得する技として、私は合気道の技法をよく使います。いきなりガツンと組んで戦うのではなく、まずは相手の動きに添った上で、相手の勢いを利用して方向性をずらしていくのです。たとえば相手の意見に対して「たしかにその通りですね。おっしゃることはよくわかります」と寄り添っておき、「ということは、こういうことですね」と少しずらしていっても相手は気づきません。「でも」という言葉は絶対はさまずに、「確かにね。そうですね」と相手を一度受け止めて、「ということは○○なんですね」とこちらが持っていきたい方向に少しずつずらしていく。それが、議論を避けながら、相手を説得する技になります。

    人を説得する具体的な習慣 ●意見が違ったら、対立せずに相手に譲ろう。 ●相手を打ち負かさないようにしよう。 ●正しさより人間関係を優先するくせをつけよう。 ●「でも」を使わず、「ということは」を使うようにする。

    ガリレオも「人に物を教えることはできない。自ら気づく手助けができるだけだ」と言っています。間違いがあっても、相手にそっと気づかせるような助け船を出すのが、人を納得させるコツです。

    とくに上司やお客さんなど、自分より上の立場の人の間違いを指摘しなければならないときは、相当気をつけなければなりません。下手にやると地雷を踏んで、たいへんなことになってしまいます。そういう場合カーネギーは「おそらく私の間違いでしょう」「間違っていましたら改めたいと思いますので、一つ事実をよく考えてみましょう」という言い方をすすめています。「おそらく私の間違いでしょう」という言い方はいろいろなケースに使える万能のパターンです。みなさんもしっかり覚えておくといいでしょう。

    もしかしたら、こうかもしれません」「こういう可能性があります」と控えめに言っておいたほうが、相手は受け入れやすいし、人間関係はずっとうまくいきます。

    人を説得する具体的な習慣 ●人の誤りは見て見ぬふりをしよう。 ●相手が知らないときは「忘れているだけ」ということにする。 ●「おそらく私の間違いでしょう。あとで調べます」と言おう。 ●「こうに決まっています」という断定的な表現をしない。

    うそというのは、ひとつつくと、そのうそを隠すために、またうそをつかなければならなくなります。うそにうそを重ねてしまい、取り返しがつかなくなるのです。

    自分に誤りがあるとわかったら、相手に指摘される前に自分で言ってしまうのです。日本にも「負けるが勝ち」という、とてもいいことわざがあります。くだらないプライドにこだわるより、「あ、ミスだ」と思ったとき、すぐさま「ああ、すみません。完全に間違っていました。私のミスです」と言い切ったほうが、かえってその後の展開が前向きに運びやすいのです。

    自分の誤りを素直に快く認めるには、「落ち着く」のがとても有効です。八木重吉さんという大正時代の詩人の作品に「草にすわる」という詩があります。わたしのまちがひだったわたしのまちがひだったこうして草にすわればそれがわかる「自分は間違っていない」とかたくなに思っていても、草に座って、落ち着いて「フーッ」と息をしたとき、「ああ、私のまちがいだったんだな」と素直な気持ちになれたというわけです。要するに坐禅のようにゆったり心を落ち着けて座ると、自分をふり返る素直さを取り戻せるのです。みなさんも頭に血がのぼって興奮状態になったとき、まずはゆったり座る時間を持ってみましょう。そうすれば自分の誤りに素直に気づけるに違いありません。誤りを潔く認めれば、認めないで否定するより、相手から許してもらえる確率が高まります。
     人を説得する具体的な習慣 ●うそを言わず、すべてガラスばりにして潔く生きよう。 ●相手から言われる前に謝ってしまう。 ●言い逃れをするのは無駄だと思おう。 ●頭に血がのぼったら、静かに座る。

    ですから、まずは気持ちを上機嫌にセットして、穏やかな口調で話すのを心がけましょう。

    穏やかに話す人はマナーがよくて、気品があります。気品を身につけていくと、人間関係も穏やかになっていくので、相手も説得されやすいのです。もちろん世の中にはスティーブ・ジョブズのように「おまえはクビだ!」と叫ぶような激しい人もいます。それは天才だから許されるのであって、私は不機嫌が許されるのは子どもと天才だけだと思っています。天才でも子どもでもないみなさんが(もし天才の方がいたら許してください)、怒鳴り散らすだけの人だったら、ただの嫌われ者になってしまいます。そうならないよう注意しましょう。

    ◆北風と太陽の寓話が示すもの穏やかに話す効用について、カーネギーはリンカーンの言葉を引用して説明しています。「〝バケツ一杯の苦汁よりも一滴の蜂蜜のほうが多くのハエがとれる〟ということわざはいつの世にも正しい。人間についても同じことが言える。もし相手を自分の意見に賛成させたければ、まず諸君が彼の味方だとわからせることだ。これこそ、人の心をとらえる一滴の蜂蜜であり、相手の理性に訴える最善の方法である」

    ◆北風と太陽の寓話が示すもの穏やかに話す効用について、カーネギーはリンカーンの言葉を引用して説明しています。「〝バケツ一杯の苦汁よりも一滴の蜂蜜のほうが多くのハエがとれる〟ということわざはいつの世にも正しい。人間についても同じことが言える。もし相手を自分の意見に賛成させたければ、まず諸君が彼の味方だとわからせることだ。これこそ、人の心をとらえる一滴の蜂蜜であり、相手の理性に訴える最善の方法である」

    ◆ソクラテス式問答法を応用するギリシャの哲学者ソクラテスは、相手から「イエス」という答えを引き出すような質問のしかたが得意でした。いわゆる「ソクラテス式問答法」といわれるやり方です。まず相手が絶対に「イエス」と言わざるを得ない質問をします。次の質問でも「イエス」と言わせ、次々と「イエス」を言わせていくと、相手が気づいたときには、いつのまにか、自分が否定していた問題に、「イエス」と言ってしまっているのです。カーネギーはソクラテスのこのやり方について〝柔よく剛を制す〟ということわざをあてはめています。

    あるいは断定せずに「AとB、どちらもよさがありますよね」「そうですね」「でもどちらかというと、この場合はAでしょうか。でもBもこういうよさがありますね」「そうですね」「まあ、どちらも捨てがたいけれど、どうかな。この場合に限定すればAですよね」「そうですね」という感じで進んでいけばいいのです。実は「こうですよね」と共感を求める内容には多少の飛躍があってもかまいません。階段でいうと2段飛ばし、3段飛ばしくらいであっても「イエス」「イエス」と言っているうちに気持ちがよくなって、気がつかない場合が多いのです。「イエス」の効用は相手を気分よくすることです。若いみなさんにはこれを逆手にとって、相手を気持ちよくできるとっておきの方法があります。それは「私はまだ経験が浅いもので」と言って、教えを請うことです。

    人を説得する具体的な習慣

    ●「イエス」としか答えられない質問を心がけよう。 ●「イエス」と答えさせて相手を気持ちよくさせよう。 ●「イエス」と言わせていれば、論理が飛躍しても大丈夫。 ●何も知らないことを武器にしよう。

    企業の創業者や成功者はたいへんな苦労をして、今の地位を築いています。過去の苦労話を聞くと、喜んで話したがる人が多いのです。社長は楽しそうに苦労話を聞かせたあと、彼の採用を決めたそうです。これは相手にしゃべらせることによって好印象を得た例です。みなさんも目上の人や社会的地位の高い人に会ったら、相手の人にどんどん話してもらいましょう。相手が人生の経験値が高い人だと、聞いているだけでもたいへん勉強になりますし、相手から好意を持ってもらえるメリットもあります。

    私の印象では相手と自分が半々くらいしゃべったな、というときは、だいたい7対3くらいの割合で自分が多くしゃべっています。

    自分が話しているときの時間感覚は狂っています。自分のほうが3くらいの感覚でおさえて話して、ようやく半々だと覚えておきましょう。

    人を説得する具体的な習慣 ●自分がしゃべるより相手にしゃべらせる。 ●相手7、自分3くらいの割合でしゃべるのがちょうどいい。 ●成功者には苦労話を話させよう。 ●しゃべりすぎる人はペットボトルを持って話す練習をしよう。

    たとえば子どもを指導するとき、すべて先生が命令して「Aをやって、Bをやって、CをやればDになるからね。はい、やってください」と言っても、子どもは少しも楽しくありません。そうではなくて、「みんな、どうだろう?Aをやったほうがいいと思う?」と聞いて「先生、それがいいと思うよ」と言ったら、「そうかもしれないね。じゃあ、やってみようね」と言ったほうが楽しい授業になります。また、子どもが何か言ったときは、名前と意見をちゃんと黒板に書いてあげるといいでしょう。自分の名前入りで意見が書かれるわけですから、とても誇らしい気持ちになります。すると、子どもは自分で意見を言ったり、思いつくことを大事にするようになって、アイデアがどんどん生まれるようになります。なお新しいアイデアが生まれたときは、拍手してほめる習慣をつけておくといいでしょう。日本人は議論や会議の最中、拍手する人はあまり多くありません。でもいいアイデアが出たら、惜しみなく拍手して盛り上げるようにすると、〝相手に思いつかせる技〟が向上します。


    自分が主導して、どんどん流れを引き寄せることもできますが、そうすると会議はしらけてしまいます。ですから、自分の考えは言わずにみんなに意見を求めて、自分と似た意見が出たときだけ、「あ、それいいかもしれないですね」「それはいいですね。それについてどうですか?」などと反応するのがいいでしょう。すると、そこにアイデアがどんどん集まって、小さな木が立派な木に育つように、企画が育っていきます。「みなさんのアイデアの結集により、このような素晴らしい企画ができあがりました。ありがとうございます」と感謝すれば、会議もひじょうに盛り上がるでしょう。

    私の同級生で、大きな会社の重役になったり、社長になる人たちがいますが、みな穏やかで、自己主張が強くありません。どんどん人に手柄を与えてしまう人たちです。だから周りにいる人たちが「いい上司だ」と思って、評価が高くなるのでしょう。出世したかったら、下手な自己主張をしない。覚えておきたいルールです。

    人を説得する具体的な習慣 ●相手にヒントや暗示を与えて思いつかせる。 ●いい意見やアイデアが出たら拍手をしよう。

    ●人に相談して自分の得たい答えに誘導する。 ●下手な自己主張をするより人に花を持たせよう。

    「相手の考え、行動には、それぞれ、相当の理由があるはずだ。その理由を探し出さねばならない──そうすれば、相手の行動、相手の性格に対する鍵まで握ることができる」相手の身になる、というのは、もし自分が相手だったら、どう感じて、どう反応するだろうか、と考えてみることです。そうすればより人を説得しやすくなります。「自分は相手じゃないから、相手の身になんてなれないよ」と思うかもしれませんが、まずは理解しようとつとめることが大事です。

    その人に怒るのは簡単ですが、それでは人間関係が切れてしまいます。なぜこの人はドタキャンするのか。どんな理由があるのかを探っていくのです。それは決してドタキャンを肯定するわけではありません。でも「この人は前もって何かを約束するのが苦手なタイプだ。そういう人なのだ」という理由がわかれば、「ならば前もって約束しなければいいのだ」という対処法もわかります。たとえば、当日になって突然「来れる?」と誘って、来れたら呼ぶというスタンスにすれば、お互いよけいなストレスがかからないですみます。

    みなさんの部署に嫌味たらたらの上司がいたとします。その人がしょっちゅう嫌味を言ってくるとしたら、その人を拒否する前に嫌味を言う理由を考えてみるのです。「この人は、ふだんみんなから相手にされていないので、嫌味を言ってみんなにかかわろうとしているんだな」とか「自分の論理力で人からリスペクトされたいと思っているのに、その結果、反対に人から嫌われているケースだな」などと分析できます。すると、上司が嫌味を言ってきても「はあはあ、またきたな。いつもの効果がない嫌味が」とか「これが定番だからね。またいつもの風景がきたということで、勝手に言わせておこう」などと余裕を持って対処できます。理解できていない状態がいちばんストレスになるのですから、相手を理解しようとつとめるのは自分の精神衛生上でも役に立ちます。

    人を説得する具体的な習慣 ●もし相手だったらどう思うだろう、とつねに考えよう。 ●相手の行動の理由を考えるくせを身につけよう。 ●嫌な上司の行動パターンの理由を探ろう。

    ◆敵意を善意に変える魔法の言葉相手が否定的な感情を持っていて、反論してきそうなときでも、相手をたちまちおとなしくさせて、自分に好意を持たせてしまう魔法の言葉があるとしたら、みなさんはぜひ知りたいと思いませんか。カーネギーはその言葉を教えています。「あなたがそう思うのは、もっともです。もし私があなただったら、やはり、そう思うでしょう」どんなに意地悪な人でも、最初にこんなふうに言われると、おとなしくなる、とカーネギーは言っています。なぜなら「我々が交渉を持つ相手の四分の三は皆、同情に飢えている。それを与えてやるのだ。好かれることはうけあい」だからです。この場合の「同情」は「共感」と置き換えてもいいでしょう。相手の考えや希望にちゃんと共感してあげると、相手の悪い感情が消滅して、こちらの言うことを聞いてやろうという気になるのです。

    ◆ほめて共感してから要求を伝えるこちらの意見を聞かない人に対しては、ほめてから共感するという〝一歩上の共感〟もひじょうに効果的です。カーネギーはピアノ教師の例を紹介しています。教え子の10代の少女は長い爪をしていて、ピアノの練習の邪魔になっていました。でも教え子は長く美しい爪が自慢でしたし、少女の母親もそう思っていました。ピアノ教師がどうしたのかというと、まず少女の長い爪をほめたのです。「あなたの手はとってもきれいだし、爪も素晴らしいわ」。そして「でもピアノの腕を上げたかったら、爪をもう少し短く切ってごらん」と、ピアノがうまくなる方法を示しました。次のレッスンのとき、少女はきれいに爪を切ってきました。ほめて共感を示してから、こちらの意図することを話すと、素直に聞いてもらえるといういい例です。

    同情して注目してもらいたいために、「こんなにひどいんだよ」と話すのはよくあることです。20代の人の自慢に多いのは「徹夜で資料をまとめた」とか「忙しくて3時間しか寝てないんだ」というものです。「だから何なんだ」という話ですが、言ったほうは何かしら同情してくれとか、パフォーマンスが悪くても勘弁してくれ、という意味あいをこめています。そこは相手の気持ちをくみとって、共感してあげることです。

    ◆ 共感力が社会をつくる共感力は、社会を営む上ではひじょうに大切な要素になります。『国富論』で知られるアダム・スミスが書いた『道徳感情論』には、社会にとっていちばん大切なのは人に対する共感力である、と記してあります。彼は「自由競争」を推進していますが、その場合の「自由競争」は「弱肉強食」ではありません。フェアプレイ精神で行け、ということです。「フェアプレイ精神」とは、相手の立場に立って、「こうされたら嫌だよね」ということはしないという意味です。つまり同情心や共感力が社会をつくっているというのがアダム・スミスの考えです。その見方は正しいと思います。ですからみなさんも、もし上司や先輩からされて「嫌だな」と思うことがあったら、同じことを同僚や後輩にはしないようにしましょう

    人を説得する具体的な習慣 ●どんな人も共感してもらいたがっている、と思おう。 ●反対意見を持つ人には「私があなただったら、やはりそう思います」という言葉を頭につけてから話そう。 ●ほめてから、共感の気持ちを示すと、どんな人とでも仲よくなれる。 ●自分がされて嫌だと思うことを人にするのはやめよう。

    最初、少年たちは本をうまく読めません。でも「こうやって練習してひとつずつ読んでいけば、読めるようになるんだよ」「君にはその力があるんだから」と言って、励ましていると、ちゃんと読めるようになるそうです。誰もが向上したい、きちんとした人間になりたいと思っています。その心に働きかけて、相手を信じるメッセージを送り続けると、相手も応えていくのです。

    金額で取りはからわさせていただきます」すると6人の客のうち、1人を除いて5人がみな気持ちよく全額を支払ったのだそうです。そればかりか2年後にはこの6人の客全員から、新車の注文を受けました。見事、客から修理代金を回収することに成功した男性はこう言っています。「相手の信用状態が不明な時は、彼を立派な紳士と見なし、そのつもりで取引を進めると間違いがない」「人間は誰でも正直で、義務を果たしたいと思っているのだ」「人をごまかすような人間でも、相手に心から信頼され、正直で公正な人物として扱われると、なかなか不正なことはできないものなのだ」

    人を説得する具体的な習慣 ●「君ならできる」「信じている」を口ぐせにする。 ●ずるい人ほど紳士として扱おう。 ●相手の心の奥底に語りかけるイメージで話してみよう。

    たとえば私たちが日々見ているテレビのCMはほとんど全部が演出です。ビールや炭酸の飲み物は、さわやかでスカッとする演出がほどこされています。車のCMもかつては美女とのセットが定番でした。「車を買うと、こういう美女と知り合いになれますよ」という暗示だったのでしょうか。商品の魅力を説得するにはまさに見せ方、つまり演出しだいです。商品名を連呼してもあまり効果はありません。どのような演出をして消費者の心を引きつけ、商品を買うように仕向けるのか。膨大な費用と手間と知恵を使って、各社しのぎを削っているのです。とくに優れたCMには、ひじょうにいい演出が含まれています。わずか15秒足らずの時間で、よくあれだけのものが伝えられるものだと感心してしまいます。私はCMは文化だと思っています。みなさんもあえてCMに注目し、人を説得して商品を買わせてしまう演出のしかたを学ぶといいでしょう。「このCMをつくった人は才能があるなあ」「この演出はすごいな」というのを感じ取っていただけると、演出の勉強になると思います。

    大げさです。「このお金は受け取れません」と言って、ふつうに返せばいいのに、地面にたたきつけて足で踏みにじるのですから、なんたる過剰な演出でしょうか。この演出で大尉の怒りや拒絶がドッと吹き出し、相手の度肝を抜いてしまいます。「おまえの汚い金なんか受け取れるか」という怒りがひし

    年配の上司から「よくこんなのがつくれるね」と感心されるに違いありません。プレゼンや提案など、何かをより説得力がある存在として見せたいときは、ぜひ演出的な手法を考えてみてください。手書きのプリントも、時に、インパクトがあります。

    人を説得する具体的な習慣 ●注意を引きたかったら、演出を加えてもいいので、インパクト重視で。 ●テレビのCMに注目して演出のノウハウを学ぼう。 ●音楽と映像を駆使した仕事の予告編をつくろう。

    ファイアストン・ゴム会社の創設者も似たような発言をしています。「給料さえ出せば人が集まり、人材が確保できるとは限らない。ゲームの精神を取り入れることが必要だ」人に負けたくないという対抗意識を刺激されると、人はついつい頑張ってしまうものです。そこを上手に利用しましょう。

    みなさんも、誰かに退屈な仕事をしてもらわなければならないときは、仕事をゲームにしてしまうと、やっているときも面白いし、能率もあがります。

    競争心があるのは悪いこととは限りません。仕事をゲームと考え、相手に勝とうとして競い合うのは面白いことです。ゲームをして楽しめるのは人間だけの特権です。オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガは『ホモ・ルーデンス』という本の中で、「人間は遊ぶから人間なのだ」と言っています。「ホモ・ルーデンス」とは「遊ぶ人」という意味です。

    みなさんもふだんからいろいろなことをゲーム化して、勝ちを競う習慣を身につけておくといいでしょう。たとえば通勤のとき、出会った人の必ず右側をすり抜けていくとか、今日は右にしか曲がってはいけないというルールを決めて、ゲームにしていくのも面白いと思います。こうした負けず嫌いの対抗意識は、上手に使えば、自分を向上させるだけでなく、人に何かをやらせたり、仕事の能率をあげたいときにも役立つのです。

    でも人は、誰でもけなされるより、ほめられたほうが気分がいいに決まっています。ミュージシャンの井上陽水さんが新しいアルバムを出したとき、「悪いところは自分でわかっているので、もっとほめてほしい」と発言しています。井上陽水さんクラスだと、その才能を絶賛され続けてきたと思いますが、それでも「もっとほめてほしい」と思うのですから、私たちのような凡人は、みなほめてもらうことに飢えていると言ってもいいでしょう。この欲求を満たしてあげるのが、人を変えるコツです。人をほめて、悪いことは何も起きません。むしろ人間関係が円滑になる効用のほうが大きいと思っておきましょう。とくにこちらから相手に何かを要求したいときや、相手に苦言を言って改めてもらいたいときは、まず初めにほめるというのが鉄則です。カーネギーはこう言っています。「まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでがりがりとやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる」

    私は大学の授業で、学生に「1週間、徹底的にほめてくること」という課題を出したことがあります。するとひじょうに評判がよかったのです。家でも、バイト先でも、友だち同士でも、ほめて、ほめて、ほめまくるようにしたら、人間関係が急によくなった、と学生たちは口々に感想を述べあいました。

    気づくためには細部を見ていくといいでしょう。私はビートたけしさんとテレビで共演したとき、彼が監督した映画『アウトレイジ』の冒頭シーンをほめました。それはピカピカに磨かれた車の車体に夜の風景が映り込むシーンでした。あのワンシーンを見るだけで、映画の世界観やこれから始まる物語が浮かび上がってきます。「あのワンシーン、よかったですね」とほめると、たけしさんは「そうなんだよね」と饒舌に映画の裏話や苦労を語ってくれました。みなさんも映画を見たとき、面白い映画のときはもちろんですが、たとえつまらない映画でも、細部に注目して「あのワンシーンはよかったな」とほめるところを見つけるようにしましょう。そうすれば細部に気づく力が磨けますし、映画を見た時間もむだにはなりません。

    ほめる力がないのは、気づく能力が低いことですから、細部を見るよう心がけ、気づく習慣を身につけてください。ネットのレビューには批判と同じくらいほめ言葉もあふれているので、「この細部を見て、こんなにほめている人がいるんだな」と感じるだけでも、気づく能力が磨かれてくるでしょう。

    ◆ワンランク上のほめ方とは「ほめ」にはワンランク上のほめ方があります。22歳のみなさんは、ぜひこの大人のほめ方を覚えておくといいでしょう。それは相手がもっともエネルギーを注いだところをほめる方法です。「ここはすごくいいですね。苦労されたんじゃないですか」などと言うと、向こうも「そうです。そこをつくるのが本当にたいへんだったんです」と身を乗り出してくるでしょう。エネルギーをかけたところに気づいてもらえると、そこから会話がすごく盛り上がります。

    人を変える具体的な習慣 ●人を見たらほめまくろう。 ●偉い人もどんどんほめよう。 ●要求を出すときは最初に相手をほめてからにしよう。 ●人をほめて、ほめて、ほめまくる1週間をつくる。 ●細かいところに気づくくせをつける。

    ●ネットのレビューでほめるポイントを研究しよう。 ●相手がいちばんエネルギーを注いだところを見つけよう。

    これはカーネギーがあげている実例ですが、似たような例は私たちの周りにもあります。トイレに「いつもきれいにお使いいただき、ありがとうございます」と張り紙が貼ってある例などです。これらは遠まわしに注意しているわけですが、「きれいに使ってください」と命令されるより、ずっと気分よく従う気になれます。 ◆サンドイッチ方式がおすすめ「人の気持ちや態度を変えようとする場合、ほんの一言の違いが、成功と失敗の分かれ目になることがある」とカーネギーは書いています。

    私がよく使うのは、弁護士の方から教わった「イエス」「ノー」「イエス」方式です。ほめて、そのあとさりげなく注意をして、またほめるという〝サンドイッチ〟のやり方です。「この部分の出来はとてもいいですね。でもここをもう少しこんなふうに変えると、もっといいかもしれませんね。でも方向性としては、全然問題ないと思います」と最後を肯定で終わらせると、全体が肯定されたような印象になります。

    この〝ほのめかし戦術〟もなかなか品のいいやり方です。今の社会では頭ごなしに「こうだからやめてほしい」という言い方は通用しないと思ったほうがいいでしょう。相手は自分の考えを変えるどころか、人間関係に角が立ってしまいます。いきなり自己主張してけんかを始めるのは子どもだけです。社会に出たみなさんは、人の気持ちを悪くさせない程度に、遠まわしに要望して相手に変わってもらうのが、賢い大人のやり方だと心得ておきましょう。

    人を変える具体的な習慣 ●「~してくれてありがとう」と先まわりして礼を言おう。 ●「しかし」ではなく「そして」を使う。 ●「イエス」「ノー」「イエス」のサンドイッチ方式をマスターしよう。

    ●頭ごなしに「ノー」というくせはなくす。 ●ほのめかし戦術を心がけよう。

    ◆ネガティブをポジィティブに変えてみるしかし自分の失敗談をオープンにするのは恥ずかしいという思う人もいます。その恥ずかしさに打ち勝つために、私は大学の授業で「ネガティブ自慢」というのをやってもらったことがあります。これは4人一組になって、自分のネガティブなことを思い切り自慢してもらうというものです。自分は時間にルーズだとか、神経質すぎるというようなことを自慢話に変えて話してもらうのです。もともと短所は長所の裏返しですから、時間にルーズなのはおおらかともいえます。神経質なのは慎重と言い換えられますし、見ようによってはきちんとしているともいえます。そうやってネガティブ自慢をしてもらったら、授業が終わったあと、みんな元気になって、すっきりしたという感想がたくさん寄せられました

    みなさんもネガティブなことをポジィティブに自慢するくせをつけて、自分の過ちについてオープンに言える心の大きさを身につけるといいでしょう。

    でも「実は先日、やらかしてしまいまして」と包み隠さず自分を出して、やわらかい心で接すれば、相手もやわらかくなるというわけです。大切なのは失敗しないことではなく、失敗から何を学んだかということです。みなさんも就活のさいにはエントリーシートを書いたと思いますが、あれで重視されるのは、ずっと順風満帆でやってきたという実績ではなく、むしろ失敗から何を学んで、どう修正してきたかという試行錯誤の歴史です。

    人を変える具体的な習慣 ●失敗談をすすんで話す。 ●ネガティブなことをポジィティブに自慢してみる。 ●やわらかい体と心で接するようにしよう。 ●軽くジャンプするとやわらかい態度になれる。 ●失敗から必ず学びを得よう。

    ◆相談すると意見が集まる命令を質問の形に変えると、相手がその通りに動いてくれるだけでなく、創造性を発揮することもあるとカーネギーは指摘し、その例を示しています。

    命令するのではなく、質問して、相談を持ちかけることで、いろいろな意見が集まってきます。それらをとりまとめると、みんなでやったという感じになって、盛り上がります。「命令が出される過程に何らかの形で参画すれば、誰でもその命令を守る気になる」とカーネギーは言います。みなさんも将来部下を動かすとき、いきなり命令するのではなく、「これをどうしたらいいのだろう?」「これはどうでしょうか?」と質問して、意見を求めていくと、気持ちよくみんなの協力が得られます。,,,,

    質問とは、実は自分が聞いてもらいたいから、相手に聞いてみるというケースもよくあります。ですからお返しの質問が大切です。たとえば「昨日、何してた?」と聞かれて、ひとまず自分のことを話したあと、「それで、あなたはどうしてたの?」とお返しの質問をするのです。聞かれたら、また聞き返して、相互のやりとりがあるのがいいのです。その意味で質問は「礼儀」だと思うといいでしょう。礼儀ですから、相手が聞かれたくないことを質問してはいけません。「この人はこれを聞いてもらいたいのだな」ということをうまく質問するだけで、どんどん話が盛り上がります。相手の話を引き出すような質問をするためには質問をメモする練習をするといいでしょう。質問力を鍛えるために、私は質問だけのメモをつくるようすすめています。人の発表やプレゼン、会議のさい、内容をメモするのではなく、質問だけのメモをつくっていくのです

    人を変える具体的な習慣 ●命令形を質問形で言うように習慣づける。 ●相談する形でもちかける方法も覚えよう。 ●お返しの質問は必ずする。

    ●質問だけのメモをつくろう。

    ◆お互いにメンツを大切にしよう今の若い人たちはみな繊細です。自分が傷つけられることにみな敏感ですから、お互いにメンツを立てるようつねに意識したほうがいいでしょう。極端な話、会社に入ったからには、もう誰も批判せずに一生を終えるくらいの気持ちでいたほうがいいのです。孔子も「己の欲せざるところは人に施す勿れ」と言っています。自分が顔を立ててもらいたかったら、つねに相手の顔も立てなさいということです。みなさんも同僚や知り合いと飲みに行く場合があるでしょう。相手があまりお金を持っていないときに「そちらはお金がないでしょうから、私のほうでおごります」とあからさまに言ってしまうと、相手の顔をつぶすことになります。

    そこは上手に「まあ、交代交代ということで、今回は私が出させていただくので、次回はそちらでということで」と言っておくと、相手の顔をつぶさずに上手に処理できるでしょう。メンツを立ててやれば、人はちゃんと動いてくれます。

    人を変える具体的な習慣 ●人に恥をかかすようなことは言わない、やらない。 ●誰も批判せずに一生を終える覚悟で。 ●自分が顔を立ててもらいたかったら、相手の顔も立てる。

    誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持っていてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるのである」どこかいいところがあったら、その一部でも拡大してほめてあげることです。その言葉が人を伸ばします。22歳のみなさんはどちらかというと励ましてもらうほうかもしれませんが、みなさんのほうからも、どんどんほめてあげてください。これはお互いさまのことです。

    人を変える具体的な習慣

    ●一部だけでも拡大して惜しみなくほめよう。 ●ほめるときは具体的に。

    シェイクスピアも「徳はなくても、徳あるごとくふるまえ」と言っています。先まわりして、こうなったらいいなという期待を、すでにそうなっていることにして、相手に接していると、自然に相手もそうなっていく、ということです。シュタイナー教育で知られる教育学者ルドルフ・シュタイナーも似たようなことを言っています。相手をこれから育っていく種としてとらえると、期待感をこめて接することができるというのです。たとえば「字が整っているね」と言い続ければ、自然に字が整ってきます。授業中姿勢が悪い子に「背筋がピンと伸びてるね」と言えば、一日すっと背筋を伸ばしています。

    裏切られた」と怒るのは、勝手に相手に期待しすぎただけであって、自分が幼稚だっただけです。人に期待する言葉をかけてはあげますが、ベースではそのことに依存しない姿勢が大切です。「期待をかける」とは、あえてその人のために先取りして、望ましい未来を言ってあげるという意味でとらえたらいいでしょう。 


    人を変える具体的な習慣 ●会話では「お疲れですね」などマイナスなことは言わない。 ●いいところを見つけたら、期待をこめてほめるようにする。

    ●あたかもそうなっているように接してあげよう。

    ◆励ましの言葉を惜しみなくプレゼント今、何かの職業についている人は、どこかで励まされたひと言でその道を選んだという人も多くいます。文章を書く仕事についている人は、子どものころ作文をほめられたことがあるのかもしれません。アナウンサーになっている人も「朗読がうまいね」とか「声がいいね」と言われてこの道をめざした人が多いようです。才能が開花す

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著者プロフィール

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。教育学、身体論、コミュニケーション論を専門とする。2001年刊行の『声に出して読みたい日本語』が、シリーズ260万部のベストセラーとなる。その他著書に、『質問力』『段取り力』『コメント力』『齋藤孝の速読塾』『齋藤孝の企画塾』『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』『恥をかかないスピーチ力』『思考を鍛えるメモ力』『超速読力』『頭がよくなる! 要約力』『新聞力』『こども「学問のすすめ」』『定義』等がある。

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