食の終焉

  • ダイヤモンド社
3.89
  • (27)
  • (39)
  • (22)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 509
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478007471

作品紹介・あらすじ

食の巨大なサプライチェーン、その裏で今、何が起きているのか?豊かさをもたらすはずのシステムが人類を破綻に陥れる。圧倒的な取材力で真実を描き出す問題作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読んでると暗ーい気持ちになる重たい一冊です。

    現代の食システムはどんどん巨大なサプライチェーンがふくらみ慣性がついて抜け出せなくなる一方で効率とは裏腹に脆弱になっている。
    生鮮食料品だけでなく冷凍食品もは0−157やサルモネラ菌の混入を防ぐことはできず、最後に消費者が適切な調理をするかどうかにかかっている一方で外食も含めて料理はインスタト化する。元々Oー157は胃酸で死ぬあまり問題の無い菌だったのが牛を早くするために餌が牧草から穀物に変わったことにより耐酸性の菌が生まれた。

    食肉の解体も機械化され効率化されるが個体差によってうまく処理できず内蔵が混ざることで大腸菌などに汚染される。鶏も胸肉が好まれるため胸筋が早く発達するように改良される一方親鳥まではまともに成長できなくなっている。それでもこれは世界中が肉を求めた結果だ。100億人に人口が増え世界がイタリア並に肉を食べたとするとそれを支える穀物を作る農地は残っていない。中国の鶏や豚の生産を支えているのはアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、オーストラリアとわずか5カ国から輸出されるトウモロコシなどの穀物で中国のCPIに占める豚肉価格の影響と必死でインフレを抑える中国政府の努力を見ていると例え肉の消費を抑えるのが唯一の解だとしても実行は難しいだろう。「誰が中国を養うのか」が第5章のタイトルだ。

    10億人の飢餓人口がいる一方で10億人が肥満に苦しむ。肥満は比較的低所得者層で増えるのは安くカロリーを得る手段がファストフードやスナック菓子だからだ。スナック菓子は比較的利益率が高く消費者の好みに合わせて創られている。例えば単純に消費者を満足させる手段は糖分、塩分、脂肪分などを増やすこと。糖分は知らないうちにあらゆる加工食品に増やされている。

    エネルギーや水の不足も大きな問題で例えば緑の革命で遺伝子組み換え植物は生産性の向上をもたらしたがそのために大規模な灌漑のため利用できる地下水は減り続けている。また肥料を撒いても養分は土壌にとどまらず表土は流出し農薬と肥料はもはや使わずに生産量を維持できなくなる。

    利益を上げるために農場は大規模化し単一食物に走る。農家にコストダウンを迫る食品会社も同様にウォルマートの様なスーパーマーケットからのコストダウン要求にさらされる。ちなみにウォルマートのコストダウンの最も大きな物は安い給料で働く移民など人件費による物らしい。スーパーマーケットはマクドナルドなどのファストフードとの安売り競争にさらされ、結局はより安く、より豊富でな食品を求める消費者がこの巨大なサプライチェーンを生み出したと言える。しかしこの巨大な食システムは例えば天候の不順やエネルギー価格、食中毒から鶏インフル、狂牛病等何か一つ狂うだけで大きなダメージを受ける。タイの洪水で歯車が狂ったジャストインタイム方式を連想してしまった。

    遺伝子組み換え技術や有機農法なども今の所は充分な解決策にはなっていない。特定の農薬に強かったり病気に強い遺伝子組み換え作物は作れても収穫を増やすにはもう限界が有る。小規模な有機農法と消費者を直結した取り組みで成功した例はある物の規模の限界を超える答えにはなっていない。どうも日常的に肉を食べるのをあきらめるしか答えが無さそうなのだがそんなことができるのか?

  • 「マクドナルドが世界最高のハンバーガーかどうかはわからない。しかし、それがいつどこで食べてもまったく同じ品質であることは間違いなくすごいことだ」と、スミスフィールドの前会長ジョー・ルターが述べている。

    これは、人間が生きる上で欠かせない「食」を経済活動に組み込み、工業化したことにより成り立ったことだ。この「食」の工業化は持続可能なのだろうか。

    比較優位論による低コスト、大量生産モデルを世界的規模に拡大することで、私たちは恩恵を受けるだけでなく損害を負った。
     【損害】
      ・農場や食品会社の急激な資本統合
      ・地域独自の食文化の崩壊
      ・大規模な畜産による水質汚染
      ・農業肥料由来の化学物質の流出と環境汚染
      ・余剰カロリーの氾濫に起因する生活習慣病

    比較優位論を農業にあてはめるには、常に安い輸入穀物をあてに出来るという前提が必要である。人口増社会であり、肉生産のためにも穀物を多量に必要とする現在の社会でこの比較優位論があてはまるのだろうか。食肉の消費量に着目してみると、牛肉0.45kgを得るために、9.07kgの穀物が必要になる。世界の食肉消費量がアメリカ並み(年間1人当たり98kg)になった場合、現在の世界の穀物収穫量では26億人しか養えない。イタリア並み(年間1人当たり78.4kg)になった場合でも50億人である。世界人口のピークとして予想されている95億人(2050年)を現在の穀物供給量で養うには、食肉消費量をインド並み(年間1人当たり5.44kg)に抑える必要がある。

    農地を集約し工業的農業で成功している国としてアメリカが挙げられるだろう。アメリカは世界で最もコスト競争力のある農業生産国であることは確かだが、政府の膨大な補助金によって成り立っている。例えば、2005年には1兆5200億円もの補助金が投入された。また、大規模な工業的な農業が効率的でコストがかからないというのは、水の汚染や土壌侵食などの外部コストを除外して見ているからである。農業通商政策研究所のスティーブ・サッパン研究部長は、「私たちは実際に安価な食料を生産しているわけではありません。多くのコストを外部化することによって、安価に見せているだけなのです」と言う。

    工業化された「食」では、食べることの意味が変質してしまった。従来は社会の仕組みやしきたりを維持する機能を担っていたが、現在では値段や手軽であることが最重要視されている。

    ミズーリ大学のジョン・イカード名誉教授は、「工業化された農業が強調している高収量とは、本来は"一時的"なものだ。なぜなら、それは、長期的な生産性の基盤となる天然資源や人的資源を搾取することによって支えられているものだからである」と言い、工業化された農業は、「自然を使い果たし、社会を疲弊させる。そして、そうした自然資源と人的資源がなくなった後には、経済を持続させる手段は残っていない」と警鐘を鳴らす。現在の課題への対策は、対処療法でしかなく、持続不可能なシステムそのものには触れていないのだ。これまでその場しのぎの改善を繰り返してきているが、「自分たちが食べるものをどう考え、それをどう作るのかを、もう一度根本から問い直してみる」必要があるのではないかと筆者は主張している。

    工業化された農業に対し、古野隆雄は、合鴨農法により大規模工業的農業に匹敵する、1年で1033万円の収入をあげた。古野らは未来の食システムは、限りある資源で莫大な外部コストをかけずに食料を作るには、多角的農業に移行するしかないと考えている。しかし、古野らが提唱するような統合的農業システムは、現代の工業的農業の大原則である"単純化"に大きく反している。アメリカの平均的な農家は収入の大半を農業以外の活動から得ているため、農業に長時間の労働力を割くのは難しい。

    農業の工業化が起こった背景には、「大半の消費者は目先の新しさや変化を求める一方で、外部コストを賄うための食品価格の値上げや、肉などの好物の消費を抑えなければならないような食経済は受け入れない」という背景がある。市場は強制されなければ変化しないため、コーネル大学の生態学者デイビッド・ピメンテルは、食システムを変えるには食料政策を変革する必要があると考え、外部コストを基準にして、肉、乳製品、卵などを高税率にする「持続性特別税」の導入を提唱している。

    筆者は、現行の食システムが消費者起因で形成されているため、変更されるのは、「これからシステム自身が引き起こすであろう数々の緊急事態への対処を繰り返した結果になる可能性が極めて高いだろう」と言い、「食物生産を他者に任せたことや、自分が食べるものの特性や優先事項やそれについての思いを、遠く離れた経済モデルによって決められてもかまわないと思ったがゆえに、私たちは食の衰退を加速させ、それと同時に、人生にとって重要な何かを失ったのではないかということだ」と述べている。


    食システムを持続させるには、多角的農業に移行する必要があるのだろう。その際に、兼業によって得てきた収入を維持することがネックになってくる。専業農業で収入の維持や、支出の削減を考えると、農業+発電のソーラーシェアリングによって一部でも自動的に収入が入ってくる仕組みが一つの案になるのかもしれない。

  • 食システムの危機をいかにして乗り越えるべきか?

    筆者は、食そのものは本質的に経済活動でない、としている。しかし今や、食が資本主義経済に取り込まれてしまい、さらにはグローバル化してしまっている。資本主義的な市場システムのもとで作動する食システム(食の生産から消費までの全体像)は、確かに効率的になり、より多くの食料を生産・消費することに成功してきた。しかし、それは資源の過剰消費や、外部コストの発散によってなされたものだ(これは単純な需要―供給モデルでは分からない)。従って、現在の食システムは全く持続可能的ではない。何かしらの「想定外」(大型ハリケーン、鳥インフルエンザ、石油産出諸国の政治動乱…)が起これば、すぐにでも大打撃を受ける。仮にそれらの擾乱がなくとも、いずれ資源が底をつき、食システムは成立しなくなる。

    では、悪いのは誰なのか?
    本書では、生産者、加工業者、流通(小売)業界、国家のすべてを調査の対象としている。ここから分かるのは、どこもかしこも問題だらけだということだ。大農場も悪いし、ネスレも、マクドナルドも、ウォルマートも、政治家もとんでもない大悪である。だったら改革しろ!でなきゃ潰せ!と息巻きたくもなる。ところが、それでは解決にならない。
    そもそも、これらが激しい競争を推し進めているのはなぜだろうか?それは、消費者のせいである。そして究極的には、われわれ一人一人の問題なのである。競争を勝ち進めるために、分業と大規模化を進めざるを得ない。それはまさに、経済の法則に飲み込まれ、それに従っているだけの存在である。消費者が今と同じ効用の最大化(腹いっぱい旨いもの、特に肉を食いたい!)を期待している限り、企業は経済法則から逃れられないのである。

  • 経済を構成するひとつのアイテムとなってしまった食べ物の今と将来についての話。安い食べ物、安定供給される食べ物の裏に、添加物や農薬、土壌崩壊などの背景がある。化学肥料で土地はやせるし、オーガニックなものの多くは実は循環型になってはいない。そんな世界に、肥満と飢餓で苦しむ人数が同じぐらいいる。
    この背景にはどんな理由があるのか? 人口増? 生産者の怠慢? 食品会社の利益のため?
    一番の黒幕は、それらの背景で、「もっと安いものを安定供給しろ」と圧力をかける消費者たる僕たち…
    いいものをより安く、なんてやっていると、そのツケが溜まっていくことを、これでもかと紹介されてしまいました。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1000930728

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99502495

  • SDGs|目標2 飢餓をゼロに|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/57742

  • 食に関する「危機」が書かれているが、なるほどジャーナリストが書いたのだなと思わせる執拗なまでの煽りに溢れた悲観論を感じる。
    ある章では、穀物が溢れて価格が下落し農家の生活が危ない、と煽ったかと思えば、別の章では、食糧確保が困難で危ない、などと、煽りまくる。
    つまり、ある場所だけでは溢れていたり枯渇していたりと極端であるが、世界的に目を向ければ、大体は食料が足らなくなるだろう、という事なんだろう。
    インフルエンザの爆発が危惧されているが、別のウィルスでパニックになっているとは著者も思わなかっただろう。

  • 食糧危機への警告本というジャンルもいい加減マンネリ化してきたせいか、さすがに大手企業だけに責任を帰すような暴論にはなっていないが、それでも恐怖を煽るだけの本であるところは変わらない。
    それにしても本書は分量が多いせいもあってか、章が変わるだけで主張がブレるのには驚きだ。

    「大量生産のせいで穀物価格が安くなりすぎてヤバい!」といった次の章で「牛肉の消費急増で穀物が足りなくなってヤバい!」と言ってみたり。
    「後進国では他国から安価な食料が侵入してきて自国の生産業がヤバい!」といった次の章では「人口急増で食料が足りなくなる!」と言ってみたり。

    グラフや表どころか数値もほとんど用いられないのは、そうした章間での不整合に気づかれないようにするためか。
    「可能性がある」「可能性は否定できない」「最悪の事態が生じても不思議ではない」という言葉が多用されるが、それがどんな突飛であろうが確率が示されないのであれば、「豆腐の角で頭をぶつけて死ぬ可能性がある」とだって言えてしまう。

    また、数値で語れないので、意見は基本的に感情のみを重視したものとなる。
    家庭での食事が減って外食が増えることについては、女性の社会進出や分業による余暇時間の創出などのメリットを無視して『私たちの身の上に何か極めてよからぬことが起きるような気がしてならないのだ』と感情だけで危機感を煽る。
    『牛の運搬用トラックについては、ほぼ十台に一台の割合で病原性大腸菌が見つかった』などと食肉の不安を煽るが、筆者はすべての肉は生で食べられるようにするべきだとでも言うつもりだろうか?

    2008年に書かれた本書によれば、政府や巨大な食料組織に対抗するため『彼らの不満を爆発寸前の状態までふくらませた』二百万もの"組織"が『主催者もメディアも未確認だが、おそらく、人類史上最大の社会運動』に参加しており、『この大規模な動きがそのうち、ある種の臨界点に達し、頑強に抵抗する政治家や産業界のロビイストでさえ阻止できないほど、大きなうねりとなって、改革への原動力となることは十分に考えられる。』とのことだ。

    良書というのが何年も、時には何百年もの批評に耐えうるものだとすれば、そうでない本は数年でその正体が暴かれる。
    時事問題の理解のためには、新刊に飛びつくよりも、数年前の本と現時点での状態を比較すると、新しい側面で語れるようになるかもしれない。

  • 手軽で美味しいモノに低価格まで求めたら、食の安全が犠牲になる…なんて少し考えれば分かることだけど、それにしても凄まじい。無理が通れば道理が引っ込む、だわな。

    マクドナルドやウォルマートはこんなことやってます、「緑の革命」はこうなった、との事例報告で手一杯。ローカルヴォアとかオーガニック、シエラクラブや不耕起農法とかの話が駆け足になってるのは紙幅の都合か。日本人に馴染みのない言葉にちょいちょい訳者注が入っているのが親切。

全45件中 1 - 10件を表示

ポール・ロバーツの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジュリアン・バジ...
クリス・アンダー...
ジョセフ・E・ス...
ジェイコブ ソー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×