いま世界の哲学者が考えていること

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  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478067024

感想・レビュー・書評

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  • ポストモダンの哲学がその勢いをずいぶんと昔に削がれた後にもまだ「哲学者」がいるのか、いるのであればそういう人たちはどういう問題意識をもっているのか、ということに興味を持って読み始めた。

    ヘーゲルの有名な言葉「ミネルバの梟は黄昏とともに飛び立つ」をひいて、哲学とは「自分の生きている時代を概念的に把握する」ものだと著者は定義する。その問題意識は、かつて「哲学者」が抱いていたそれとは時代認識が違っているからこそ当然にして異なっている。そのために著者は、
    ①哲学は現在、私たちに何を解明しているのか?
    ②IT革命は、私たちに何をもたらすのか?
    ③バイオテクノロジーは、私たちをどこに導くか?
    ④資本主義制度に、私たちはどう向き合えばいいか?
    ⑤宗教は、私たちの心や行動にどう影響をおよぼすか?
    ⑥私たちを取り巻く環境は、どうなっているか?
    という現代に即したテーマに関して哲学的論考を進めていく。

    ①の議論では、言語から意識への自然主義的転回、ジョン・サールなどの意識の問題について考察する。自分の感覚では、本章がすべての章の中でもっとも「哲学」らしい。著者がこの章を初めに置いたのもそこに理由があるのではないだろうか。
    ②のIT革命に関しては、フーコーのパノプティコンや「1984年」のビッグブラザーに言及しつつ、ジグモンド・バウマン、ダニエル・デネット、レイ・カーツワイル、などを紹介。
    ③のバイオではクローンなど遺伝子技術に関連して、リチャード・ドーキンス、マイケル・ガザニカ、ピーター・シンガー、アントニオ・ダマシオ、ジョシュア・グリーン、オリバー・グッドナイフ、などの生物学者や脳科学者を紹介。この領域は今後も大きく進展していくだろうし、いわゆる哲学の領域にも浸食していくだろう。
    ④の資本主義社会については、トマ・ピケティ、ロバート・ライシュ、ジョン・ロールズ、ロバート・ノージック、ハイエク、ミルトン・フリードマン、アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート、アマルティア・セン、エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ、ダニ・ロドリック、ジェレミー・リフキン、ヨーゼフ・シュムペーター、などを幅広く紹介。道徳と倫理といったことが論じられている。
    ⑤では多様化する社会と地域紛争を取り上げて、チャールズ・テイラー、サミュエル・ハンチントン、ユルゲン・ハーバーマス、ミシェル・ウェルベック、ジル・ケベル、スティーブン・グールド、マルクス・ガブリエル、などを紹介。
    ⑥では環境問題として、地球温暖化、種の多様性、などスケールの大きな問題について扱い、ブライアン・ノートン、ベアード・キャリコット、ウルリッヒ・ベック、ビョルン・ロンボルグを紹介。

    IT技術やバイオ技術が世界や倫理に与える影響について検討が必要であることは間違いない。経済についてもグローバリズムや格差の問題となると倫理の問題につながる。現在の「世界」を考える上では、宗教を含めた文化の多様性についての議論は避けることはできない。環境問題については冷静な議論のための理論構築が必要だ。これらの諸問題をめぐる言論をまとめるという意図ではこの本は成功していると思う。ちょうどよいくらいに専門的で知らない内容がまぶされていて面白かった。

    およそ本書で紹介されている知識人の多くはおそらくは自分自身のことを「哲学者」だとは思っていないだろう。
    世界の哲学者がどのようなことを考えているかを書いたと言いながら、哲学者がかつて占めていた場所の多くを別の分野の学者が占めていることが明らかにされたようにも思う。ただ、それも含めて「哲学」と呼んでもよいのではないかというのが著者の言いたいことであるのだが。その世代の問題意識によって必要とされる「哲学」は変わってくるのだから。

    まずまずに知識欲が刺激されて読んでいて楽しかった。

  • 著者の岡本裕一朗氏は、一般向けの新書も上梓している西洋近現代思想の研究家。
    著者は、まず序章で、フーコーの表現を引用して、“哲学”とは「たった今進行しつつあることは何なのか、われわれの身に何が起ころうとしているのか、この世界、この時代、われわれが生きているこの瞬間はいったい何であるのか、われわれは何者なのか」を問題にすることとし、“現代(今)”というこの時代は、「歴史的に大きな転換点」、「「モダン」そのものの転換点」であるが故に哲学にとって重要なのであるという。
    そして、前段で、デリダやローティをはじめとした20世紀後半のスター哲学者の多くが亡くなった後、「21世紀になって、世界の哲学はどうなっているのか」を俯瞰し、後段で、「モダンの転換」に関わる5つの重要なテーマについて、哲学者の範疇に留まらない、各領域の専門家の思想を縦横に引用・紹介している。
    特に後段については、いずれも単独の主題として取り上げた書籍を読んでいるような関心の高いテーマで、非常に興味深いものであった。
    なお、後段の5つのテーマでは以下のようなキーワード、キーコンセプトが取り上げられている。
    1.IT革命・・・人工知能(AI)、シンギュラリティ(技術的特異点)、SNSと民主化運動、スマートフォンのドキュメント性、パノプティコンとシノプティコン
    2.バイオテクノロジー革命・・・ゲノム編集、ポストヒューマン、リベラルな優生学、トランスヒューマニズム(人間超越主義)、クローンと一卵性双生児、寿命革命、脳科学研究と近代的刑罰制度
    3.資本主義・・・「歴史の終わり」、ピケティ現象、格差是正と貧困救済、リベラリズムとリバタリアニズム、ネオリベラリズム(新自由主義)、グローバリゼーション、仮想通貨、フィンテック、シェアリング・エコノミー、
    4.脱宗教化・・・「世俗化」と「ポスト世俗化」、「文明の衝突」、多文化主義モデルと社会統合モデル、グールドのNOMA原理とドーキンスのNOMA原理批判、創造説とネオ無神論
    5.環境問題・・・地球温暖化問題、人間中心主義、ディープ・エコロジー、環境倫理学、環境プラグマティズム、生態系サービス、リスク社会論
    歴史の転換点に生きる我々が考えるべき根本的なテーマについて、現代の知性たちの多様な主張をヒントに、自らの考えを掘り下げることができる、有用な一冊と思う。
    (2016年10月了)

  • 哲学者を一人一人紹介していくのではなくて、いくつかの現代世界のテーマ(問題、具体的現場)をどう考えていくのか、ということについて世界の哲学者たちの考え方を引き合いに出していくスタイル。抽象的にならず、具体的で、哲学の本としては取っつきやすいと思う。

    環境倫理に関する章はかなり批判色が強い。一方で、今一番注目の思弁的実在論についてはさらっと概要を紹介するだけで、あまり踏み込んでいなかった。宗教の章は大変難しい。

  • タイトル通り、何が今トピックとして論じられているのかが知れる。

    結論や筆者の意見が書かれているわけでないが、
    入り口として過不足なく推薦できる良著。

    難しすぎるので哲学に本気で手を出すのはやめようと思ってる自分のようなライト層向けでもある

  • うーん、自分の勝手ルール上、否定的な書評は書かないことにしているのだが・・・逆説的に得たものはあるということでメモ。

    人工知能、バイオテクノロジー、資本主義、環境。現代のグローバルな問題について哲学がどう読み解いているか、それを知る本。タイトルだけ観れば誰でもそう思う。だが、実際には各章で引用されているのはその筋の専門家(数学者、生物学者、経済学者)が大半。かつ、考察は率直に言って浅い。

    例えばAI。「フレーム問題」についての説明があるが、これは入門書が必ず触れる基本論点。哲学を持ち出して何かが前進している感じはない。ネット社会については「(ビッグデータを管理することの)影響力は計り知れないものになるはずです」(P.101)。・・・ってこれが末尾の一文かい!

    濃淡こそあるが極論万事この調子。「現代こそ哲学が必要」だそうだが、本書を読む限り、その道の専門家の技術論(環境問題なら気温測定の方法の精度とか)のほうが思考の材料としてよほど有効であるという印象だけが残った。

    誤解なきように言うと「自分とは何か」「なぜ生きるのか」など永遠の問いはあると思う。また、これだけ学際的な論点が広がれば、課題を考える有力な「軸」として哲学は必要とも思う。が、本書だけで判断する限り、著者がいう哲学の最新理論がさして貢献できているとは少なくとも私には思えなかった、ということだ。

    思うに、多くの人は実はそれに気が付いている。だからこそ、「哲学」ではなくて「教養」がバズワード化しているのではないだろうか。

  • オーディオブックで読了。

    最新の哲学動向ってどうなってんのかな?

    ぐらいの軽い気持ちで読んだら、いわゆる人生論や観念的な話はほとんどなくって、人工知能、遺伝子工学、格差社会、テロの脅威、フィンテック、宗教対立、環境破壊などなど、様々なトピックスに対して様々な「思想」やそれが与えてきた影響などをダイナミックな文脈で解説してくれる本でした。嬉しい誤算。

    本書の素晴らしい点は、クローン人間がなぜ問題視されるのか?なぜ貧困や格差が問題なのか?なぜ人間は地球環境を守らなければいけないのか?と、どこかでタブー視や絶対悪と僕らが思い込んでる事柄に「なぜ?」をぶつけて改めて考えるきっかけを与えてくれるところ。

    人それぞれ、立場や主張はあるとして、それを表層上の理解や、思い込みの段階に止めたり、自分の見方にバイアスが掛かっていることに気づかないのは、危険なんだな・・と改めて思いました。

    多面的に考えるとか、背景にあることを全部理解して深く考えるとか、そんなに簡単なことじゃなくって、やはり虚心坦懐に自分が知らない事を自覚しながら、知る努力と考える努力を続けるしかないんだなぁっと。気を付けよう。

    ということで、本書は結構オススメ。

  • ポストモダン以降を①メディア・技術論的転回、②実在論的転回、③自然主義的転回に整理した上で、 IT、BT、資本主義、宗教、環境問題について個別に扱う。各章ごとのブックガイドが秀逸。マルクス・ガブリエル歳下かぁ。。。「天才」とはいえ、かなりショック。

  • 著名な哲学家の言葉を引用しながら話が進んでいく。私たちに身近な課題を取り上げようとする気概は素晴らしいと思うが、やや間延びしてしまっている印象。期待外れ。

  • 序章はごちゃごちゃしていたが、その他の章はテーマがあるのでわかりやすい。
    何が正しくて何が正しくないのか。
    正解のない中でのものの考え方を学ぶ上では、哲学に関する本は読むに値する。

  • IT革命、バイオテクノロジー革命、科学と宗教・・・
    帯には『「世界最高の知の巨人たち」が現代のとけない課題に答えをだす』と書かれているけど、読んでみて、やっぱり答えは出ないよな、と思いました。いろんな学者さんのいろんな主張を網羅的に読めるのはよかった。

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著者プロフィール

玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科単位取得退学、博士(文学)九州大学。専門分野:哲学・倫理学。主要業績:『異議あり!生命・環境倫理学』(単著、ナカニシヤ出版、2002年)、『ネオ・プラグマティズムとは何か』(単著、ナカニシヤ出版、2012年)

「2019年 『哲学は環境問題に使えるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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