人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?―――最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質

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  • ダイヤモンド社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478102541

感想・レビュー・書評

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  • 本著は将棋AIポナンザが名人に勝利するまでの経緯になぞらえ、人工知能を解説している。

    万能な人工知能(強いAI)ではなくー領域での人工知能(弱いAI)についての話だ。その分、具体的で分かりやすくなっている。

    同じボードゲームでもチェスAI、将棋AI、囲碁AIとでは、人工知能化するには事情がかなり異なるらしい。

    チェス・・・数式で表現が確立していた→1997年世界チャンピオンに勝利
    将 棋・・・数式の表現を試行錯誤→2013年プロ四段に勝利
    囲 碁・・・数式で表現不能→2016年イ・セドル氏に勝利

    つまり、同じボードゲームでも数式でどう表現するかによって、人工知能化していくアプローチは全く異なるものになってくる。結局、将棋は強化学習(機械学習)で、囲碁はディープラーニングでプロに勝利したというのがミソとなっている。

    後にボナンザ(将棋AI)もディープラーニングを搭載するだが、その一番知りたかった部分が書かれていなかったのが残念だ。人工知能に興味を持った読者が最も知りたい部分だと思うのだが。。

    270ページほどのボリュームのうち、70ページは対談になっているので、購入する前にそこは確認しておいたほうが良いだろう。

    他に著者の面白い知見は次の通り。

    ◯「知能は画像」というのは興味深い。
     一部分は当てはまると思うが、全てではないと思う。しかし、逆に言えば、画像に置き換えられるものは、ディープラーニングで解決可能ということだと思う。それについては同意できる。

    ◯現実の問題(政治などの問題)は囲碁の問題よりも易しいと考えている
     これはインタビューの中に書かれてあったので、どのような根拠でこう書かれているのか分からなかったのだが、政治の不甲斐なさを感じている身としては、是非チャレンジしていただきたい項目である。格差の問題や資源配分の問題については、人間よりコンピュータの方が期待できそうである。

  • 将棋界のトップ棋士を倒した人工知能「ポナンザ」。本書はポナンザ」を開発した山本さんが、わかりやすくポナンザの仕組みを解説しています。(簡単な表現で書かれているけど、そもそも内容が難しいから、理解できたとはいいがたい)

    もともとは、人間が完全にプログラムを組むことで、将棋を覚えさせていたのですが、将棋は最新の人工知能でも全てを解析することは不可能なほど奥が深いため、すぐに行き詰ります。その後、機械学習という仕組みを取り入れ、将棋の駒の関係性の優劣(王将の近くにいる金は価値が高いとか)を教えて、あとは人工知能に勝手に学習させることで、急激に「ポナンザ」は強くなり、将棋界のトップ棋士に勝てるようになりました。(2017年には名人にも勝利)
    囲碁は将棋よりももっと奥が深く、人工知能が人間に勝てるのは数十年後といわれていたのですが、アルファ碁(グーグル)は、さらに人間の神経回路に似せた多層構造の仕組みを持つディープラーニングを取り入れることで、2016年に囲碁のトップ棋士に勝ってしまいます。

    将棋、囲碁が題材ですが、これらの出来事は、これから広く人間と人工知能の関わり方を暗示しているように思われます。情報を集めること、計算すること、ルールの中で最も正しいと思われる選択肢を瞬時に選ぶこと。これらは人工知能が得意とする分野です(その思考過程がブラックボックスにならざるを得ないのが気持ち悪いが)。人間にできることは何だろう?課題を設定すること?特に、人工知能の助けを得ながら、新たな問いを立てることは人間にしかできない分野かもしれません。

    本書で印象的だったのは、囲碁の世界で、トップ棋士が負けた後、素直に棋士たちが人工知能に勝てないことを認め、そこから学ぼうとしていることです。プロレベルでも、囲碁の世界はまだまだ未知の領域が広大であることを人工知能が気づかせたのだそうです。(将棋でも同様に、人工知能を棋力向上に活用するようになってきています)
    このあたりに、何か大きなヒントが隠されているような気もします。

  • 2017年4月についに現役名人を破った将棋ソフト「ポナンザ」の開発者自らが、将棋や碁の人工知能開発について書いた本。実際にこの世界の先端を歩んできた開発者であるためその内容に信が置ける上に、表現も読者にとって非常に読みやすく興味を惹くように書かれている。論理的であるということと文章の才は関係もあるのかもしれない。

    人口知能は、将棋界だけでなく、囲碁界でも躍進し、AlphaGoが2016年のイ・セドルに続き、現囲碁界の頂点に君臨するカ・ケツにも2017年5月に圧勝した。それまでは一線級の棋士にはまだまだコンピュータは勝てないだろうと思われていたものが、正に一瞬にして様相が変わり、もはや人間はコンピュータには勝てないだろうという認識が支配的になった。そういう意味でもこの1年は人口知能界にとって画期的な年であった。そして、この先もどんどん進化していくだろうと、多くの人がそのことに若干の不安を持ちながら期待を持って確信した年でもあった。

    ポナンザも開発当初は将棋もそこそこの腕前であった著者が、勝つためのロジックをプログラマである自身が考えて組み込んで作ったものであった。その成果としてできあがったソフトは、残念ながら全く人間に歯が立たなかった。もちろん著者自身にも。つまり、人間のロジックを上手く言語化して計算可能な問題にすることができなかったのだ。その限界を変えたのが機械学習とディープラーニングだった。著者はこの技術について、計算不可能と思われていた問題が計算可能な問題になったと表現する。その表現は納得感が高い。ポナンザの開発経緯を辿って、強化学習の導入やコンピュータ自身による「評価」の調整方法などが説明されるが、具体的な事例に沿っているため非常に腹落ちしやすい形で説明される。たとえばAlphaGoが使ったモンテカルロ法の説明も非常にわかりやすい。

    ポナンザの生みの親である著者が、ポナンザに負けたとき、自分の子供の成長に例えてその喜びを表現した。また一方、2013年にプロ棋士(佐藤四段)をポナンザが破ったときの記者会見のことをゾッとしたと表現する。しかし、現在では状況はずいぶんと変わった。ポナンザが新しい戦法を指すようになり、将棋界でもポナンザ流というものが出るようになったという。そしてついに名人が破れてもそれほど驚かれないような世界となり、佐藤名人自身もオフラインの対局でもほとんど勝てなかったと認めるような状況になった。現在将棋界では新しい星として、14歳中学生の藤井四段がプロになってからの連勝を伸ばしているが、彼も将棋ソフトから大きな影響を受けて強くなっているのかもしれない。

    本書の中では、当然将棋が中心になるのだが、人口知能一般にも話が向けられている。人口知能については「解釈と性能のトレードオフ」がある。つまり性能を上げるほどなぜ性能が上がったのかわからなくなるというものである。それは将棋ソフト以外でもあてはまる原則だという。そして、将来そこにはある種の倫理の問題が出てくるのではと指摘する。そこが気味の悪さの大きな要素でもある。

    ディープラーニングの未来について「言葉」と「音声」と「画像」が大きな応用先であることは間違いない。Googleの動きを見ていてもその通りであり、音声認識率や翻訳の自然さ、Google Lensの話などますます精度があがることがほぼ確実に期待できる。だからこそ、その先に何があるのかを倫理的な角度からも考えなくてはならない。

    著者は、開発を経て、ときどきポナンザの指し手に意思を感じたり、目的を感じるようになったという。人口知能は「知能」を獲得したが、そのうちに「知性」まで獲得するようになるかもしれない。かつて、人口知能は人間の脳に近いやり方ではうまく行かないと言われていたが、それは道具立てが追いついていなかっただけで、今では人間の脳に近いほどうまくいくと言われている。人間の脳のメカニズムの解明にもつながっていくのではないか。

    とにかく将棋がわからない人にもお勧めの本のひとつ。そこいらの人口知能の解説本よりよほど本質がわかるような気がする。

  • ニューラルネットワークを用いた最適化問題を卒論に選んではや25年。
    全く違う道を選んだ自分には到底ついていけない領域だ。
    すごいということだけは間違いないことだけはわかる。
    しかし、これほど多くのリソースを必要としているとは驚きでした。これではこの分野でGoogleがリードするのは必然なんだろう。
    ネットサーフィンしているときもGoogle様の領域に足跡つけまくっている感じがする今日この頃、この本を読んでさらに恐ろしくなる。
    なにはさておき、開発者のロマンを感じたければ、読むべき本であることは間違いない。

  • 改めて、人工知能がゲームで人間に勝つまでの試行錯誤の記録。

    オセロ・チェス→将棋→囲碁、の流れは、いわばプログラミング→機械学習→ディープラーニングの歴史に置き換えられる、といった整理は、専門的な厳密性はともかくとして、「何が起きているか」の文系向け理解にはもってこい。囲碁は無数の画像パターンのシミュレーションともみなせる、というのも目からウロコ。駒が移動する将棋より、常に新規に石が盤面に発生する碁は画像分析になじむ、というようなことらしい(著者は、「突き詰めれば画像=知能」くらいの認識を示唆している)。

    個人的に面白かったのは、人間は、とくに序盤ではいろいろな局面に対応できるように「糊しろ」のある手を打つことが多いが、人工知能はズバズバ結論を出して打ち込んでくる、そしてはるかに強い、というところ。ビジネスだろうが軍事だろうが、「ここは一旦様子を見よう」というような判断は人工知能に太刀打ちできなくなってくるかもしれない。

    巻末のイ・セドル九段対アルファ碁についての対局解説も、囲碁はよく知らないが面白かった。

  • 人工知能の将棋のプログラムであるポナンザを開発した著者が開発過程と人工知能の未来について書いた一冊。

    ルールの理解が難しい状態からプログラムの応用や機械学習という手法を経てトップのプロ棋士を破るまで成長した人工知能の歴史をわかりやすく解説されており大変勉強になりました。
    チェスやオセロに比べて難解な点や囲碁の難易度などゲームの難易度の解説から機械学習についてもわかりやすく書かれており機械学習が人工知能に及ぼした影響は革新的なものだということを本書を読んで感じることができました。

    本書の中で一番印象に残っているのはシンギュラリティが起きる時いかに人間と同等の倫理観を人工知能が持っているかというところは非常に心に刺さり考えさせられるものがありました。

    将棋や囲碁といったゲームから人工知能の歴史や可能性を本書から感じることができました。
    様々なものから卒業をしてきた人工知能が今後の歩みにおいて間違いを起こさないように上手く舵を取っていくことが大事だと思いました。
    そして、そのうえで自分たちの未来の生活にどのように関わってくるのか楽しみになった一冊でした。

  • ポナンザがどのように開発され成長したかがわかる。開発側の視点でのAIがよくわかる。

  • 佐藤名人を2連勝で終えたポナンザの制作者の人工知能論。ポナンザ自体は当時ディープラーニングは使わず、探索と刈り込みを強化学習し、プログラム対プログラムver2との対戦を繰り返し、勝率が52%を超えたら乗り換えるという手法を取って行った。将棋チェスの場合は、コマの移動できる範囲が大きく、静的なディープラーニングは向かないと考えていたが、その後ディープラーニングでもポナンザを作りうまくいっている。

    そのきっかけとなったのがアルファ碁だったが、これはディープラーニングの強みとされている画像認識を用いている。白、黒、石なし、で構成される局面を画像と捉え局面化し、それぞれの勝率を計算し強化学習を行った。さらに局面の評価もディープラーニングで評価できるプログラムを強化学習で構築し、それら二つをつないであっという間に最強のプログラムとした。

  • 非常にわかりやすい文章なので人工知能について知りたい入門書としてオススメ。あと、著者の人工知能という存在に対する価値観が面白いと思った(あとで詳述)

  • 「サイコロには知性がある」「中間目標が立てられることの意味」「今まで計算できなかったものを、計算可能にするのが、人工知能における課題」あたりがとてもとても面白かった。

    最終章は、結論だけ読むと「?」になるが、一章一章読み進めると「なるほど…」になる。
    人間の倫理観が人工知能にも影響与えかねないなんて、想像もしていなかった。


    自分用メモ
    ・人間は自分が理解していることを漏れなく説明することができない。
    ・なぜ将棋で良い手を選べるのか自分では説明できない。
    ・コンピュータには一般化する能力が今のところほとんどない。
    ・ポナンザ2045

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著者プロフィール

九州大学大学院人間環境学府を修了後、京都造形芸術大学こども芸術大学にて
芸術教育士として勤務し、保育実践の経験を積む。退職後、京都大学大学院
教育学研究科にて博士(教育学)を取得。現在、滋賀大学教育学部講師。

「2019年 『保育実践へのエコロジカル・アプローチ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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