経済人の終わり: 全体主義はなぜ生まれたか

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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478372111

作品紹介・あらすじ

全体主義の問題は、依然として解決してはいない。第一次世界大戦後、ファシズムが台頭した原因と、その経済社会的背景を鋭く描いたドラッカーの処女作。

感想・レビュー・書評

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  • 訳者の方が「息もつかせぬ」という展開、作者もですが訳者の方の仕事も素晴らしい名著かと思います。

    ドイツはソ連と戦争して欲しいと回りは思っていた、でも内部力学は逆である。ドイツがソ連を攻撃するとしたらヒトラー個人の心情からで、それを実行すれば力学との矛盾からナチスは崩壊する、というのは怖いほど当たっている気がします。スパイでも雇っていたのではないかっつー程です。チャーチルは、イギリス軍将校にこの書を配ったと言いますが、もしヒトラーがこの本を読んでいたら、全体主義の崩壊は遅れて今頃「暗黒の時代」だったかもしれないですね。

    チャーチルは、うつ病や老齢と戦いながら、こんな素晴らしい知性が味方の陣にいて、さぞや大きな心の支えになったのではないかと勝手に想像してしまいます。

    ですが読み終わった後に、この本で扱われている時代の70年も後の現代、この本に既に出てくる「エコノミックアニマル」の繁栄は「終わり」だった気がしません。全くもって今も続いているのではないでしょうか?

    同時代の分析結果が余りに素晴らしく、内容が素晴らしいだけに、「終わった」後の次の「概念」が、恐らくこの70年で「成功」したのではないかと思われるのですが、何だったのか、作者の処女作がこれという事ですので、次回作以降に書いてあるはずで、非常に興味深いところです。

    「経済的平等」という状況は、欧州の中だけでも、何という「人」が出てきても実現できる気がしないからです。

    次作は、嬉しい事に既にわかっていて”「産業人」の未来”だそうで、早く読みたいと思います。

  • 読書の目的
    ①ドラッカー思想の原点を知る。
    ②この著書で行った未来予測(「ナチスはユダヤ人を迫害する」、「ヒトラーはスターリンと条約を結ぶ」)の手法を学ぶ。

    言わずと知れたドラッカーの処女作。
    ドラッカーは、序文の中で本作を「20世紀前半における最大の社会現象としての全体主義の興隆を理解するための最初の試み」としています。

    ・「経済人」とは何か。
    自らの経済的動機(経済的地位、報酬、権利)に従って行動し、そのための方法を知っているという概念上の人間。自由な経済活動をあらゆる目的の手段として見るブルジョア資本主義社会とマルクス社会主義社会の基盤となるもの。

    ・何故、全体主義は発生したか。
    ヨーロッパの基本的価値観は、正統な権力の下で人間を自由と平等の存在と見ることだった。

    18世紀後半の産業革命以降、ブルジョア資本主義は経済発展をもたらしたが、格差と疎外を生んだ。
    これに対する秩序として期待されたマルクス社会主義も、特権階級による大衆支配を生んだ。ブルジョア資本主義とマルクス社会主義は激しく争いながらも、その本質は「経済人」の概念を基礎とする「経済至上主義」であり、ヨーロッパの価値観である自由と平等をもたらさなかった。そして「経済至上主義」に代わる秩序が現れない中、第一次世界大戦による破壊と大恐慌による大量失業が発生し、旧秩序は完全に崩れ去った。

    国家社会主義という名の全体主義は、このような状況下で発生した。その本質は「経済至上主義」を否定した「脱」経済至上主義である。当時、経済至上主義に代わる概念は、この国家社会主義という名の全体主義だけであった。イギリスやフランス等、歴史的に国民が自らの手で民主主義を勝ち取った国々は、全体主義に進むことを踏み止まった。しかし、民主主義を国家統一の手段としていた国、つまりドイツとイタリアが耐え切れずに全体主義に走った。日本も同様であった。

    ・新たな社会秩序の出現
     国家社会主義という名の全体主義は、あくまで「脱」経済至上主義である。これは“「経済至上主義」ではない”と言っているに過ぎない。ヨーロッパ伝統である自由と平等を基礎とした新しい秩序を一切提示はしていない。したがって、旧い秩序に代わる新しい秩序を作ることが出来れば、全体主義を克服することができるとドラッカーは本作を締め括っている。

    【感想】
    正直な感想は、「疲れた」です。内容は非常に難解。理解できるまで何度も読み直しが必要でした。
    上記で掲げた目的意識がなければ、途中で挫折したでしょう。
    ドラッカーは冒頭で、本書を「政治の書」としています。私は、政治書であると共に、歴史書、思想書、哲学書でもあると感じました。

    一方で、本作を読み進めるうち、ドラッカーの問題意識が「正統な社会の下で人間は位置付けと役割を必要としている」という点を理解することが出来ました。この考えがドラッカーの思想の原点と言えるのではないかと考えます。

    この「経済人の終わり」では、旧秩序に代わる新たな秩序の提起には至っておらず、その具体的な提起は、次回作の「産業人の未来」で改めて行われるようです。

    【参考文献】ドラッカー入門(上田惇生著 ダイヤモンド社)

  •  革命を革命として認めず、現存の勢力のお色直しにすぎないとする幻想は、つねに旧体制が抱こうとするものだった。同じように16世紀のローマ法皇、17世紀のイギリス王党派、18世紀のフランス貴族も、新しい運動を支持する者は少数にすぎず、彼らの勝利も、大衆の本能を扇動した結果にすぎないという見方に固執した。そしてまさにこの幻想が、旧秩序の主たる敗因となったのだ。(中略)革命の本当の原因、唯一可能な原因とは、価値観の変化、とくに人間の本性と、天地万物および社会における人間の位置付けという、最も重要な領域における価値観の根本的、根源的変化である。(pp.12-13)

     ドイツとイタリアという二つの全体主義国において、その主たる目標としての完全雇用は実現された。かつての失業者のかなりの部分が、経済活動ではなく、軍野党で働いているにすぎないとの指摘は、完全雇用政策の成功をいささかも傷つけはしない。事実の問題として、彼らは、生産活動において生産的な仕事をするのと同じように、自分たちが意義ある仕事についているものと信じている。そのことにこそ意味がある。(pp.164-165)

     大衆が消費の削減を受け入れ、消費財の代わりに生産されるものを望ましいものとして受け入れるかぎり、全体主義経済は機能する。「バターよりも大砲を」という言葉は、経済的な代替についていっているのではない。精神的、社会的な選択についていっている。
     一般にいわれていることとは逆に、消費削減は全体主義社会の弱みではなく、強みである。消費削減は脱経済社会を成立させるための手段である。自らの生活水準および消費水準の低下が一つ上の階級よりも少ないことから得られる満足でさえ、経済的な報酬を非経済的な報酬に代えたことを補うに足る経済的実体となりうる。
     この種の消極的な満足は、全体主義の脱経済社会においては、大きな社会的満足をもたらす。大衆が脱経済社会というイデオロギーを信奉しつづけている間は、この種の社会的満足は十分意味をもつ。したがって、全体主義経済の崩壊は、もしそれが起こるとしても、経済的な崩壊としてではなく、精神的な崩壊として起こる。(p.170)

     ナチズムの反ユダヤ主義は、ユダヤ人自身の特質とは関係ない。関係があるのは、ナチズムの内における緊張がつくり出すユダヤ人像のみである。ナチズムにとって、人種的反ユダヤ主義は手段にすぎない。本当の敵はユダヤ人そのものではない。ブルジョア秩序である。ナチズムは、ブルジョア秩序にユダヤ人の名を付して闘う。
     ナチズムの反ユダヤ主義は、ブルジョア階級の秩序や人間観に代えるべき校庭の概念を構築できなかったことに起因する。階級闘争に走るわけにはいかないナチズムとしては、別の観点からブルジョア資本主義と自由主義を攻撃せざるをえない。(p.206)

     軍事力は、それがいかに必要であるとしても、全体主義の猛威に十分対抗しうる新しい社会を実現するための手段とはなりえない。それどころか、生産活動を軍拡に従属させることは、軍拡そのものを社会目的として賛美することにつながり、経済の不振を通じて、全体主義を招き入れるという重大な危険を伴う。
     そのうえ、何れにしても軍事力は、世の常として、来るべき戦争ではなく、この前の戦争に備えてしまう。このことは、経済学者がつねにこの前の不況に備え、株の投機を行う者がこの前のブーム時に人気のあった株を買うように、過去の経験の他に頼るもののない仕事では止むをえないことかもしれない。
     しかし、少なくともこのような認識は必要である。この認識さえあれば、全体主義を真似、軍事的要請を超えた社会的要請に基づいて軍事体制化を推進することに対しては、疑念が生ずるはずである。(p.258)

  • 原題:The end of economic man, 1939
    著者:Peter Ferdinand Drucker(1909-2005) 
    訳者:上田惇生(1938-) 

    【書誌情報+内容紹介】
     定価:本体2,000円+税
     発行年月: 2007年11月
     判型/造本:46上製
     頁数:312
     ISBN:978-4-478-00120-2
    ファシズム全体主義はなぜ生まれたか。経済のために生き、経済のために死ぬという経済至上主義からの脱却を説く本書は、時の大英帝国宰相ウィンストン・チャーチルの激賞を得た。本書で浮き彫りにした社会問題の多くは、世紀をまたいで今なお、未解決のままである。ドラッカー29歳のときの処女作であり、偉大なる思想の原点となった歴史的名著。
    http://www.diamond.co.jp/book/9784478001202.html

    【目次】
    新版への序文(一九九四年一〇月 カリフォルニア州クレモントにて ピーター・F・ドラッカー) [i-v]
    チャ-チルの評価/全体主義の起源についての最初の本/特殊ドイツ的現象ではない/社会そのものの分析ではない/今世紀前半における最大の社会現象
    一九六九年版への序文(一九六九年元旦 ニュージャージー州モンクレアにて ピーター・F・ドラッカー) [vii-xxvii]
    絶望の果ての熱狂/ヒトラーはスターリンと手を結ぶ/人間疎外/政治信条の喪失がもたらしたもの/キリスト教の役割/マルクス主義革命/悪夢の歳月の景色/ヒトラーの卓見/「しくじった神」としてのマルクス主義/マルクス主義の知的破産と大衆化/小粒な政治家たち/チャ-チルがいた/一九三九年の状況/恐るべき静寂/昨今の悪夢/すでに免疫はあるか/成熟とは/もう一つの「最終解決」/若者たちへ
    目次 [xxix-xxviii]

    はじめに 001
    妥協はありえない/社会と経済の分析/私の分析と現実の動き

    第1章 反ファシズム陣営の幻想 005
    1 ファシズムへの誤解 006
    民主主義と共産主義の後退/臆病に非ず/三つの謬説/革命の残虐性/歴史の改竄/プロパガンダ説/枠外からの革命/価値の変化
    2 ファシズムの諸症状 013
    ファシズム特有の三つの諸症/革命先行/否定の綱領/正当化の必要/ヨーロッパの伝統
    3 大衆心理の不思議 018
    約束への不信/ボックスハイム・ペーパー事件/公約の矛盾/公然たる嘘
    4 「背理ゆえに信ず」 022
    代用としての否定/信条の欠如/信じられないものを信ずる/「背理ゆえに信ず」

    第2章 大衆の絶望 027
    1 マルクス主義の失敗 028
    マルクス主義の約束/教義と現実/神なき教権階級/中間階層の出現/『資本論』未完の原因/労働組合主義への変質/マルクス社会主義革命が起こらなかった理由/プロレタリアに対するプロレタリア独裁/万国の労働者
    2 資本主義の債務不履行 038
    資本主義の約束/利潤動機/経済的自由の恐怖/信認の喪失/大衆の窮乏化/アメリカの意味/アメリカへの移民の変遷
    3 「経済人」の破綻 047
    偽りの神々/「経済人」の概念/経済学の成立/経済学の隆盛と失敗/経済よりも重要なこと/自由と平等/マルクス主義における二律背反/その精密性と脆弱性
    4 合理の喪失 056
    秩序の解体/社会の混沌/合理と魔物/機械論的世界観の限界

    第3章 魔物たちの再来 061
    1 世界大戦と大恐慌が明らかにしたもの 062
    二つの破局/世界大戦の意味/大恐慌の意味/それまでの戦争の意味/大戦の大義/「持てる国」と「持たざる国」/それまでの恐慌の意味/大恐慌の無意味性/人工の魔物たち
    2 魔物たちの追放 070
    悲しいまでの努力/対独強硬論と宥和論/恐慌の絶滅/大衆の変化
    3 自由の放棄 076
    経済発展への抵抗/農業保護/安定の優先/民主主義の凋落/経済的自由の放棄/自由そのものの放棄/自由とは何か
    4 ファシズムの誕生 085
    「真正民主主義」/形態と標語の維持/自由の廃止/虚言こそ真理/魔法使いの壮大な奇跡

    第4章 キリスト教の失敗 089
    1 キリスト教の戦果 090
    教会への期待/教会の時代認識/キリスト教政党の誕生/教会内の新しい勢力/キリスト教の成果――工場法社会保護・最低賃金/キリスト教社会の復活
    2 知的エリートとキリスト教 098
    知的エリートのキリスト教への回帰/カトリックへの傾斜/ドストエフスキーとヘンリー・アダムズ/キルケゴールとニーチェ/転向
    3 教会の無意味性 103
    反動的夢想/全体主義の味方/個人にとっての価値/社会的失敗/教会に非ざる教会/教会内の多数派と少数
    4 ファシズムとキリスト教 110
    言葉と概念/逃避と防衛/破壊のあとの創造

    第5章 全体主義の奇跡――ドイツとイタリア 115
    1 ドイツ人とイタリア人の国民性 116
    なぜドイツとイタリアなのか/親ファシズム的性向/問題は国民性ではない/原因は大戦なのか
    2 与えられた民主主義と獲得した民主主義 120
    民主主義と国家統一/手段としての民主主義
    3 ムッソリーニとヒトラー 124
    ムッソリーニの誤算/ドイツの民主主義/ヒトラーの誤算
    4 ドイツのナチズムとイタリアのファシズムの違い 128
    伝統による形式の保持/本物と真似

    第6章 ファシズムの脱経済社会 133
    1 産業社会の脱経済化 134
    緊急の課題/ファシズムを権力の座につけた者は誰か/全体主義とは何か/「誇示的浪費」
    2 社会有機体説 138
    経済的不平等/農民の社会的地位――「民族の背骨」/労働者の社会的地位――『民族の精神』/突撃隊、親衛隊ヒトラー青年団……/妬みによるいじめ
    3 軍国主義 143
    不平等の補償で十分か/軍国主義化/軍事の経済的、社会的役割/国皆兵/軍需産業/国全体が軍隊/経済の全体主義化/資本主義ではない/農業の組織化/農民の地位/自由業の地位
    4 全体主義の経済 156
    古典派経済学への回帰/ソ連の模倣/共産主義経済との違い/労働者階級の所得/他の階級の犠牲/個人献金/公債の強制購入/財産没収と強制労働/デフレ政策/非生産的投資/軍拡は浪費か/輸入代替産業への投資/どこまで耐えられるか/問題は別のところに
    5 資源の輸入問題 172
    ドイツとイタリアの問題/輸出入の悪循環/輸入代替産業の一人立ちはあるか/輸入問題の深刻化/貿易収支の悪化/状況はさらに悪い/食糧問題/棉花を唱えて革命を/バルカンの征服/農業の産業化/経済学を超えた問題

    第7章 奇跡か蜃気楼か 185
    1 戦争と平和 186
    戦争の位置づけ/犠牲の昇華/「英雄人」の概念/社会の否定/歴史の循環
    2 聖なる戦い 191
    敵の存在が必要/脅威の絶滅/共産主義への憎しみ
    3 反ユダヤ主義の原因 194
    北欧人とユダヤ人との対決晩/ユダヤ人/反ユダヤ主義の経済的動機/ユダヤ人の反ナチズム
    4 ブルジョア資本主義の化身としてのユダヤ人 199
    与えられた民主主義/ブルジョア階級の社会的地位/ドイツのユダヤ人の特殊な地位/ユダヤ人とブルジョア階級の一体化/ユダヤ人の富と力/人種差別の必然性/「シオンの議定書」/本当の敵/悪魔の化身/ユダヤ人問題の「最終解決」/東ヨーロッパのユダヤ人/反フリーメーソンから反ユダヤ主義へ――イタリアの場合/なぜ冷酷になれるのか/大衆の意思/悪循環
    5 組織がすべて 214
    組織が秩序となる/「乞食がいない」/コミュニティの破壊/組織過剰/権力闘争と内務官僚/マルヌの戦い/不満なるがゆえの支持/地下抵抗運動の不発/夢幻と忘却を求める麻薬患者/神秘のうちの実体
    6 指導者原理 224
    無謬の存在/カリスマ性/信仰としての全体主義/後継者問題/崩壊の道筋/ウィーンの転向/悪夢のように消え去る/歴史の継続と断絶/いずこからともなく/自由と平等の追求/歴史の原動

    第8章 未来 237
    1 独ソ開戦への期待 238
    道は二つに一つ/対独「宥和政策」の根本思想/独ソ同盟の危険
    2 独ソの利害 241
    ナチズムの敵は西にあり/共産主義の放棄/スターリンヘの個人崇拝/貧しいバルカン/バルカンへの持ち出し/独ソ間の利害の一致/ソ連が世界から学んだこと/日本の脅威/不可侵条約の必然性/スターリンの道/ローゼンベルクの弟子/ゲーリングのブレーントラスト/ラーテナウの門下
    3 新しい社会 255
    暗黒と絶望の時代に入るのか/「経済人」を超えて/第三の道/イギリスの経験/個人の自由と尊厳/社会政策の費用

    年表――あの頃の歴史(第一次大戦から第二次大戦) [263-270]
    人名索引 [272-276]
    訳者あとがき(一九九七年四月 上田惇生) [277-278]

  • 2011/12/03 読了

  • 全体主義を予測した。チャーチル賞賛の書。ドラッカーの処女作。

  • 全体主義って良いよネ!

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