感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ

  • ダイヤモンド社
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本棚登録 : 408
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478860519

作品紹介・あらすじ

脳科学が哲学と融合した。心を生み出す身体と脳の関係。

感想・レビュー・書評

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  • ダマシオの「一般向け」脳科学書、とばして『自己が心にやってくる』を読んでしまったのだが、『無意識の脳』の次の本はこちらである。前著でやや中途半端に解説が終わっていた「情動・感情」が本作で中心的・徹底的に掘り下げられる。
    原題はなんと「Looking for Spinoza」、「スピノザを探して」である。唐突なスピノザ。
    そして、本書を読み始めると途中から、突然スピノザの伝記のような記述がはじまって面食らう。ダマシオをこれまで読んできた者には何か異様なものが感じられるだろう。そして本書の最後の方にも、スピノザの評伝のようなものが延々と続く箇所がある。
    なぜスピノザか? 著者ダマシオは、あるとき不意にスピノザの本を読み返し、自分の思想とスピノザのそれとの共通点を発見したのだという。
    スピノザ『エチカ』に見られる一文「人間の心は人間の身体の観念である」というのが、ダマシオの語る情動・感情の脳科学思想の帰結と重なるのである。ダマシオは「感情とは、ある特定の形で存在する身体の観念である」(P120)と書く。
    また、スピノザが「自身を保存しようとする執拗な努力」としてコナトゥスに言及する部分は、ちょうどダマシオの強調するホメオスタシスの原理と符合する。
    しかしスピノザについては、私はこれまで読んでもよく掌握しきれなかったように思うし、とりあえず置いておこう。
    ダマシオは本書で、前著に続いて情動について詳しく書いている。そしてそれよりずっと難解な独特の概念「感情」について、これまでになく詳細に記述する。
    情動とちがって「意識」を必須として成立する「感情」は、ダマシオによると、「特定の思考モードの知覚と、特定の主題をもつ思考の知覚とを伴う、特定の身体状態の知覚である。」(P121)
    また、「感情は本質的に一つの観念(身体の観念)」である。(P125)
    そして感情の内容とは、「マッピングされた特定の身体状態である。」(P124)
    感情を知覚の一種であるとするこの定義は、なじみのものではなく、最初違和感が強かったものの、読み進めていく内になんとなく理解できたと思う。
    前意識的に、あるいは反射的に発生する情動は、さらに別の情動を喚起し、また、同時に発生した別の情動などとも並行して作用し、それらの全体が、身体という域で結び合い、場合によっては相殺し合ってのちに、身体全体が「自己の状態」として示すイメージ、それの認識が「感情」となるのである。
    そうした「感情」は、進化論上、比較的高度な、後からあらわれてきた機能であり、ダマシオによるとそれは有機体(人間)の生存と幸福の獲得・維持に役立つはずなのだ。
    けれども、私たちの実感として、激情的なものはむしろ生存や「幸福な生活」を破壊する場合が多いし、「欝状態」は、たしかに自らが病的状態にあることを示す標識とはなるものの、そこから抜け出せずに陰々滅々としているならば、その感情は、果たして「生存」の役に立っているのだろうか? という疑問は残るように思った。
    ダマシオの本は全部そうだが、本書も、結尾部分はあっけないほどオプティミスティックな、明るい、ちょっとステレオタイプな肯定的人生論で終わる。
    本書ではスピノザを引きながら、負の感情を正のの感情へと置き換える処世術が述べられる箇所があるが、これは実際のところ、なかなか難しい。
    ダマシオは情動・感情が専門分野なので、いわゆる「理性」的な頭脳の活動に関してはあまり書いていない。たとえば純粋に論理的な思考だとか、コンピュータのような演算処理だとかについては触れていないし、そういったものと「感情」との対比に関しては何も語っていない。
    しかしダマシオが語っている「感情」とは、「自己感」にたちもどっているときの「知覚」「思考」なのであり、純粋論理だの数学的演算だのについては、「自己感」からまったく離れた思考機能として、区別されているのだろう。
    数学ならともかく、とりわけ日常言語を用いた言説空間においては、人の思考にはいつも「感情」が伴っている。その感情とはつまり自己の身体の自意識なのだということを、本書は述べているということになるだろう。
    スピノザについては、ダマシオの指摘を経由して再度読み返してみたくなった。

  • 決して読みやすい本ではないが、情動や感情がなぜ人間を含む生命体にあるのかを、腑に落ちる考え方で論述されていて、納得度が高かった。

  • 感情と情動が理性にもまさって生存にとって大切であること。スピノザへのリスペクト。

  • ダマシオ良いよ!
    凄く面白かった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      読んだコト無いのですが、ちくま学芸文庫の「デカルトの誤り」と言うタイトルに惹かれてます。でも最初に読むとしたら何がイイですか?
      読んだコト無いのですが、ちくま学芸文庫の「デカルトの誤り」と言うタイトルに惹かれてます。でも最初に読むとしたら何がイイですか?
      2012/04/18
  • 藤田が読んでいます

  • . 読了メモ。A.R.ダマシオ『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』。情動・身体・意思決定・感情。人間の営みはどう働いているのか?スピノザの思想をひきながら、脳の活動を科学することで読みといていく。メンガーの経済学と竜樹を思い出す。

  • <本の紹介>
    米国の著名な脳科学者である著者が、多くの脳障害・損傷患者の研究から導き出したのが、身体反応(=情動)を脳が受け取り感情を生みだすという考えです。これとほぼ同じ考えを持っていたのが、哲学者・スピノザでした。本書は最新の脳研究とスピノザの哲学的思考がどのようにリンクし、同一の考え方に至ったのかを説いた一冊です。

    すーっげぇ難しい本でした。まるで論文。
    途中で頭痛くなりながら読んでたんだけど、ただ最新の脳科学については興味あったんで一気に読みきりました。前半は脳科学の実験症例を絡めた脳の仕組みと感情について。後半はスピノザの経歴と時代背景、近代に至るまでに受けた評価の紹介。

    感情、情動、反応、反射、、、これは全て違うことを指していて、感情は人類だけにあるもの。でもない。笑
    脳だけの生物はいないけど、脳のない、身体だけの生物はたくさんいて、これはつまり生物学的には脳よりも身体の方が先に生まれ、重要な器官となっていることを指している。そして、感情は脳の中で作られた「身体が受けた情動」のマッピング図から、自分の感情を認識する。

    そして、そういった脳の作りを模倣したような構造はこの世の中の様々な場所で起こっている。家族の中で、社会の中で、組織の中で。まだまだプロセスとしては改善の途中って感じだけど。個より集団を重んじるのは、個ではできないメリットが集団にはあるからであり、集団にマッチしないものがあまり好まれないのは、集団で動くメリットを自分たちが享受できない可能性があるからであり、それは自分たちそれぞれの「個」を危険にさらすことと同義になる。納得。
    で、集団を統率する為には、全体をマッピングする機能が必要になる。これは、集団を管理する部分が即座に反応できることが必要とされる為。そして、そういったマッピングの精度は先天的に生まれ持った人間としての判断基準や生きていく為の最低限感じられなきゃいけないレベルの他に、潜在的に遺伝子にプログラミングされているものもある。それは、一度そのような環境、シチュエーション、経験をすることで目覚める。だから、成長することでその精度は上がっていくし、経験したシチュエーションの数でその人の脳内の引き出しの数は増減するから個人差になる。同じ生き方をする人が2人といない世の中だから。
    そういう意味じゃ、「生まれ持った才能」も大事だと思うけど、後天的な「どう育ってきたのか、何を経験してきたのか」ってとこもやっぱり人が育つ上で大事な要素になるんだなと改めて思いました。あと、そのシチュエーションを仮に自分で経験していなくても、似たシチュエーションからの類推によって能力を呼び起こすことも可能になるんだそうだ。ってことは、想像力豊かな人の方が人間の幅が広がるってことなのかな。俳優なんかがああいった実際にその職業に就いたこともないような演技もできちゃったりするのは、これがめちゃくちゃ得意だからこそって話なんだって。
    同じように、すごいへこんでる時に楽しい思考パターンに無理やり持っていくと急に楽しくなったり、気分が急に変わったり体調がよくなったりするのも、そういう情動による電気信号を脳が受けて、マッピング図が変わるから、脳が感情を変えるんだそうな。そしてそれは、自分の意識と別に作用する場合もあるんだって。実際の検証結果からそういった結論が出てるってんだから、近代科学ってすごいなと。
    なんとなく、自分の認識とずれてるとこもあったけど勉強になりました。

    そしてそれを実験的なことをまるでせずにかつて同じ結論にたどり着いた哲学者、スピノザ。
    こいつもすごい。だけど、宗教的な要素の強い時代にこんなこと言ったもんだからすっごい迫害を受けてしまったって話。彼が書いた本も、出版禁止になってほとんど見つからず、歴史に埋もれそうなところを細々と「これは後世に残すべきだから」って受け継いできた先達の方々。

    俺らが後世に残すべきはなんだろう。
    そんなことも考えながら、脳にとっての「快」の状態を維持しながら前に進んでいきたいと思いました。

    めちゃめちゃ勉強にはなるけど、多分これ読める人ってあんまいないと思うんで読まない方がいいと思います。苦笑

  • 堀井教授が勧めていたからとりあえず手に取ってみた。
    原題はLooking for Spinoza

    デカルトの物心二元論ではなく、スピノザの一元論を支持する内容。体と心はつながってるよ、という話。まぁ、そうでしょ。高校のころからデカルト信者のおやじと戦ってきた自分にとっては味方が増えた気分。

  • 脳科学者であるアントニオ・ダマシオの著作。以前読んだ『無意識の脳 自己意識の脳』が、神経生理学や脳科学の最新研究を豊富な症例を含めて紹介していて、人間の「意識」についてかなり突っ込んだ議論をしていた刺激のある本だったので、少し高めの期待を持って読んでみました。ただ、少し期待をしたものとは違っていたというのが印象です。そもそも、タイトルの日本語の副題には引っ掛かっていたのですが、そこが違っていたのかもしれません。

    原題は "Looking For Spinoza"なので、スピノザが副題といういよりも主題でそのタイトル通りなのですが、スピノザの業績やら当時の歴史や文化背景などもそれなりの紙幅を割いて記載されています。結局は、スピノザの思想を紹介したいのか、著者自身の心身-情動-感情の理論を紹介したいのか、読後の感想としては中途半端な印象を否めませんでした。哲学的にスピノザを消化して読者に伝えるには、その点での力量が著者ととそれを受け止める自分に不足しているのかもしれません。実際に著者がスピノザの暮らした部屋を訪ねて行った場面をそれなりに詳しく記載しているところからも、脳科学最前線というよりも少しばかり力を抜いた感じのエッセイにも近い本なのかなという感じです。脳科学に関する書籍としては前著の『無意識の脳 自己意識の脳』の方が個人的には好きです。

    ただ前半はそれなりに面白い仮説展開もあります。情動(Emotion)と感情(Feeling)を区別し、ヒトの進化上で有利に働いた身体的反応(ホメオスタシス・プロセス)としての情動に対して、脳の身体マップを通したフィードバック機構として感情を副産物として発展させてきたという仮説を展開しています。スピノザについて、個の自己保存の本能であるコナトゥスの存在やデカルトの心身二元論に対する心身合一論などを、現在の最新研究の理論にも合致する先進的な知見であると紹介しているので、まあ無理な組み合わせではないかと思います。

    期待が大きかったのを考慮して星4つ。

    ---
    スピノザと言えば、大学時代に読んだ柄谷行人さんの『探求II』で大きく取り上げられ、その思想が積極的に評価されていました。その流れで岩波文庫から出ていた『エチカ』も当時購入したのですが、その難解さもあって、とても理解しがたかったのを思い出します。ちょうど本棚にあったので手に取ってみると、今見ても読む気を減退させる構成ですが、もしかしたらあれからの年月を考えると別の読み方が可能なのかなと思います。

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    この本をちょうど読み終わった日に深夜で放送されたCBSドキュメントで、PET(陽電子断層撮影)で撮影した脳の活動状況のパターンから何を考えたか当ててみるというのをやっていました。本書の中でも何度も出てきますが、PET恐るべし。こういうのを見たり、読んだりすると、心というものがとても身体的な現象なんだと実感します。

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