パリのアパルトマンから (だいわ文庫)

  • 大和書房
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本棚登録 : 124
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479304579

作品紹介・あらすじ

どんなに満腹でも、食後のフロマージュは欠かさない。仕事は一生するけど、働きすぎは美徳じゃない。いつでも恋していたくて、下着選びも真剣。料理はシェアしないけど、お会計は人数で割る。パリに暮らす著者が、身のまわりのできごとからフランスを描くエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • パリ在住のライターによるエッセイ集。やわらかであたたかな風が吹いている、と表現したくなるような文章。それに、風通しだっていいというような内容です。

    食文化、フランス人の気質やパリの文化、パリジェンヌたちについて、パリっ子たちのコミュニケーションの有りよう、etc……。どの項も4ページほどの分量なのですが、紹介されているあれやこれや、そこに挟まっているディテールがとても魅力的なのでした。ディテールってものは具体的かつマテリアルでなきゃだな! と感じ得たくらいです。

    たとえば、自慢のクロワッサンを買いたいと思っているそのパン屋で、持ち帰った後、自宅での味わい方を知りたくて店員と話をしていると、うしろから自分と同じお客さんであるマダムが声をかけてくる。「食べる前に、オーブンで3~4分温めたら、それはそれは素晴らしいの。私は、毎朝そうしてるわ」「ああ、それはとてもおいしそう。早速、明日の朝試してみます!」「くれぐれもレンジは使わないようにね。オーブンで、ですよ。そして、そうね、温度は150度から160度くらいかしら」というやりとり。そこでの時間の一回性の記録が、なんともオンリーワンで素敵なのです。読者への口当たりがいいように加工してあるものだったとしても、国際都市・パリのもつ個性が日本の文化とはかなり異なっているために、具体性がより際立って感じられるところもあるのかもしれません。

    また、次のような箇所も印象的でした。「彼女にとって、そして、多くのフランス人にとって、仕事と美徳は結びつかない。大事なことは、家族や友人と良い時間を過ごすこと。そして、健康で平和な毎日。」。この文章にしても、おそらく読者の読みやすさために「まあるく編集したフランス」といったものなのかもと思いつつも、でも日本とは違うそんなフランス的世界観や人間観がしっかりあるって好いよなぁと思いました。

    アメリカの都市などもそうなのだろうけど、パリに住むことってどんどん自分を主張して行かないと簡単に抜かれていったり取り残されたりするみたいです。それでいて時間感覚はルーズ。家族や友人が大事でみんなでバカ騒ぎをたびたびする。……こういう本を通してでも、日本とは別の軸でうごいている世界があることをもっとちゃんとわかっていたいものです。

    さらりと書かれている部分ですが、フランスではこども手当をきちんとやり女性の権利も大切にしていて少子化は起こっていない。そういった福祉の充実はさすがでした。19世紀から20世紀に活躍したデュルケムら社会的連帯の研究からの発展なのでしょうか。歴史が積み重なっています。ヨーロッパは石の文化で構築性の文化でしたね(日本は木や紙の文化などと言われたりします)。日本でも最近こども手当てがありますが、これはフランスを見習ったのかな? 

    まあ、こういう本を読んでしまうと、パリって素晴らしいな! という感化された感覚だけで終わってしまいそうですが、「えっ、それはどうなの?」ということも書かれています。三角関係などで感情的になって殺人が起こった場合、裁判で情状酌量が起こりやすい、というのがそう。自制心を評価しないのか、とびっくりしてしまいます。そこは芸術を愛する国であることが関係しているのかもしれません。人間の、泥臭く、美的でもなくてぐずぐずした部分は、それが善きものだったとしても、衝動的な感情の爆発の美にはかなわないととられるのかもしれない。そんな感想を持ったところでした。

    あとは、ハーブティー。パリでは、ハーブティーに使うヴェルヴェンヌや菩提樹、カモミールやペパーミントなどを扱う薬草店が何店舗かあるそう。好んで飲む人も多いみたいです。僕にはなんだか魔法だとか魔女だとか、そういった存在とのつながりが想起されてしまいました。中世ヨーロッパが舞台のRPGにありそうじゃないですか、薬草店なんて。この薬草店では「咳が止まらないので、なにか好いハーブを」とリクエストすると、専門医に相談することと言われつつ飲み方までちゃんと指南してくれるようです。民間療法ですよね。視点を変えれば、東洋医学の親戚が西洋にもいた、みたいに見えます。

    というところですが、読む楽しみというものを再確認できた、なんというか豊かさのある読みものでした。暮らしぶりのなかって、しっかり見つめているとおもしろいことがいろいろあるものです。今回のエッセイ集は、それも見知らないパリでの暮らしぶりのなかでのことですから、思いのほか楽しめたのだと思います。好きな文体で書かれていたことも大きいです。多くの人にとってもやさしい文体でもあると思いました。

  • アジアの島国になんかじゃなく、ヨーロッパの大都市に生まれたかった。

  • パリに行きたい!と手に取った。
    憧れる部分あり、え!?と躊躇する部分あり、
    それでもやっぱり「素敵!」が少し勝つ。

  • パリの人々は、自由。
    自分の人生を充実させることに長けている。
    自分の時間を楽しむために生きている。


    わたしたちも、自分の時間を持ち、楽しみたいが、それには今の働き方が変わらなければならないだろう。

    しかしながら、今の日本の、過剰なほど便利で居心地の良い社会は、わたしたちのこの働き方によって維持されているものなんじゃないかとも思う。

    これを手放して、フランス型に向かうことはできるのだろうか?

  • パリでの生活を知るには良いエッセイ
    私はフランス流の生き方に傾倒しているので
    読んでて楽しかった

  • 人種が違うと、街が違うと、
    生き方がどれほど違うのかということを感じた。
    そんな人もいる、とわかると自分の自由度も広がるし
    受け入れる範囲も広められる。

    パリは、行ってみたいというより、住んでみたい街になった。

  • パリに育ったのではなく、パリに生活する日本育ちの日本人の視点で書かれたカジュアルなエッセイという点で、極めて読みやすい。パリとそれ以外のフランスは違うとフランス人の知人が言うが、仕事で地方都市に通った経験からはウンウンと頷くことばかりである。
    客が待ってるのになんでテキパキできないの?と時々イライラしながら、ここはフランスと納得しかけたあたりで日本に戻ってくると、お年寄りゆっくり電車に乗るのになんでゆっくり待ってあげられないの?と感じるのは、必ずしもわがままではない。

  • ごはん作りたくなる。
    そして少し暮らしてみたくなる。

  • たしかにパリジェンヌはオシャレで仕事しすぎな日本よりもバカンスを楽しんだりと心豊かな生活を送れていることだろう。しかしパリも一歩外に出ると油断できない。常に気を張っていないと列の順番を抜かされたりスリにあったりふっかけられたりすることもあり、著者は、当たり前のことだが、自分の身は自分で守らなければならないと再確認したという。

  • 面白い。スイスイ読める。
    しかし、印象に残らない。
    箸休め。

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著者プロフィール

アトランさやか Sayaka Atlan
1976年生まれ。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。2001年に渡仏、パリ第四大学(ソルボンヌ大学)にて学び、修士号を取得。パリの日本語新聞『OVNI』でのコラム連載など、パリをベースに執筆活動中。著書に『薔薇をめぐるパリの旅』(毎日新聞社)、『パリのアパルトマンから』(大和書房)、『ジョルジュ・サンド 愛の食卓:19世紀ロマン派作家の軌跡』(現代書館)、共著に『10人のパリジェンヌ』(毎日新聞社)がある。
http://blog.sayakaatlan.com/

「2021年 『どうして、わたしはわたしなの?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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