君自身の哲学へ

著者 :
  • 大和書房
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本棚登録 : 112
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479392736

作品紹介・あらすじ

さて"わたし"とは何なのか-。人間の"危機"を凝視しつつ、"幸福な人生へ向かう"思索の可能性を存分に論じきる-知の巨人による大胆な試み。自分だけのスタイルを見つける技法。

感想・レビュー・書評

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  • 小林先生の本、わかるようで、わからないようで。
    ロマンチストのまなざし。

  • 近代以降「存在」には意味はなくなった、だから「行為」で意味づけするしかない。で、承認をめぐる戦いが生じ、敗者は引きこもる。他方、無条件の承認である「愛」は支配関係にすり替わる。この辺の4章の説明はわかりやすい。
    ただし、インタビューを編集者が文字化したものなので、書籍全体としてのまとまりはなく、思いつきで話しているだけの内容になっていてあとがきにもあるように拡散・迷走・堂々巡り・蛇行しているのでかなり読みにくい。
    結論としては自分で自分を「すくえ」との事だが、明確な答えや方法はなく、哲学がというようりやや宗教的な雰囲気で終わってしまった。これが悪いという事もでないし、結局は「宗教的な何か」が答えなのかもしれないし。

  • 著者は本書の冒頭で、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』における「井戸」のイメージについて語ることから始めています。それは、システム社会論的な気分が蔓延する現代においてわれわれの「実存」はもはやこの世界を意味づける特権的な立場などではなく、システムからの「退却」を志向することでしかないということを象徴するイメージとみなされることになります。

    その上で著者は、こうした一人ひとりの「実存」という井戸に「横穴」を開け、他者とのコミュニケーションを開く可能性をさぐろうとします。ここで手がかりとされるのが、レヴィ=ストロースが発見した「野生の思考」すなわちブリコラージュや、ベイトソンにおけるゲームの創発、さらに阿部公房の『砂の女』に関する議論です。

    他方で著者は、「実存」のイメージを拡張していくような考察を展開しています。こちらでは、カフカの『法の前』やナルシスの神話を手がかりにして、自己を映すことが同時に自己を越えたものへとつながっていく可能性を見いだし、自己を多重化するという戦略の中に、システムの支配を攪乱するような「存在の強度」を、「つくる」こと、「たたかう」こと、そして「まつる」ことの中に求めています。

    著者は「あとがき」で、専門知識を語るのではなく、「わたしという知」を語ることをめざしたという趣旨のことを語っていますが、本書で展開されている考察の大枠は、いわゆるポストモダン思想のなかで語られているものと大きく重なっています。ただし、フランスの哲学者の思想を紹介するのではなく、それらを十分に咀嚼したうえで、著者自身の言葉でていねいに語りなおそうとする試みだといえるように思います。

  • 哲学とは生きることについて考えること。意味について考えること。結論が出ているような出ていないようなことを考えること。

  • 所在: 展示架
    請求記号: 104/Ko12
    資料ID:11500491
    担当者名:松浦

  • 2015/4/11

  • 【書誌情報】
    著者  :小林康夫
    出版年月:2015/03/20
    ISBN  :9784479392736
    判型・頁数:4-6・248ページ
    定価  :本体1,500円+税
    版元:大和書房[だいわしょぼう]
    http://www.daiwashobo.co.jp/book/b194609.html

    【目次】
    第1章 ブリコラージュ的自由のほうに
    1 人間の位置をめぐって
    村上春樹と「井戸」/誰もが穴の底に身を置いている/支配からの退却/今日のリアリティ/希望の可能性を開く/新しいロマン主義のほうへ

    2 自分だけのスタイルに向かって
    安部公房『砂の女』/奇妙な装置/実存の条件づけを解除する/ブリコラージュ的思考/状況を創造的に変容させていく/希望の装置をつくる/ダンスする/自由であることに目覚める/出来事を待つ/スタイルに本質が表れる/ゲームに出来事はない/「手がかり」は触感のなかにある

    第2章 ほんとうのゲームに向かって
    1 皮膚の哲学をもとめて
    身体をどう掴まえるか/免疫不全への問いかけ/自他の問題のほうへ/傷なき傷つきやすさ/人類史的なスケールでの転換/近代的自我からの転回/無数のインターラクションから生まれる「わたし」/『風の谷のナウシカ』の先見性/「終わり」のゲーム

    2 新しい自分の誕生
    遊びと戦い/ゲームから生まれる「ゲームの規則」/異質なものと出会うこと/未知の組織化を生み出す

    第3章 生と死の神話を紡ぐ
    1 人生の二つの境界において
    二つのトンネルに挟まれた生/蝶のように飛び立つ/落ちてくるものを受けとめる手/手を振って見送る/なにかが落ち、また飛び立っていく/親というものはいない

    2 わたしという「法」への問い
    カフカの「法の前」/わたしだけのための法/ひと筋の輝き/門番とは誰なのか

    第4章 愛、この限りなき学び
    1 存在の「意味」を問う
    「わたしはどのように生きたらいいのか」/「我あり」とは何か/存在を存在させるもの/承認をめぐる戦い/無条件の肯定としての愛

    2 ナルシスのレッスン
    オウィディウス『変身物語』/澄みきった泉/「恋」という原理/最初の「他者」=自分自身/「呪い」を超えて花開く/泉が無条件につながる――すなわち愛

    第5章 「質」の深まりのなかへ
    1 存在のエコロジーへ
    グローバル資本主義の現実/力学的なシステムから生物学的なシステムへ/時間変動的な価値/数値へと還元される生/過激な「意味」による存在復権/もうひとつの「抵抗」/無名の「存在の質」を感覚する

    2 「つくる」こと、「たたかう」こと
    原型的行為としての「つくる」/「つくる」に滲み出る「質」/根源的衝動としての「たたかう」/「たたかう」のディコンストラクション/行為の果実を断念する

    第6章 「歓び」へ向かって
    1 みずからを「支配する」
    「権」という視点/アバターを存在せしめる/自分をよりよく世界のうちに統合する/ラディカルに人であること/一輪の花を手にとる/「無力」であるからこそ

    2 わたしを「すくう」のは誰か
    存在を贈る/手を通して世界を学ぶ/たったひとつの倫理的な責務/存在するとは「歓び」である

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『知のモラル 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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