- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784479392743
作品紹介・あらすじ
九州で過ごした年月を、東京で過ごした年月が越えてゆく-地方出身者すべての胸を打つ、著者初の私小説エッセイ!
感想・レビュー・書評
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「若さ」と「幸せ」が印象的だった。
年をとることに、もう少し希望を持ってもいいのかもしれない。幸せの形なんて人それぞれだし、思う存分幸せを望んでも良いのだと、胸を張れるような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分の考え、感覚を捏ね繰り回すことなく率直に書かれていることに驚いた。自分を醸すことは簡単だけど、卑下せず書かれている。
自分を表すのは、簡単な様で難しい。ましてや、自分のことを書き表したいと思っている人間は、多分文章も何とか個性的にしようとするのではないだろうか。それは自意識の塊だからそうなってしまうと思う。
でもこの本は、正直に自分の気持ちがきちんと書かれている。ストレートで気持ちが良かった。
ただ、後になるにつれて段々読むのが苦しくなってきた。テーマが同じなので、正直共感出来ないところは読むのが辛いかも。
読んでも何も感じない人も居るかもしれないし
凄く共感する人も居ると思う。
自分はとても共感出来る部分もあった。
ただ、本当に自分の考えていることをきちんと、シャープに書けている凄い本だ。 -
私のための本かと思った。
以下引用
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そのときどきで、面白いことはあったし、こうしたい、こうなりたいという向上心もそれなりにある。嫉妬心が強いから、妬むくらいなら乗り越えたい、と思う。
だけど、本当はすべてがめんどくさい。嫉妬することですら、いちいちそれを処理していかなければならないなんて、めんどくさすぎる。心はこちらの意思とは関係なく、絶え間なく動き、美しいものに吸い寄せられ、醜いものにショックを受ける。お腹がすくのと同じように、快楽や美しさをくれとうるさくわめきたてる。つらければいつまでも泣いている。聞き分けのない子供を飼っているようだ。
私は本を読んで寝ていたいだけなのに、たったそれだけのことのために、意外とがんばらなければいけない。心穏やかに、本を読んで眠るために。
(中略)
だけど、私は、本を読んで寝てるだけの人生がつまらないなんて絶対に思わない。
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いつになれば自分の正しい「身の丈」がわかるのだろう。「丁寧な暮らし」ができるのだろう。そのサイコロでどんな目が出れば満足するのだろう。そしてそのサイコロの「強い目」とは、何なのだろう。お金をたくさん儲けることなのか、成功者らしいふるまいができることになることなのか、誰もが羨むような暮らしをすることなのか。東京で「勝つ」とは、どんなことなのだろうか。
(中略)
私は何かを信じたいし、信じることをやめたくなんかない。けれど、東京では私が唯一信じられる自分の欲望が、よくわからなくなる。欲しいと思って手に入れたものが、あっという間になんの魅力もない布切れやがらくたに変貌していく。越境すればものの価値など一瞬で変わる。
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幸せな瞬間が自分を救ってくれないわけではない。ほぼ完璧に救ってくれる。だから、その救いを失うことが、余計に怖い。最初からないほうがまだ、耐えていけるのではないかと思ってします。そんな臆病な生き方はしたくなかったはずなのに。いつだって瞬間の幸せを、最高の幸せを求めていたはずなのに。
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家族との関係が悪いわけではない。何も恨んだりしていない。感謝しているし、好きだと思う。
けれど、それ以上に後ろめたくてたまらないのだ。
たぶん、もう、何か起こらない限り、一緒に生活することはないこと。
毎日顔を見て暮らすことはもうないこと。
なのに、困ったとき、自分が東京で食べていけなくなったとき、逃げ場として心の中で実家を頼っていること。
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引用終わり。 -
心して読まないと、私の何かが変わってしまう恐れのある本。なぜ、そんなにも人の目を気にするのか、自信がないのか、謎な部分が多い反面、激しく心揺さぶられるところもあり、なんて正直な人なんだ、と衝撃を受ける。同じ福岡県民で女性で書く仕事をしていて、東京に住んだことはないけれど関東圏に住んだことのある身としては、共感できる部分もある。醜いところも美しいところも、どっちも真正面から体当たりでぶつかりたい人なんだろうなと思った。そうじゃなきゃ、こんな美しい文章は書けない。
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東京の大学に進学した時。東京で一人暮らしを始めた時。東京の会社で働き始めた時。
その度に一度は胸が高鳴った。
けれど、僕らの日常というのは、油断するとすぐに新鮮味を失う。
気がつけば28歳になり、単調な毎日を暮らしていると感じる時がある。
そんな日常に彩りを取り戻そうと何度か試してみた。けど、持続しなかった。
そのためには継続的な努力と工夫が必要だと自分は感じている。
それが面倒で、また退屈な日々に陥ってしまう。
日常を楽しむというのは1つの才能なのだと思う。
雨宮まみという女性は、きっとそんな才能を持った人だった。
人生を楽しむための欲望を追求し続けた人だった。
だけど、その代償として孤独や苦悩を払い続けた人でもある。
40歳という若さで亡くなった彼女は、人生の最後の瞬間まで戦っていたのだと思う。
そんなありのままの姿をさらけ出してくれるから、この人のことを好きだと思える。この本を読んで良かったと思える。
退屈な日常に変化をつけたくて、自転車通勤を始めてみた。
蓋を開けてみれば、新宿と六本木の距離は通えない距離ではなかった。
朝の東京が、そして日の沈みゆく東京が、こんなにも綺麗だなんて知らなかった。
ちょっとした工夫で、僕らはまた新しい東京に出会うことができる。
そんなことを教えてくれる、魂からのエッセイだった。 -
東京を生きていた時を思い出しながら。
著者が若くして亡くなっていた…とは。 -
見て見て病こじらせすぎ…36才なのにイタい。
7万円のワンピ買った帰りに立ち食いソバを食べる、とか
王室御用達のシャンプーを冷たいタイルの風呂で使う、などが印象的。
物欲に溺れてひたすら苦しがってる。きっとこの人、永遠に夢見る少女なんだと思う。 -
痛い、昏い、深淵。
初めての雨宮まみ。こんなかんじか。
と思っていたら、、亡くなられていたのですね…なんか、やっぱりなという気持ちになってしまった。
この感性ではな、と。本当のところはわからないけれど。
読んでる途中で亡くなったことを知ったことでフィルターがかかった感じで読んでしまうんじゃないかと思ったけど、案外大丈夫だった。
東京に焦がれる。台風のような。 -
こじらせ女子。
作中の「居場所」と「若さ」が良かった。
年齢を重ねるごとに失われるハリや潤い。
自分も、賞味期限はとっくに切れている。
でも自分より年上の魅了的な女性は、東京にたくさんいて。その先輩たちの後に続きたい、生き方を真似たいと、本当に思う。 -
ちょうど去年の今頃だった、ネットで連載されていた東京を心待ちにしていた。
その中の「幸せ」で
《「あの男と別れなければ良かったのに」
「結婚できていたのに」と言われ続けていることも知っている。
私が悪かったのだと、誰もが知っている。
でもそれが私の望む幸せではなかったことは、
なぜ誰も知らないのだろう。》
というのを読んで苦しかった。
その通りすぎて。
そして私は同棲を解消した。
リッチで教養がありハイクラスな暮らしの提案をしてくれる彼との暮らしを。
どうしても選べなかった。
今は全く違う幸せを歩いている。
だけど、この本に書いてあるだったひとりの小さな、女として、ごく個人的な想いを、時々思い出す。