申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

  • 大和書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784479794332

作品紹介・あらすじ

「戦略計画」「最適化プロセス」「業績管理システム」…こうして企業は崩壊する。デロイト・ハスキンズ&セルズ、ジェミニ・コンサルティングと、大手コンサルティングファームを渡り歩いてきた実力派コンサルタントが、自らとコンサル業界が犯してきた恐るべき過ちの数々を大暴露。物議を醸す話題作!

感想・レビュー・書評

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  • うちにも毎月コンサル来ています。20万円/回。
    来るたびに売上向上にもコストダウンにもならないアドバイスを
    言って私たちの報告を「それいいね~」ばかり言って帰ります。

    この本はコンサルがコンサルを批判するという珍しい本。

    ・達成のために「評価基準」を変えてしまう
      その場を良く見せたいがために評価基準を変える。
      うちの場合、例えば「目標の70%達成で評価〇」。
      異動したての頃「この基準おかしいでしょ」と言ったら
      「過去からそうだよ」との上司・同僚の返事。
      それで満足してるんだから良くなるわけはないわな。

    ・コンサル会社の「うちは成果を出します」はこう言いかえると正しい
      ①成功している企業には資金があるため
       資金の乏しい企業よりコンサルを利用する確率が高い
      ②コンサルに投資を行う企業は投資を行わない企業よりも
       業績が良い傾向にある

  • 今年62冊読んでいるうち、6冊目(しかもビジネス小説含む)のビジネス関連書。ラノベの方が多いじゃん…。プロフィールに「ビジネス書が多め」と書いていたのを思い出しました(笑

    本著は、MIT卒、デロイト等のコンサル出身の著者が、タイトル通りコンサル業界の「過ち」を暴露していく本。原題も("break"を"会社をつぶす"と読むなら)同じ意味で、それだけこのタイトルがセンセーショナルだということなのでしょう。
    ちなみに原副題の直訳は「経営コンサルタントが解決策でなく問題となる時/場合」なので、「コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする」よりも、コンサルのプラス面をちゃんと示しているかなという印象です。

    内容は、読んでいて肯けることばかりです。個人的には星4.5個。
    結局は、自分たちで考えるべきコト(会社が何をするか、人事をどう決めるか等)をサボって外部コンサルに丸投げしても良いコトなんて何もなく、結果として経営が悪化しても彼らが責任を取ってくれる訳ではない、という超当たり前のコトをあらためて明らかにしてもらったなぁと。
    あと、個人的には「インセンティブはアメリカでは当たり前のものとして定着している」と思っていたのですが、本著を読む限りはどうもそうじゃなさそうだなぁと。著者の「個人別に評価を付けて給料を決めるなんて止めてしまえ」という主張は、もしや日本の年功序列も悪くなかったのでは?とも思わされます。

    「テイラーや多くの経営コンサルタントは履きちがえていたようだが、企業経営は科学ではない。」という言葉も印象的で、結局は理論ばかりでは会社は回らないというコトを示しています。人間と一緒ですね。。
    結局は、まずチームで良い人間関係を築き、何をすべきか優先順位を擦り合わせしていき、その中での補助線としてコンサルを活用するというのがあるべき姿なんでしょう。打ち出の小槌なんて無いんですね。

    ちなみに、本筋ではないのですが「ある会社のアセスメントを利用した企業の収益成長率は、業界平均を上回っている」という話に、著者が「成功している企業には資金があるから、アセスメントを利用する確率が高いだけでは…」とツッコミを入れたくだり、何か聞き覚えがあるような。。
    https://note.com/matthew_gp/n/n26facd06109a
    こんなnoteもありました。(とはいえこのnoteの内容のように、前向きに取り組んでいくことは重要ですね。)

  • 1.最近のコンサル信仰に対して疑問を持っていたので、「コンサルとは何か」を定義するために読みました。

    2.コンサルも所詮はビジネスの一環であり、流行りのフレームワークやMBAで学んだ理論を押し付けているに過ぎません。それによって会社を潰していることを感じた著者の失敗談を述べているのが本書です。コンサルが浸透し、世の中のブームとなっていますが、コンサルも仕事であるため、サービスを売ることになります。その手段としてフレームワークや生産管理といったアイデアを提案してきます。しかし、これらは机上の空論にすぎず、人に焦点を当てずに机上の空論をそのまま指標としただけになっています。そのため、利益を上げることだけが優先され、企業の根幹である人を潰してしまいます。その結果、会社をつぶしてしまう仕組みが成り立つわけです。そのようにならないためにも、どんなコンサルを見極めるべきなのかを本書では教えてくれます。

    3.コンサルを雇うことが悪ということではなく、雇うコンサルを見極めるべきだと述べています。また、雇う側もめんどくさいからコンサルを雇うという発想から抜け出さなくてはなりません。専門外であっても、これから新規事業に向き合うときでも、まずは自分で考える必要があります。
    私にとってコンサルとは「依頼主に気付きを与える存在」だと考えます。そのためには「信頼される人」となる必要があります。どんなに優秀な人間であっても、どんなに正確なデータを出しても、信頼されていなければ依頼主の心に響きません。また、「相手を変えようとする視点」で物事を話してもいけません。人が変わる瞬間、成長しようと思うきっかけは、誰かの言葉であっても、継続するためには「自分で決めた」と認識させることが大切です。人間は、自分で決めたことは継続する習慣を持っています。コンサルはそれを理解したうえで、人に焦点を当てたコンサルビジネスを行っていく必要があります。
    自分の場合だと、メーカーさんが相手になりますので、職人気質が高い顧客が多いです。もっと人フォーカスで考え、変化を与えるきっかけとなる人材になれるよう努力します。

  • コンサルの作る改善システムをあてにするな。
    それはある企業で成功したかもしれないが、別の企業でうまくいくとは限らない。

    システムで人は動かない。
    人を動かすのは人である。コミュニケーションが一番大切なのだ。

    ただ、コンサルを雇う意味がないわけでもない。
    第3者の見地を取り入れることは有益である。ただ、コンサルに任せっきりにするのはダメだ。
    最終的な意思決定は自社の仕事である。

  • ☆3(付箋12枚/P317→割合4.42%)
    辛口でとっても面白い。ポーターのフレームワークで前半部が定着したのは退屈な3章以降を読み切った人がいないからだろうとか、結局コンサルでやってるのはコミュニケーションだとか、確かにそういうものですね。納得。

    ・問題はサプライチェーンや工場の整備状態や、個々の改善課題や生産工程にあるわけではない、とわかっていたことだ。問題は状況に反応する人間の側にある。ビジネスの問題はことごとく、状況に対して反応する人間が引き起こしている。

    ・私がこの本を書いたのは、経営コンサルタントとして30年も働いてきて、いい加減、芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ。
    まったくどれだけ芝居を打ってきたことか―「この在庫管理システムを導入すれば、問題は解決します」とクライアント企業に断言しながら、肝心なのはサプライチェーンの部門間の信頼関係を構築することだったり、「商品開発プロセスエンジニアリング」と銘打ったプロジェクトを立ち上げていても、実際にやっているのは、営業、マーケティング、研究開発(R&D)の各部門の連携強化だったり、コンピューター並の明晰な思考力で問題を解決したように見せながら、本当はクライアントの関係者の思惑を読み取るのがうまいだけだったり。
    何よりいたたまれないのは、クライアント企業の従業員を「資産」として扱い、監視、評価、標準化、最適化すべきであると唱えてきたことだ。
    私が自分のやっている仕事をありのままに話せないのは、「貴社の関係者の連携を強化するお手伝いをします」なんて言っても、誰もコンサルティングの仕事を頼んでくれないからだ。

    ・『競争の戦略』によって、マイケル・ポーターは企業人の頭に「競争優位性」という言葉を植え付け、有名な2つのモデルを提唱した。ひとつは、「5つの競争要因」で、業界の競争をめぐる3つの内的要因(既存の競合企業同士の競争、買い手<顧客>の交渉力、サプライヤーの交渉力)と2つの外的要因(新規参入企業の脅威、代替品の脅威)からなる。
    これは業界分析を行うためのフレームワークであり、第一章で紹介されている。第二章では、その次に有名な「ポーターの3つの基本戦略」、すなわちコスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略が示される。業界における自社の立ち位置によって3つの戦略のうちどれかを選び、競争優位性の確立を目指す。
    あとの章はとんでもなく包括的な青写真といった感じで、競合分析、競合の反応予測、代替戦略決定のための業界構造分析などを扱っており、項目ごとに膨大な数のチェックリストがついている。
    私はこの本を読もうとして何度も挫折したあげく、やっとの思いで読み終えたとき、ふと気がついた。この本のうち「5つの競争要因」と「3つの基本戦略」だけが経営用語として定着したのは、おそらく挫折しないで第三章以降も読み切った人がほとんどいなかったからにちがいない。

    ・私たちはまず巨大な作戦司令室を設け、経費削減目標に対する進捗状況を示すチャートやグラフを壁じゅうに貼り付けた。なかでも目を引いたのは「資産効率性」というタイトルで幅約1メートルの模造紙に描かれた棒グラフで、社内の各部署の面積1平方フィートあたりに生み出される収益の額を示したものだった。
    当然ながら、最も生産性が低いのは肥大化した本社組織と巨大な研究センターだ。現実的にはそれらの部門を売却するわけにはいかないが、このグラフによって私はコンサルティングに関する重要なことを学んだ。このように細かい分析を行って、その結果を立派なグラフにまとめれば、クライアントは感心してくれる。あとは、ひとつの指標をX軸に、別の指標をY軸に置いた4象限のチャートを作ること。このふたつのはおそらくコンサルティングスキルのなかで最も使える重要なスキルだろう。

    ・戦略策定の実行における問題は、戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化や、競合他社の動向や、顧客のニーズを予測できることが前提となっている点だ。
    しかし、そんなことがまともにできる人間はいない。だからこそ、金融の専門家はインデックスファンドへの投資を勧めるのだ。大多数のミューチュアルファンド・マネージャーは、大多数のリサーチャーを使って盛んに研究を行っても、打ち負かしたいと思っているインデックスファンドよりよい運用成績をあげることができない。
    将来を予測するのが仕事の世界的な経済学者にしても、2008年に起きたリーマンショックを予測したものは皆無に等しかった。にもかかわらず、将来を予測し、将来の事業構想にしたがって計画を実行に移すのが、ビジネスのベストプラクティスとして、企業が成功するために必要なこととされているのだ。

    ・ある地域マネージャーは、毎年とうてい達成不可能な売上目標を課せられることに、いい加減うんざりしてしまった。自分がボーナスをもらえないだけでなく、チームの部下全員が目標未達の罰としてボーナスをもらえなかったのだ。自分だけが罰を受けるならまだしも、必死でがんばっている部下たちに毎年、毎年、インセンティブ支給の基準を達成できなかったと告げるのは、身を切られるほど辛かっただろう。
    ある年、その地域担当マネージャーは、今度こそは年度末の売上目標を達成できるように、申し訳ないが必要数よりもかなり多めに発注してほしい、と取引先の販売代理店に頼み込んだ。売れなかった分はあとで返品してもらって構わないから、と約束した。その結果、彼のチームはついに目標を達成し、ボーナスを獲得。ところが翌々四半期になると、会社には大量の返品が押し寄せた(地域担当マネージャーはとっくに辞意を固めていた)。
    返品後に売れなくなった商品のほとんどを償却するだけでも会社にとっては巨額のコストだが、それ以外にも余計な手数料や在庫保管量がかかるうえに、騒ぎの影響で各方面への対応にも追われた。
    その地域担当マネージャーを弁護するなら、彼が達成を命じられた売上目標はどう考えても現実的なものではなく、停滞した市場で二桁成長を実現したいという経営幹部の野望が押し付けられたにすぎなかった。
    このような考え方の根本には、「ストレッチ目標を与えれば、現場はどうにか知恵を絞って達成するものです」というコンサルタントのアドバイスが透けて見える(私もかつてはそう言っていた。本当に申し訳ない)。たしかに、彼らは知恵を絞ったのだ!

    ・「斬新で革新的な家電をつくりたい」と思っている企業が、「ではそれを測定可能な表現にしてみましょう」とコンサルタントからアドバイスを受けたとする。たとえば「年末までに斬新で革新的な商品をX個つくる」といった感じだ。このシナリオはさきほどの減量か健康的なライフスタイルかの問題に相当する。つまり、目的がまったく異なるのだ。後者の目標で最も重要なのは「期限」と「数量」であり、「斬新で革新的」という部分は二の次になってしまう。あげく、とても革新的とは言えない新商品が次々に登場する。その企業が望んでいたこととは正反対の結果だ。

    ・残念ながら、ほとんどの社員は評価スコアを聞いてがっかりする。このシステムでは社員の業績分布を釣鐘曲線に当てはめて業績の高い者と低い者を割り出すため、大部分の社員は平均ランクということになる。
    これは私たちの自己評価とは大ちがいだ。私たちは誰でも、自分は平均より上だと思っている。これは裏付けのある認知バイアスで、「平均以上効果」「寛大化傾向」「優越バイアス」「レイク・ウォビゴン効果」などと呼ばれている。
    トム・コーエンズとメアリー・ジェンキンスは、共著『業績考課を廃止せよ』(未邦訳)において、こう述べている。「社員のほぼ全員が自分のことを優秀だと思っている。だから業績考課の評価やランク付けが最高のレベルでない限り、がっかりしてしまう。実際、社員の98%は自分の業績は上から半分以上には入っていると考えており、しかも80%の人が自分は上位4分の1に入ると思っている」

    ・2011年3月、グーグルは優れたマネージャーの特徴を明らかにするための「プロジェクト・オキシジェン」の2年間におよぶ研究の成果を発表した。グーグルが独自の研究プロジェクトを立ち上げ、何千例もの業績考課やフィードバック調査を分析して独自のモデルを構築したのである。
    その研究成果は「ニューヨークタイムズ」のビジネス欄の見出しを飾ったほか、ビジネスやテクノロジー関連のブログ等で数多く紹介されている。
    グーグルの画期的な研究成果は、重要な順番に次のとおりである。

    <グーグルによる「優れたマネージャーの8つの習慣」>
    ①優れたコーチであること。
    ②ある程度はチームのメンバーに任せ、細かく管理しないこと。
    ③部下の成功と幸せを気にかけていることを態度で示すこと。
    ④生産的で成果志向であること。
    ⑤コミュニケーションをよく取り、チームの意見に耳を傾けていること。
    ⑥部下のキャリア開発を支援すること。
    ⑦チームのための明確なビジョンと戦略を持っていること。
    ⑧チームにアドバイスできる重要な技術的スキルを持っていること。

    この新しいモデルはメディアの賛否両論を呼んだ。少なくともこの50年間、マネジメントの原則の基本として信奉されてきた黄金律となにも変わらないではないか。マネジメントに関する基本的な本や研修に参加したことのある人なら、そう思うかもしれない。そうは言っても、ほかのモデルに比べてずっとシンプルだし、重要な順番に原則が示され、裏付けとなるデータも揃っている。
    グーグルのように世界で最も評価され、規範とされている企業でさえ、優秀なマネージャーの特徴を明らかにするための研究を行う必要性を感じたという事実は、ビジネスの世界で優れたマネジメントを行うのがいかに難しいかを物語っている。

    ・ずばり、私が言いたいのは、優れたマネジメントというのは難しい理屈ではなく、「人」だということだ。なぜ私たちはやたらと複雑に考えてしまうのだろうか。優れたマネージャーになるには、まずは自分自身のことを管理して、勤めを果たさなければならない。次に、周りの人たちとよい関係を築く必要がある。自分や部下たちの将来も考える必要はあるが、それほど重要なことではない。
    …マネジメントの本のなかには、部下と友だちのように仲良くなってはならない、と強く戒めるものが何冊もあった。訓話よろしく次のようなエピソードが出てくる。
    「以前、私たちは仲がよかった。やがて私が昇進して上司になると、彼はひどいやっつけ仕事を提出して私に承認を求めた。あるときは提出すらしなかった。それでも私になら大目に見てもらえるか、代わりにやってもらえるだろうと思っていたのだ」
    まったく呆れた話だ。それが仲の良い人間のすることか?私の仲のいい部下が馴れ合いでそんなふざけたマネをするなんて絶対にありえない。そんな間柄は親しくも何ともない。むしろ敵ではないか。

    ・(ピーターの法則が本当かどうか確かめるため)イタリアのカターニア大学の3名の学生はエージェントベース・モデルを作り、コンピュータ上でシミュレーションを行った。
    階層型組織に160のポストを設け、各エージェントに年齢や能力レベルを当てはめ、無能なエージェントのクビを切ったり定年に達したエージェントを退職させたりして、空きのポストをつくった。それから、エージェントを次のレベルに昇進させるにあたり、3つのルールをつくった。①最も有能な者か、②最も無能な者か、③ランダムに昇進者を選択する、の3つだ。
    また、昇進後の能力を見きわめる方法としては、2種類のシミュレーションを用意した。まったく別の新しい基準で評価するケースと、以前の基準の条件を変更して評価するケースだ。
    ①の最も有能な者を昇進させる方法は、エージェントが昇進後も引き続き能力を発揮できた場合にのみ有効であると言えた。組織で最も優秀な者たちはあらゆるポストにおいて最も優秀な業績を上げるという確信がなければ、この方法による効果は期待できない。昇進後に能力を発揮できなければ、有能な者を昇進させたはずが、組織全体に無能を蔓延させる結果になるからだ。
    昇進後に能力を発揮できなかったケースが最も少なく、そういう意味で最もリスクが低かった戦略は、なんと、最も業績の低い者と高いものを交互に昇進させる方法だった。また、社員をただランダムに昇進させた場合も同様にうまくいった。
    この最後のふたつの方法では、社員があるポストで能力を発揮できなければ、ほかのポストへ移ることができるし、それが「ピーターの法則」による現象を防ぐための唯一の方法である。

    ・どうしたら組織の力を最大限に引き出せるか?どうしたらもっと多くの社員の業績を上げられるか?その答えは、もっと多くの社員が自分にぴったりの職務を見つける手助けをすることにある。それには適正のある職務や、相性のよい上司と仲間、そして適切なスキルが必要だ。そのような職務が全員に見つかるとは限らないが、探そうとしなければ見つからない。それなのに、職場でこのような話し合いが持たれたことは一度もなかった。
    それどころか、私たちは社員の業績考課の評価スコアをめぐってもめにもめ、マネージャーたちには全体の業績分布が釣鐘曲線を描くようにと念を押し、誰にどんな研修を受けさせようかと本人たち抜きで案を練り、次世代育成計画を書面にまとめる。そんなことにばかり時間を費やしている。おまけに、万一、経営陣の半分が航空機事故で死亡した場合の人事の危機管理計画まで作成するヒマはあっても、大部分の社員の能力を最大限に引き出すための対策を練る時間はないのだ。

    ・有名な例では、土などをシャベルですくうために最も効率のよい作業方法を見つけるにあたり、テイラーは人による身長や体力の差や体型のちがいを考慮せず、最も体が大きく頑丈な作業員の動作を観察した。しかも、その作業員に、長く続けることなどできないような最高のスピードで作業をさせたのだ。
    現在ではテイラー主義は大部分において否定されているとはいえ、企業は事業をモニタリングや計測や最適化することによって成功できるという考え方は、現代の経営手法にもいまだに残っている。
    我々はテイラーの効率化運動のお題目をいまだに唱えているのだ。
    …科学における物体には意思がないため、自然の法則に従って動く。物体には意識もなければ、エゴも、感情も、ユーモアのセンスもない。
    それとは対照的に、私たち人間の属する動物界ではビックリするようなことが次々と起こる。ペンギンにはゲイがいるとか、バクテリアは複雑な言語を「話す」とか、ハトは迷路を抜け出せるとか、いったい誰がそんなことを想像しただろうか?それなのに経営科学は、人間は定められたルールに則って行動する理性的な存在である、という前提に立っている。
    個々人のことを考えれば、人間は必ずしも理性に従って行動するわけではないとわかっているのに、人間を集団としてとらえると、なぜか非理性的な部分は見えなくなり、理性的に行動するものと考えてしまうのだ。
    実際、企業経営は科学ではないから「答え」などないし、ましてやビジネスの「ソリューション(正解)」など存在しない。にもかかわらず経営理論は、多数の方法論やあらかじめ用意されたソリューションでできており、成功への手順を指示するのだ。

    ・大事なのは、お金をいただく価値のあるものを創り出すことではないのか?それは、ただカネ儲けが目的のビジネスとはわけがちがう。私たちがアップル社の製品が好きなのは、まさか利益率が高いからではないし、薬を買う理由も、製薬会社の一株当たりの利益が高いからではない。わずかでも、自分たちの生活をより良いものにしてくれると思うからだ。買ったもので生活がより良いものになると思えば、みんな進んでお金を払おうとする
    私の経験から言っても、「どうしたらもっとよいサービスを提供できるか」と言っていた企業が「どうしたら最も儲かる業務契約を取ってこられるか」と言い始めたり、「どうしたら人の命を救う薬を開発できるか」と言っていた企業が「どうしたら巨額の利益を出せる薬品を開発できるか」などと言い始めたりしたら、企業が衰退に向かっている警告のサインだ。

  • 特に会計系、人事系のコンサルティングについて、その功罪(というか罪)を指摘。

    部署ごとに業績評価のために設ける評価指標が、全体最適を阻害する、ということなどが紹介されます。

  • 【感想】
    「こんなにたくさんのビジネスモデル、全部使うの?」

    ビジネスモデルについての研修を受けたことがある人ならば、誰でも一度はそう思うだろう。私も新入社員のとき同じ気持ちを味わった。羅列された数式やマトリクスが効果的そうなのは分かったが、いったい「いつ」「どの場面で」「なんのために」使えばいいのか、その研修では一切教えてくれなかった。

    本書は、コンサル業に従事していた筆者が、直面した課題に対して「いかにコンサルの手法が用をなさなかったか」を暴露するものである。自身が経験したクライアントとのやりとり、勤めていた会社への不満、「ビジネスモデル」自体への懐疑など、腹の内から出てきた秘密情報がまざまざと描かれ、暴露本を読んでいるような痛快な面白さがあった。

    会社の中核に位置する人間は、企業戦略を策定する難しさを知っている。自社の業績を予想することですら困難なのに、業界のすべてのプレイヤー――サプライヤー、新規参入業者、既存業者、顧客など――の動向を把握することなんて不可能だ。
    それなのに、行きづまったときは何故かコンサルに頼ってしまう。企業に一番詳しい現場の人間を差し置いて、分析のプロに「データ収集と立案」を任せれば、企業にとって最適な戦略が作れるのだろうか?

    筆者が言うには「NO」だ。コンサルは予言者でも万能薬でもない。クライアントの協力者以前に、お金を儲けようとする一企業だ。
    コンサルはビジネスモデルの再生産によって利益を得ている。クライアントを言いくるめて高価なソフトを導入させ、必要もないのにテクニカルな手法を使い、問題を複雑にしたがる。彼らのペテンに泣きを見た依頼主は無数に存在する。

    とはいっても、筆者はコンサルを使うなと言っているわけではない。
    「コンサルティングにおいて重要なのは、方法論やツールではなく対話である」
    そう筆者は言う。対話によって社員が結束して動けば、それは成功確率の高いプロジェクトになる。コンサルの役割は対話までのお手伝いをすることなのだ。

    この考えは「人材の確保」といったことにも繋がるだろう。
    会社にDXを取り入れる際、専門人材を雇うことも一つの手だが、DXの大部分を数人に任せきりにしてしまっていては、会社の成長はその社員の働きしだいになってしまう。
    一方、社員一人ひとりがDXを自分の仕事としてとらえれば、デジタルスキルを「少し」身に着けるだけで、相乗効果が生まれていく。社員全員が同じビジョンと同じスキルを持つようになり、ちょっとやそっとでは倒れない組織ができあがる。

    ただし、両者は時間間隔の違いがあるため、そう簡単に実現できるものでもない。
    コンサルはいわば即効薬だ。業績に陰りが見えたので、プロを雇って短期間で答えを出す。それに比べて、社員一人ひとりを「その気にさせる」のは遅効薬である。業績が安定しているときから人材育成に励み、きたるべき荒波にも負けない組織を作る。

    結局のところ、普段からコツコツやっている会社が強いのだ。いざとなってから切り札を追い求めても遅い。チーム性をないがしろにしてきた会社は、ピンチになるべくしてなっている。前者はコンサルが介入しても上手く行き、後者はコンサルの言ったことを実行しても立て直しが効かない。
    とはいっても、前者のような会社はそもそもコンサルを必要としない。コンサルを頼った結果が、「コンサルに頼らなくてもいいよう普段から準備しておけ」というアドバイスに帰結するのは、なんとも悲しいことである。


    【本書のまとめ】
    企業経営の専門家や経営コンサルティングファームのせいで、ビジネスは論理的なものであり、モデルや理論に従えば成功への道筋が示されると信じられてきた。しかし、期待していたような成果は得られない。ビジネスは理屈通りには行かないからだ。
    ビジネスにおける行き詰まりを打破するのは、従業員同士で緊密な関係を築くことであり、それに適っていれば、稚拙な手法であろうときっとうまくいく。
    コンサルティングにおいて重要なのは方法論やツールではなく「対話」である。クライアント企業は、経営をコンサルタント任せにせず、自分達でもっとちゃんと考えるべきなのだ。


    【本書の概要】
    1 将来の予測なんて誰にもできない
    戦略策定プロジェクトが厄介なのは、将来を予測しなければならないことだ。
    戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化、競合他社の動向や、顧客のニーズを予測するのが前提だが、それを完璧にこなせる人間などいない。

    「競争戦略」の祖といえばマイケル・ポーターであるが、彼の本に出てくる「手本」だった企業の半数は凋落している。ポーターの本は製造業を重視しているが、2014年現在の主要な産業は医療関連業、小売業、金融業である。業界の変化を見通し、将来を予測するのがいかに難しいかがわかるだろう。

    コンサルとして複数のプロジェクトに関わってきた筆者が考える、「戦略の開発と実行」の手順は、次のとおりだ。
    ①将来を予測する。
    ②予測にもとづき、大胆なストレッチ目標を設定する。
    ③周囲の人々を説得する。その目標にはとくに関係のない、単なる月給取りである一般の従業員らも努力するように仕向ける。
    ④目標達成に向けて邁進する。
    ⑤成功を祝う。

    こんなこと、誰が実現可能だと思うのだろうか?

    問題は、人々が「戦略計画=解決策」だと信じてきたことにある。ほんとうは、計画自体にほとんど価値はなく、計画を立てる過程にこそ価値があるのだ。
    業界の動向や経済シナリオ、競合企業の強みと弱み、消費者の声などをしっかりと把握することで、洞察と知恵をもって意思決定を行うことができる。それをコンサルに丸投げしていては、あとに残るのは大量の報告書だけだ。
    結局、大きなチャンスを掴むには、企業の自己発見に、できる限り多くの従業員を巻き込む必要があるのだ。あらゆる情報を全社で共有し、意思決定を行うための基盤を提供することこそ、本来の戦略開発である。


    2 最適化プロセスは机上の空論
    統計データにもとづく管理メソッドや、無駄に高価な生産管理システムをいくつも導入したが、導入する企業によって前提条件が違うため、なんの役にも立たなかった。
    そんな中、筆者が導入した手法でうまく行ったのは「ブラウンペーパー」である。これは、業務プロセスの全関係者を集め、現行の業務プロセスについてブレインストーミングし、アイデアをふせんで貼り付けるだけのアナログ手法だった。

    そんなアナログな手法で、クライアントとクライアントの取引先の話し合いをセッティングし、関係改善を行なった筆者だったが、自社のコンサルチームが新たに派遣され、「ツールを使って分析しろ」と新上司から怒られる。食い下がった筆者はプロジェクトから外されてしまう。その後プロジェクトは大失敗し、クライアントは別企業に買収された。

    この問題の原因は、業務プロセスと人間を切り離して考えていることである。同時に、ツールそのものを解決策と勘違いしていることである。関係者全員で取り組みもせずに、「ビジネスの問題を解決できる」と約束するツールや方法論やプログラムは、ことごとく失敗する。


    3 数値目標が組織を振り回す
    ノルマやインセンティブ、カスケード型業績評価指標を使って、目標を数値化する会社は多い。しかし、実行する人間が、目標に到達するためにペテンを行うことがある。歩合制を達成するためのねつ造、改ざん、不必要な修理を行う事例がいくつも確認されている。
    そうした極端な例はまれだが、数値評価を絶対視するあまり、会計や財務報告に細工をする――行動を数値に合わせる――行為は広く横行していると言えるだろう。
    (例)
    ・ノルマ達成のために、四半期末に近くなると値引きをして利益率を下げる営業部門
    ・在庫がだぶついたときよりも在庫切れを起こしたときに処罰を受けるため、注文しすぎて在庫を恒常的に抱えてしまう倉庫部門
    ・生産量を重視するあまり、できるかぎりたくさんの製品を生産してしまう生産部門

    数々の指標の導入で業務管理項目が増え、本来の目標が短期的な別の目標にすり替わってしまう。
    インセンティブ報酬や賞罰は、指標からは切り話すべきなのだ。


    4 業績管理システムで士気が下がる
    業績給制度の目的は、すべての従業員を全社目標に集中させ、組織全体で戦略を実行することであるはずが、実際には、評価項目の策定とそれに必要なデータをかき集める仕事によって、事務作業が膨大になり、戦略を実行するどころではなくなる。
    そもそも、全ての業務がSMART目標の形に当てはまるわけではないのに、一律に評価することなど不可能だ。そしておまけに、評価する側が何に多く点をつけるかは、人によって変わる。

    要は、「SMART目標」や「コンピテンシー項目」を使っていれば評価が客観的になると思われているが、初めから「客観的な評価」なんて存在しないのだ。
    社員の業績は業績考課によって向上などせず、逆に社員の熱意をくじいていく。


    5 マネジメントモデルなんていらない
    世の中には数千数百のマネジメントモデルがあるが、どの会社も優れたマネジャーを抱えていると胸を張っていえるところは少ない。
    筆者の体験上、結局は部下の事が好きで、みんなとの関係が上手く行き、力を合わせて頑張ろうとする雰囲気がある部署は部下も育つ。
    筆者の経験則から言う「役に立つマネジメント」は次の通りだ。
    ①気にかけていることを態度で示す
    ②伝わるように伝える
    ③臨機応変に、柔軟に、すばやく対応する
    ④先手を打つ
    要は、「優れたマネジメントスキルとは、良い関係を築くためのスキル」である。その一言につきる。


    6 人材開発プログラムのウソ
    人にABCの成績をつけることは悪影響をもたらす。
    業績評価制度を採用している会社はたいてい、Aランクの社員を昇進させ、Cランクの社員を据え置きにして向上を促す、という戦略を取るが、例えAランクでも、全員が新しい仕事を再度完璧にこなせるわけではない。業績による昇進を繰り返す結果、「全員がBランク化」してしまう。

    筆者の経験によれば、業績が悪いのは能力よりも「環境」の影響が大きい。業績の問題のほとんどは、職務に対する適性が欠けているか、上司とうまくいっていないか、会社のカルチャーに合わないせいだ。会社は社員に自由な異動を認め、職務適性のある部署を見つけるサポートをするべきだ。


    7 リーダーになれるチェックリストなんてない
    リーダーシップについて書かれた本を読んでみると、リーダーに必要とされるスキルは見事にバラバラである。ある本では礼儀正しさと言い、ある本では何かに夢中になれる才能と言い、ある本では自己実現能力と言い……。

    結局のところ、優れたリーダーの特性など誰にもわかっていないのだ。
    何十ものスキルを一定のレベルまで身に着けることを全社員に要求して、研修参加を強いるのは時間の無駄である。ひとりで何もかもできるようになる必要はなく、お互いの長所を生かしながら短所を補いあえばよい。


    8 コンサル頼みから抜け出すには
    筆者が考える、「よいプログラム」は次のとおりだ。
    ①社員同士の交流を改善する
    ②判断力を強化したり、考え方を広げたりする(ツールをただ使うだけで終わってないか)
    ③社員が、生活を楽しめる環境をつくる
    ④顧客の生活を豊かにする

    ここで注意してほしいのが、筆者は「コンサルタントは雇わないほうがいい」と言っているわけではない。雇うべきケースと雇わないほうがいいケースがあるということだ。

    雇うべきケース
    ・自社にはない専門知識や業務経験が必要
    ・会社の組織から中立な立場での意見が聞きたい
    ・プロジェクトを完了させる要員が足りないので、手助けがほしい
    雇わないほうがいいケース
    ・自分ではやりたくないのでコンサルタントにやってほしい
    ・社内で支持が得られないので、自分の意見を強めるプロの意見が欲しい
    ・組織が上手く機能しないので、外部の人間に立て直してほしい

    コンサルティングにおいて重要なのは、方法論やツールではなく「対話」である。クライアント企業は経営をコンサルタント任せにせず、自分達でもっとちゃんと考えるべきなのだ。

  • 昔、神奈川バスが私含む3人がバス停で待っているにも関わらず、止まらずに走り去っていったことがあり、大変腹を立てたことがあります。(一緒にバスを待っていた隣のおじいちゃんは、神奈川バスに即クレームの電話を入れていました。)
    その時は、バスの運転手に腹を立てましたが、この本を読んで、運行時間を遵守することで得られるインセンティブ(もしくは運行時間を守れないことで発生する罰則)を設けた会社側の体制が悪かったんだなぁと気づかされました。
    ※神奈川バスは、他にも明らかな間引き運転などしており、私の印象は最悪です。

    <共感した部分>
    完璧主義は×。たいていのことは8割がた達成できれば良い。何でもかんでも完璧にやろうとしたら、とても世の中の変化についていけない、と私は考えている。

    <必要と思われる研修(逆に言えば、他はすべての人に必要という訳ではない)>
    ・コーチング、フィードバック、対立解消などのコミュニケーションスキル
    ・ブレインストーミングや問題解決
    ・クリエイティビティツール
    ・新任マネージャー研修

  • クライアント企業の経営者や従業員と対話することなく、開発したツールやメソッドを遂行することを押し付けても、成果が出るどころか悪影響を及ぼすという話。人材育成の部分ではアインシュタインの例を元に、無能とみなされた人が偉大な業績を残した事例を説明している。

    反省すべき点は反省して、顧客の信頼を勝ち取る必要がある。コンサルは謙虚であるべきだと思う。

  • コンサルティングの成果物(資料)でなく、課題に向けての調査や検討を続ける過程が、経営陣や会社にとっての力になる。
    部門において数値目標に拘りすぎると、他部門にマイナスな影響を及ぼし、連携が損なわれる。

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